2017年8月26日−27日に研究会に出席しました。

Primary Care Dr.Summit 2017 於グランドプリンスホテル新高輪
日常診療で遭遇する様々な講演がありましたが、印象にのこった内容について報告します。
以下の内容はあくまで聴講メモですので、間違いがあっても責任はもてませんのでご了承ください。

気のせいではなかった!機能性消化管疾患の病態と診断の現在

横浜市立大学 中島 淳先生

日本は内視鏡診療レベルはトップレベルである。
しかし、消化器の疾患の7−8割は機能性疾患であり、内視鏡異常なしから診療の始まりであり、
腕の見せどころである。
FGIDsはとにかく訴えが多い。
1.短時間で訴えを聞く、患者の希望をうかがう。
2.器質的疾患を除外する。
3.どのような機能性疾患かを同定し、ガイドラインに沿った治療をする、キーワードは「保証」
 注意 内視鏡で異常ないから気のせいだ、というとドクターショッピングが始まる。
4.ゴールを明確にして段階を踏んだ薬物治療、いかに多くの治療オプションを持っているかが重要である。
5.あなたの症状は気のせいではないが、時間がかかる、と説明すること。
・過敏性腸症候群(IBS);大腸の運動異常でおこる病気の総称である。

内視鏡検査異常なし、20−40歳代に多く、ストレスがおおい社会で起こりやすい。
女性は下痢型、男性は便秘型が多い。
機能性便秘:排便回数の減少、かつ・または排便困難症状
IBSの患者の特徴は、ドクターショッピングを繰り返すことが多い。
このように説明すべきである;ガンなどの器質的疾患によるものではなく(安心を与える)、腸管の機能障害によるものであることを説明する。
IBSは臨床試験でも約4割にプラセーボ効果がある疾患である! →この薬は効きます!というと効く、精神的要因がある。
ストレスの影響、腸脳相関、内蔵知覚過敏をやさしく説明する。つまり脳がストレスを感じると腹痛が生じる。
IBSの治療はガイドラインを利用するのが得策である。
下痢なのか、便秘なのか、腹痛なのかを考慮する。
日本人は白人と比較し食事も繊細なので、熟したバナナ以上でないと正常ではない。

基礎的処方:

 セレキノン
 プロバイオティクス・・ビオフェルミンなど
 ポリフル
下痢型には
 イリボー
便秘型には
 リンゼス2錠(0.25) 1日1回毎食前投与 ・・・腹痛を伴う便秘型には著効する。
 アミティーザカプセル(24μg)1日1カプセル ・・・初期に嘔気があるが1週間で消失する
腹痛には
 チアトンカプセル
 大建中湯
腹部膨満には
 桂枝加芍薬湯
 茯苓飲合半夏厚朴湯
第二段階として、
抗アレルギー薬
 エバステル
不安には 15分
 セディール
 メイラックス
これらの薬が効かないなら専門医へ紹介をする。

・IBSは、近年の研究結果から明らかに顕微鏡レベルでは病理学的異常を認める。
つまり、気のせいではないことが分かってきた。
腸管透過性の異常 Leaky Gut
 腸管のバリア機能異常、腸管上皮に慢性炎症細胞の浸潤、腸内細菌叢の異常などが判明。
IBSでは腸管上皮に多くの肥満細胞が浸潤しており、炎症性サイトカインが産生され、神経末端も刺激する・・・・ 肥満細胞はプロテアーゼやヒスタミン、セロトニンを分泌する。
セロトニンは腸管の運動を調整している。分泌過多は下痢に、過少なら便秘になる。
この分泌が腸内細菌(腸内環境)によりコントロールされている。
IBSの腸内細菌は明らかに健常者と異なる菌叢であることが判明した。
Leaky Gut(腸管透過性亢進) ・・・腸管上皮のバリアが想像異常にゆるゆるであることが判明した。
 高脂肪食を付加すると血清のエンドトキシンが増加し、普通食もどすと正常化した報告があり、高脂肪食は腸管の粘膜を障害する。
23分 Leaky Gutは種々の疾患が関連すると言われるようになってきた。
 炎症性腸疾患、食後の運動などもよくない。
Leaky Gutの判定・診断方法
 ラクツロースとマンニトールを経口投与→正常ならラクツロースは腸管吸収されないが、尿をしらべて陽性なら診断される。
人前で話をさせると、
 Stress → CRH →肥満細胞活性化 → 透過性亢進
 この機序が抗アレルギー薬が有効な理由である。
IBSはすでに気のせいではない!
 ストレス、腸内細菌叢の乱れ → 腸管バリアの低下 → 粘膜下に種々の物質が侵入する → 粘膜下で炎症がおきる。
30分 質疑応答
 便秘型のIBSにリンゼスで効果が不十分な場合(重症の方)は、刺激性下剤と併用は可能であろうが、月に1回の排便、というものであれば専門医へ。
※リンゼスは安全性が高く、副作用はほとんど考えなくてよいのがよい。
自然経過はどうなるか
 高齢者は寛解することも多いが、女性の下痢型はなかなか治りにくい。
生活指導、規則正しい生活と食して下痢になるものは食べないこと。

女性排尿障害のプライマリ・ケア

日本大学泌尿器科学系 高橋悟先生

下部尿路症状は3つにわけられる
 蓄尿症状・・・尿失禁、尿意切迫感、切迫性尿失禁、頻尿、夜間頻尿
 排尿症状・・・尿勢低下、腹圧排尿
 排尿後症状(排尿直後の症状)・・・残尿感、排尿後滴下(じわっとでてくる)
特に蓄尿症状は日常のADL低下させ重要である。
夜間2回以上排尿でおきるとかなりQOLが低下する。
・女性の下部尿路症状
 既往歴が重要である。子宮・骨盤内手術。 →膣からものがでてくるような感じがあるかどうか尋ねること。
 尿検査:無症候性血尿は悪性を疑う。
 症状はQOL質問表で評価するのが便利である。
  咳・くしゃみ・運動時などに尿が漏れる。・・女性におおい。
  膀胱が痛む ・・・間質性膀胱炎を疑う。
 腹部エコーによる残尿測定を実施することが推奨される。
  膀胱横断面の長径 膀胱矢状断面の短径と前後径 を測定する。
  残尿量(mL)=(長径×短径×前後径)÷ 2  → 50mL以上あるときは専門医へ紹介
・専門医へ紹介すべき病歴・症状・検査所見は、
  再発性尿路感染症
  骨盤部の手術や放射線療法
  膣外に突出する骨盤臓器脱
  膀胱痛・尿道痛 ・・・間質性膀胱炎の可能性あり
・尿路感染症の治療
 膿尿のみで無症状 ・・・無治療経過観察
 単純性膀胱炎ならば、第一選択はセフェム系5−7日間 またはホスミシン2日間
 高齢者の膀胱炎・・・第一選択セフェム系、 第二選択キノロン3日間、ホスミシン2日間
 再発性あるいは発熱を伴う尿路感染症は専門医に紹介すること。
・腹圧性尿失禁の治療
 推奨される薬物はないが…
 まずは減量・・・体重を5%減量するだけで、かなり症状が改善する可能性あり。
 骨盤底筋訓練が効果的.
 これらの治療が効果無い場合、最近は手術療法(20−30分程度)も選択肢があり有効である。
・過活動膀胱の治療
 推奨薬は抗コリン薬とβ3作動薬。
 膀胱訓練・・排尿を感じたらお尻をきゅっと締める。

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