がん診療連携フォーラムに出席し、「血球増加を呈する造血器腫瘍」という演題を聴講し、最新の知見を学んで参りました。

2017年2月9日に福山市民病院で開催された、がん診療連携フォーラムに出席し、「血球増加を呈する造血器腫瘍」という演題を聴講し、最新の知見を学んで参りました。

以下の内容はあくまで聴講メモですので、間違いがあっても責任はもてませんのでご了承ください。

血球増加を呈する造血器腫瘍 ~骨髄増殖性腫瘍の新知見~

川崎医科大学 血液内科学講師 近藤敏範先生

赤血球増加症の鑑別は、腫瘍性か反応性かを考えること
真性赤血球増加症・・・腫瘍性
その他はすべて2次性である。
ストレス赤血球増加症・・・・反応性
ストレス赤血球増加症の特徴
中年男性、赤ら顔、肥満、喫煙、大量飲酒、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、いびき(睡眠時無呼吸症候群)

 

骨髄増殖性腫瘍(Myeloproliferative neoplasm:MPN) 4兄弟(古典的MPN)

MPN代表疾患 遺伝子異常 頻度
慢性骨髄性白血病(CML) Bcr-abl 100%
真性多血症(PV) JAK2-V617F、

JAK2-exon12

95%

5%

本態性血小板血症(ET) JAK2-V617F 約50%
CALR遺伝子変異 約30%
原発性骨髄線維症(PMF) JAK2-V617F 約50%
CALR遺伝子変異 約30%

なぜ4兄弟なのか  →お互いに病型が移行する。
PV はETに移行したり、急性白血病を発症したり、骨髄線維症になりうる。
ET はPVに移行したり、急性白血病を発症したり、骨髄線維症になりうる。
PMF は急性白血病を発症しうる。
CML は急性白血病を発症しうる。

真性多血症PV とは

①末梢血球3系統の増加 ②骨髄中3系統過形成 ③JAK2遺伝子変異陽性 ④NAP score 高値 ⑤エリスロポイエチン低値 高LDH血症 高尿酸血症
臨床症状:血液粘調症候群(頭痛、耳鳴り、微小循環障害)、皮膚そう痒、消化性潰瘍、血栓/出血症状、肢端紅痛症、脾腫、10%程度PMFやAMLに移行する。
肢端紅痛症; 手掌や足底が真っ赤になって痛む・・・微小血栓による。
JAK2遺伝子変異の発見2005年
JAK-STAT系を活性化(増殖シグナル)→無秩序に血球増殖する。
PVは95%がJAK2-V617F遺伝子変異陽性である。
本態性血小板血症は55%に同様の遺伝子変異がある。
MPN診断基準(WHO2016 revision) が2016年に発表された。
PVでは男性Hb>16.5g/dL、女性>16に引き下げられた。(以前は18.5以上)
骨髄は年齢に比して過形成で、成熟巨核球を伴う三系統の増生がみられるJAK2変異が存在する
JAK2陰性とJAK2変異陽性の臨床像の違いはあまりなし。
多血の程度、EPOの低値率、なども同等
脾腫は遺伝子変異陽性群に多く64%に認められた。

治療:

1.瀉血:1回に300−500ml程度、Ht値45%を目標
2.バイアスピリン:血栓症予防
3.ハイドロキシカルバミド:高リスク患者(60歳以上 or 血栓症の既往)
4.JAK1/2阻害薬(ルキソリチニブ):治療抵抗例に適応

本態性血小板血症 ET

女性におおく、平均年齢60歳
発症率年間2.5人/10万人
①血小板と白血球の増加、②骨髄中巨核球増加 ③JAK2遺伝子変異:約50%、CALR遺伝子変異:約30%
臨床症状:頭痛・耳鳴りなどの血管運動性症状(20−50%)、肢端紅痛症、血栓・出血症状、脾腫、3%程度PVやPMF、AMLに移行する。
2013年Calreticulinに遺伝子変異が発見された。CALR遺伝子変異
Calreticulinは変異がない正常は粗面小胞体に局在している。変異のあるものはトロンボポエチンの受容体に結合して
トロンボポイエチンのJAK-STAT系を刺激する。→その結果無秩序な血球増殖をきたす。
診断にはJAK2、CALR、MPL変異 を調べる。
MPN診断基準(WHO2016 revision) では、血小板は45万以上に引き下げられた。

【CALR遺伝子変異群 VS JAK2遺伝子変異群】

CALR変異群 JAK2変異群
年齢 若年 高齢
WBC
ヘモグロビン(Hb)
血小板 ⇑⇑
血栓症 ++
PVへの移行
PMFへの移行 ++
白血病化
NAP score

 

NAP scoreが高値か低値ならtrue ET(真の本態性血小板血症)といえる。
JAK2陽性症例は血栓症合併率が高く、注意を要する。
※血小板数100万以上は血栓症のリスクファクターとなるのか?
2011年Bloodの報告で、リスク因子ではないと判断がでた→その理由は100万越える症例はCALR遺伝子変異陽性例であった。
JAK2-V617Fは血栓症合併のリスク因子である。
では、何がリスクファクターなのか。

①Hb/Ht高値
②WBC高値 賛成と反対が五分
少なくとも血栓症のリスクが低下する報告はない。
③細胞接着分子の活性化
接着分子などの血小板を活性化する因子が活性化されていることがわかった。

治療:

1.バイアスピリン
2.インターフェロン−α:低から中間リスク患者や妊婦に
3.細胞減少療法;高リスク患者(危険因子を有する患者に)
ハイドロキシカルバミド=抗がん剤
アナグレリド=血小板減少作用のみを有する。抗がん剤ではない。

QandA

Q.JAK2やCALRの遺伝子検査は一般医療機関で検査可能か。
A.まだ保険適応となっておらず、検査室レベルである。

Q.なぜ血小板が増加するのに出血症状が起きるのか。
A.血小板数が高ければ高いほど出血がおおくなるが、その理由は2次性のvon Willebrand因子欠乏となるからである:フリーのvon Willebrand因子がなくなるため。
2次性von Willebrand症候群という。

Q.典型的ストレス多血症とかんがえられる症例は、PVはいないのか。
A.PVの可能性は否定できず、遺伝子変異を調べるしか方法はない。

 

近藤敏範先生と(福山市民病院ロビーにて)

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