2018年10月25日岡山市にて、第12回岡山吸入療法研究会 於ホテルグランヴィア岡山 が開催され、私は特別講演1を担当し発表いたしました。

2018年10月25日岡山市にて、第12回岡山吸入療法研究会 於ホテルグランヴィア岡山 が開催され、私は特別講演1を担当し発表いたしました。タイトルは -かりつけ医が考える喘息治療~吸入療法を中心に~ です。

かかりつけ医として喘息患者の治療がうまくいくように日常創意工夫していることがらを中心にまとめました。
要旨は以下のとおりです。

1.初診で診断した喘息に対して喘息薬をどのように選択するか
2.再診患者が症状経過が思わしくない場合に、どのような点に留意すべきか
3.再再診患者に症状が残存する場合に、患者背景を注意すべきである
4.服薬アドヒアランスは連携薬局と協力してこそ向上する

 

引き続き、特別講演2 として
京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科学
准教授 松本 久子 先生にご講演いただきました。

タイトルは、– 喘息の病態・生理:”重症喘息”を”非重症喘息”にするには?- です。
以下に聴講メモを記します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

難治性喘息は一般的に重症喘息とも呼ばれる。

当初重症喘息と診断症例は、1年毎に重症度が改善していくとされている。
13000例を超える疫学調査では、当初重症でも1年後には3割以下になる。
しかし、最終的に10年みても約1割は重症にとどまることがわかっている。
重症にとどまる因子としては、併存疾患、社会的・経済的要因、などがある。
本日のテーマは如何に重症喘息をいかに減らしていくかである。

喘息の診断には

気道炎症、特に好酸球性炎症は診断的価値が高い。
鑑別診断をきっちり行うことが重要である。
症例)60歳男性
非常に早いスピードでフローボリウムカーブ曲線が変化しCOPDのようになっていった症例。
フローボリウムカーブの傾きにのこぎり様の波があった。
⇢再発性多発軟骨炎の症例であった。

服薬アドヒアランスが良好か、吸入指導は正しいか

まず吸入指導を私達ができなくてはならない。
吸入時の手技は当然であるが、息を吐くときに鼻から吐くとアレルギー性鼻炎にも有効。
好酸球性副鼻腔炎の中には鼻呼出にするだけでかなり改善傾向となるものも経験する。

エアロゾル製剤にはエアロチャンバーが一般的に推奨である。

逆にエアロチャンバーを使ったために起こる不具合もある。
勘違いの症例1
勘違い症例2
定期受診でもときに吸入手技を確認することは必要である。

フルティフォームを吸入するときには

フルティフォームを吸入するときにはエアロチャンバーがなくても、
口の中を「ほーっと」息をゆっくり吐くような形(下顎を下げて舌もできるだけ下げて)にして、
口腔内をスペーサーに見立てて吸入すると、上手に失敗なく吸える。

デバイスの選択について

アドエアディスカスとアドエアエアゾールを比較した報告では、喘息コントロール、喘息発作、 治療成功率が
いずれもエアゾール製剤において有意に良好であった。したがって、きちんと吸入できる患者に限られるが、エアゾール製剤がよいと考えられる。

症例 50歳女性 ステロイド内服が必要な重症喘息

一秒量0.67Lと非常に低下しSPO2 95%止まりの肺機能であった。
この症例では、骨粗鬆症や糖尿病の合併症を併発していた。
受診時はディスカス製剤だった。結果的にはすえていなかった。高齢者とは言えないまでも、
ある程度以上の年齢では、こちらから吸えているか問いかけないといけない。

増悪因子・併存疾患を考慮する

併存症がある方がコントロール不良例が多い。

多数の疾患が含まれるが、カテゴリーで分類すると、
鼻疾患、肥満関連、感染、タバコ、心因性 の5つである。
肥満関連はGERDとOSAS、感染は気管支拡張症。
併存疾患の頻度;鼻副鼻腔炎は50%以上、心因性約50%。気管支拡張症25%−40%、ABPAは1−2%。
併存症を治癒させることはなかなか難しいが、肥満は5−10%の減量をすれば喘息コントロールが改善することをオーストラリアのグループが報告している。
OSASに関してはCPAPを1日4時間以上実施し、長期間継続することで喘息コントロールが改善する。
オマリズマブ30例 で、増悪がなくなる症例とどうしても増悪がなくならない症例がある。
肥満、低年齢発症、血清ペリオスチン高値、が難治化因子として挙げられる。
こうした併存症を管理してそれでもだめな場合は治療をさらに強化する。

重症喘息のなかで

IgE、末梢血好酸球の両者とも高値な症例は17%、IgEのみ上昇33%、好酸球のみ上昇10%であった。
好酸球はそのものが気道上皮を障害するが、粘液腺の形成に関わっている。

活性化好酸球の作用は、 もともと寄生虫を駆除するためのものである。
好酸球性ムチンが膠状になる。好酸球がEtosisを起こして、DNAtrapを起こしてムチンと混ざる。
その結果、好酸球はそれ自体が上皮を障害するとともに、粘液栓の形成に関与する。
気管支肺アスペルギルス症ABPAでは抗IL−5 抗体投与により粘液栓が非常にきれいに消失する(金廣、小田ら)。

好酸球のもう一つの悪影響にリモデリングがある

喀痰好酸球のない患者ではβ刺激薬を吸入後に換気が改善するが、好酸球が多数残存する患者では換気があまり改善しないことが示されている。
好酸球そのものよりも、その背景にあるものがリモデリングに特に重要と考えており、その一つがペリオスチンである。IL-4、IL-13、TGFβの刺激で気道上皮細胞、線維芽細胞より産生されるが、気道に沈着して隣にあるコラーゲンと強い架橋を形成して非常に硬い繊維物質をつくりリモデリングを形成する。同時に好酸球に結合して好酸球を気道に遊走させる。
ペリオスチンは気腔内にも分泌するが、多くは血中に入り気道情報の有用なマーカーとなる。

好中球性炎症の機序はまだまだ解明されていない。

好中球性炎症の薬物治療は、どうしたらよいか。
主に併存するTH2炎症を抑えることが現時点での目標である。
その他感染症治療、マクロライド療法が有効とされる。
アジスロマイシンを週3回500mgを48週間投与すると、有意に喘息増悪を抑止した(NEJM)。
今後抗菌作用のないマクロライド作用の薬物が登場する予定である。

併存症を忘れてはいけない。

喘息重症例の18,5%に慢性気管支炎、肺気腫、気管支拡張症、気管気管支軟化症などの併存症があるとされる。
症例)75歳女性 肺結核の既往
65歳から重症喘息と診断され75歳から抗IL-5抗体を投与され著効した。残念ながら年に1−2回肺炎を起こす。胸部CTでは中枢病変はなかったが、呼気時に気管が虚脱することが判明し、気管気管支軟化症と診断した。夜間にCPAPを装着すると気道が確保されて肺炎を起こさなくなった。

喘息コントロールが維持されたらステップダウンを考慮する

中止は望ましくないが、最低用量で維持する。

咳について

演者らが長浜市民に協力依頼してアンケート調査した。
3週間以上咳がつづいたことがあるか、という質問を実施したところ、
喘息がある患者で3割強、喘息のない方で1割程度があると答えた。
咳が残存・咳がひどいのは喘息症状コントロール不良を意味するが、好酸球性気道炎症との関連は乏しい。
喘息の咳は必ずしも好酸球だけでは説明できない。
好酸球では説明できない咳について、咳感受性亢進で説明できる。TRPV1というカプサイシンの受容体が発現している。
ATPは種々の知覚過敏を起こすが、咳についても関与があるとされ、P2X3受容体(ATPの受容体)に対する治療が研究されている。 実際に健常者に比較して慢性咳嗽の患者では、低濃度のATPで咳嗽が誘発される。
少し前にガバペンチンが難治性咳嗽に有効との報告があるが、P2X3阻害薬として投与された研究(N=24)では、咳が軽減したことが示されている。

まとめ

喘息診断には鑑別診断が重要である。
喘息治療は吸入指導が大事である。
併存症は治療すべきである。
難治性咳嗽は重症喘息につきものであるが、喘息以外の咳も診断治療をすべきである。

Q 好中球性難治性喘息ではICSを増やしても改善せず、減量しているがどうすべきか
A ICSは減量すると喘鳴は増悪するので中止はのぞましくないが、同様の症例を経験する。
minimumで治療を継続している。
Q 抗IgE抗体を費用の面から中止したら再発したが、どうすべきか。
A 欧米では5年継続後中止した場合、5割は中止後1年間再発しない。ただし、好酸球性炎症が
強い患者様は中止はやはり困難で、できるだけ継続がのぞましい。
Q P2X3受容体に対する新規薬剤について、当院で臨床試験している薬剤は味覚異常がくるので困っている。
どの薬も味覚異常がくるのか
A 現在臨床試験中の薬剤は2種類あるが、1種類は味覚異常の副作用はない。
Q ICS経鼻呼出をする場合、pMDIがよいのか
A pMDIが望ましいが、DPIでもでないことはない。
Q ICS経鼻呼出を行うことで、生物製剤投与を踏みとどまるような好酸球性副鼻腔炎が実際にご経験があるのか?
A 経鼻呼出はそこまでのパワーはないが、アレ鼻でこまっている方は大変喜ばれるし、軽症の好酸球性副鼻腔炎なら効果はあるであろう。

左から 
講演2座長:岡山大学大学院保健学研究科検査技術科学分野生体情報科学領域教授 宮原信明 先生
講演2演者:京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科学 准教授 松本久子 先生

講演1座長:国立病院機構 南岡山医療センター 院長 谷本安 先生

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