第11回備後こころの診療懇話会

2017年3月2日、第11回備後こころの診療懇話会 (於リッチモンドホテル福山駅前)に出席して、最新の知見を学んで参りましたので報告します。

以下の内容はあくまで聴講メモですので、間違いがあっても責任はもてませんのでご了承ください。

講演1では、藤田内科医院院長 藤田道雄先生の貴重な臨床経験をお話し頂きました。
その症状は精神科疾患を疑うものでしたが、十分な問診と観察からまれな疾患を診断・治療に導かれました。
講演2では、精神疾患と間違えやすい身体疾患をきちんとした臨床診断プロセスを用いて診断しましょうという内容でした。
どちらの講演も私にとっては大変教訓的で、お二方の熱心な診療姿勢を見習いたいと思いました。
以下にその要旨を記します。

【講演1】 最近いらいらするんです。強い安定剤を ~焦燥感を主訴にした1例~

藤田内科医院院長 藤田道雄先生

症例:55歳女性。

主訴:最近イライラする
現病歴:上記主訴にて受診。できるだけ強い安定剤を希望されるが、内科のため強力な薬はおいていないと説明されて、アルプラゾラムを処方したがその後の受診はなかった。その7日後にホームセンターで包丁を購入し、切れ味を試すためと称して店内で開封。騒ぎとなり通報されてそのまま精神科へ入院。数年後、肺の検診希望で受診。その際に軽度低ナトリウム血症を認めた(Na 131)。受診時は完全失明されていたが他院で精査されるも原因は不明とのことだった。問いかけへの反応も鈍い状態だった。さらに2年後、別件で受診時Na再検し、119と著名な低下を認めたため、各種ホルモン検査を実施されたところ、
コルチゾル 1.7(正4.5ー21)、TSH 2.04(正0.5ー5)、FT3 2.21、FT4 0.7(0.9−1.7)、MPO-ANCA 15.4(<3.5)が異常値を示した。
何らかの内分泌膠原病疾患を疑って、K総合病院へ紹介。
頭部MRIにて下垂体と下垂体柄の腫大、慢性炎症による周囲の線維化、負荷試験にてACTH、TSH、GH、LHの反応性低下を認め、二次性副腎皮質機能低下症を診断された。さらに既往ではCTにて慢性副鼻腔炎と肺浸潤があった。以上の臨床経過と所見から以下の通り診断・治療に至った。
診断:多発血管炎性肉芽腫症
※失明したのは視神経炎であったと推察された。
治療:二次性副腎機能低下症に対してヒドロコルチゾン10mg/日 →現在Naは140と正常化。
中枢性甲状腺機能低下症にレボチロキシン25μg。

多発血管炎性肉芽腫症とは

 1.全身の壊死性・肉芽腫性血管炎
 2.上気道と肺を主とする壊死性肉芽腫性炎
 3.半月体形成性腎炎を呈し、その発症機序に抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与する血管炎である。

症状:

 発熱、体重減少などの全身症状とともに、
 1.上気道症状:膿性鼻漏、鼻出血、鞍鼻、中耳炎、視力低下、咽喉頭潰瘍
 2.肺症状:血痰、呼吸困難
 3.急速進行性腎炎
 4.その他:紫斑、多発関節痛、多発神経炎
 症状は1→2→3の順序でおこるとされており、1,2,3の3つそろうと全身型、2つなら限局型と呼ばれる。
元来予後不良の疾患であるが、発症早期に免疫抑制療法を開始すると、高率に寛解を導入できる。
 副腎皮質ステロイド+シクロホスファミド。難治例にはリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)。
早期診断にはANCAの測定は極めて有用、欧米ではほとんどPR3ーANCAであるが、日本ではMPOーANCAが約半數をしめる。
病因はいまだ不明だが、最近PR3ーANCAと炎症性サイトカインの存在下に好中球が活性化され、血管壁に固着した好中球より活性酸素やタンパク分解酵素が放出されて、血管炎や肉芽腫性炎症をおこすと考えられている。

予後:

 我が国のコホート研究によると、新規患者33名の6ヶ月後の寛解導入率は97%であったが、一般に副腎皮質ステロイド副作用軽減のためには速やかな減量が必要である一方、減量速度が早すぎると再燃の頻度が高くなる。疾患活動性の指標として、臨床症状、尿初見、PR#-ANCA、CRPが参考になる。
進行例では腎不全→血液透析となったり、慢性呼吸不全に陥る場合もあり、死因は敗血症や肺感染症が多い。
全身症状の寛解後に著名な鞍鼻や視力障害を後遺症として残す例もある。

同様の経験として自己免疫性下垂体炎の症例についても提示いただいた。(詳細は省略)
ディスカッション:
包丁を出したときの当時のことを覚えているのか 
 覚えていない・・・・意識障害あり!
 覚えている・・・・・意識障害なし。
統合失調症の行動だとしたら、妄想から逃げるための合目的行動である。

まとめ:

不定愁訴に遭遇した場合には、
 ストレス因を過度に重視しないこと。
 身体疾患、薬剤、精神科固有の疾患、を考慮すること。

【講演2】 精神疾患と間違えやすい身体疾患

藤井病院/福山市民病院 平岩千尋先生

”不定愁訴” 向き合うことが重要である。
・1ヶ月以上の倦怠感を訴える患者の3分の2以上で内科的あるいは精神科的な診断をつけることができる。
・注意深い病歴聴取と身体診察、粘り強く、すぐに結論を出してしまわないようにすること。
・「気のせいですよ」とほのめかさない。
診断理論で重要な覚えるべきことは2つだけ・・・2重プロセスモデル(以下の表)で診断すること

System1 直感的思考
System2 分析的思考

ヒューリスティック
フレームワーク、アルゴリズム、Bayesの定理

特徴

スナップショット診断
網羅的診断

メリット

迅速、効果的、芸術的
分析的、科学的

デメリット

バイアスに影響されやすい
時間がかかり、ときに非効率的、豊富な知識が必要なので負荷が大きい
頻用者
熟練者
初心者

Review of systemsを活用するとともに、変だなと思ったときのルーチン検査を決めておく。

検査から紐解く不定愁訴

・CBC、MCV
・CRP、ESR
・Glu
・AST、ALT、ALP、LDH
・BUN、Crea、Na、K、Cl、Ca、IP、Mg
・甲状腺機能(TSH)
・フェリチン
・尿検査、尿沈渣
・副腎機能(迅速ACTH負荷試験、デキサメサゾン負荷試験)
・困った時の3チン 血沈、フェリチン、尿沈渣

まとめ

診断を間違わないために
 System1 手がかりを見つける
 System2 型を身につける

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