第120回日本内科学会学術講演会聴講録 その3

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆シンポジウム1 COVID-19が与えたインパクト

●結核診療の最前線

国立病院機構東京病院
佐々木 結花先生

●結核診療の最前線
佐々木結花先生 (国立病院機構東京病院)

結核は空気感染で感染する。結核菌の飛沫を排出患者から離れたところにいる人にも感染するので制御がむずかしい。
結核菌は感染と発病がことなり、長期間休眠して潜伏感染する。

疫学

日本は長らく高蔓延国であったが、2021年に低蔓延国となった。
高齢者ほど結核既感染率は高い が、年々低下していくことが推測 されている。
既感染率 70 歳 10~15%、80 歳 25~35%
アジアの国々の既感染率は高く、今後日本に入国する外国人の母国の感染率に留意する必要がある。
特に学生や労働者として入国した20歳代は結核が多い。

患者数は順調に減少しているが、結核患者に占める高齢者の割合は高くなっており、介護者に感染させることのないように注意が必要である。
高齢になるほど粟粒結核の頻度が上昇している。→高齢者に髄膜炎や中枢神経結核、骨関節結核などの多彩な肺外結核が認められ、診断に苦慮する。
在宅診療を受けている患者は、症状がわかりにくく、画像が撮れない、喀痰検査が行えないなどの呼吸器感染症対策には不利となる。
例えば間質性肺炎で在宅酸素療法中の患者に結核が発生しても診断がむずかしい。
糖尿病を合併していると肺結核が増加する。結核合併糖尿病患者数は結核の減少と並行しない。糖尿病コントロール不良で罹病が長期になった高齢者で結核既感染であれば、発病リスクは高くなる。
既感染率が高い年齢の患者に生物学的製剤を用いる場合特に注意が必要である。(関節リウマチ患者に抗TNF阻害薬、IL-6受容体阻害薬、T細胞共刺激分子阻害薬、JAK阻害薬)

結核の発病リスク

 日本結核・非結核性抗酸菌学会予防委員会より報告されているが、
特に、HIVは50-170倍の発症リスクがあり、年間で10%が発病する。同様に臓器移植20-74倍、珪肺30倍、慢性腎不全透析中10-25倍、2年以内の結核感染15倍、未治療の陳旧性結核病変6-19倍、生物学的製剤使用4倍。・・・ここまでは積極的にLTBI治療を考慮するべき(勧告レベルA))とされている。
勧告レベルBは、副腎皮質ステロイド(経口)使用2.8-7.7倍、副腎皮質ステロイド(吸入)使用2倍、その他の免疫抑制剤使用2-3倍、コントロール不良の糖尿病1.5-3.6倍、喫煙1.5-3倍、胃切除2-5倍、医療従事者3-4倍である。
結核による死亡は30 歳代から認められるが、80 歳以上の高齢者に集中している。
90歳以上は結核感染登録から1年以内に死亡する。

結核の診断

喀痰塗抹培養検査を3回実施し、そのうち1回核酸増幅法(NAAT:nucleic acid amplification test)で診断する。
抗酸菌が培養されNAATで診断できないときは質量分析法(MALDI-TOF-MS:matrix assisted laser desorption/ionization – time of flight mass spectrometer)で診断する。
培養検体でなく、直接検体から、同定とともに、キード ラッグの耐性検査を優先する方向で、検査が重要視され ている。
イソニアジドINHとリファンピシンRFPの耐性の検査は重要。
最近は結核診断の流れが変わりつつある。
すなわち、核酸増幅法(PCR法など)で結核菌陽性となった生喀痰、並びに、NALC-NaOH処理をした喀痰検体を使用してPCR法でRFPとINHERITの耐性遺伝子を検出する。→6-8週間の培養を待たずに治療が開始できる。
(※結核菌のrpoB遺伝子のリファンピシン耐性関連変異、katG及びinhA遺伝子のイソニアジド耐性関連変異を検出する。)

結核治療

2018年からfirst line治療はINH,RFP/RFB, EBまたはSM、PZA 初期2ヶ月間、その後INHとRFP4ヶ月。排菌量がおおかったり、菌陰性化がおくれたり、重症症例では維持期治療を3ヶ月延長してもよい。
すなわち下記の条件がある場合には維持期を3カ月延長し7カ月,全治療期間 9カ月(270 日)とすることができる。
(1) 結核再治療例
(2) 治療開始時結核が重症:有空洞(特に広汎空洞型)例,粟粒結核,結核性髄膜炎
(3) 排菌陰性化遅延:初期 2ヵ月の治療後も培養陽性
(4) 免疫低下を伴う合併症:HIV 感染,糖尿病,塵肺,関節リウマチ等の自己免疫疾患など
(5) 免疫抑制剤等の使用:副腎皮質ステロイド剤,その他の免疫抑制剤
(6) その他:骨関節結核で病巣の改善が遅延している場合など
現在米国では更に治療期間の短縮を検討されており、リファペンチンとモキシフロキサシンを含む4ヶ月治療が実施されている。日本では両薬剤の結核治療に対する保険適応がないこと、および高齢者が多く服薬コンプライアンスが保てないリスクがあるなどで、まだ実施されていない。

薬剤耐性結核

2022年のRFP、INH両者耐性は46人(0.9%)、Hのみ耐性251人(4.8%)、Rのみ耐性14人(0.3%)である。
INH耐性結核治療:RFP 感受性の結核では、RFP, EB, PZA, LVFXを用いた6か月治療を 推奨する。(6RZEL)
ただし治療中に副作用がでた場合はその後の治療がむずかしくなるので必ず専門医に紹介すること。
日本の薬剤耐性結核は少ないが、その半数は外国出生者である。母国から持ち込み。→母国の結核感染率に注意すべきである。
2021年に多剤耐性肺結核の薬剤選択を上位5剤併用療法とすることが定められた。
第一選択 LVFX、BDQ、 第二選択 EB,PZA,DLM(デラマニド)、CS
上記が不可の場合、SM,KM、EVM(エンビオマイシン)、TH(エチオナミド)、PAS
※残念ながらすでに欧米で使用中のリネゾリドLZD、クロファジミンCFZは使用が認められていない。
WHOでは、BPaLM regimen(6 Bdq-Pa-Lzd-Mfx1) 6ヶ月治療、あるいは9-month all-oral regimen 9ヶ月治療
が推奨されている。

浅在性結核感染症Latent Tuberculosis Infection LTBI
勧告レベルAの患者がLTBIとなった場合、INHとRFP2剤併用療法3-4ヶ月。
RFP 単独投与は、INHが使用できない場合、感染源がINH 耐性の場合、INH 投与によって副作用が生じた場合 INHのアレルギー歴がある場合、INHと相互作用を有する薬剤が必須の場合、に限られる。

◆シンポジウム1 COVID-19が与えたインパクト

●1. COVID-19 疫学:

京都大学医学研究科
西浦 博先生

1.自然史(感染実態はどこまでわかったか)
2.異質性(みんな同じに振る舞わない)
3.移動と感染リスク
4.死亡メカニズム
5.ワクチン接種と免疫ランドスケープ
6.今後の見通し

1.自然史(感染実態はどこまでわかったか)

発病する前に伝搬する(presymptomatic infection)。約5割の感染者。 
早く発病するひとほど早く2次感染する。
隔離だけでは制御できない。
33%が不顕性感染、無症候性感染者は症候性の0.2倍くらいのR(実行再生産数)であり、あまり感染性は高くなかった。

2.異質性

飲食時の感染リスクを1とすると、飲酒が8倍、カラオケがあると37倍、異性接待があると73倍となる。
このデータをもとにクラスター対策を実施し、ハイリスクの場面での接触を抑制することで実行再生産数は1未満を維持でした。
3.移動と感染リスク
死亡リスクは政策的瑕疵(かし)に鋭敏に反応した。
2020年10月1日から第2次GO to Travelが始まり、明らかに感染が急増した。移動勧奨が空間的感染拡大を促進した。
移動を勧奨しなければ流行がかなり沈静化した可能性がある。

4.死亡メカニズム

第4波では大阪では流行対策が遅れたため医療体制が極度に逼迫した。80歳代では致死率がICU入床率よりも上昇した。つまり施設内でクラスターがおきた場合には看取るしかないという状況が発生した。
脳血管疾患:オミクロン株の流行開始後に超過死亡が明確化した。
2020年5月以後「お家で治そう」を見直した。同時期にレムデシビルが認可された。→致死率の明らかな低下となった。

5.ワクチン接種と免疫ランドスケープ

第5波では、直接的効果:全国で18622 人の 死亡が予防接種で防がれた。
さらに予防接種がもしなかったら、第5波は6300万人が感染し、36万人が死亡したと推定される。
ワクチンによる間接的効果(重症化予防)が強く、死亡は97%減少した。
予防接種の効果は第6波(オミクロン株流行期)でも維持されていた。
東京のデータであるが、3回目接種のブースター効果により、実際の感染者は予測の3分の1程度であった。
接種率が高ければ早く収束し、低ければ遷延したと考えられる。
第7波ではBA.5の免疫保持率を中和抗体から推測できるようになった。

6.今後の見通し

英国ではendemic化を容認したので再感染を繰り返し人口の85%以上が抗N抗体陽性である。
(※抗N抗体:過去にコロナに感染したことがある、抗S抗体(中和抗体):有効な免疫力が働いている)
流行は減衰振動しており、その患者数や入院数は定常状態へ移行している。(収束はしないが。)
日本ではどうか。
第5,6,7,8波と入院者数も死亡者数も都度増加している!
残念ながら英国のようにはならず、流行は同様に繰り返される可能性が高い。
特に高齢者は30%程度しか自然感染免疫を持っていないので、後期高齢者の人口規模から考えると、今後世界でトップクラスの死亡者数が発生するであろう。

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