2025年6月28日29日に広島において開催された日本睡眠学会第49回定期学術集会に出席しました。
さらにオンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたので報告します。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
私たちは患者さんからこんなお悩みを相談されます。「夜、なかなか眠れない」「しっかり寝たはずなのに、昼間とても眠い」
皆さんの「症状」を詳しくお聞きすることから診断をスタートしますが、睡眠医学の研究が進むにつれ、こんなことがわかってきました。
皆さんが感じている「眠れていない」という感覚と、実際の脳や体の「眠っている時間」の間に、大きなズレ(ギャップ)が生じているケースが非常に多い、ということです。この状態は医学的に「睡眠状態誤認(すいみんじょうたいごにん)」と呼ばれます。このズレを正しく把握し、本当の睡眠の状態を「見える化(客観的な評価)」することが、不眠症などの睡眠障害を根本から解決するための第一歩となります。
日常生活の睡眠を測る「活動量計(アクティグラム)」
当院では実施しておりませんが
より専門の施設*では、ご自身の睡眠リズムを知るための最も基本的な方法として「睡眠日誌」記録を指導されています。何時にベッドに入り、何時に起きたかをご自身で長期間記録していただくもので、これに加えて、最近の睡眠外来では腕時計のような小さな機器である「アクティグラム(活動量計)」を数週間にわたって装着していただくことがあります。この機器は体の微細な動きを感知し、専用の計算式(Cole-KripkeやSadehのアルゴリズムと呼ばれます)を用いて睡眠と覚醒を自動判定します。この機器による判定は、後述する精密検査と比べても「85〜96%」という非常に高い一致率(妥当性)を持っており、正確に日常の睡眠を測ることができます(ただし、目が覚めていてもベッドでじっと静止していると「睡眠」と判定されてしまう傾向があるため、医師が日誌と照らし合わせて慎重に診断します)。
※筆者補足)「より専門の施設」とは、主に日本睡眠学会が認定する「専門医療機関」や睡眠外来を掲げる精神科・心療内科です。
このアクティグラムと睡眠日誌を組み合わせることで、治療の効果がはっきりと数字で現れます。
演者の施設では、例えば、不眠症に対する「認知行動療法(お薬に頼らず睡眠の習慣や考え方を改善する治療)」を実施されており、そのデータを紹介されました。
ある患者さんは、治療前、ご自身の感覚(睡眠日誌)では「ベッドに500分(約8時間強)」もいるのに、アクティグラムで測った実際の睡眠時間は「約330分(約5時間半)」しかなく、ベッドにいる時間に対して実際に眠れている割合(睡眠効率)が非常に低い状態でした。
そこで治療により、あえてベッドにいる時間を「約430分」に短縮(約14%減)していただきました。すると、実際の睡眠時間は「372分」としっかり保たれ、睡眠効率が「86.4%(データによっては90%以上)」へと劇的に改善したのです。ご自身の本当の睡眠データを知ることが、いかに治療に役立つかを示す良い例です。
睡眠の質を究める「睡眠ポリグラフ検査(PSG)」
さらに詳しい睡眠の質や、睡眠時無呼吸症候群などの病気が隠れていないかを調べるために行うのが「睡眠ポリグラフ検査(PSG)」です。これは病院に一泊していただき、脳波、眼球の動き、筋肉の緊張などを同時に記録する、世界的に標準とされている精密検査です。
※筆者補足)PSG検査について:自宅で可能な簡易検査は当院で実施、脳波や筋電図を含む詳細なPSG検査は、日本鋼管福山病院に依頼しております。
睡眠の深さを判定するルールも非常に細かく設定されています。例えば、脳の活動が落ち着いてくるサインである「睡眠紡錘波(すいみんぼうすいは)」という波は「0.5秒以上続かないとカウントしてはいけない」、最も深い睡眠を示す波は「周波数が2Hz以下で、波の高さ(振幅)が75µV(マイクロボルト)以上あるものが、一定の割合(20%〜50%以上)を占めること」といった具合です。こうした世界共通の厳格な数値基準があるおかげで、医師は皆さんの睡眠の深さを正確に診断できるのです。
「脳の細かな目覚め」が日中の疲れの原因に
最新の睡眠医学では、睡眠の「深さ」だけでなく、睡眠がどれくらい「細かく途切れているか」に注目しています。
その代表が「覚醒反応(アローザル)」です。これは、ご自身では「目が覚めた」という自覚が全くなくても、脳波だけが3秒以上、突然速い波(アルファ波など)に切り替わり、脳がハッと起きかけている状態を指します。
この「脳の細かな目覚め(アローザル)」は、実は健康な人でも年齢とともに増えていきます。大規模な研究データによると、1時間あたりの平均回数は、37〜54歳で「16.0回」、55〜61歳で「18.4回」、62〜70歳で「20.3回」、70歳以上になると「21.0回」と、加齢とともに少しずつ上昇していくことが分かっています。つまり、ある程度の睡眠の途切れは年齢による自然な変化とも言えます。
しかし、病気が原因でこの「脳の目覚め」が異常に増えることがあります。それをさらに詳しく見つけるのが「CAP(循環交替性パターン)」という脳波の分析方法です。
※筆者補足)CAP: ノンレム睡眠のときに「ぐっすり寝ている状態」と「ちょっと覚醒している状態」が交互に来る。そのことを指す。
CAPは、脳の不安定さを3つのタイプ(A1、A2、A3)に分けます。速い波(覚醒のサイン)が50%以上混ざる「A3」はもちろんですが、速い波が20%未満しかなく、一見すると深い睡眠の波に見える「A1」という状態でも、実は心臓のバクバク(心拍数の変動)や血圧の上昇など、自律神経に強いストレスがかかっていることが分かってきました。ある研究では、全381回の不安定な波のうち、この「A1」が271回と最も多く発生していました。つまり、一見眠っているように見えても、体は休めていない時間が非常に多いのです。
実際の患者さんのデータから分かること
ここで、演者の先生がご経験された40歳代男性(BMIが32.3の中程度肥満)の症例についてご紹介します。
この方のPSG検査結果によると、全体の睡眠時間は「445分(約7時間半)」、ベッドに入ってから眠るまでの時間も「13.0分」、睡眠効率も「90.4%」と、ここまでの数字だけを見ると「とても良く眠れている」ように見えます。
ところが詳細な脳波データを見ると、本当に体を回復させる「深い睡眠」は全体のわずか「0.6%」しかありませんでした。原因は重度の「睡眠時無呼吸症候群」です。1時間に「70回以上」も呼吸が止まり、そのたびに脳の細かな目覚め(アローザル)が1時間に「40回以上」も起きていました。ご本人は気づかずに7時間半眠っているつもりでも、実際には脳と自律神経が休む暇なく一晩中ダメージを受け続けていたのです。当院でも同様の症例を多数経験しております。
正しい検査が、正しい治療への近道
いかがでしたでしょうか。ご自身が感じている睡眠の悩みは、単に「お薬を飲めば解決する」ものではないかもしれません。
当クリニックでは、ご自宅で実施可能な簡易PSG検査、および詳しいPSG検査は協力病院にて実施し、客観的な評価を行っています。睡眠薬を使う場合でも、単に睡眠時間を延ばすだけでなく、先ほどお話しした「脳の細かな目覚め(CAPなど)」が減って、本当に質の良い睡眠に改善しているかを大切にしています。
「しっかり眠れない」「日中ずっとだるい」とお悩みの方は、ぜひ一度、ご自身の睡眠を「客観的なデータ」で測ってみませんか?正しい状態を知ることが、快適な朝を迎えるための最短ルートです。
本稿は以下の講演を下にしております。
日本睡眠学会第49回定期学術集会
睡眠学基礎セミナー9
睡眠の評価法
八木朝子先生(久留米大学医学部 医療検査学科)
