2025年6月28日29日に広島において開催された日本睡眠学会第49回定期学術集会に出席しました。
さらにオンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたので報告します。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
ぐっすり眠るための「睡眠環境」と「生活習慣」の科学
「毎日しっかり寝ているはずなのに、疲れがとれない」「夜中になんども目が覚めてしまう」とお悩みではありませんか?睡眠の質が下がる原因を、年齢やストレスのせいだと諦めている方は少なくありません。しかし、睡眠医学の研究により、私たちが何気なく過ごしている「寝室の環境」や「寝る前のちょっとした習慣」が、睡眠の質を大きく左右していることがわかっています。
睡眠に影響を与えるさまざまな要因をまとめて「睡眠衛生」と呼びます。これには、寝室の温度や湿度、光、音といった「環境」と、食事や運動、入浴といった「生活習慣」の両方が含まれます。ここでは、最新の睡眠科学のデータをもとに、今日から実践できる「本当に正しい眠りのコツ」をわかりやすくご紹介します。
暑さ・寒さと「湿度」の意外な関係
人間は、脳や内臓の温度(深部体温)がスッと下がることで、自然と深い眠りにつくようにできています。入眠時に手足がぽかぽかするのは、皮膚から熱を逃がして体の中を冷やそうとしているためです。
しかし、日本の夏のように「高温多湿」の環境では、このメカニズムがうまく働きません。実験によると、室温が35℃で湿度が75%のムシムシした環境では、汗をかいても蒸発せず、体温が下がらないため、夜中に何度も目が覚めたり、浅い眠りが増えたりして、睡眠の質が著しく低下することがわかっています。
一方で、冬の寒さに対しては「寝具」が強力な味方になります。室温が3℃しかない極寒の環境であっても、毛布と羽毛布団をしっかり使えば、布団の中の温度(寝床内温度)が保たれ、正常に眠ることができるというデータがあります。ただし、高齢者の方は寒さを感じにくくなっていることがあり、冷え切った寝室やトイレでの急激な温度変化は血圧を跳ね上げ、心臓や血管への負担を大きくするため、部屋全体を暖かく保つ工夫が命を守ることに繋がります。
快適な寝室の目安:夏は「室温26℃以下・湿度50〜60%」、冬は「室温16℃以上・湿度50〜60%」が推奨されます。夏にエアコンの冷風が直接体に当たらないよう工夫し、寝苦しい時は扇風機の微風で汗の蒸発を助けるのも効果的です。
「ちょっとだけなら…」の光が体内時計を狂わせる
私たちの脳内では、夜になると「メラトニン」という睡眠ホルモンが分泌され、自然な眠気が促されます。しかし、このメラトニンは「光」に非常に弱く、明るい環境にいると分泌がストップしてしまいます。
一般的な家庭のリビングの明るさは約300ルクスですが、実験によると、500ルクスの光を浴びるとメラトニンの分泌量が約半分にまで激減してしまいます。さらに驚くのは、就寝中に豆電球やスタンドライトなど(約40ルクス)をつけたままにしておくだけでも、脳は光を感じ取り、深い睡眠が減ってしまうということです。
子どもや思春期の学生は特に注意が必要です。子どもの目は水晶体が非常にクリアなため、大人よりも多くの光を脳に通します。同じ明るさの部屋(約120ルクス)にいても、大人のメラトニン減少率が約46%なのに対し、子どもは約88%も減少してしまうというデータがあります。夜遅くまで明るい部屋でスマートフォンやタブレットを見つめる習慣は、子どもの体内時計を強く乱し、朝起きられない原因を自ら作っているようなものです。
光のコントロール術:寝る1〜2時間前からは、部屋の照明を少し暗くし、オレンジ色などの暖色系の明かりに切り替えましょう。寝室はできる限り真っ暗にして眠るのが理想的です。
自分では気づかない程度の「音」でも脳は目覚める
「電車の音がしても、慣れているから平気で眠れる」と思っている方も多いかもしれません。しかし、人間は眠っている間も、危険を察知するために周囲の音を無意識に聞き取っています。
たとえば、40〜50デシベル(静かな換気扇や、遠くの車の音程度の大きさ)の音が耳に入ると、自分では目が覚めた自覚がなくても、脳波の上では「覚醒反応」が起こり、睡眠が細切れになってしまいます。
ある高齢者介護施設の調査では、夜間に起きた中途覚醒のうち、約27%が「60デシベル以上の音」が原因だと判明しました。その音の正体は、スタッフの話し声や、洗濯機などの機械音でした。つまり、環境音を少し静かにする工夫をするだけで、睡眠の質は劇的に改善する可能性があるのです。
音への対策:外の騒音が気になる場合は、防音カーテンや耳栓を活用してみましょう。また、寝室に動作音の大きな家電を置かないことも大切です。
睡眠を育てる「運動」のタイミング
日中に体を動かすことは、夜に質の高い深い睡眠を得るための特効薬です。適度な有酸素運動は、睡眠時無呼吸症候群などの症状を改善する効果も報告されています。
運動は「体内時計」を整える働きも持っています。海外旅行の時差ボケ解消のように、体内時計が後ろにズレてしまっているとき(夜更かし朝寝坊の傾向があるとき)に、朝の光を浴びながら適度な運動を行うと、体内時計がリセットされて正しいリズムに戻りやすくなります。ただし、寝る直前の激しい運動や、明るいスポーツジムでの夜間のトレーニングは、脳と体を興奮させ、かえって眠りを妨げてしまうことがあるため注意が必要です。
おすすめの運動習慣:ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動を、できれば午前中や夕方の早い時間帯に、無理のない範囲で習慣化してみましょう。
ただし、就寝直前の激しい運動は避けましょう。
毎日の睡眠は、心と体を修復する一番の治療薬です。お薬に頼る前に、まずは寝室の温度設定や、夜の照明の明るさといった「環境」を少しだけ見直してみましょう。
本稿は以下の講演を参考にしています。
日本睡眠学会 第49回定期学術集会
睡眠学基礎セミナー7
睡眠環境と生活習慣(総合科学としての睡眠学)
水野 幸先生(東北福祉大学 教育学部 教授)
