2017年9月24日にMeet The Expert に出席しました。喘息の専門医による研究会です。

2017年9月24日にホテルオークラ東京で開催されたMeet The Expert に出席しました。喘息の専門医による研究会です。
以下の内容はあくまで聴講メモですので、間違いがあっても責任はもてませんのでご了承ください。

Meet The Expert 於ホテルオークラ東京

喘息管理における抗コリン薬の役割

京都大学呼吸器内科講師 松本久子先生

・喘息コントロール不良例とは、年一回以上の増悪、PEF日内変動20%以上、と定義される。
・気流閉塞は増悪リスクを上昇させる。
2年間の観察期間で喘息増悪リスク因子を検討した報告では、
FeNO高値・血清ペリオスチン高値 オッズ比3.42
%FEV1<80% 4.26
6ヶ月以内の喘息増悪 5.59
・喘息増悪時に気道からウイルスが検出された症例の検討では
ライノウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルスなどが多い。
年間の喘息増悪頻度は、米国小児の報告では9月と12月にピークがある。9月は新学期が始まる、12月はクリスマスに家族が集まるからと考えられる。9歳以上では2月にピークがあり、インフルエンザ流行期とほぼ一致する。
・気管支喘息はアセチルコリンに対する過敏である。つまりアセチルコリンが気道粘膜に過剰な状態である。
気道過敏性試験AHRは喘息病態の根幹をなす検査であるが、気道過敏性とは以下の2点で定義される。
気道過敏性亢進 = 少ない量のメサコリンで呼吸抵抗が上昇すること、つまり副交感神経の緊張と炎症がある。
気道反応性 = つよく気道径が収縮すること。
・気道のコリン作動性神経(迷走神経)末端にはムスカリン受容体が存在し、M1,M2,M3の3つのサ ブタイプがある。M1受容体は気道壁の神経節に,M2受容体は神経節後線維末端に,M3受容体は気道平滑筋に局在する。M2受容体(M2R)はオートレセプターとしてアセチルコリン放出を抑制する作用がある。ウイルス感染を起こすとM2Rの機能異常をきたし、アセチルコリンが過剰放出される。
実験的にパラインフルエンザウイルスを感染させると、M2R刺激でアセチルコリンが過剰分泌され、かつM2R数も減少する。
・M3Rをノックアウトすると、抗原感作しても平滑筋収縮や平滑筋過形成・炎症が惹起されなくなることが判明した。
チオトロピウムはM1RとM3Rを選択的かつ長時間阻害するが、チオトロピウム投与例でも同様の結果であった。
・シクレソニドとチオトロピウムを併用すると、より少ないICS投与量で気道炎症が抑制できるとする報告がある。
・急性発作時の治療はSABAで効果不十分な場合にはSAMAを追加すること(エビデンスA)。
・LAMA(チオトロピウム)の治療における位置づけについて
重症度による層別化は必要なく、どのSTEPで使用してもよい。
中用量ICS投与中の患者への追加は、LAMAでもLABAでもどちらでもよい。
低用量ICSにはLAMAが良いかもしれない。
・重症喘息にLAMA上乗せで肺機能が改善する。その理由として、
1.気管支拡張作用、2.ウイルス感染で生じるAch亢進を抑制する
が考えられる。
・中用量ICSにLAMA追加群とプラセボ投与群で比較した検討では、プラセボに比較して、
1秒量が増加し、その効果は1年後も12%増で維持された。PEFは34L/分増加した。
一方他の報告では、LABAとLAMAのどちらを上乗せしても、同等の改善効果であり、増悪頻度も同等だった。
・LABAはβ2遺伝子多型(β2反応不良例)が存在するが、そのような症例でもLAMAは有効である。
・(症例)60歳代男性、末梢血好酸球30%以上、BALでも好酸球60%以上、胸部CTでは小葉中心性粒状影を呈していた。好酸球性細気管支炎と診断。
この症例にSAL/FL高用量、プランルカスト投与で効果不十分であったので、シクレソニド+チオトロピウムに変更したところ、著効した。
・チオトロピウムはIL-13誘導性好酸球性炎症を抑制できる。
・(症例2)70歳代男性、GERDなし、SASなし、後鼻漏なしだが、種々の投薬を行うも夜間目覚める難治性喘息症例。
チオトロピウムの追加で夜間症状が著明に改善した。

Q and A

Q:シクレソニドにチオトロピウムを併用して有効例は経験があるが、モメタゾンツイストヘラーにチオトロピウム併用では効果を実感しにくい印象があるが、何か理由があるか。
A:モメタゾンはエアロゾル化がシクレソニドに比較して低い、最高でも70%である。従って末梢気道までの到達率が低いと考えられる。また若年者でないと吸入力不足が影響する可能性がある。

パネルディスカッションの内容から

・GINAのガイドライン2017では、
ステップ3の治療は低用量ICS/LABA、低用量ICS/LABA +SABA頓用
または、ICS/FMによるSMART療法
年一回以上の増悪回数では、SMARTが有効
ステップ4では、SMRT療法、または、低用量ICS/LABA +SABA
となっている。
・演者の提示した症例ではSMRT療法で一旦改善(PEF上昇、SABA頓用回数減少)したが、結局は元通りの増悪になった。原因はアドヒアランスが悪いためであったので、1日1回投与のFF/VIとチオトロピウムを併用することで、再度改善した。
・Primo-TinA-Asthma Studyでは、post-hoc 解析にてチオトロピウムの投与に条件の層別化は必要なしと結論づけた。
・ICS/LABAでコントロール不良例に対してチオトロピウムを追加したときの臨床効果について、
LABAが十分に吸入できない症例には、臨床的に著効例が約3割
労作時呼吸困難が強いものに、約4割
PSL、オマリズマブ投与例を含むコントロール不良例に対して、約5割
が著効!
・今まで感染後に喘息増悪していた症例が、チオトロピウムをベース薬として定期吸入していると、感染時の増悪を起こしにくいと演者は実感している。
・Primo‐TinA試験ではチオトロピウムは朝1回投与だったが、明け方痰がからむなどの対策として、以後のstudyでは夜1回になっており、経過も良好である。

まとめ :チオトロピウム投与を推奨する症例として

1.息切れが残存する。
2.SABA頓用している。
3.感染後の増悪を繰り返す。
4.β刺激薬の使用により副作用が懸念される(心筋症、頻脈性不整脈、こむら返り、低K血症など)

Q and A

Q:SABAでLABAの効果を予測できるか
A :検証した報告があり、予測できない。
Q:チオトロピウム投与で痰が詰まるような症例の経験のあるかたは?
A :SAMAは痰のクリアランスを落とすという報告がある。
LAMAにはクリアランスは落とさないというデータがある。


松本久子先生と一緒に

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