第34回広島漢方懇話会に出席してリウマチ・膠原病の漢方治療について学んで参りました。

第34回広島漢方懇話会に出席してリウマチ・膠原病の漢方治療について学んで参りました。
以下の内容はあくまで聴講メモですので、間違いがあっても責任はもてませんのでご了承ください。

第34回広島漢方懇話会 於アークホテル広島駅南

演題:リウマチと膠原病の漢方治療

聖路加国際病院 リウマチ膠原病センター 津田篤太郎先生

・リウマチ膠原病における中核症状は関節炎、免疫異常、血管炎、繊維化病変であり、これらは生命予後と相関し治療可能な症状である。一方周辺症状(冷え、倦怠感、食欲低下、下痢便秘、不眠不安、月経困難など)は置き去りにされていることが多い。
・そこで漢方薬などの代替医療の出番であるが、それを求める人は、若年、女性、高学歴、高収入の人が多い。その目的は慢性の痛み、体調不良、副作用対策 である。

水毒

・(症例)リウマチ性多発筋痛症(PMR)の患者がステロイドホルモン中止後も浮腫が出現し、強力に利尿薬を使用しても浮腫が増悪した症例に対して、演者は五苓散を投与した。投与後からみるみる排尿があり浮腫が改善した。この理由は利尿(西洋薬)と利水(漢方薬)の違いである。third spaceの水を引きたいが、利尿薬は尿細管の蛇口を開くだけなので当然血管内は濃縮される。一方利水はthird spaceから水を引くのであって、この効果は漢方薬しかない。

瘀血・血虚

・補血の基本処方 四物湯 、駆瘀血薬 川芎、牡丹皮、桃仁、大黄
(症例) 高ガンマグロブリン血症を合併したシェーグレン症候群
重症なのでPSLを投与したところ月経が止まった。そこで桂枝茯苓丸を投与しつつPSLを減量したところ、2ヶ月で月経が通常となった。
・膠原病においてステロイドを長期に投与した場合の副作用として、初期は水毒(浮腫)と気虚、中期は瘀血と水毒、後期は瘀血と腎虚と気虚が目立ってくる。
・婦人科三大処方である当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散のいずれも躯瘀血薬と利水薬が配合されており、膠原病においては中期の副作用(周辺症状)を治療するために有用である。
(症例) 23歳女性 SLE
3歳のときからPSLなど服用中で、23歳のときに尿路感染が頻回であった。水分を取らないと尿利減少し夜間尿がある(水毒・腎虚)、手足の冷えもあり月経痛が強い(瘀血)であった。コタロー竜胆瀉肝湯投与でかなり膀胱炎の頻度が低下し、最終的に当帰芍薬散加附子猪苓滑石で蛋白尿を減少させ、膀胱炎もなくなった。

腎虚(東洋医学の考える老化)

・ステロイドは炎症を抑えて膠原病を制御出来る反面、老化を促進する。ステロイドの副作用を列挙するとまさに腎虚の症状である。
ステロイド副作用:骨粗鬆症、浮腫、高血圧、糖尿病、白内障、精神病、皮膚筋肉の萎縮…
腎虚の症状:口渇、多尿、腰痛、下肢浮腫、冷え、かすみ目…
(症例)Mikulicz病 血清IgG4が増加し唾液腺が非常に腫れ口腔内乾燥症状がでる疾患
この症例はステロイド投与で症状改善するが、減量でIgG4が再増加し減量がなかなかできない状態であった。腹圧性尿失禁も認めたので腎虚と判断し八味丸を投与したところ、残存する唾液腺腫大はとれIgG4が低下しステロイドが減量可能となった。IgG1,2,3,4のすべてを測定して経過をみたところ、悪玉のIgG4のみが減少していった。八味丸は体を良い方に整えている。
・シェーグレン症候群に補中益気湯を対照群として麦門冬湯を投与した場合、明らかに麦門冬湯群において唾液分泌量が増加した。しかし無効例もかなりあり、これらは唾液腺組織の破壊がつよい場合である。そこで地黄丸類を合方(麦味地黄丸の方意)すると治療効果が現れるものがある。疾患による唾液腺破壊も腎虚と捉えてよいのかもしれない。

脾気虚(消化機能低下、体のエネルギー不足)

消化機能低下は人参がキードラッグである。下痢が強い場合は人参湯、食欲不振が強い場合は六君子湯・補中益気湯、冷えが強い場合は附子を追加する。
(症例)リウマチ性多発筋痛症にステロイドだけでは経過が悪く、MTXを追加されたが嘔気がでる。MTX減量すると痛みが増悪する。そこで四君子湯を開始し嘔気が消失し、ステロイドを完全に中止可能となった。
(症例)リウマチ ステロイドを使用してもCRPが低下せず血小板は80万、貧血がどんどん進行。
炎症があると体内で利用できる鉄が減少することがわかっている。鉄は人にとっても細菌にとっても重要なミネラルであるが、細菌感染すると鉄を細菌に渡さないように体が反応してフェリチンとしてためこむ。この機構がリウマチでは裏目にでて細菌感染がなくても炎症が高いので利用できる鉄が低下するのである。患者に十全大補湯(気血両虚を治療する)を投与したところ、貧血は改善し、血小板数が低下した。
・気血両虚の処方は、十全大補湯、人参栄養湯、大防風湯、帰脾湯 などがある。

リウマチは肺から始まる?!

(症例)間質性肺炎を合併する関節リウマチに滋陰降火湯を併用すると、リウマチの活動性を示すMMP-3が投与後から低下した。
・血液中にCCP3抗体が陰性のリウマチ患者の喀痰にはCCP抗体が多量に認められることが判明した。気管支関連リンパ組織にリンパ濾胞が多数認められ、そこでCCP抗体が産生されているという。つまり、リウマチは粘膜面(表)から始まる、という仮設。歯や肺の感染から全身の免疫反応に影響する可能性がある。
・病巣感染が全身の免疫に波及する
IgA腎症は扁桃摘出後にステロイドパルスを行うと、予後がよいことが知られている。掌蹠膿疱症症例に歯や扁桃の治療を行うと予後がよいという報告がある。
(症例)咽喉頭炎を繰り返し、掌蹠膿疱症がその都度増悪する症例
桔梗石膏を投与することで咽頭痛が起こらず、皮膚症状が改善した。
(症例)菊池病(壊死性リンパ節炎)の27歳女性
回盲部圧痛が特徴的症状であった。回盲部はリンパ濾胞が多数あり、腸の免疫コントロールセンターである。演者は病巣感染に起因する免疫異常と推察して大黄牡丹皮湯を投与した。やや下痢気味となったところで腸癰湯を追加し、10週間で回盲部圧痛は消失し病状が改善した。
・腸癰湯は大黄が無い駆瘀血作用が特徴。腹証は回盲部の圧痛、腹直筋緊張、臍傍部圧痛など。

慢性痛

慢性痛は原因が複数あるため明確な対処法はない。病院の治療では解決できないこともある。病気と付き合う、セルフケアを行うのが重要。
・痛みや痛みに関連する諸症状が原因で、食欲不振、不眠、が生じているときは、まずそこから改善すべきである。
患者が困り果てているときには「黄耆建中湯」が有効なことがある。黄耆建中湯;虚労、裏急、諸不足に用いる。
慢性疼痛の患者は、体の感覚(症状)と実際の状態とが不整合のことがある。(例:口渇というが、ガムテストで唾液は十二分にでていることが判明するなど。)
・痛みの”破滅的思考”
どのような状況下で怪我したかとか痛みが起きたか、どういう状況で病気になったかが大事で、病気の原因とは別個に痛みが起きた状況を聴取することが重要である。
人は、悪い状況下で病気をしたり痛みが起きると患者は絶望し、「この痛みは延々と自分の体を蝕み苦しめて、死ぬときまでどんどん体は衰え、仕事もできなくなり家族からは見放され、自分は寂しく病院で一人で死んでしまう。」と先の先まで考えて不安になってしまう。これを破滅的思考という。異常な先取りの不安が恐怖につながり、脳機能に種々の悪影響を及ぼすことが最近の脳科学でメカニズムが明らかにされている。痛みが活動性を低下させ廃用につながる、過度に悲観的になる(認知に影響)、脳の痛みの閾値が下がる(ちょっとしたことですぐに痛がる)などである。
受傷すると痛み情報が脊髄を介して脳に伝えるが、毎日脳に報告されていた痛みはそのうち報告頻度が低下し(下行性疼痛抑制系)、痛みに耐えられるようになる。(Nat.Rev.Dis Primers doi;10.1038/nrdp.2015.22)
・器質的異常がない慢性疼痛は、疼痛に対する恐怖心が症状を悪化していることを説明し、睡眠と運動が重要であることを理解してもらう。
・慢性疼痛の非薬物治療(JAMA 2004;292.2388-95)には以下のものがある。
Strong evidence: 教育、有酸素運動、認知行動療法
Modest evidence: ストレッチ、催眠療法 
・機能性身体症候群(functional somatic syndrome; FSS) (LANCET 2007)
定義:十分に検索を行っても構造的・特異的にしっかり説明のつく病因にたどりつけないような、持続的な身体症状によって特徴づけられる症候群。(例)慢性疲労症候群、線維筋痛症、化学物質過敏症、月経前緊張症、非特異的胸痛、顎関節症、過換気症候群、慢性骨盤痛など
最初は些細な器質的疾患・異常な痛覚、人間関係の障害がストレスとなる。ストレスが破壊的思考を生む(引き金;第1段階)。慢性の症状に医療の不適切な介入があり医療不信や逆に医療に過剰依存したりする。検査ばかりしても異常なしなど、自己の破局化がすすむ(第2段階)。最終段階は2次的に器質的な異常が起こる。例えば頭痛・腰痛でじっとしていると廃用がすすみ、筋力低下で軽い労作で受傷するなどがおきる。ますます悪くなり「重病」と知覚され、ストレスや自己効力感の低下(自分の抱えている問題を自分で解決できない)が起こる。
→まずは寝られるようにする、食欲を回復する、会社に行けるようにする。寝られないといつまでも昨日や今日の痛みを翌日に持ち越す。
・筆者の考える治療のコツとは…
痛みに焦点を置くのではなく、「日常生活の再建」に置く。特に睡眠と食事が大事。
なるべく弱い介入。
技術移転できるものは移転する。ツボマッサージ、体操、漢方薬で自分の体調で治療してもらう
自分一人で治そうとしない。家族にも協力をお願いする。
来るものは拒まず、去るものは追わず。 
・回復とは、病の苦痛が日常生活の苦労に変わり、生活の苦労が人生の苦悩へと変化する過程である(向谷地生良)
痛みが静かな悲しみに変わるには、数えきれない同じ話を誰かに聞いてもらわないといけない(上岡陽江)

Q and A

Q1. 膠原病の痛みに附子はどのように利用されているか。
A. 強皮症のレイノー症状には3−4g使うことあり。その他は1−2gまでで、無理なら他を考える。
Q2. ステロイド治療と八味丸は相性がよいとのことだが、どのような人に併用するのか。
A. ある程度ステロイド長期投与、高齢、圧迫骨折あり、食欲あり、糖尿病あり、の人
 あるいは、血管炎で足がしびれる人に牛車腎気丸を投与することがある。

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