睡眠中の認知活動、夢

2025年6月28日29日に広島において開催された日本睡眠学会第49回定期学術集会に出席しました。
さらにオンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたので報告します。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

睡眠と夢

誰もが毎晩のように経験する「夢」。楽しい夢を見てスッキリ目覚める朝もあれば、恐ろしい悪夢や、体が全く動かなくなる「金縛り」に悩まされて、どんよりとした気分で朝を迎えることもあるかもしれません。実は、こうした睡眠中の不思議な体験の多くは、単なる気のせいではなく、最新の脳科学や睡眠医学によって明確なメカニズムが解明されつつあります。
本稿では、睡眠中の脳内で何が起きているのか、なぜ私たちは夢を見るのか、そして悪夢や金縛りにはどのような意味が隠されているのかについて、具体的な研究データを交えながら分かりやすく解説いたします。

夢の科学はどこまで進んでいる?

人類は古くから夢の不思議に魅了されてきましたが、科学的なメスが入ったのは比較的最近のことです。1862年に人間の睡眠の深さを測る試みが始まり、1953年にはアメリカのシカゴ大学で「レム睡眠」という特別な睡眠状態が発見されました。レム睡眠の発見から70年以上が経過し、夢と脳の働きに関する研究は飛躍的な進歩を遂げています。
私たちの睡眠には、脳が活発に動いているのに体が深く眠っている「レム睡眠」と、脳も体もぐっすり休んでいる「ノンレム睡眠」の2種類があり、これらを一晩のうちに何度も繰り返しています。

夢を見るのはいつ?「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の違い

「夢はいつ見ているのか?」という疑問について、有名な研究データがあります。アスリンスキーとクライトマンという研究者たちが、レム睡眠の最中に人を起こして尋ねたところ、27回のうち20回(約74.1%)という高い確率で「鮮明な夢を見ていた」という報告が得られました。一方、レム睡眠が終わってから30分以上経った「ノンレム睡眠」の最中に起こした場合、夢を覚えていたのは23回のうちわずか2回(約8.7%)でした。
しかし、その後の研究で「夢を見ましたか?」と直接聞くのではなく、「心の中に何か思い浮かんでいましたか?」と質問を変えてみると、深い眠りであるはずのノンレム睡眠中であっても、40%から50%の確率で何らかの考え事やイメージの報告が得られることが分かりました。
ただし、レム睡眠とノンレム睡眠では「夢の質」が全く異なります。入眠してすぐに現れるレム睡眠(入眠時レム睡眠)とノンレム睡眠を比べた実験では、はっきりとした「夢」を見た回数はレム睡眠で32回に対し、ノンレム睡眠では8回と大きな差がありました。また、夢の奇妙さや活動性などを測る4つの評価基準のうち、3つの基準で明確な違いがありました。つまり、私たちが「夢らしい夢(奇妙でストーリー性があり、感情が動くもの)」を見るのは、圧倒的にレム睡眠のときなのです。

なぜ夢は奇妙で、怖いことが多いのでしょうか?

空を飛んだり、見知らぬ場所に突然ワープしたりと、夢の中ではどんなに奇妙なことが起きても、私たちはそれを「変だ」と疑わずに現実として受け入れてしまいます。これは、論理的な思考や「おかしいと判断する力」を司る前頭葉の働きが、睡眠中は著しく低下しているためです。さらに、脳の損傷を調べた研究により、前頭葉の一部(欲求や報酬を感じる部分)や、視覚や聴覚を統合する脳の部位が傷つくと、夢そのものを見なくなることも分かっています。
また、夢の中で感じる感情を調べた研究によると、夢の中で「恐怖」を感じる割合は全体の20.3%でした。起きている間の日常の出来事で恐怖を感じる割合が8.2%であることに比べると、夢の中ではおよそ2.5倍も怖い思いをしやすいことが科学的に証明されています。これは、睡眠中に恐怖や不安を処理する「扁桃体(へんとうたい)」という脳の部位が、過剰に活発に働いているためだと考えられています。

「金縛り」の正体は心霊現象ではありません

夜中に突然目が覚め、意識ははっきりしているのに体が全く動かせず、胸の上に誰かが乗っているような圧迫感や恐怖を感じる。これが「金縛り」です。心霊現象と結びつけられがちですが、医学的には「睡眠麻痺(すいみんまひ)」と呼ばれる睡眠トラブルの一種です。
夜中に一度目が覚めてから再び眠りにつくときなど、睡眠が途切れたり乱れたりすると、健常な人であっても約3分の1という高い確率で、眠りについてすぐにレム睡眠が現れることが分かっています。このとき脳波を測定すると、リラックスして目覚めているときに出る「アルファ波」という脳波が強く増えています。つまり、脳はほとんど起きていて周囲の状況も分かっているのに、体はレム睡眠特有の「完全な筋肉のお休み状態(弛緩)」にあるため、体が動かせないのです。そこに、レム睡眠特有の「怖い夢(幻覚)」が重なることで、恐ろしい金縛り体験となります。決して異常な病気や心霊現象ではありませんので、安心してください。

悪夢は心のSOS?頻繁な悪夢にはご注意を

怖い夢は誰でも見るものですが、毎晩のように頻繁に悪夢にうなされる場合は、心がSOSを出しているサインかもしれません。悪夢には、大きなトラウマ体験の後に生じるフラッシュバックとしての悪夢(PTSDの悪夢)と、日常的なストレスや孤独感から生じるレム睡眠の悪夢の2種類があります。
特に注意したいのは、後者の悪夢です。様々な睡眠のトラブルと「生きていくのが辛い」と感じてしまう気持ち(自殺念慮)との関係の強さを調べたデータがあります。それによると、気分の落ち込み(抑うつ)との関連が最も高く、次いで「悪夢」が関連を示しました。これは、「不眠」や「睡眠時無呼吸」よりも関連性が強いです。頻繁な悪夢の背景には、社会的なつながりの減少や孤独感、人間関係の悩みが隠れていることが多いため、たかが夢だと放置せず、専門の相談窓口などに相談するとよいでしょう。

※筆者補足)専門の相談窓口の例:内閣府孤独・孤立対策 https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/
ツルハホールディングス 孤独・孤立対策支援 
https://www.tsuruha-hd.co.jp/sustainability/addiction/

夢の男女差と、夢をコントロールする「明晰夢」の可能性

夢に関する面白いデータとして、男女差があります。過去の様々な研究データを総合すると、男性よりも女性の方が夢をよく覚えていることが分かっています。これは、女性の方が夢に対する関心が高く、夜中に少しだけ目が覚める回数(中途覚醒)などが影響して、記憶に残りやすいからではないかと考えられています。
さらに、「これは夢だ」と夢の中で気づき、自分の思い通りに夢を操作できる「明晰夢(めいせきむ)」という現象も科学的に研究されています。ある実験では、睡眠中の脳の前頭葉に40ヘルツという高い周波数の微弱な電気刺激を与えると、「これは夢だ」と気づく力や夢を客観的に見る力が極めて高く向上しました。さらに、25ヘルツの電気刺激を与えると、夢のストーリーを自分で「コントロールする力」が高まることが確認されています。将来、こうした研究が進めば、悪夢に苦しむ人が自らの力で夢を楽しいものに書き換えるような、新しい治療法が生まれるかもしれません。


本稿は以下の講演を参考にしています。
日本睡眠学会 第49回定期学術集会
睡眠学基礎セミナー8
睡眠中の認知活動、夢
福田一彦先生(江戸川大学睡眠研究所)

コメントは停止中です。