RADIO NIKKEI 医学講座 「高齢者の糖尿病の治療」を聴講し最新の知見を学びました

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

RADIO NIKKEI 医学講座
2023年4月4日放送テーマ:「高齢者の糖尿病の治療

東京都健康長寿医療センター副院長
荒木 厚先生

加齢とともに糖尿病や境界型耐糖能異常の頻度は増加する。

令和元年の国民健康栄養調査では、65歳から74歳の22.6%、75歳以上の21.5%は糖尿病が強く疑われる。
老化に伴うインスリン抵抗性やインスリン分泌の増加、身体活動量の低下、骨格筋量の減少などが関係している。
高齢者糖尿病は均一ではなく個人差が大きいという特徴がある。
その要因は老年症候群、合併症や併存症、糖尿病の病態などが考えられる。

高齢者糖尿病の定義

 65歳以上の糖尿病患者であるが、75歳未満の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者糖尿病では身体的、精神的、社会的、に異なる。認知機能障害、フレイル、心不全、重症低血糖が多くみられ、社会サポートを要する人が増えてくる。
故に70歳以上は特に注意して管理すべきである。

老年症候群は、高齢者に多い医療介護を要する兆候や症状と定義される。

高齢者糖尿病では、認知機能障害、フレイル、サルコペニア、転倒、ADL低下、うつ症状、低栄養、ポリファーマシーなどの老年症候群が約2倍発症しやすい。
老年症候群は加齢とともに増加し、高血糖できたしやすい。低血糖は認知機能障害、フレイル、転倒など一部の老年症候群を起こしやすくする。
糖尿病の合併症の中で、糖尿病性腎症、神経障害、脳卒中が老年症候群を合併しやすくなる。
(補足)サルコペニアとは、加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」を指す。または、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど、「身体機能の低下が起こること」を指す。
:サルコペニアの診断基準(EWGSOP*)
サルコペニアは、下記の項目1)を裏付ける証拠に加え、2)あるいは 3)を満たす場合に診断される。 1) 低筋肉量 2) 低筋力 3) 低身体機能
フレイルとは

  1. 体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
  2. 疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる
  3. 歩行速度の低下
  4. 握力の低下
  5. 身体活動量の低下

認知機能障害、フレイル、サルコペニア

糖尿病患者は糖尿病のない患者と比較して、認知機能全般、記憶力、遂行機能、情報処理能力、注意力が約1.5倍障害されやすい。多くのメタ解析により、アルツハイマー型痴呆は約1.5倍、血管性認知症は約2倍の発症率である。
フレイルは1.4倍なりやすい。糖尿病にフレイルを合併すると要介護や死亡のリスクが高くなる。
糖尿病はADL低下(※)を起こしやすく、手段的ADLが1.65倍、基本的ADL低下は1.8倍低下しやすい。サルコペニア1.55倍なりやすい。
※(補足)日常生活活動度(Activities of daily living;ADL)とは、人が生活を送るために行う活動の能力のことである。手段的ADLとは高次のADLで買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理、交通機関を使っての外出などのより複雑で多くの労作が求められる活動を意味する。基本的ADLとは移動、階段昇降、入浴、トイレの使用、食事、着衣、排泄などの基本的な日常生活活動度を示す。糖尿病患者は手段的ADLが1.65倍、基本的ADLが1.82倍低下しやすい。
サルコペニア+肥満 サルコペニア肥満になりやすい。インスリン抵抗性と炎症が発症の要因と考えられている。
サルコペニア肥満は、単なる肥満と比較して、手段的ADLの低下、フレイル、転倒、心血管疾患の発症、死亡のリスクが高いことが報告されている。
認知機能障害とフレイルは共通の危険因子をもっており、高血糖、低血糖、血管性危険因子、腹部肥満、脳の白質病変、身体活動量の低下、低栄養、社会ネットワークの低下などである。
インスリン抵抗性、炎症、酸化ストレス、動脈硬化などは共通の病因である。
適切な血糖コントロール、血管性危険因子のコントロール、栄養サポート、社会サポート、レジスタンス運動を含む運動、などが大切である。

高齢者糖尿病と合併症

細小血管症、動脈硬化性疾患の頻度が増えてくる。長期の罹病期間が要因の一つである。
併存症で重要となるのがマルチモビリティである。2つ以上の慢性の健康障害が共存することをいう。
慢性の健康障害とは1年以上継続的医療を必要とし、日常生活を制限する状態をいう。疾患だけでなく老年症候群も含む。
高齢糖尿病患者の併存症の合併数は、中央値は5個である。
死亡、低血糖、転倒骨折、心血管疾患のリスクが増加させることが報告されている。

食事療法

フレイル、サルコペニアの対策として適切なエネルギー摂取量、タンパク質、ビタミンの摂取である。
75歳以上ではタンパク質摂取が少ないほど死亡リスクが増加する。タンパク質1.5g/kg以上でリスクが低下する。
重度の腎機能障害がない高齢糖尿病患者は十分なタンパク質を摂取するべきである。

薬物療法

低血糖、骨折などの有害事象を減らすことが重要である。
80歳以上で重症低血糖が生じやすい。メタ解析では重症低血糖では細小血管症、大血管症、認知症、転倒骨折、心血管死亡のリスクとなる。低血糖はたとえ軽症でもうつ症状やQOL低下を起こしやすい。
高齢者で重症低血糖が起こりやすい原因として、腎機能障害によるSU剤などの薬剤の蓄積、高齢者における低血糖症状の消失、めまい、など非典型的低血糖症状を起こすこと、食事摂取が低下したときに低血糖の対処ができないこと、などが挙げられる。
介護者を含めた低血糖やシックデイの対処方法に対する教育が重要である。
eGFRで定期的に評価し、腎機能に応じて、糖尿病薬の適応や用量調節をすべきである。SU薬やメトホルミンが対象薬である。
認知機能障害がある場合、治療の単純化が必要である。薬剤の種類を減らす、服薬回数を減らす、服薬のタイミングを統一、一包化、配合剤などの使用も重要である。
2型糖尿病において複数回のインスリン注射を経口薬の併用により、1日一回の持効型インスリンに、あるいは週一回のGLP1受容体作動薬へ変更すること、インスリンやインスリンとGLP1受容体作動薬の配合剤へ変更、などがインスリン治療の単純化を行う。

高齢者糖尿病の血糖コントロール目標

認知機能とADLの評価により3つのカテゴリーに分類している。
SU薬やインスリンを使用しているカテゴリー1とカテゴリー2の目標HbA1cは7.0%以上8.0%未満である。
中等度以上の認知症であるカテゴリー3では、7.5%以上8.5%未満である。
SU薬やインスリンを使用しないカテゴリー1とカテゴリー2の目標HbA1cは7.0%未満である。下限値はない。
JDIT研究によると死亡リスクはカテゴリー2では1.8倍、カテゴリー3では3.1倍と増加し、カテゴリーの段階に応じて柔軟な対応が望まれる。
DASC-8(認知・生活機能質問票)を用いると簡易にカテゴリー分類を実施できる。
記憶、時間見当識、手段的ADL、基本的ADLを4段階で評価しその合計点でカテゴリー分類できる。

カテゴリー分類は糖尿病の治療分類にも活かすことができる。

フレイルとサルコペニアも評価し、多職種による心理、栄養、薬剤、社会状況、併存症などの評価を加えた「高齢者総合機能評価」を行う。その結果に基づいてカテゴリー2の段階からフレイル対策の運動と食事療法を行い、アドヒアランス低下の対策として治療の単純化を実施し、低血糖などの副作用の対策を行うことが重要である。
社会参加を促し、必要に応じてデイケアや訪問看護などの社会サービスを導入することが必要である。
高齢者総合機能評価による治療こそ、高齢者糖尿病の個別化医療である。
地域連携が重要である。医療職のみならず介護職、地域医師会、行政などと連携し、地域の資源を活用しながら高齢者糖尿病の対策を講じていくことが今後ますます必要となる。

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