第120回日本内科学会学術講演会聴講録 その2

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

●教育講演 19 心疾患患者における最新の抗血栓療法

北里大学循環器内科学
阿古 潤哉先生

静脈系の血栓には抗凝固療法が有効、動脈系の血栓には抗血小板療法が有効である。
過去に血栓症を発症したことのない症例での治療について(一次予防)
一次予防における抗血小板療法では、アスピリン服用により大出血のリスクは増えたが死亡リスクは低下しなかった。→現在は血栓症がハイリスクの症例においてもアスピリンは推奨されない。
二次予防(一度イベント発症した症例)においては、抗血小板療法の効果は疑いない。つまりアスピリンは必須の治療である。
ステント血栓症:ステントは局所での血栓が起こりやすいので、アスピリンは必須である。ステント血栓症は通常の心筋梗塞よりも死亡率は高いと言われている。7-40%程度の死亡率。
STARS試験によりアスピリン+チクロピジン群がもとおもステント血栓症を予防することが報告された。そして最近は2剤併用を術後1ヶ月行うと、それ以後は血栓症リスクよりも出血リスクが増えることが判明した。
最近は薬剤溶出性ステントDESが使用されている。DES以前のステントではステント内に血管平滑筋細胞が増生して再狭窄することがあるため開発され、局所の再発は激減した。しかし血栓症リスクが上昇しその後改良がすすめられて血栓症発症リスクも低下した。
すると、DES+抗血小板併用により出血リスクがあらたな問題点として浮上した。
出血リスク大基準項目:(1つ以上あると高出血リスク)
•長期の経口抗凝固薬使用
•eGFR<30mL/min/1.73m²
•Hb<11g/dL
•入院/輸血が必要な非外傷性出血の既往(6か月以内、または再発性では時期を問わない)
•Plt<10万/dL
•慢性的な出血傾向
•門脈圧亢進症を伴う肝硬変
•12ヶ月以内の活動性の悪性腫瘍(非黒色腫皮膚癌を除く)
•特発性脳出血の既往、12ヶ月以内の外傷性脳出血の既往、脳動静脈奇形の 合併、6ヶ月以内の中等度または重度の脳卒中既往
•DAPT 期間中の延期不可能な大手術
•PCI 施行前 30 日以内の大きな外傷または大手術歴
現在出血リスクを減らすための臨床試験が多数されており、減薬傾向になっている。
2020年日本循環器学会ガイドラインによると、出血リスクが高い患者の抗血栓療法2剤併用DAPTは1-3ヶ月、血栓リスクの高い患者においてもDAPTは3-12ヶ月と記載があるが現実的には1-3ヶ月となっている。
アスピリン VS クロピドグレルなどのP2Y12阻害剤との比較で、P2Y12阻害剤単独でも出血リスクは同等で心筋梗塞リスクを減らせる可能性が示唆されている。

抗血小板薬と抗凝固薬併用のエビデンス

心房細動患者は抗血小板療法では血栓症は防げないことがわかっている。
心房細動患者がPCIを受けるときにどのような抗血栓療法が必要か。
抗凝固薬は抗血小板作用もあるので、演者らはリバーロキサバン単剤とリバーロキサバン+抗血小板療法を比較した。結果、リバーロキサバン単剤で塞栓症のイベントも出血イベントも少なかったので現在は抗凝固薬単剤が現在の標準となっている。

非心臓手術における合併心疾患について
アスピリンを投与継続して手術を実施することを推奨する。たとえ止める場合でも5日以内とすること。

まとめ

一次予防に対する抗血小板療法は推奨から外れる。
・ステント植え込み後には一定期間 DAPT(抗血小板薬二剤併用療法)が行われる。
ステントの発達、HBRの認識からDAPT 期間は次第に短縮の 方向へ。抗血小板単剤療法として、慢性期にアスピリンか P2Y12iかはまだ議論の余地がある。
・慢性期の抗凝固薬が必要な患者においては抗血小板薬の 併用は不要。
PCI 後患者の非心臓手術も可能であれば抗血小板薬継続。

●教育講演3 日常診療における低ナトリウム血症

名古屋大学糖尿病内分泌内科学
有馬 寛先生

バゾプレッシン: 水バランスに関与する重要なホルモンであるバゾプレッシンは視床下部で構成されたのち軸索に沿って下垂体後葉に運ばれ、必要に応じて血液中に分泌される。
視床下部バソプレシンニューロンにて作られ軸索に沿って下垂体後葉に運ばれ、必要に応じて血液中に分泌される。

腎臓の集合管に発現するV2受容体に作用して抗利尿作用を発揮する。別名抗利尿ホルモン(ADH)と呼ばれる。
高濃度では血管平滑筋に発現するV1a受容体に作用して血管収縮させ血圧を上昇させる。arginine vasopressin(AVP)
バソプレシンの分泌は血清ナトリウム濃度により精密に制御されている。血清ナトリウム濃度が1mEq/Lでも上昇すると血漿バソプレシン濃度は有意に上昇し集合管での水再吸収が亢進し血清ナトリウム濃度はもとにもどる。
一方低ナトリウム血症はバソプレシン分泌を抑制する。
SIADHは血清ナトリウム濃度が低値にも関わらずバソプレシンの分泌が抑制されない病態である。
・バソプレシン分泌刺激は血清ナトリウム濃度以外にも血圧低下、ストレス、嘔気、炎症、薬剤などがある。
たとえば嘔気があると、嘔吐による脱水にそなえてバソプレシンは分泌される。

SIADH診断基準は以下のとおりである。

I.主症候
脱水の所見を認めない。
Ⅱ.検査所見
1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。

  1. 低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。
    4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。
  2. 腎機能正常。
  3. 副腎皮質機能正常。
    【診断基準】
    確実例:IおよびⅡのすべてを満たすもの。
    の別名はADH(抗利尿ホルモン)であり、腎臓集合管のV2受容体に作用して抗利尿作用を発揮する。
    ⅡI 参考所見
  4. 倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。・・・これは脳浮腫による症状であるが、慢性的な状態では症状に乏しいこともある。
  5. 原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。
    3.血漿レニン活性は5ng/mL/h以下であることが多い。
    4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。
  6. 水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。

浸透圧性脱髄症候群

低ナトリウム血症では細胞内へ水が流入し脳浮腫が生じる。しかしやがて細胞は水と浸透圧物質を細胞外に放出し細胞のサイズはもとにもどる(適応)。低ナトリウム血症に対する適応には48時間要するため、48時間以上低ナトリウム血症が持続する場合に慢性低ナトリウム血症と呼ぶ。
低ナトリウム血症に適応した後に、治療などにより急激に血清ナトリウム濃度が上昇した場合、細胞外に水が流出するので細胞内脱水となる。→浸透圧性脱髄症候群を発症する。
低ナトリウム血症の症状が乏しい場合、少なくとも48時間以上低ナトリウム血症が持続していると考えられる。低ナトリウム血症の症状が少ないほど浸透圧性脱髄症候群のリスクが高いといえる。

・低ナトリウム血症は細胞外液量に基づいて分類される

SIADHは細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症に分類される。
細胞外液量減少する病態は、嘔吐、下痢、膵炎、低栄養
細胞外液量が増加する病態は、心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群
細胞外液量がほぼ正常な病態は、SIADH、ACTH分泌不全症・・・血漿ADHと血漿コルチゾール測定で鑑別できる。

脱水の有無の判断は日常診療でしばしば困難である。

鑑別には尿中Na濃度が有用である。
脱水➡尿中Na20mEq/L未満
体液量が正常な低 Na 血症:SIADH➡尿中Na20mEq/L 以上
それでも判断に迷う場合は、生食塩水の点滴をして、血清Na濃度を慎重に観察する。
脱水→ 血清Na濃度は上昇する。
SIADH→ 血清Na濃度は不変もしくは低下する。
・SIADHで生理食塩水を点滴しても血清Na濃度がむしろ低下する機序
SIADHではADHが過剰分泌→腎臓における水再吸収亢進→当初は循環血液量増加を伴う低Na血症になる→循環血液量の増加はNa利尿ペプチド分泌亢進してNa利尿が生じ、一方でV2レセプターとAQP2発現のダウンレギュレーションが生じて腎臓における水再吸収が減弱する → その結果として循環血液量がほぼ正常の低Na血症となる。

・重症の低Na血症(Na110mEq/L以下)の治療におけるジレンマ

脳浮腫と脳ヘルニアの発症を抑止するために可及的速やかに血清Na濃度を上昇させる必要がある。
一方で補正により浸透圧性脱髄症候群の発症を抑止する必要がある。
重症低Na血症(120mEq/L以下)では、
中枢神経症状を伴う場合は3%食塩水を静脈内投与する。
血清Na濃度急上昇は避けるべきであり、1日の血清Na濃度上昇は10mEq/L以下とすべきである。
予期せず急激に血清Naが上昇した場合(24時間で10mEq/L以上、48時間で18mEq/L以上)は、5%ぶどう糖液の投与により血清Na濃度を再度低下させることを検討する。
・軽症SIADHの第一選択は水制限であるが、V2受容体拮抗薬のトルバプタン口腔内崩壊錠の投与が承認された。

免疫チェックポイント阻害薬と低ナトリウム血症

 免疫チェックポイント阻害薬は自己免疫反応(T細胞の活性化)による免疫関連副作用(irAE)すなわち内分泌障害が問題となる。
甲状腺機能異常症 、下垂体機能低下症、1 型糖尿病、副腎皮質機能低下症、副甲狀腺機能低下症。
・免疫チェックポイント阻害薬による下垂体障害
臨床的特徴が自己免疫性視床下部下垂体炎に類似している。
ACTH 分泌低下症の頻度が最も高い。
抗 PD-1 抗体および抗 PD-L1 抗体ではACTH 分泌低下症のみを認めることが多い。
抗 CTLA-4 抗体ではACTH 分泌低下症に加えてTSH 分泌低下症、ゴナドトロピン分泌低下症を合併することがある。
演者らのグループは「免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害」の前向き研究を2015 年 11 月より開始し、2023年4月現在1213例が登録されている。
下垂体機能低下症は抗PD-1抗体のニボルマブで3.3%、ペムブロリズマブで8.6%、抗CTLA-4抗体のイピリムマブで24%が発症する。
免疫チェックポイント阻害薬による下垂体機能低下症を示唆する所見は、「低Na血症(血清Na<135mEq/L)」である。下垂体機能発症時に37.5%に低Na血症を認め、非発症時では8.3%で、有意な差を認めた。
低Na血症を認めた場合には、ACTHとコルチゾールを測定することが推奨される。

●教育講演13 肝疾患における超音波診療の進歩 ー肝線維化および脂肪化診断を中心にー

兵庫医科大学 肝胆膵内科
飯島 尋子先生

超音波診断用造影剤

共焦点レーザー顕微鏡により、レボビスト(超音波診断用造影剤)のマイクロバブルがクッパー細胞に捕捉され、貪食されることが観察される。
この性質を利用して肝細胞癌の分化度診断が可能となった。
高分化度ほどクッパー細胞が内部に見られず造影剤は抜けない。
LI-RADSという診断法が開発された。
CT/MRI造影手法を用いた肝腫瘍診断のカテゴリー分類 であるが、
動脈、門脈血流の多寡と腫瘍サイズを層別化することにより客観的に診断を提案する方法。
造影剤(マイクロバブル)を用いると肝腫瘍や肝臓の血管形態も可視化できる。

SVR後の肝臓癌の発生率

※SVRとは:ウイルスが体内から排除されて、血液検査の結果が陰性(-)になること
HCV 関連 HCCの年間発生率は、2021 年には24000 症例に増加し、2040 年までに13000 症例に減少すると予測され ている。HCC 症例の多くは肝硬変の患者に発症し、SVRを達成した肝硬変患者の新規 HCC 症例数は、2012 年の5.3%から2040 年には 45.8%に増加する

C型肝炎によるHCC発生は年々低下しているが、かわりにNASHが背景のHCCが増加している。
 世界的にみても肥満が多い国ではHCCが発生率が高い。
男女共、肥満度は食道癌、大腸癌、肝癌、胆嚢癌、膵臓癌、腎癌によ る死亡率の上昇と有意に関連する。
米国では、体重過多と肥満が、男性のがんによる全死亡の14%、女性のがんによる全死亡の20%を占 める可能性があると推定されている。
アジア地区では痩せ型の脂肪肝が増加し、肝硬変、肝癌に進展する症例が増加しており問題となっている。
アジアではPNPLA3のリスクアリルの保有者が多いことも一因と考えられている。

MAFLDが最近注目されている。

 2項目以上の代謝異常を合併するFatty Liverのことである。
2 項目以上の代謝異常とは以下の項目である。
 ウエスト径 90cm(男性),80cm(女性) .
 高血圧(130/85以上)、HDL40 未満(男性),50 未満(女性)
 糖尿病予備軍(FBS100-125, 糖負荷 140-199, HbA1C5.7~6.4%)
 HOMA2.5以上
 高感度 CRP2mg/L 超
NAFLDよりもMAFLDのほうが心血管イベントリスクが高い。
肝線維化進展例で死亡率が高い。

症状のない脂肪肝をどのように診断するか

 AST、ALTでは肝線維化の進展は予測できない。
肝臓学会ではALT、AST30以下にすることを提案されているが、肝線維化抑制には十分ではない。
血小板が20万を切ると、NASHを一度は疑うことを推奨している。
肥満や2型糖尿病患者のNASH/NAFLDを拾い上げるには、まずは脂肪肝の検出である。
脂肪肝を認めたら肝臓の線維化の可能性を評価する。
線維化マーカー高値
スコアリングシステム [FIB-4index, NAFLDfibrosisscore (NFS)] *2などで 線維化の存在の疑いあり
FIB-4index1.3 以上、 NAFLDfibrosis score (NFS) -1.455以上 、血小板数20万/mm²未満
超音波の脂肪肝スコアは(1)Bright liver(0〜2点),(2)肝腎コントラスト(0,1点),(3)深部減衰(0〜2点),(4)脈管の不明瞭化(0,1点)の合計0〜6点にスコア化した.
エコーによる脂肪の定量化 :脂肪減衰定量法
信号強度を数値化することにより脂肪の定量化を可能とする。
現在の中級機以上のエコーには肝硬度(線維化)と脂肪減衰の両者が測定できるようになっている。
肝硬度の測定方法はStrain法とShear wave imaging法がある。
Shear wave imaging法は診断用の超音波よりも100倍強いPush pulseを当てて、肝内を超音波が伝搬する速度を測定している。

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