2015年11月11日にニューキャッスルホテルで第4回福山抗酸菌感染症研究会が開かれました。

研究会に出席して最新の知見を学んできましたので以下にその要旨を報告します。
以下の記事はあくまで私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

「結核の現状と感染対策」 NHO東京病院呼吸器センター 永井英明先生

1) 結核の現状

罹患率 15.4人/10万人あたり (1951年は700人/10万人あたりだった)
米国は2.8人、仏7.3人、独5.1人であり、日本は結核蔓延国に分類される。
70歳以上は内燃性再燃が多い。
20−30歳で発症がやや多いが、高齢者から感染して発病すると考えられている。
新規発病者の58.2%は70歳以上、80歳以上は37.7%、20歳代では43%が外国人、15−19歳では33%が外国人である。
塗抹陽性肺結核患者において全年齢では18.8%、35−59歳では実に38%が発病から受診まで2ヶ月以上かかっており非常に問題である。
また初診から診断までに1ヶ月以上かかるのは21%である。←これも非常に問題。
結核集団感染の報告例は2013年29件、うち7件が医療機関、2012年は50件でうち10件が医療機関であった。

2) 結核の発病と感染リスク

結核菌は飛沫感染するので、とにかく換気が重要である。
飛沫核を吸入しても全ての人に感染が成立するわけではなく、20−50%と言われている。
感染成立とはすなわちツ反陽転化、あるいはIGRA陽性(クウォンティフェロンやT-SPOTなど)である。しかし9割は発病せず、早期発症は5%(一次結核)、遅れて発症5%(二次結核)である。
院内感染のリスクについて
若い医師の大半が結核未感染であり、院内には免疫不全患者が多いうえ、病院の密閉度が高いのでリスクが非常に高まっている。
1950年代 結核既感染者は50歳で80%だが、最近は 10%程度である。
2004年現在、ナースは同年代の4倍以上発病リスクが高い。
発病リスクは、細胞性免疫が低下すると危険となる。
結核感染者の活動性結核発病リスクは、
HIV50−170倍、
慢性腎不全透析中で10−25倍
生物学的製剤投与中で4倍
ステロイド経口投与中 2.8−7.7倍
肺結核を抗結核薬で2週間治療すると、喀痰中の菌量は約10分の1となり、咳は半減する。
結核菌塗抹陽性の喀痰中には7000個/mlを超える結核菌がいる。
感染危険率: 塗抹(ー)かつ培養(ー)を1とすると
塗(ー)培(ー):塗(ー)培(+):塗(+)=1:2:10
すなわち塗抹陽性者の危険性が圧倒的に高いということである。

3) 院内感染対策

15日以上長引く咳、1年以内に塗抹陽性者と接触した人、結核を疑う陰影がある場合のいずれかでは、喀痰の結核菌塗抹検査を日を変えて3回実施することが重要である(3連痰)。
専用の採痰ブースを設けるのがよく、最近はHEPAフィルターを装備した移動式のものも発売されているので便利である。
肺結核の画像診断のポイント:
「散布性粒状影 tree in bud」の所見が重要である。マイコプラズマ肺炎を要鑑別。
活動性結核の診断が遅れる可能性がある、他の疾患の鑑別は
気管支結核・・・気管支喘息と間違われる
喉頭結核・・・ 耳鼻科で喉頭腫瘍
乾酪性肺炎型・・細菌性肺炎
高齢者の肺結核・・誤嚥性肺炎
肺外結核・・・・体のどこにでも感染する
外来診療での工夫として
長引く咳・・・患者にサージカルマスクを装着させる
陰圧に保てる待合室あるいは個室を設ける
優先診療制度(トリアージ)を導入する
医師はN95マスクを装着する
換気システムは6−12回/時の換気能力が必要で、外来のトリアージ室、採痰室、内視鏡室などに設置すべきである
紫外線照射は効果があるが、限定的であること、5000時間で寿命であることに気をつける(切れてないか確認)
N95マスクは0.3μmの粒子を95%以上除くが、1回目できちんとフィットできる人は66%しかいない。十分な装着練習が必要である。

4) 接触者の発病予防

接触者健診は発病者を中心にして同心円状に行うのが基本。つまり最濃厚接触者からまずIGRA検査(T-SPOTなど)を行い、陽性となったら潜在性結核(LTBI)の治療を行う。
発病リスクの高いLTBIを6−9ヶ月INH or RFPで治療する。
→きちんと治療すると90%が発病予防できる (100%ではない!)
またIGRA陽性で、2年以内に明確に結核感染患者接触がある場合はLTBIの治療を行う。

以下質疑応答

Q1. 外来診療中に患者に接触した場合、私達は感染しないのか?
A. 可能性はある。演者の施設では正常免疫を持つ人が8時間以上接触した場合に濃厚接触者と考えて対応している。

Q2.生物学的製剤投与前の場合の対応は?
A. すでにガイドラインがでているので従えばよい。まずIGRA測定、陽性ならLTBI治療してから治療開始。ステロイド長期内服なら9ヶ月きっちり行う。

Q3. 結核病棟のスタッフにはどれくらいの頻度でIGRAを実施するか。
A. 可能なら半年ごと

Q4. N95マスクは毎回使い捨てか?
A. 形状が崩れるまでは使用している。

Q5. 薬剤性の障害が出た場合の対応について
A. 腎障害 : RFPの急性間質性腎炎(アレルギー機序と言われている)が起きたら、中止するが、どうしても使うならステロイドを投与しながらRFP投与することもある。
肝障害 : 減感作ができるなら再投与を行う。とくにINHとRFP。

Q6. 広島県では3連痰を提出すると、検査過剰として2回目から査定されるがコレでよいのか?対策は?
A. 東京では3連痰は一般開業医でも査定されない! 広島県がおかしい、すぐにでも正すべき。

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