女性のなんとなく不調の漢方

本稿は、2026年8月3日にご講演いただいた内容を基にしています。以下のセミナーの内容を、筆者が読みやすくまとめました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

第4回ココロとカラダに漢方セミナー

女性をまるごと診る漢方 ―「なんとなく不調」と婦人科3大処方―

多和田 利香先生(Fクリニック沖縄 院長)

多くの女性が抱える「なんとなくの不調」や、月経前症候群(PMS)、そして月経痛に対して、漢方医学がどのようにアプローチしていくのかについて、わかりやすく解説されています。

女性の身体の変化とホルモンの働き

女性の身体は、思春期から更年期にかけて、女性ホルモンの影響を常に受けています。約2000年前の東洋医学の書物でも、女性の身体は7年ごとに変化していくと記されており、20代で身体が最も充実し、30代後半から少しずつ変化の兆しが現れ、50歳前後で閉経を迎えるという流れは、現代を生きる私たちと一致しています。 

この心身の変化の裏側で大きな役割を果たしているのが、2つの女性ホルモンです。

 一つは「エストロゲン(卵胞ホルモン)」です。子宮内膜を厚くする、乳房を大きくする、骨や血管を守るなどの働きがある、つまり女性らしさを作るホルモンです。 

もう一つは「プロゲステロン(黄体ホルモン)」です。こちらは受精卵が着床しやすいように子宮内膜を整え、妊娠後はその状態を維持する、体温を上げる作用など、重要なホルモンです。 これらのホルモンは、約4週間(1回の月経周期)の中で、分泌量がダイナミックに変動します。

月経前症候群(PMS)はなぜ起こる?

月経の3〜10日くらい前から、イライラしたり、気分が落ち込んだり、胸が張ったり、頭痛がしたりといった不調が現れることを、月経前症候群(PMS)と呼びます。月経が始まるとすっと楽になるのが特徴です。

排卵が終わってから次の月経が来るまでの間、身体は妊娠に備えて水分や栄養を一生懸命ため込もうとします。そのため、腸からの水分吸収が増え、身体がむくみやすくなります。しかし、妊娠が成立しなかった場合、ため込んだ水分や、厚くなった子宮内膜は、身体にとって不要なものとなってしまいます。

漢方の考え方では、この「不要になったもの」が、血の巡りの悪さ(瘀血:おけつ)、水の巡りの悪さ(水滞:すいたい)、そして気の巡りの悪さ(気滞:きたい)を引き起こすと考えます。これらが一気に身体に生じることが、PMSの様々な不調の原因となっています。

月経痛(生理痛)のメカニズム

妊娠しなかった場合、不要になった子宮内膜を血液とともに身体の外へ排出する現象が月経です。このとき、子宮の筋肉が収縮することで中身を押し出そうとします。この筋肉の収縮が強すぎて「過収縮」という状態になってしまうと、血流が悪くなり、強い痛み(月経痛)を感じることになります。 そのため、漢方治療では、子宮の筋肉の過剰な緊張を優しく緩めるお薬(芍薬 6.0g+ 補血・活血+ 利水などの処方)と、滞ってしまった血をスムーズに外へ出すためのお薬を組み合わせて、痛みを和らげていきます。

婦人科でよく使われる3つの漢方薬

女性の不調に対して、産婦人科などで非常によく使われる「3大処方」と呼ばれる漢方薬があります。それぞれ得意な働きが異なります。

  1. 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
    血を補いながら、余分な水分を巡らせて取り除く働きに優れています。むくみが強い方や、冷えがある方、天候(気圧)の変化で頭痛が起きやすい方に適しています。また、子宮の収縮を緩める成分もしっかり含まれています。
  2. 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
    血の巡りを良くする(滞った血を動かす)働きが強いのが特徴です。月経痛が強い方によく用いられます。
  3. 加味逍遙散(かみしょうようさん)
    「気」の巡りを良くする働きに優れており、イライラや気分の落ち込み、胸の張りなど、精神的な不調が目立つ場合によく使われます。
    これらの漢方薬は、患者さんの症状や体質に合わせて一つだけを使うこともあれば、二つを組み合わせて使うこともあります。

症例から学ぶ漢方治療

演者の先生のご施設での診療経験から、漢方薬を用いた具体的な治療例をご紹介します。 

症例)月経前のイライラと激しい月経痛に悩む若い女性

 イライラなどの精神症状があるため、一見すると「加味逍遙散」が合いそうですが、強いむくみや痛みがあることに着目し、「当帰芍薬散」を中心に処方されました。

血と水の巡りが良くなることで気の巡りも改善し、数ヶ月で精神的な不調も月経痛も良くなったそうです。

症例)月経前や月経中に「四六時中、強い眠気に襲われる」という女性

 月経中は子宮に血液が集まるため、頭の血流が相対的に不足しやすくなります。このような場合には「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」という漢方薬が用いられます。このお薬は、釣藤鈎・柴胡・甘草で肝気の緊張を緩解し、神経の興奮を鎮める働きがあり、頭部の血流を良くする生薬も含まれているため、眠気や頭痛の改善に役立つことが確認されています。 

症例)1年間で体重が10kg増加し、新規にPMSの症状(強い倦怠感や頭痛)が現れた女性

 体重増加によって体内に余分な水分や熱が溜まり、気・血・水の巡りが悪くなったことが原因と考えられたので「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」という漢方薬が処方されました。このお薬には、大黄・芒硝 裏にある火熱を便に排泄するという働き(要するに便秘薬)があり、身体の様々な経路から余分な熱や水分を取り除きます。その結果、PMSの症状が消失し、体重の減少も見られました。

症例)月経痛の治療などで低用量ピル(LEP製剤)服用中だが、イライラと頭痛のある女性

 お薬を休む期間に強いイライラや頭痛が出てしまうことがあります。これはピルによってホルモンの波は抑えられていても、もともとの精神的な不調が顔を出しているからです。

この場合、不安や興奮を抑える「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」を併用したケースがあります。この漢方は、竜骨・牡蠣が 精神安定、動悸を鎮静、止汗といった作用があり、ピルと組み合わせることで不調を改善する可能性があります。 

漢方治療は、単に痛みを止めるだけでなく、身体全体のバランスを整え、様々な不調を根本から改善していくことを目指しています。 当院では、学会や学術講演会で学んだ最新医学情報を診療にて提供できるように努めております。