第120回日本内科学会学術講演会聴講録 その1

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

●教育講演7 下部消化管機能性疾患 最近の進歩

横浜市立大学 肝胆膵消化器病学講座
中島 淳先生

かつて便秘といえば女性の疾患であったが、現在では70歳以上の高齢者に多く性差はない。ただし、70歳未満では女性が多い。わが国の便秘の有訴者率は2~5%程度である。
慢性便秘症はQOLは低下させるが生命予後は良好と教科書に書いてあったが、2010年に発表されて報告では、15年後の生存率が便秘ありで4分の3であった。便秘は予後不良の疾患である。

・便秘の人は循環器疾患・脳血管疾患で死亡するリスクが高い
大崎コホート研究に参加した45,112 名(40~79 歳)に生活習慣に関するアンケートを実施し、排便頻度に関する質問への回答を検討した報告では、排便頻度が「4 日に1 回以下」の人の死亡リスクは「1 日 1 回以上」の人と比較して循環器疾患死亡約 1.4 倍、脳血管疾患死亡約1.9倍であった。
・便秘と循環器疾患との関係
血圧コントロールが良好でも、便秘で排便時にいきむと一時的に収縮期血圧が280を超えるという報告もある。その結果心血管イベントが発生しやすくと考えられている。
・慢性便秘はCKDのリスクである。
米国退役軍人350万人を対象に観察研究を実施し、便秘のある方は有意にCKDの発症率が高かった。
(機序)腸管内のアミノ酸を腸内細菌により代謝され、肝臓経由して腎毒性のあるものに変化させる。
トリプトファン → インドール、チロシン → p-クレゾール、オルニチン→トリメチルアミン
・便秘と診断された方は便秘でない方に比較し静脈血栓症の累積発症リスクが高い。
・便秘には回数減少以外に毎日排便あっても便秘のこともある。

便秘の診断に最近はエコーを用いる。
ポケットエコーで残尿チェックする際に、正常の直腸はドーナツ状に観察される。
便があれば半月状に描出される。(胆石と同じ原理)

慢性便秘症診療ガイドライン2017のポイント

・CQ5-04 慢性便秘症に対して浸透圧性下剤は有用であり使用することを推奨 する. ただし, マグネシウムを含む塩類下剤使用時は,定期的なマ グネシウム測定を推奨する。
ポリエチレングリコール (PEG)製剤が、日本では腸管洗浄薬としての保険適応しかないが、欧米では、慢性便秘の治療のために利用可能である。システマティックレビュー、Cochraneレビューでは、PEG 製剤はラクツロースよりも有効性が高いと判定されている。ACG 便秘診療ガイドラインでは推奨度 Aとなっており、米国消化器病学会の便秘診療ガイドラインでも、有効性が記載されている。また、6カ月間の 対照研究、24ヵ月の症例集積研究で長期間の有効性も報告されている。
→近年わが国でもポリエチレングリコール製剤やラクツロース製剤が 保険診療で使えるようになった。
・マグネシウム含有の塩類下剤服用時の高 Mg 血症のリスクについて
リスク因子が増えると高 Mg 血症も増える。
リスク因子 :年齢:68 歳以上 、eGFR55.4 以下 ・BUN:22.4 以上、酸化 Mg 製剤の用量:1650mg/日 と多い、酸化 Mg 製剤服用期間:36 日以上
Mgは生体には欠かせないミネラルではあるが、過剰摂取等により高 Mg 血症が起こることがある。高 Mg 血症では筋緊張の低下や呼吸抑制が起き、重篤な場合は呼吸停止・心停止に至ることがある。
最近の調査では患者の23%がMgの基準値を超えていたという。
・酸化マグネシウム製剤が排便効果を得るためには胃酸と膵液が必要である。
カマグ単独投与群の排便コントロール良好は72.2%であるが、PPI併用すると36.4%と半減する。胃全摘術後群は0%である。
・CQ5-5 慢性便秘症に刺激性下剤は有効か
慢性便秘症に対して、刺激性下剤は有効であり、頓用または短期間の投与を提案する。
刺激性下剤はたまに使うとよく効くが、毎日使うとタキフィラキシー(薬剤耐性)がおこり効かなくなる。
毎日大量服用すると結腸無力症を発症する。
・刺激性下剤の適正使用
大腸刺激性下剤は、あくまで頓用であるべき。
大腸刺激性下剤は使用で、耐性、習慣性、依存性が生じ問題となる場合がある。
大腸刺激性下剤では快便は得られにくい。また緩下剤と異なり便意促迫がある。
大腸刺激性下剤は、時としてCathartic syndromeをおこすことがある。

慢性便秘症の新薬

・上皮機能変容薬 ルビプロストン
小腸の腸管内腔側に存在するCIC-2クロライドチャネルを活性化し腸管内に浸透圧性の水分分泌を促進する。
便を軟らかくして腸管内の便輸送を高めて排便を促進する。
血清中のNa+、K+、CIなどの電解質には影響を与えない。
主な副作用は嘔気・嘔吐、下痢
・リナクロチド
腸管内に水を分泌すると同時に、痛み刺激の発火も抑制する。
慢性便秘症に加えて便秘型過敏性腸症候群にも使える。

胆汁酸の役割

・胆汁酸は95%下部小腸で再吸収されるが、5%程度大腸に到達し様々な作用がある。
分泌されるが、蠕動亢進/抑制、
脂質の消化・吸収促進、コレステロールの調整 、脂溶性ビタミンの吸収、界面活性作用
大腸運動促進、 大腸水分分泌促進
便意促進(直腸伸展刺激への感度を高める)
便秘患者は胆汁酸の大腸内の濃度が少ないことが知られている。
高齢者はだんだん胆汁酸が減ってくる。
下痢の患者は胆汁酸がおおい。
食事から摂取した食物繊維に胆汁酸が吸着し、大腸にはいると腸内細菌に分解されて大腸内で放出されて大腸運動を促進し直腸も刺激して排便を促す。
胆汁酸が少ないために便秘に対して胆汁酸を補うために、胆汁酸の小腸での吸収を阻害する薬剤が上市された。
・エロビキシバット(Elobixiibat)
胆汁酸トランスポーター(IBAT)という物質を阻害し、大腸管腔内の水分分泌や消化管運動を促進させることで便秘を改善する薬
– 便秘は排便が順調に行われない状態で、特に慢性便秘では長期間その状態が続いている
– 肝臓で合成される胆汁酸は大腸管腔内への水分分泌や消化管運動を促進させる
– 本剤はIBATを阻害することで胆汁酸の大腸への移行を促す作用をあらわす
週2回位しか自発排便のなかった日本人の便秘患者にエロビキシバットを投与すると、週12.7回に増加し、便形状も正常化した。
一方で慢性下痢症の原因のおよそ3割は胆汁酸過多だと言われている。
・胆汁酸下痢症
胆汁酸下痢症とは?
慢性下痢症の30%は胆汁酸下痢症であるとの報告があり、3つの病型に分類 されている。
タイプ1:回盲部切除術やクローン病などの回盲部病変による続発性胆汁酸再吸収障害
タイプ2:原発性胆汁酸下痢症、胆汁酸の合成亢進による下痢
タイプ3:他の消化器疾患による胆汁酸下痢症、胆摘後やセリアック病、慢性膵炎、microscopic colitisなど
・胆汁酸性下痢の特徵
その日の最初の食事の後、1~2 時間後に下痢が起こる。
食事をしなければ下痢は起きない。
腹部に強い痛みはない。
便を出してしまった後は症状が回復する。
・オピオイド誘発性便秘(OIC)
オピオイド鎮痛薬の3大副作用は、便秘、悪心嘔吐、眠気、である。
悪心嘔吐や眠気は数日以内でほぼ消失するが、便秘だけは治らない。
鎮痛効果がでるよりも遥かに少ない量で便秘は起こる。
オピオイドは脳のμ(ミュー)レセプターを介して鎮痛効果を発揮するが、大腸にもμレセプターがあり便秘を引き起こす。脳に対する作用は残し、大腸に対する作用のみをブロックするナルデメジントシル酸塩(スインプロイク®)が有効である。

治療について

どのような順序で薬剤を使っていけばよいか。
演者の私見であるが、
1st line カマグ2.0g /dayまで
2nd line ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバット、マクロゴール、ラクツロース
OICの場合はナルデメジンを検討する。
3rd line  刺激性下剤頓用
※ 患者の排便状態や症状に応じて用量を調節しながらコントロール
以下の場合は新薬を検討
高齢者(何歳以上かはエビデンスない)
e-GFR <60 (DM 合例等)
PPIの使用など併用注意薬がある場合

●教育講演14 2型糖尿病の治療の最前線

神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門
小川 渉先生

今回始めて糖尿病治療のアルゴリズムが日本糖尿病学会から発表されたが、その理由は
欧米と日本の病状の違いがあるからである。
 欧米人の糖尿病は肥満が主体であるが、日本では肥満も非肥満もある。
 欧米は未だ動脈硬化性心血管疾患による死亡がおおく、その予防に重点が置かれるが、日本は20年前からがんが死因を上回っている。
 処方実態も欧米と大きくことなる。

2型糖尿病の薬物治療のアルゴリズム

・まずインスリンの絶対的適応か相対的適応かを決定する。
HbA1c値の目標値を決定する。
Step1 病態に応じた薬剤選択
Step2 安全性への配慮
Step3 additional benefit を考慮すべき併存疾患
Step4 考慮すべき患者背景
・Step1 病態に応じた薬剤選択
糖尿病を肥満と非肥満に分ける。BMI25kg/m2以上を肥満とする。
非肥満の推奨薬剤(推奨順):DPP-4 阻害薬、ビグアナイド薬,α-グルコシダーゼ阻害薬, グリニド薬, SU 薬,SGLT2 阻害薬,GLP-1 受容体作動薬+, イメグリミン
※α-グルコシダーゼ阻害薬, グリニド薬は食後高血糖改善
※インスリン分泌不全、抵抗性は、糖尿病治療ガイド にある各指標を参考に評価し得る
肥満の推奨薬剤(推奨順):ビグアナイド薬,SGLT2 阻害薬,GLP-1 受容体作動薬,DPP-4 阻害薬,チアゾリジン薬,α-グルコシダーゼ阻害薬*, イメグリミン
・Step2 安全性への配慮
別表の考慮すべき項目で赤に該当するものは避ける。
例 1) 低血糖リスクの高い高齢者にはSU 薬,グリニド薬を避ける
例 2) 腎機能障害合併者にはビグアナイド薬,SU 薬,チアゾリジン薬,グリニド薬を避ける
(高度障害ではSU薬,ビグアナイド薬,チアゾリジン薬は禁忌)
例 3) 心不全合併者にはビグアナイド薬、チアゾリジン薬を避ける(禁忌)
・Step3 additional benefit を考慮すべき併存疾患
慢性腎臓病に使用できるもの:SGLT2 阻害薬,GLP-1 受容体作動薬
心不全に使用できるもの:SGLT2阻害薬
心血管疾患には:SGLT2 阻害薬,GLP-1 受容体作動薬
・Step4 考慮すべき患者背景
服薬遵守率とコストについて記載あり。
残念ながら,糖尿病治療薬の服薬遵守率は 新規処方で 68.6‌%,全処方で 78.1‌%にとどまると報告 されている。2 型糖尿病患者を対象とした 8 つの観察研究のメタ解析(n=318,125)によると,服薬遵守率が高い群(80‌%以上)は低い群(80‌%未満)と比較 し,総死亡および入院の相対リスク(95‌%信頼区間) は 0.72(0.62-0.82)および 0.90(0.87-0.94)であり、心血管疾患の発症リスクを高めるとの報告もある。海外からの報告において、2 型糖尿病の服薬遵守率と HbA1c の変化には有意な関連があり、遵守率 10‌%の増加で HbA1cはおおよそ0.15‌%低下する。

2型糖尿病の外科療法

・2021年6月に日本肥満治療学会、日本糖尿病学会、日本肥満学会が合同で「日本人の肥満 2 型糖尿病患者に対する減量・代謝改善手術に関するコンセンサスステートメント」を発表し、肥満2型糖尿病に対して、減量・代謝改善手術は治療オプションの一つと位置づけられた。
2021年で900件の手術が施行されている。認定施設は27施設であるが、実際はもっと多くの医療機関で実施されている。
保険適応は、
BMI≧35, 糖尿病,高血圧,脂質異常症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上を合併、
または、
BMI32.0-34.9で重症の糖尿病,高血圧,脂質異常症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群を、2つ以上合併
(2022 年 4 月の保険改訂以後の保険適応)
※「重症」の判定
①≧8.0%の糖尿病。
②収縮期血圧≧160mmHgの高血圧
③LDL-C≧140mg/dLまたはnon-HDL-C≧170mg/dLの脂質異常
④AHI≧30の閉塞性睡眠時無呼吸症候群
どの術式でも、5年後の体重は25-30%の減量を維持できており、糖尿病の寛解を薬物治療なしでHbA1c6.5%以下とすると、その寛解率はスリーブ状胃切除術で85%、胃バイパス術92%、スリーブ状胃切除術+十二指腸空腸バイパス術で71%と良好な成績である。
術後の寛解予測因子 ABCDスコアというものがある。
Age、BMI、CPR(血中Cペプチド)、Duration(罹病期間)の各因子をスコア化してその和を算出する。
5点以上で75%の糖尿病寛解率、6点以上(10点満点)の症例では100%である。

薬物療法でも肥満を伴う2 型糖尿病の寛解を目指す日は来るのか?

・日本人を主な対象としたセマグルチドド2.4mgの治験では、(承認済み、薬価収載待ち)
68 週での平均体重減少率 13.2%、2.4mg 群の41%が15%以上の体重減少 、2.4mg 群の20%が20%以上の体重減少を認めた。→ 一定数は寛解が得られる可能性が期待される。

最も新しい治療薬 イメグリミン(ツイミーグ®錠500mg)

 メトホルミンの展開化合物の中から、血糖降下作用は保持されるが乳酸を上昇させない化合物を探索した。
その結果(膵β細胞への作用という)メトホルミンと全く異なるメカニズムを持つ薬剤が発見された。
イメグリミンは血中グルコースが上昇するとインスリン分泌を促進する。
臨床的な効果はDPP阻害薬に類似しているが、その治療メカニズムは全く違う。
メトホルミンは消化管からの糖吸収抑制、GLP1分泌促進、腸管GDF15分泌促進、腸管-中枢を介した糖産生抑制?などの効果が知られている。
同様にイメグリミンはDPP4阻害薬と協調的にGLP1分泌を増強する。
補足)GLP1とは:食事をして、消化管の中に食べ物が入ってくると、小腸からGLP-1が分泌され、その一部は、血液の中を流れてすい臓に運ばれます。すい臓にたどりついたGLP-1はここで、「インスリンを出して!」と呼びかけます。この呼びかけに応じてすい臓からインスリンが分泌されると、血糖値が下がります。この仕組みは上手くできていて、食事をしていないとき、つまり血糖値が高くないときにはGLP-1は分泌されず、インスリンも出てきません。
・イメグリミンについてのまとめ
イメグリミンはメトホルミンと類似した構造を持つ。
イメグリミンは「環状メトホルミン」?
・イメグリミンはヒトでグルコース依存性インスリン分泌を強める作用が確認されている
臨床的的にはDPP4 阻害薬に類似した位置づけ?
・イメグリミンは培養肝細胞においてメトホルミンと極めて類似した効果を示す。
糖産生抑制、ミトコンドリア機能抑制、AMPK 活性化、遺伝子発現誘導
・糖尿病マウスへの投与によりインスリン感受性やミトコンドリア機能改善を認める。
個体レベルでの「膵外作用」が血糖低下の結果か、原因かは不明
・ヒトに対する「膵外作用」の報告は (まだ) ない。

●教育講演 17 アルツハイマー型認知症の診断と治療

金沢大学 脳神経内科学部門
小野 賢二郎先生

アルツハイマー病の疫学と診断

  1. 年間発症率:0.6% (65~69 歳)、1.0% (70~74 歳)、2.0% (75~79 歳)、
    3.3% (80~84 歳)8.4% (85 歳〜)
  2. 発症の危険因子:年齢・家族歴・ApoEe4などの遺伝子型・高血圧・糖尿病・喫煙・高脂血症など
  3. 症状:徐々に進行する認知障害(記憶障害、見当識障害※、学習の障害、注意の障害、問題解決能力の障害など)。
    重度になると摂食や着替え、意思疎通な どもできなくなり最終的には寝たきりになる。
    暴言・暴力・徘徊・不潔行為などの問題行動(いわゆる周辺症状)が見られ ることもあり、介護上大きな困難を伴う。
    新しい記憶を保存する海馬が萎縮していく病気である。画像では海馬が萎縮し側脳室下角が開いていく。
    ※補足:見当識障害とは:時間や場所などの感覚がうすれ社会生活や日常生活に支障をきたす障害
    参照: https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/8994_206382_misc.pdf

画像でわかる萎縮の前にまず機能低下が生じる。脳血流SPECT検査では頭頂側頭葉の血流低下、あるいは後部帯状回の血流低下が認められる。
頭部MRIと脳血流SPECTを用いたAD診断の正診率はMCIから軽度ADで80%程度、中等度ADでも90%程度である。
画像診断だけでは診断できない事例がある。その理由は以下の鑑別疾患があるからである。
嗜銀顆粒性認知症Argyrophilic grain disease; AGD (ɑ̀ːrdʒəròʊfɪ́lɪk) ;
 過剰リン酸化されたタウ蛋白の4リピートアイソフォ ームが主に神経突起内に蓄積。老人斑(アミロイドβ;Aβ) は認めない。
神経原性線維変異型老年期認知症Senile Dementia of the Neurofibrillary Tangle type (SD-NFT)
 SD-NFTは①海馬領域を中心とする多量 の神経原線維変化(NFT) の存在と②脳全体でのAβ沈着(老人斑)の欠除によって特徴づけられ、非常に高齢(多くは80 歳以上)で発症し記憶障害を主体とし て緩徐な進行を示す認知症性疾患(タウオパチー) である。高齢者認知症の 4.8%。(Yamadaetal.1996)。
SD-NFTはApoE4アリルとは関連しない (Yamadaetal.1996; Ikeda etal.1997 他)。タウ遺伝子に変異を認めない (Yamadaet al.2001)。
海馬硬化症: Hippocampal sclerosis (HS)Limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy (LATE)
 TDP-43が海馬に蓄積して海馬が萎縮していく病態。TDP-43はALSの病態蛋白として最近同定された蛋白である。

ADの画像と病理 (他との鑑別のため)

マクロ病理:側脳室が開いて海馬が萎縮する。
ミクロ病理:アミロイドβ蛋白(Aβ) が異常な立体構造をとって細胞外に蓄積することによって起こると考えられている。
①老人斑(主成分:β-Amyloid (AB))・・・細胞外にAβが染み状に溜まっていくもの
②神経原線維変化(主成分:異常リン酸化タウ蛋白)・・・タウがリン酸化して細胞内に溜まっていくもの
③神経細胞の脱落・・・神経細胞死
この病理をPETで可視化するために、Pittsburgh Compound BというアミロイドPETトレーサーが開発され、有用である(保険適用外)。
アミロイド蓄積部分がPETで光る。

バイオマーカーによる診断について

腰椎穿刺にて脳脊髄液内CSFのバイオマーカーを測定
老人斑(Aβ沈着)は、CSF内のAβ1-42が低下する。
神経原線維変化(tau蓄積)は、p-tau(リン酸化タウ)が増加する。
神経変性は、t-tau(総タウ)が増加するが、ADに特異的ではない。
これらのバイオマーカは経時的に異常となっていくので、その組み合わせでADの診断が可能となりうる。
すなわち
A :Aβ凝集・蓄積 CSFのAβ42↓ ,or Aβ42/Aβ40 ratio↓ アミロイドPET(+)
T:tau凝集(神経原線維変化)、CSFのp-tau↑、タウPET(+)
N:神経変性・細胞死、MRIで萎縮、FDG PET↓、CSFのt-tau↑
とバイオマーカーを定義すると、
典型的なAlzheimer型認知症は、A+、T+、N+である。
認知機能正常の高齢者で、アミロイドPET陽性、タウPET陰性、頭部MRIで萎縮なしならA+、T-、N-
→ preclinical AD
進行性健忘型認知症の高齢者で、アミロイドPET陰性、タウPET陰性、頭部MRIで海馬萎縮ありならば、
A-、T-、N+ → 非アルツハイマー型認知症 (後日剖検にてTDP-43関連海馬硬化症;LATEと診断された)

ADの治療について

神経伝達物質からのアプローチ、病理・生化学(蓄積蛋白)からのアプローチ、薬物療法は神経伝達物質に対するアプローチ、の3つが主体である。
a.抗認知症薬:
コリンエステラーゼ阻害薬:ドネペジル(アリセプト®)、ガランタミン(レミニール®)、リバスチグミン(イクセロン®)、
NMDA受容体拮抗薬:メマンチン(メマリー®)
b. 認知症の行動心理症状(BPSD)(幻覚・妄想、うつ状態など) に対する薬:
非定型抗精神病薬(グレード2C) S 抗てんかん薬(2C)抗うつ薬(2C)漢方 SS 薬(抑肝散)※などを、相談の上、適切に使用。
※BPSDへの効果は承認されたものではない
ケア、リハビリテーション (~グレード2C)
・AD治療薬の使い分け
ドネペジル:アパシー(無関心、興味・意欲の低下)、抑うつ、不安
ガランタミン:焦燥、不安、脱抑制、異常運動行動、激越(感情が激しく高ぶる)/攻撃性
メマンチン:激越/攻撃性/不安定性、易刺激性、幻覚/妄想
ドネペジル 軽度認知症から高度まで
ガランタミンは軽度と中等度まで
メマンチンは中等度と高度まで
リバスチグミン:貼付剤である。 アパシー、不安、脱抑制、食欲/食行動の変化、夜間異常行動
 投与方法は、ワン・ステップ漸増法(9mg→18mgへ):維持用量まで到達できる割合が増える可能性、医療連携のスピードがあがる可能性、効果が早くわかるケースが出るため脱落例(メリット> リスク) が少なくな る可能性 などのメリットがある。
一方で、消化器症状がつよいとか高齢者、体重の少ない方などは、スリー・ステップ漸増法がよいこともある。(4.5mg→9.0→13.5→18)

アルツハイマー病における免疫療法

 アミロイド仮説に基づき、Aβに対する抗体による免疫システムにより脳内からAβを除去する方法。
アル ツハイマー病の疾患修飾療法(Disease Modifying therapy;DMT)として有力視されている。
能動免疫(ワクチン療法):Aβを筋肉注射等により外部から投与すると、個体内 でAβが異物とみなされ(免疫反応)、脳内のAβを 減少させる。
受動免疫(抗体療法):抗 Aβ抗体を直接投与し(静脈注射等)脳内のAβ に結合することにより、脳内のAβを減少させる。
・抗Aβ抗体による脳内からのAβ除去の作用機序
1.Fc受容体を介したミクログリアによる貪食・・・血管から脳内に抗体が移行する。→Aβの凝集体に抗体が結合する。→抗体のFC受容体をミクログリアが認識して結合し貪食する。
2. Aβ線維の不安定化促進およびAβオリゴマーに対する凝集抑制・・・Aβ凝集体に抗体が結合し、さらなる凝集を防ぐ、あるいは凝集を不安定化させる。
3. 血液中Aβに結合し、脳からの可溶性Aβの排出を促進・・・血液中と脳内はAβの平衡バランスが成り立っているであろう。そこで血液内のフリーAβを抗体で除去することにより、平衡バランスがくずれて脳内から血液へ可溶性Aβが排出される。
・抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブの効果
早期AD患者に月一回アデュカヌマブ投与し1年後に評価した。
アミロイドPETを用いた検討では、アデュカヌマブ投与後に脳内からAβを劇的に減少させた。
さらに認知症の重症度を評価するCGR-SBスケールを有意に低下(改善)させ、MMSEの悪化を抑制した。
アデュカヌマブはAβの単量体には反応せず、オリゴマーや線維に反応するのがポイントである。
米国ではAdhelm®として発売された。
副作用として、脳血管関連異常が報告された。アミロイド関連画像異常(ARIA)として浮腫が26%に認められ、関連して頭痛46.6%、錯乱14.6%、めまい10.7%、悪心7.8%であった。その結果日本では発売が延期されている。
・抗プロトフィブリル抗体:レカネマブ
プロトフィブリルはAβ凝集過程で生じる神経原線維の前段階であるが、神経毒性を発揮する。
神経細胞膜の電位依存性Caチャネル調節異常、酸化ストレス、イオン恒常性の調節異常 などから、細胞膜構造破壊→ シナプス毒性、膜抵抗減少、神経細胞毒性を発揮するという。
レカネマブは18ヶ月で27%症状悪化を抑制し、7.5ヶ月遅らせる。アデュカヌマブよりも脳浮腫が少ない。

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