2016年7月7日−8日に行われた日本睡眠学会 第41回定期学術集会 に出席しました

2016年7月7日−8日に行われた日本睡眠学会 第41回定期学術集会 に出席して
最新の知見を学んで参りましたので報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

日本睡眠学会第41回定期学術集会 於京王プラザホテル 2016年7月7日-8日

SS1生物時計と睡眠恒常性を理解し、高齢者の不眠診療に生かす

1-1生物時計と生体リズムの加齢変化 中村渉先生
1-2睡眠の老化:時間睡眠学と睡眠恒常性の観点から 西多昌規先生
1-3高齢者の不眠が「治る」ための必要条件について 岡島 義先生
1-4高齢者の不眠の背景に何があるのか、どう対処すべきか 三島和夫先生

SS1-1生物時計と生体リズムの加齢変化 大阪大学歯学研究科口腔時間生物学研修室 中村渉先生

人の日内リズム

「いつ」を定義しているのが体内時計である。

糖質コルチコイドは目覚め前に濃度が高くなり始め、眼を覚ました瞬間から体はアクティブに動ける準備をする。体内時計の意味は生活の準備をすることである。
体内時計は視床下部・視交叉上核に存在し、眼球から直接視床下部に作用する。

視交叉上核が体内時計であることの証明

 マウスは夜行性であるが、実験的にマウスの視交叉上核を電気で焼ききると、昼夜サイクルを作っても2-3時間の周期で活動と休息を繰り返した。
 昼夜サイクルをつくりアクトグラムという記録をつけると、夜間の活動が増える。しかし、恒常暗とするとだんだん活動周期がずれてくる。23時間40分の体内時計であることが判明した。

光によるサーカディアンリズムの微調整はどうしているか。

 夜の前半部分に光を当てるとリズムが遅れる。翌日からすぐに遅れていく。
 夜の後半に光を当てるとリズムが前にずれる。前にずれる(位相前進という)のは数日かけてずれる。
視交叉上核は昼間に活発化して時を刻む。
 マウスの視交叉上核に電極を刺して輪回し行動と視交叉上核の電位を測定したところ、輪回ししている夜間は活動電位は低く、昼間は電位が高いことが判明した。
 13-18ヶ月の中年マウスは神経出力リズムにメリハリがなくなってくる。老化の変化である。

視床下部-下垂体ー卵巣系の概日制御

これにはSCN(視交叉上核のサーカディアンリズム)が必須である。
つまり、LHサージ後排卵があり、その後は輪回し運動が非常に激しくなる。つまり生殖活動のためにオスを探す行動をとっている。視交叉上核を破壊すると性周期がなくなり、常に発情期の状態となる。

時計遺伝子Cry1とCry2 のノックアウトマウスは早期加齢変化をしめす。またwild typeは正確な性周期を示すのに対してノックアウトマウスは性周期が非常に不規則になっていた。さらにノックアウトマウスは妊娠が成立しなくなった。
Cryノックアウトマウスが早期不妊症を促進する要因は何か。

 Cry1Cry2はそれぞれのサーカディアンリズムを提供していた。環境で昼夜の周期を整えると性周期も改善した。
・土日に寝坊すると月曜日になかなか活動できない。つまり社会的サイクル(社会的時差ボケ)が環境のサイクルに影響する。土日も含めて規則正しく早寝早起きをしていたらサーカディアンリズムはずれないが、土日に夜更かし&寝坊するとサーカディアンリズムがずれて、社会的リズムに戻るまでに3-4日かかる。
QaA 光療法をしても、リズムの前倒しがしにくいことはよく経験する。なぜか。
前進シフトするのになぜ時間がかかるのか、今だ不明。
メラトニンの位相反応曲線はしっかり反応しても、眠りの方はなかなか位相反応が前進しない。

SS1-2睡眠の老化:時間睡眠学と睡眠恒常性の観点から 西多昌規先生

若年者にとって朝の光や運動はよい。果たして高齢者でも同様によいのか?

生物時計の調節機構と加齢因子

 視交叉上核(SCN)とメラトニン分泌が主たる調節因子である。

リズム振幅の老化について以下のような現象がみられる。

概日リズムの振幅低下
睡眠覚醒リズムの振幅低下・・・徐波睡眠減少、中途覚醒の増加
若年者と比較して高齢者はとくにメラトニンが分泌低下し、メリハリがなくなっている。
リズム周期の変化は若年者と比較してあまり相違はない。
リズム位相は高齢者では前進する(早寝早起きになる)。

睡眠の老化はリズムの老化と言われるが、もう一つ恒常性の老化(睡眠の維持力の老化)がある。

加齢に伴い徐波睡眠はだんだん減少し中途覚醒が増えてくる。
脳波の振幅が低下する。デルタ波の振幅が加齢にともない徐々に低下していく。
睡眠構築の老化により、
 徐波睡眠は減少、中途覚醒の増加、睡眠効率の低下 
が起こる。→つまり睡眠恒常性維持する能力が低下する。

高齢者は布団に入っている時間が長く、日中はテレビなどみて動かない。OSASも増える。

すなわち同調因子の加齢に伴う変化がある。
 光暴露量減少、運動量減少、社会的刺激の減少 などである。
日中の運動は重要な調節因子である。運動加入群では睡眠潜時は短くなり睡眠時間も長くなった。光刺激の要素を除外した研究でも同様の結果であった。

加齢と睡眠情報処理について

2000年以後、睡眠中に記憶が固定されることが明らかになった。情報処理のオフライン固定という。宣言的記憶(ことばの記憶)も手続き記憶も同様である。
この効果が加齢によりどう変わるか。宣言的記憶固定は高齢になるほど記憶は低下する。手続き記憶は衰えない・・・リハビリ効果と同じであろう。

まとめ:
 生物時計には特徴的な加齢変化がある。
 高齢者では同調因子に対する感受性が低下する。
 睡眠の老化:位相前進効果だけでは説明不十分である。
 睡眠恒常性が低下 → 認知機能低下?

SS1-3高齢者の不眠が「治る」ための必要条件と十分条件について 岡島 義先生

高齢者の不眠に対する心理社会的介入として、光・運動・認知行動療法、があるが、その医学的なエビデンスは必ずしも高くない。
GRADEシステムによるエビデンスの質の評価では、
 運動 Low ・・・中強度の運動30-40分の有酸素運動 週4回。
 光暴露 Very Low ・・・60歳以上の高齢者に睡眠症状を改善するかどうかは不明。
 CBT-I(認知行動療法) Moderate ・・・高齢者の慢性不眠障害の睡眠を改善する。
CBT-Iでは中途覚醒は改善するが、睡眠効率・総睡眠時間は改善しない。

・CBT-Iとは、
 睡眠衛生療法・・・エビデンスが高い
 睡眠スケジュール法
 全身的筋弛緩法 ・・・エビデンスが高い
 認知再構成法

・実臨床の現場から、以下が問題点である。
 ①年齢要因を考慮する必要がある。
 昔のようにぐっすり眠りたい。→ 年齢による睡眠構築の変化について睡眠教育する(若いころとは違うという現実をつきつける)。
 ②睡眠状態だけに囚われていることがあるが、日中の支障がないことがおおい。→ 睡眠指標と日中の支障との関連について検討すべき。 支障を訴えるが睡眠との関連では一貫性がないことがある。
 ③生活スタイルの変化を考慮すべきである、→退職すると日常の生活が一変する、睡眠の変化が目につきやすい生活(考える事柄の減少;暇で考えることがないのでつい眠れていないことを考えてしまう。)→疲れたら眠る。
 ④睡眠週間の変化を理解する。→退職すると、やることがないから寝床にはいる。
 睡眠相前進傾向による夕方以降のうたた寝・・・本人は訴えないことが多い。

不眠が治るとはどういうことか

睡眠日誌とアクチグラム(客観的評価)を比較した場合 →主観的な症状改善が重要ではないかと演者は考えている。

治療アウトカムはなんだろう

不眠症状の軽減?
日常生活の支障
患者の改善したという実感
 症状は変わらないけど、それ自体に悩まなくなったという報告もある。
臨床的優位性:改善評価の利用
 アンカーポイントを設定する
 治療前と比較してどうか と尋ねる方法。

まとめ:
症状変化    
   行動変容
認知変容
主観的な不眠症状を改善すること
睡眠覚醒リズムの安定
加齢変化を受け入れること
日中の支障が軽減すること

改善したという実感
究極の結論として、座長の先生からこのようなことも言われてました。
◯ 治るということを諦めることが治ることである。

SS1-4高齢者の不眠の背景に何があるのか、どう対処すべきか 三島和夫先生

不眠があっても高齢者ではQOL障害を持たらすような不眠症状はあまりない。
またQOL障害をもたらす不眠症状の特徴は明らかになっていない。

主観的睡眠感を決定する因子は何か。

 81名の高齢者を3年間経過みたところ、WASOは伸びて睡眠効率は低下した。
  (WASO:wake after sleep onset)

主観的睡眠感の悪化に関連した因子として、

 メラトニン分泌量の低下、入眠前後6時間のコルチゾールの分泌量、入眠潜時の延長、CES-D(うつ病自己評価尺度)、が挙げられた。
 3年間で平均-10.5%メラトニン分泌量は低下した。特に低下幅(Δ)が重要であった。
 Δが大きい方にだけメラトニン補充療法が有効だった。
演者の仮説として、外出時間の低下による日照時間の低下、あるいは低照度光環境がメラトニン分泌を低下させるのではないか、と言われていた。
老健施設内の高齢者では平均して300ルクス程度しか光暴露がなく、このような症例に光暴露させるとすごいメラトニン分泌が増幅した症例がある。

・加齢にともなう不眠の中には概日リズムの機能変化、日照暴露量低下、メラトニン分泌減少をともなって出現するものがある。
・抑うつを伴う不眠では、
 コルチゾールの夜間の非抑制がある。つまり生理的過覚醒がある。
・高齢者の不眠に対する生活指導として、
     メンタルヘルスの管理 ・・・「うつ」がかくれている可能性。
     身体疾患への対処・・・重症度はそのまま睡眠薬の使用量に関連する。
     これらを実施後に・・・
          まず定時に起床し、実質的睡眠時間に合わせて床上時刻をコンパクトにする。
          起床後(睡眠維持障害)・・・高照度光を避ける。
          午後睡眠・・・ 睡眠恒常性を防げない程度に。 午前の二度寝がベターな方もいる。
          日照暴露・・・ 午後に睡眠恒位相不反応域を跨いで日照を浴びる。
          運動と入浴・・・ 運動強度、入浴時刻に個人差がある。抗うつ効果あり。
・中高年の早期覚醒型不眠: 早くねて早く起きすぎて朝日を浴びて位相が前進している。
 →朝日を浴びすぎないように指導
・加齢を背景に緩やかに出現する睡眠維持障害の中には過剰な位相前進に起因するタイプが含まれている。
 早朝覚醒→光暴露→さらなる位相前進 → という悪循環を断つことが効果的(早起きが早寝を招く悪循環)
 治療として、20時から午前1時まで4時間がつんと高照度の光照射を2日間当てただけで、位相が後退して1ヶ月後も維持できたという報告がある。

ランチョンセミナー3 覚醒と行動の制御におけるオレキシンの役割 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 櫻井武先生

選択肢の広がった不眠症治療 オレキシン受容体拮抗薬
オレキシンAとBは共通の前駆体から切り出される、どちらもベルソムラで阻害される。
オレキシンニューロンは視床下部外側野およびその周辺に存在する。
オレキシンニューロンは脳内全体に投射している。
オレキシンの作用
 食欲の制御 摂食行動の亢進
 睡眠と覚醒の抑制 安定した覚醒の維持
 自律神経系の制御 交感神経系の興奮
 内分泌系への調節 HPAaxisを刺激
 報酬系への関与
ナルコレプシーは
 後天性
 日中の非常につよい眠気 睡眠発作
 カタプレキシー(情動脱力発作) ・・・ポジティブな情動でよくおきる
 覚醒が突然途切れてしまう
 ※ ナルコレプシーは後天的オレキシン欠損症である。後天的に発症する。
     髄液中オレキシンA濃度は110pg/ml程度・・・正常の3分の1以下

シンポジウム11 アレルギー疾患睡眠

睡眠-覚醒のホメオスタシスとアレルギー Mayumi Kimura PhD

ヒト夜間睡眠中のホルモン変化

 メラトニンは夜間睡眠中に、成長ホルモンは睡眠前期に、プロラクチンは睡眠後期に、コルチゾールは覚醒時にホルモン分泌が最大となる。

睡眠パターンは遺伝情報できめられている。

一卵性双生児の睡眠パターンは酷似しているが、二卵性双生児ではまるきり違う。

一方で睡眠は生活環境で影響をうける。

 ストレス 妊娠 感染 老化 食事・飲酒 環境温・光 運動・疲労 入浴
これらのストレスで十分な睡眠が確保できないとホルモン分泌は安定性を失う。
一過性ならすぐに戻るが、慢性的な環境因子は睡眠パターンを変えてしまうであろう。
その要因の一つにアレルギー疾患がある。アレルギー疾患も身体の不調やストレスから症状が悪化してしまう。

免疫反応と睡眠

病原微生物 → 菌体成分(エンドトキシンなど) →脳へ達する →ノンレム睡眠を誘発する

ストレス(HPA軸)と睡眠 

 視床下部よりCRH→下垂体よりACTH→副腎皮質よりコルチゾール さらにコルチゾールはネガティブ・フィードバックを視床下部や下垂体にかける。
ストレスホルモン = 免疫抑制
ストレスがずっとかかっていると免疫抑制がずっとかかる。コルチゾールがずっと分泌されて副腎疲弊が起こっている可能性がある。

概日時計とアレルギー疾患 山梨大学免疫学講座 中村勇規先生

アレルギー疾患はその症状発現に日内変動があることが知られているが、その機序は不明である。
概日時計がアレルギー疾患に関与しているか。
マスト細胞欠損マウスを用いた研究から、
 副腎からでたグルココルチコイドがマスト細胞の概日時計を同調していることが分かった。
(Nakamura JACI2016)
・アレルギー性鼻炎をもつマウスにPF670462を投与するとPer2を増加させ、その結果アレルゲン刺激によるマスト細胞の脱顆粒を抑制した。同様にヒトにおいてもマスト細胞と好塩基球の脱顆粒を抑制できた。
生体内において、マスト細胞の体内時計を制御(Per2増加)することで、IgE依存性アレルギー反応を抑制できる可能性がある。

鼻粘膜の概日リズムとアレルギー性鼻炎に対する時間治療 北海道大学 本間あや先生

アレルギー性鼻炎の睡眠障害について

 重症度評価で睡眠に支障があると重症と判定される。
 中等症以上のアレルギー性鼻炎患者は45%前後の不眠症を合併している。
 アレルギー性鼻炎モデルマウスは夜行性であるが、鼻炎症状あるときは活動量が低下する。

アレルギー性鼻炎の睡眠障害の機序

 OSASを誘発する。
 鼻閉そのものが睡眠に影響する。
 炎症メディエーターが睡眠覚醒リズムに影響する。
 概日リズムに影響する。
細胞内の概日リズム発信メカニズムは時計遺伝子の転写翻訳・フィードバックグループによる。
 Cryとper
アレルギー性鼻炎の症状は夜間から出現し、6時から午前中がもっとも症状が悪化する。
アレルギー性鼻炎の時間治療では、夕方1回の投与がもっとも症状改善がある。
マウス鼻粘膜の末梢時計のリズムは22.7時間であった。
夕方に点鼻ステロイドを投与すると概日リズムは後退し、朝はリズムに影響を与えないことが分かった。鼻粘膜末梢時計に影響を与えない時刻にコルチコステロイドは投与すべきである。
QaA 
1.鼻粘膜上皮細胞に均一に時計遺伝子が発現しているのか?
 一応発現していると思われる。
2.アレルギー性鼻炎ではダニ、花粉症で抗原暴露の時間が違う

アクチグラフィーによるアトピー性皮膚炎(AD)の睡眠評価 ちとふな皮膚科クリニック 江畑俊哉先生

(学会場で購入した医学雑誌の演者の文献も参考にしました。)
ADは「皮膚の生理的機能異常を伴い、複数の非特異的刺激あるいは特異的アレルゲンの関与により炎症を生じ、慢性の経過をとる湿疹」と定義される。
ADの痒みのメカニズム:マスト細胞の活性化、Th2細胞由来のIL-31 、表皮角化細胞で産生されるTSLP(thymic stromal lymphopoietin)、プロテアーゼ活性受容体-2(PAR-2)アゴニスト、神経ペプチド、表皮内神経線維の増生によるかゆみ過敏が関与している。
夜間の痒みが不眠をおこす。
アクチグラフィーはPSGと相関が高いので代用可能。(R>0.8 )
アクチトラックと赤外線ビデオによる掻爬の測定値は相関する。(R0.91 )

FS1

FS1-3 子供は大人以上に光の影響を受けやすい。
夜の光暴露は生活の夜型化を引き起こす要因の一つである。
大学生以上の被験者は低い色温度よりも高い色温度でメラトニンが抑制される。
方法
大人20名 平均41.7歳, 子供22名 平均8.9歳(5-12歳)
3000Kと6000K 照度270Lx を群分けして当てた。
測定項目唾液中メラトニン濃度、主観的眠気KSS
日中は自由 19時から唾液を採取、24時まで5回採取
結果
3000K 大人では徐々にメラトニン増加 子供では抑制された。
6000K 同様の結果だが、6000Kの方が子供により強く影響した。
主観的眠気KSS は子供では6000Kで有意に眠気は低下した。

FS1-4 清酒酵母の睡眠の質向上効果に関するヒト尿中水溶性代謝物のメタボローム解析
清酒酵母を摂取すると尿中アラントイン酸が増加した 第一周期デルタ波パワー値の増加と相関した。深睡眠とラジカル除去に関連がある可能性が示された。
尿中εーNートリメチルリジン量と起床時の眠気の改善が負の相関を示した。
→深睡眠の指標となる生体マーカーとして使用できる可能性を見だした。

シンポジウム17 睡眠と健康づくり

S17-1 健康づくりのための睡眠指針と公衆衛生活動 大分大学 兼板佳孝先生

健康日本21(第2次)に即した睡眠指針改訂に際しての方向性
1.科学的根拠にもとづいた指針とする。
2.ライフステージ・ライフスタイル別に記載する。
3.生活習慣病・こころの健康を重視する。
 →睡眠12箇条が作成された。
子供の睡眠10か条 名桜大学の先生に依頼。
睡眠指針の普及と啓発に関する研究
→保健指導のための睡眠ガイドライン(ネットでダウンロード可能)
高校生向け睡眠保健教育の教材の作成中である。日本大学地家先生が作成。
睡眠公衆衛生活動の課題
 他の生活習慣と異なり、社会生活との関連が深く個人の意思でコントロールしにくい。(個人の行動変容だけでは解決しない)。→社会変容が必要。
 睡眠に関する疫学研究が未成熟である。特に介入研究が乏しい。→睡眠疫学研究の充実が必要。
休養の概念・・・ 休む と 養う
 休息 分・時間単位・・・休むのに重要、睡眠が重要
 休日 日単位
 休暇 日・週・月単位 ・・・養うのに重要

S17-2 疫学研究における睡眠週間とうつ病の多角的な関連 日本大学 降旗隆二先生

うつ病の生涯有病率 6.7-17.1%。
運動・食事・睡眠・喫煙・肥満との関連が強いことが最近の研究から明らかになっている。
演者らは生活習慣とうつ病の関連についてアンケート調査を行った。
朝食を食べる、栄養バランスに気をつける、十分な睡眠をとっている、肥満がない、の項目で有意差がでた。これらの項目を更に多変量解析した結果、
 朝食を食べる、栄養バランスに気をつける、十分な睡眠をとる が有意となった。
うつ病と不眠の合併率は84.7%。
不眠はうつ病発症のリスクであり、RR2.1。
不眠の中では特に「入眠困難」が精神健康感と関連した。
過眠も重要な症状であるが、うつ病と過眠の合併率は25.3%。若い年代かつ女性ほど過眠症状がおおい。
疫学研究では過眠もまたうつ病発症のリスク因子である。
Zhai Lら(2015)のメタ解析研究によると、
 短時間睡眠(6時間未満)はRR1.31 、長時間睡眠(10時間以上)とうつ病の発症RR1.42 
と判明した。オランダのvon Milla (2014)の報告も同様の結果であった。
クロノタイプ(朝方か夜型か)とうつ病の関連では,
 夜型との関連でOR2.2-2.9 が示された。
うつ病と睡眠は、不眠、過眠、睡眠時間、クロノタイプと多角的に関連していると考えられた。
QandA 過眠のうつ病と不眠のうつ病は同じものと考えて良いのか。
A 双極性障害は過眠が多い。過眠と不眠を両者もっているうつ病は重症度が高いと言われている。

S17-3 睡眠と介入研究 -労働者の睡眠、精神健康に対する睡眠教育の効果-   北里大学 田中克俊先生

労働者では平日の睡眠時間は5時間未満が各年代の1割未満に見られる。
ホワイトカラー労働者の30-45%は睡眠の質が悪い(Doiら2003)。
そこで重要になるのが、睡眠衛生教育である。
 睡眠衛生教育(集団で約1時間)→ 睡眠状態の把握(睡眠日誌やアクチグラフ、睡眠質問票など) → 個別睡眠保健指導 →フォローアップ。
疲れると眠くなる仕組み、夜になると眠くなる仕組み、を理解していただく。
カフェイン制限は非常に重要。特に夕方以後のカフェインは取らない。コーヒー、紅茶、緑茶。
効き始める時間30分、効いてる時間4-8時間。
飲んでも眠れるという方でも、調べると睡眠効率や質が変化している。
毎日の寝酒は不眠のもとである。アルコールは摂取数時間後に覚醒作用。尿量を増加させ途中覚醒を増やす。→睡眠の質と量を落とす。
刺激をさけて寝るための行動をとる。
リラックスするための睡眠儀式を取り入れる。呼吸法、動物を撫でる、など個々人はいろいろ。
日中のストレスを夜間に持ち込むことが不眠の原因のひとつと言われる。だからリセットが必要。
休日の過ごし方に気をつける。
 寝坊しない。起床時間の差は2-3時間まで。それ以上は月曜日に時差ボケを生じる。
 昼寝をするなら15時前の30分以内。それ以上は夜の睡眠に悪影響。
もし眠ろうとしても眠れなかったら上記のポイント再確認。それでもうまくいかないときは
 眠る時だけベッドに入る。
 眠りが浅い時は遅寝・早起きにする。 
  いつもより早く寝ても、体内時計が後ろにずれてしまう。
夜勤や遅番など交代勤務の場合は、睡眠スケジュールを立ててあげる。
2交代勤務労働者380名を対象として集団睡眠教育の効果は、PSQI(睡眠の質)が有意に改善した。
一般労働者に集団衛生教育40分実施後さらに個別指導30分を追加するとPSQI得点の改善が有意にみられており、さらに不眠をもつ労働者においてはPSQI得点の改善度は更に有意に高い。

S17-4 睡眠時間と健康関連アウトカム:メタアナリシスとメタ回帰分析 京都大学 渡辺範雄先生

短時間睡眠(short sleep duration) → 肥満、糖尿病、心血管疾患、脳血管疾患、高血圧、脂質異常症、うつ、死亡、が既存の研究で関連が明らかとなっている。
しかし、研究方法が統一されていないので、上記の関連について系統的レビューを行った。
 睡眠条件condition : 短時間睡眠short sleep duration
 outcome :肥満or糖尿病or心血管疾患or脳血管疾患or高血圧or脂質異常症orうつor死亡
 データ収集
Newcastle ottawa scaleで各論文を評価した。
結果
短時間睡眠は全死亡を増やすことが分かった。心血管疾患、肥満、糖尿病、高血圧はRR1.3-1.4も有意に増加。
この結果から、短時間睡眠の定義をするのが目的だったので、更に検討した。少なくとも6時間未満の睡眠時間は死亡を増やす。
ShenXら(Sxi Rep 2016;6:21480)は、睡眠時間と死亡率がU-Shape をきたす、6時間を頂点でることを報告した。
Liu TZら(Sleep Med Rev 2016)は、睡眠時間と死亡率はJーshapeであると報告した。_
QandA 睡眠暴露の条件をどのように選択したのか
A 夜の睡眠時間で睡眠日記を記録している症例したものに限定した。
Q 短時間睡眠の方は昼間の摂取カロリーが増えているが、摂取カロリーを考慮した研究があるか、深睡眠と浅睡眠を考慮したものがあるか。
A 摂取カロリーを調整因子にいれたものはなかった。演者の研究では睡眠日記をもとにしているので、浅・深睡眠の区別はできていない。重要なので今後検討したい。

特別講演2

脳を見る技術と睡眠研究 東京大学/理化学研究所生命システム研究センター 上田泰己ひろき先生

睡眠覚醒システムの解明に向けて~哺乳類睡眠におけるカルシウム依存性チャネルの役割~
なぜ睡眠は重要か 種々の精神疾患に関連している。
眠気sleepiness :神経活動を数えているものが何かあってその積分が眠気になる。
眠気は数時間から数日であるが、神経活動は数ミリ秒のレベルであり、大きなTime Scaleのギャップがある。
猫は起きている時の脳はburstingしており、寝ているときはbusting とrestingを繰り返している。
その現象には、Ca 2+ dependent hyperpolarizationが重要とわかってきた。
カルシウムは陽イオンなので一般的に神経興奮に関与すると考えていたが、Ca2+依存性K+channelが存在し、restingの波形を形成している可能性が示唆された。
重要と考えられたイオンチャネルのノックアウトマウスを作成し、脳波の代わりに呼吸を測定することで睡眠と覚醒を測定することにした。外気よりも体温のほうが高いので吸気すると僅かに熱膨張するのでその圧較差を測定した。
Ca2+ 依存性カリウムチャネル の遺伝子は8つ ・・・ノックアウト(KO)すると睡眠は減る。
Valtage gate 依存性Ca2+チャネルは 12遺伝子あり。
Ca2+ が細胞内から細胞外へ流出する出口をKOすると睡眠は減る、入り口をKOすると睡眠は増加した。
統合失調症では睡眠と覚醒のdurationが極端に長くなり、うつ病では極端に短くなっていることが知られており、この手法を用いて研究がすすめば、うつ、統合失調症、不安障害、などの疾病が分類できるかもしれない。

ランチョンセミナー9 AutoSVの使用を考える

AutoSV(ASV)使用における実際 ~診療報酬の観点から~ 順天堂大学 葛西 隆敏先生

平成26年診療改訂にてASVをSASには使用してはならない、と規定された。
チェーンストークス呼吸ならSASじゃないからいいのじゃないか、とか、
慢性心不全ならうっ血治療として用いる人工呼吸でよいのでは、という議論がある一方で、
ASVはレンタル代が在宅人工呼吸と同じで、診療報酬の観点では医療機関は赤字である。
疑義解釈
 在宅酸素の基準を満たす場合では(AHI20以上、かつNYHAIII以上)、CPAP指導管理料+人工呼吸機器加算
 CPAPの基準のみ満たす場合は、CPAP指導管理料+CPAP機器加算
SAVIOR-C試験では、心不全に対してnegative data(予後改善なし)の結果であった。
SERVE-HF試験では 心不全に対してASVはむしろ死亡率を悪化させた。
→ ヨーロッパではLVEF45%未満で有意なCSAはASVの使用を推奨しないことになった。
北米(アメリカ・カナダ)では使用してもよい。
日本循環器学会・日本心不全学会では、心不全症例におけるASV適正使用に関するステートメントで
 使用中の方はICして継続してよい。
OSAとCSAの混在症例のHFpEFには、順天堂大学ではASVを使用している。
※収縮能の保たれてる心不全に使用して入院が減ったというデータもある。
平成28年度診療報酬改定では、
 慢性心不全でNYHAIII以上、AHI20以上でASV療法を実施してよい。
 CPAP療法を実施してもAHI15以下にならないものに対してASVを使用してよい。指導管理料は高い方でOK(2250点)。
 心不全のうち、日本循環器学会・日本心不全学会によるASV適正使用に関するステートメントに留意した上で、ASVを継続せざるを得ないもの。・・・侵襲的人工呼吸を使わないこと、というつよいメッセージがある。
厚労省のスタンスは、基本的にエビデンスやガイドラインに則って基準を作りたい。

慢性心不全患者における呼吸障害の治療 up to date ~臨床の観点から~ 京都大学 村瀬 公彦先生

心不全にCSAを合併すると予後不良。全心不全患者の4分の1にCSA優位に合併しているであろう。
CSA改善の主たる治療は現在酸素投与、CPAP、ASVである。
CSAに対してCPAPすると半分がコントロール良好、のこり不良だが予後も不良であった。
ASVはAHIのほか睡眠パラメータを改善させることが2011に示された。
睡眠中のBNPの上昇は、低酸素が主たる原因ではないか、と報告された(JACC2009)。
夜間酸素療法はASVやCPAPよりもコンプライアンスがよい。
演者らは以下の検討を行った。
     20-80歳の心不全患者、LVEF<50%、AHI=15以上でCSA優位。
     ASV(N=19)Vs HOT(N=21)、 両者ともAHI=35前後。
     ASV初期設定はEPAP4-8、PS0-8
     結果
     ASVは睡眠パラメータは改善している。
     ASVは4時間装着、HOTは6時間。
     EFは有意差なし、BNPは開始当初低下したが、その後有意差なし。
     6MWTに有意差なし。
なぜstudy間で結果が異なるのか?
1.OSA/CSAの内訳が異なる。
2.各研究でPSGでの判断基準が異なる
ASVでは、機種が違う、機器が違う、マスクが違う、ちゃんと使っていたのか、などの要因が考えられる。
QandA どのような患者にASVを使うべきか。演者の提案。
 心機能の保たれたチェーンストークス呼吸。
 まずCPAPをやってみてAHI=15以上のこるときにASVを使う。

シンポジウム25 Sleep surgery の事実・意味・価値

Sleep surgeryはそもそも日本発の治療であり歴史もある。

Stanford Sleep Surgery の過去現在未来 Stanley Yung-Chuan Liu MD

Phase I UPPP or UPPP+GAHM or GAHM
Phase II MMO

S25-2 呼吸調節系から考える睡眠外科療法のあり方 奈良県立医科大学 山内基雄先生

OSASには多様性・フェノタイプが存在する。
病因病態生理は複雑である。
 OSASの病態はストローでは説明できない。上気道の材質は代償性・虚脱性は均一ではない。
個々のOSASで異なる。
 上気道を拡大しただけでは解決しないこともある。
CPAP治療は必ずしも有効とは限らない。
CPAPアドヒアランスは低い。 →陽圧というスプリントで上気道を広げるだけでは解決しない。
昔は重症OSASが気管切開されていた時代があったが、気管切開後にCSRなどの中枢性無呼吸が出現することが経験された。つまり呼吸調節系の障害がOSASには同時に存在することを意味する。
低い覚醒閾値、呼吸調節系(ループゲイン)の不安定性、上気道面積狭小化、上気道代償性低下、などがOSASの原因(フェノタイプ)であり、複合的な原因もありうる。
O2は末梢化学受容体(頸動脈小体)、CO2は中枢化学受容野で感受し中枢へ →呼吸中枢→呼吸器へ。
覚醒閾値と覚醒による換気のオーバーシュートが起こる。
覚醒から入眠に伴う換気量減少が大きい患者→睡眠と覚醒の間のPaCO2のダイナミックな変化が大きい。 →呼吸が不安定となりOSAが観察される。換気量が落ちるほどNREM睡眠が増加する。
覚醒閾値低下は鎮静剤・睡眠薬で、ループゲインが原因なら酸素投与・アセタゾラミド、上気道面積低下なら上気道開大術・口腔内装置、上気道代償性低下なら舌下神経刺激療法(NEJM2014)などが治療法として考えられる。
※演者のコメント:PSGを読まずにレポートのみをみていては、真の病態はわからない。CPAPに失敗してから気づくのでは遅いと考えている。

S25-3 Sleep Surgeryの適応を再検討する 東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科 渡邉統星先生

手術効果は各手技でばらつきがある。
42歳男性 UPPP+オトガイ形成術後
上気道拡大したのにAHI=14.5→39に増悪してしまった。
その原因を考察すると
1.閉塞部位に対して十分な気道拡大が測れなかった。
2.気道拡大を行っても呼吸イベントが残存した。
2の機能的要因を簡便に評価できないか・・・なかなか難しい。
そこで、手術無効例は予測できるか、と考えてみた。
pure OSA 呼吸努力が強い ・・・手術対象
OSA+CSA
pure CSA 呼吸努力がない
・呼吸努力の評価Pesを測定
pure OSAはPes maxと覚醒はほぼ同時である。

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