第23回福山地区感染症制御研究会に座長として出席し、最新の知見を学んで参りました。

去る2017年2月16日に福山市医師会館において開催された第23回福山地区感染症制御研究会に座長として出席し、最新の知見を学んで参りました。

以下の内容はあくまで聴講メモですので、間違いがあっても責任はもてませんのでご了承ください。

一般演題

当院の今年度のインフルエンザ対策

山陽病院 看護科 病棟主任 山下洋子先生

1/6から1/20の間に患者19名、職員5名
ワクチン接種率95% 職員85%
発症した患者・職員は全員ワクチン接種済み
なぜアウトブレイクしたのか
マスクを顎にしていた(顎マスク)
手指消毒の不徹底
コンソール・ベッド柵・体重計などの消毒不徹底
対策 再教育 一動作ごとの消毒、消毒回数の増加
利用者全員に予防投薬を行った。
認知症患者に再教育はむずかしい。
食事介護者はデイルームだが、1mあけて配置

山陽病院の発症

非常に職員に発症が多い日があった・・・インフルエンザ患者が急変しスタッフが集まって対応した際に感染したと思われる。

まとめ

職員の就業規則マニュアルを改訂
体温測定を体調チェックに追加
インフル疑うのときは、たとえ一回陰性でも再検査することにした。
微熱でもチェック
対策としてよかったこと
感染者のみならず、コメディカルの入室制限も行った。

特別講演

Antimicrobaial stewardship(抗菌薬適正使用支援)について

岡山大学病院感染制御部/検査部 教授 草野展周先生

耐性菌には、以下のものが臨床的に重要である。
MRSA 最も頻度の多い耐性菌である。
第3世代セファロスポリン耐性大腸菌
その中でもESBL産生菌は ・・・7割が市中感染、尿路感染 母子感染もおおいのが問題。
CRE カルバペネム耐性腸球菌・・・アメリカのCREとは耐性機序が違うので、日本と同じではない。
MRSA耐性菌は分離率がどんどんへっているが、増えているのは、
キノロン耐性大腸菌・・・ 大腸菌の2-3割とも言われる。
例えば尿路感染症にキノロンを使っているうちにキノロン耐性大腸菌が発生する。
カルバペネム耐性大腸菌や第3セフェム耐性大腸菌も1-2割ある。
頻度は低いが、
キノロン耐性大腸菌 ・・・増加傾向
第3世代セファロスポリン耐性大腸菌
カルバペネム耐性グラム陰性菌
などがある。

Antimicrobial stewardship

→ Antibiotic S-に置き換えて解釈することもある。
抗生剤の最適な投与レジメンを評価・改善するための協調的な介入をいう。
目的: 耐性菌、コスト、c.difficile感染などを減少させ、患者の良好な転機(予後の改善)を得る。
最初のステップ(最低限必要な事項)
使用抗菌薬の把握
培養検査の実施 :可能な限り抗菌薬投与前に実施、重症例では血液培養も必要
抗菌薬投与後の評価:開始後48から72時間がのぞましい。
病院における抗菌薬スチュワードシッププログラムの基本的要素
以下の7項目:1.指導者の誓約、2.責任、3.薬剤の専門家、4.行動、5.追跡、6.報告、7.教育
がある。
3.薬剤の専門家は、
使用抗菌薬の把握: 薬剤・使用量・使用期間・投与経路・不適切使用の有無
初期治療後に治療継続の必要性を総合的に評価
5.追跡 抗菌薬の処方および耐性菌のパターンを監視する
6.報告 抗菌薬の使用および耐性菌の情報を医師・看護師・担当者に定期的に報告する。
院内や地域の耐性菌のパターンを把握することが重要
7.教育

スチュワードシップで重要なのは介入である。

1.抗菌薬タイムアウト

投与開始後48時間で有効性を評価、投与量・投与経路が正しいかも含めて。

2.事前許可

抗菌薬使用及び感染症の専門知識が必要である。
演者の病院では、抗菌薬使用届をかかないと処方できないようにしている。カルバペネム、抗MRSA薬、ゾシン
第4世代セフェム・注射用キノロン系薬
例えば地域連携で、専門家のいる病院などの施設のスタッフが介入することも考えられる。
抗菌薬の変更中止基準
原則3日は経過観察 無効なら変更する。
2日間使用して症状や炎症反応が明らかに悪化している場合は変更する。
ときに投与を中止してみる。
・臨床症状がなく、CRPのみ陽性のとき・・・PCT追加する
・CRP陰性で発熱のみあるとき(薬剤熱) ・・・NSAIDSを定期処方している症例は危ない。ロキソニンは薬剤熱の原因としてしばしば経験する。

治療無効の原因

1.診断が間違い
2.宿主側の要因
局所に異物、人工物があるときは注意
3.抗菌薬の問題
無効薬、投与量過小、投与経路不適、副作用
4.微生物側の要因
推定微生物が異なる →培養検査必須
耐性菌 MRSA,PRSP、MDRP、VRE
特殊な微生物、ウイルス、抗酸菌

介入事例

最も多いのは培養未実施 →警告
抗菌薬投与後に培養検査提出している →抗菌薬投与前にすべき
血液培養は2セットすべし。発熱時。
抗菌薬変更時も培養を実施
検体の不適 推定感染症と異なる検体。重症例は必ず血液培養すること。
抗菌薬の問題として、選択の不適:感染臓器に移行しない、菌種に無効
投与量の不適
・腎機能、体重にあわせた投与量が必要である
・投与量過小・過量

抗菌薬投与期間について

14日以上はリストアップ 理想は7日単位で確認
ただし感染性心内膜炎 骨髄炎 人工物関連は除外
特に感染性の心血管疾患は長い4週間から8週間
超短期投与 2日以内とか、外来で1日のみなど・・投与目的を確認すべき
抗菌薬の変更について
同系統でもOKな場合は以下
MEPM→IPM 原因菌がGPC
IPM→MEPM 腎機能が低下し、けいれん防止
VCM→TEIC 皮疹のため
VCM→DAP 副作用のため

原因菌について

分離菌に無効な抗菌薬を選択しないこと
たとえばESBL耐性・・・
非感染性発熱疾患にも注意する
血液疾患、悪性腫瘍、膠原病、内分泌疾患
薬剤熱は常に考慮すべき
CRP高値だがプロカルシトニン(PCT)陰性 → 非細菌性を考慮する
注意:PCTは以下に注意
腎機能低下で低下遅延
組織障害が強い場合に上昇
定量が有用 (定性はおすすめしない)

3.薬剤師の介入

アメリカでは抗菌薬の静脈投与から経口投与へ薬剤師の判断で自動変更される。・・・日本でも無理?
、適切な状況かつ吸収が良好な抗菌薬のフルオロキノロン、ST合剤、リネゾリドなどは静脈投与を減らすことに
よって患者の安全が確保される。
抗菌スペクトラムの重複した薬剤投与を警告する。
特定薬物の自動終了・・術前予防投与など
薬剤間相互作用の監視
経口フルオロキノロンとビタミン剤の相互作用など
感染症および症状に特有の介入として
・市中肺炎
・尿路感染 ・・・これが問題。無症候性細菌尿
MRSA感染症のエンペリックなカバー
C.difficile 感染症 ・・・まず不必要な抗菌薬を中止
培養にて証明された侵襲性感染症 ・・・いち早く介入すべき

以上の内容はチェックリストとしてネットに公開されている。(ASプログラムのチェックリスト)
重要なことは自施設でアンチバイオグラム(蓄積された抗菌薬感受性報告)を作成すること。

抗菌薬使用量の判定

特定期間の抗菌薬使用量÷DDD  ÷特的機関の入院患者延べ入院日数 ×1000
DDD:一日規定量で補正した入院患者1000人あたりの抗菌薬使用量

6.報告

施設内の耐性菌情報を処方者と共有すること
米国感染症学会では、事前許可性と事後届出制 (監査とフィードバックを伴う)を推奨している。
Stewardship intervention (薬剤師の介入)
ハイリスクのC.difficile感染症(CDI)を減らすために介入を推奨する。
主な介入薬はクリンダマイシンと広域抗菌薬、セフェム系、フルオロキノロン、など。
初期治療として注射からの切り替えとして経口抗菌薬を使用を推奨する。
→医療費と在院日数の減少につながる。
血管内カテーテルの必要性、外来での注射療法を減らすためにも必要である。
感染症が疑われる場合のICUの成人には、抗菌薬を減らすためにプロカルシトニン(PCT)の連続測定を支持する。
→PCTが低値のときに抗菌薬を開始することを避けると、抗菌薬治療の期間を短縮できる。

ICT(infection control team)はナースがとくに重要
AST(antimicrobial stewardship team) は医師と薬剤師が特に重要

質疑応答

Q1. PCT(プロカルシトニン)はどのタイミングで測定すべきでしょうか?
A. 抗生物質投与前や変更前
Q2. 慢性中耳炎や副鼻腔炎などの抗菌薬についての注意点は
内服のセフェムは血中濃度が非常に低く有効性も疑問視される。
投与するならニューキノロンやマクロライドなどが勧められる。

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