第25回日本アレルギー学会春季臨床大会

学会報告

第25回日本アレルギー学会春季臨床大会(会期2013年5月11日12日の2日間) が開催され、出席いたしました。アレルギー専門医が集まる会議です。

最新の知見を学んで来ましたので、自分のメモをもとに「学会報告」をいたします。

 (注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

シンポジウム11好酸球性副鼻腔炎/中耳炎の発症メカニズムと治療

好酸球性副鼻腔炎は、成人発症で気管支喘息を伴い、嗅覚脱失にいたるステロイドにしか反応しない疾患である。さらに進行すると中耳にまで達し黄色でにかわ状貯留液を有する好酸球性中耳炎をおこし難聴が進行して聾に至る。このような難治性疾患は本邦のみで報告されている。

平成19年1月1日から平成21年12月31日までの3年間11施設および関連施設の副鼻腔炎手術3014例が集積され好酸球性副鼻腔炎は832例27.6%、好酸球性中耳炎は38例であった。平成23年から24年に手術症例対象の前向き研究500例がおこなわれ、短期間で再発をきたす重症群と一般副鼻腔炎のように順調な経過をたどる軽症群にわかれることが判明した。

・好酸球性中耳炎の発症メカニズム の演題では気管支喘息を合併する難治性中耳炎で好酸球優位な中耳貯留液が存在する。

気管支喘息と副鼻腔炎はほぼ同年齢で発症するが、好酸球性中耳炎は約10年遅れて発症する。

好酸球性副鼻腔炎は好酸球性中耳炎の発症リスク因子である。

演者は副鼻腔術後に4例好酸球性中耳炎の発症を経験している。しかも一生懸命鼻腔洗浄をやっていたあとに発症。耳管は開放していたとのこと。 → 鼻洗浄は好酸球性副鼻腔炎に有用だが、術後に強い圧をかけないように注意が必要である。

好酸球性中耳炎の発症メカニズムであるが、モルモットをOVAで全身感作したあと中耳を刺激すると中耳の好酸球性炎症が誘発された。

人間では真菌(アスペルギルス、アルテルナリア、カンジダ)やエンテロトキシン(黄色ブドウ球菌など)が抗原として疑われている。

治療戦略は 細菌感染の制御と局所の好酸球性炎症の制御、 全身投与ステロイドである。

演者らはトリアムシノロンの鼓室内注入後に耳管への逆通気し、リンデロン注入治療と比較したところ有効率(中耳の所見と耳漏の程度の減少)は前者約80%、後者は26%であった。

発症基盤に耳管閉鎖不全が関与しており、喘息罹病期間が長いことはリスク因子である。

好酸球性副鼻腔炎

慢性副鼻腔炎はアジアでは以前は20%が好酸球性との報告があったが
最近ではポリープ症例の多くが好酸球性 (日本約60%、中国40−50%、韓国33%)

好酸球性副鼻腔炎のTH2環境の形成にも肥満細胞が関与しているかもしれない.

慢性副鼻腔炎CRSとアレルギー

CRSヨーロッパの有病率は11%  GA2LEN survey in Europe Allergy2011

サンパウロの有病率 5.5% ・・・ヨーロッパより低い

CRSの発症機序として:

全身性炎症が鼻アレルギーやポリープをおこす と推察されており、以下のような報告がある。

気管支喘息のアレルゲンで気管支を刺激したら、鼻症状が現れた。

鼻アレルギーの患者に鼻アレルゲンで鼻を刺激したら結膜炎が生じた。

CRSは疾患のスペクトラムであり、欧米の考え方では
TH1優位はポリープなしのCRSとなり、
TH2優位はポリープありのCRSとなる。

日本に関してはその中間の性質をもっている。

抗真菌薬はCRSには無効(いくつかの研究で明らかである)。

鼻茸なしのCRSは 局所ステロイドに48%が有効。

鼻茸ありが 60%以上に有効だったが、100%ではない。

局所への薬剤の到達が十分でない可能性がある。

→ Optinoseというディバイスを用いてフルチカゾン無効例に再度投与したところ、一部の症例は有効だった。

組織内へ好酸球浸潤が多い症例が局所ステロイドが効きやすい。とくに鼻茸ありでは、より効きやすい。

鼻ポリープを有するCRSにおいて、オマリズマブが有意に有効であった(Gevaert. JACI 2013)。

Year in review 2013 浅野浩一郎先生

・吸入ステロイド薬 AIRJ 2011 の研究結果について解説された。

電話調査による

患者背景 400症例 男性27% 女性73% 現喫煙10%

過去一ヶ月に症状があったのは62% 予定外受診を1年以内にあったのは39% 欠勤・欠席13%

これらのうち34%が吸入ステロイド使用し、19%が合剤、のこりが吸入ステロイド単独。

吸入ステロイドをしていない66%のうち 症状がなくなり自己中断したのは61%も存在した。

・新しい治療薬として以下がある。抗IL5抗体 メポリズマブ、抗IL13 レブリキズマブLebrikizumab、TLR-9 agonist、 PGD2 阻害薬

・この中でメポリズマブmepolizumab 抗IL5抗体療法について重症喘息症例の研究を紹介された。(Lancet2012:380:651)

フルチカゾン880μg/day以上 かつ 1年間に2回以上の増悪、かつ好酸球性喘息 呼気NO50以上 末梢好酸球増多 などの条件を満たす重症喘息にメポリズマブを投与したところ、経口ステロイド服用や救急受診の頻度が低下した。

・ICS+LABAを併用している重症の かつ非可逆性閉塞性障害 の症例にチオトロピウムを投与したところ、一秒量を改善させ重症例の急性増悪頻度を減少させた(NEJM2012:367:1198)。

・SMOG studyから喫煙者には吸入ステロイドが効きにくく、むしろLTRAが効くのではないか という仮説が立てられた( Lazalus ら AJRCCM 175:783:2007  )。

そこで、以下の報告がある。

1019例の喘息症例: 55歳以下 喫煙指数600以下 ・・・COPD除外するための工夫

治療後喘息コントロール良好日の日数を検討した。

喫煙本数が少ない症例ではフルチカゾンがより有効、 喫煙本数が多い症例はモンテルカストがより有効 の傾向であった(JACI 2013:131;763-771)。

・オマリズマブの治療効果について

JACI 2013;131:110−6 に以下の報告がある。

喘息を伴う鼻ポリープ患者で、血清IgE30−700IU/ml

皮膚テスト陽性12例 アスピリン喘息12例

→オマリズマブを投与すると鼻ポリープは改善した。

面白いのは、非アトピー症例の活動制限と症状を有意に改善した!・・必ずしもアトピー性でなくともオマリズマブは有効なのではないかと推察された。

・ 喘息治療のバイオマーカー

FENO について

BUを1600投与してもまだコントロール不良な 22例での検討

アドヒアランス不良例(きちんと治療薬吸入ができていなかった群)9例に監視下にて吸入を行わせると呼気NOが低下してきた。

一方、もともとアドヒアランスよい13例は呼気NOは横ばいだった。

(AJRCCM 2012;186:1102)

◆一般演題から

・オフライン法とNO breathを用いた呼気一酸化窒素濃度の機種差検討 の演題では、NO breathの測定値は2つのオフライン法(CEIS、Sievers)と強い相関を示した。

まとめると測定値はNIOX MINO <  NO breath ≒ Sievers法 <CEIS法

・β刺激薬吸入前後における呼気NO値と呼吸機能検査との関係について の演題では、気道炎症が強い症例ではβ刺激薬吸入前だとNOが実際よりも低値を示し過小評価することがあるので注意が必要と考察されていた。

・一般病院における遷延性咳嗽の診断に対するFENOの有用性 の演題では、3週間以上続く咳(湿性、乾性に関係なく)、レントゲン異常なし、明らかな喘息発作と現喫煙者を除外、の外来患者に呼気NO測定を実施し、最終診断が咳喘息・咳優位型喘息16例中11例が40ppb以上となった。非喘息群は21例中1例のみ40ppbを越えた。

・喘息患者における鼻炎合併率は67.3%である(Ota k  Allergy 2011 ;66:1287-1295)が、この研究で用いられたのがSACRA質問票である。

・SACRA質問票を用いたいくつかの発表では、いずれも喘息患者においてアレルギー性鼻炎の合併頻度はたかく、鼻炎症状は喘息コントロールに悪影響を及ぼす、という結論であった。

・成人喘息に合併する副鼻腔炎の臨床的検討(岡山大学病院呼吸器・アレルギー内科 谷本安先生) の演題では、喘息患者の50−60%の副鼻腔炎合併を認め、非アトピー型喘息には好酸球性副鼻腔炎合併がおおい。鼻炎症状のない症例もあり副鼻腔炎を見逃されている可能性があるので、副鼻腔CTや耳鼻科受診など積極的な診断が必要。

・副鼻腔炎合併気管支喘息の解析 の発表では、CT上副鼻腔炎が認められた125例を検討し、病変部位は篩骨洞に98%、上顎洞76%、蝶形骨洞38%、前頭洞32%、と篩骨洞が最も多かった。

・2007年から2011年の5年間に喘息発作で入院した100人を検討した演題では、20人が複数回入院しており、うち10人はnear-death attackであった。これらの症例は吸入ステロイドICSが投与されていないか、服薬コンプライアンスが不良であった。

・一般人口のGERD有病率は5−10%であるが、喘息患者は34−89%と高率である(Gut 1992;33:872−6)。

・喘息のステロイド治療における逆流性食道炎の実態調査 の演題では、ステロイドは経口・吸入にかかわらずGERDに注意が必要であり、診療においては初期から疑うことが必要であり、FSSG(Frequency Scale for Symptoms of GERD)を行い、スクリーニングすることを提案された。耳鼻科的検索にて梨状窩やひ裂部の浮腫や発赤を確認することも参考になる。

・本邦では北京オリンピックやロンドンオリンピックに出場した選手の約10%が喘息であると言われている。

・アスリート喘息症例におけるブデソニド/ホルモテロール配合剤(BUD/FM)の効果 の演題では、前治療からBUD/FMに変更した13名中12名が症状改善し、%MMF、呼気NO濃度、ACTは有意に改善した。

・呼気NO濃度高値が遷延する難治性喘息に対する全身性ステロイド薬の反応性 の演題では、高用量吸入ステロイドで治療にも関わらず呼気NOが40ppbと高値を維持する20症例に、プレドニゾロン0.5mg/kgを2週間連続投与し、ACQ、肺機能、呼気NO測定、末梢血好酸球数を比較した。いずれの指標も有意に改善したが、末梢血好酸球数はその反応性を最も良好に予測した。

・気管支喘息の増悪と片頭痛出現の関連性の検討 の演題では、喘息症状悪化時、ACT低下時、PEF低下時、FENO上昇時 に頭痛悪化するとした。短時間作用型β刺激薬を投与した6人中4人は頭痛の軽減を認めた。

・好酸球性肺炎、好酸球性副鼻腔炎を合併した気管支喘息に対し、HFA-BDP経鼻呼出法が有効であった2例 という発表では、タイトル通り副鼻腔CTにて、すっかり病変が消失している症例が提示されていた。

・環境誘発試験が陽性であったカーエアコンによる過敏性肺炎の1例 の演題ではタイトル通り、自動車のエアコンが原因であった。カーエアコンの起炎菌種はCladosporium sp. Yeasts Aureobasidium sp. がおおく、ルームエアコンはCladosporium sp. Aspergillus sp. Penicillium sp. がおおいと文献的考察をされていた。カーエアコン稼動時の菌濃度が特に高い。

・マイタケ工場に関連した過敏性肺炎の2例 の発表では、マイタケ工場での環境誘発試験陽性、マイタケ抽出液を用いた沈降抗体陽性で診断した。マイタケ室内栽培の長期就労が原因の可能性が高いとした。

・フルチカゾンプロピオン酸エステル点鼻液のジェネリック医薬品についての検証 の演題では、先行品には使用されていないパラベン(パラオキシ安息香酸メチル・安息香酸プロピル)が3品目に含まれており、香料も3品目に含まれていた。パラベンはアスピリン喘息AIAを誘発する添加物であるが、AIAは好酸球性副鼻腔炎や鼻茸を高率に合併しており危険性が高いので注意が必要である。

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