2025年6月28日29日に広島において開催された日本睡眠学会第49回定期学術集会に出席しました。
さらにオンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたので報告します。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
睡眠の質を科学する:より良い目覚めのための「眠りの仕組み」
日々の診療の中で、「ぐっすり眠れた気がしない」「年のせいか、眠りが浅くなった」「夜中に何度も目が覚めてしまう」といった睡眠に関するご相談を非常によくお受けします。睡眠は私たちの心身の健康を支える最も重要な土台ですが、単に「長く眠れば良い」「とにかく深く眠れば良い」という単純なものではありません。
睡眠学基礎セミナー1 田中先生のご講演でお伺いした最新の知見をもとに、皆様の「眠りの質」を向上させるための正しい知識と具体的なヒントを、わかりやすく解説いたします。
睡眠には「波」がある:レム睡眠とノンレム睡眠
私たちが眠りについてから朝起きるまでの間、脳と体はずっと同じ状態を保っているわけではありません。大きく分けて、大脳を深く休ませる「ノンレム睡眠」と、体は休んでいても脳が活発に動き夢を見る「レム睡眠」という2つの異なる状態が、約90分の周期で交互に繰り返されています。
さらに、脳を休ませる「ノンレム睡眠」は、その深さによって浅い眠りから深い眠りまでいくつかの段階に分類されます。一晩の睡眠は、これらが複雑に組み合わさっており、この波のリズムが綺麗に整っていることが、良い睡眠とされます。
「深い眠り」は全体のたった20%!最初の3時間が勝負
「よく眠るためには、一晩中ずっと深い睡眠をとらなければならない」と誤解されている方は少なくありません。しかし、健康な大人の実際の睡眠データを測定すると、最も深い睡眠が占める割合は、驚くことに一夜の睡眠全体の約20%に過ぎないことが分かっています。
さらに重要なポイントは、この深い睡眠の大部分が「睡眠の前半約3時間」に集中して出現することです。
この最初の3時間に何が起きているのでしょうか。実は、私たちの体の疲労を回復させ、細胞の修復や若返りを促す「成長ホルモン」という物質が、このタイミングで集中的に分泌されています。成長ホルモンは入眠直後に急激に上昇し、ピーク時には約15〜20 ng/mLという非常に高い数値に達することが確認されています。つまり、就寝してから最初の3時間をいかに邪魔されずに深く眠るかが、翌日の疲れの取れ具合や、お肌・筋肉の修復を決定づける最大の鍵となるのです。
*筆者補足)成長ホルモンの血中濃度は非常に低く、通常は0.5~10ng/mLの間で変動します。思春期に最大となり、成人後は20代をピークに加齢とともに低下していきます。主に睡眠(特にノンレム睡眠)時に分泌されます。
全体の半分を占める「浅い眠り」
深い睡眠が20%だとすると、残りの時間はどうなっているのでしょうか。実は、一夜の睡眠全体の約50%という最も大きな割合を占めているのが、「睡眠段階2」と呼ばれる浅い眠りのノンレム睡眠です。
年齢を重ねるにつれて、誰でも自然と「深い睡眠(20%)」の量は減っていきます。
これは決して病気ではなく、ごく自然な体の変化です。そのため、ご高齢の方の睡眠は、この「睡眠段階2」が圧倒的な割合を占めるようになります。「昔のように深く眠れない」と悩む必要はありません。大切なのは、この全体の半分を占める段階の睡眠中に、ちょっとした物音や尿意などで何度も目が覚めてしまう(睡眠が分断される)のを防ぐことです。
このベースとなる睡眠を安定して長持ちさせることが、朝起きた時の「ああ、よく寝た」という満足感に直結します。
睡眠中の体温変化と、夢を見る時間の「自律神経の嵐」
睡眠は、私たちの体温や心拍数などにも劇的な変化をもたらします。
人間の体には24時間周期の体内時計(概日リズム)が備わっており、夜になると自然に深部体温の低下が起こります。この体温低下がスイッチとなり、体をリラックスさせる副交感神経が働き始め、興奮を司る交感神経は入眠とともに低下していきます。そして、眠りが深まる第2から第3の周期で交感神経の活動が最低値となるため、体は完全に休息モードに入ります。
ところが、夢を見る「レム睡眠」の時間帯に入ると状況は一変します。
体は休んでいるのに脳が活発に動いているため、交感神経と副交感神経がともに極度に高まる「自律神経の嵐」と呼ばれる不思議な現象が起きます。実際の測定データでも、安定していたはずの心拍数が突然80〜100回/分の間で激しく変動し、呼吸も約10回/分で推移しながら不規則になることが分かっています。高血圧や心臓に持病がある方にとって、明け方に増えるこのレム睡眠の「嵐」の時間は、血圧や心拍が乱高下しやすい要注意な時間帯でもあるのです。
ホルモンが導く「完璧な朝」の迎え方
では、スッキリとした目覚めをサポートするホルモンについてお話しします。朝が近づくにつれて、体の中では「コルチゾール」という別のホルモンが活躍し始めます。
コルチゾールは、睡眠後半から起床に向けて分泌が急激に上昇し、血糖値を上げ、体内の炎症を抑える働きがあります。車で例えるなら、朝エンジンをかける前に、あらかじめガソリン(血糖=エネルギー)をエンジンルームに送り込んでおいてくれるようなものです。これに合わせて、低下していた交感神経の活動も起床に向けて徐々に上昇していくことで、私たちは朝目覚めた瞬間からスムーズに活動できるよう精巧に設計されています。
日常生活で取り入れたい「良い睡眠」のためのヒント
これまでお話しした科学的な仕組みを踏まえ、ご自宅で今日から実践できるポイントをまとめました。
就寝前のスマートフォンの使用や強い光を避け、スムーズな体温低下と入眠を促しましょう。
「最初の3時間」の深い眠り(成長ホルモンのピーク)を守るため、寝室の温度や湿度、寝具を快適に保ちましょう。
全体の50%を占める「睡眠段階2」の睡眠を途切れさせないよう、夜間の頻尿対策(夕方以降の過剰な水分摂取を控える等)や遮光カーテンの利用で静かな環境を整えましょう。
年齢とともに深い睡眠が減るのは自然なことだと受け入れ、「絶対に8時間眠らなければ」というプレッシャーを手放しましょう。
朝起きるのが辛い方は、起床時に少しでも太陽の光を浴びて体内時計をリセットし、ホルモンの分泌リズムを整えましょう。
本稿は以下のご講演を参考にしております。
日本睡眠学会第49回定期学術集会
睡眠学基礎セミナー1
睡眠構築とレム、ノンレム睡眠(一夜の睡眠における総合的な睡眠の特徴について)
田中 秀樹先生(広島国際大学 健康科学部)
