2025年6月28日29日に広島において開催された日本睡眠学会第49回定期学術集会に出席しました。
さらにオンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたので報告します。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。
皆さんは、夜眠ろうとすると足がむずむずして眠れない、あるいは寝ている間に手足をバタバタと動かしたり、大声で叫んだりした経験はありませんか?ご家族から「寝ぼけて歩き回っていたよ」「寝ながら殴るような仕草をしていたよ」と指摘されて驚いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。こうした夜間の異常な行動や手足の不快感は、単なる「寝ぼけ」や「気のせい」ではなく、医学的に診断と治療が可能な「睡眠関連運動障害」や「睡眠時随伴症(パラソムニア)」という病気である可能性があります。本稿では、これらの睡眠中の異常について、原因や特徴、そして当クリニックでの対応について詳しく解説します。
足がむずむずして眠れない「むずむず脚症候群」
夕方から夜にかけて、ベッドに入ってさあ眠ろうとすると、脚の奥の方に「虫が這うような」「むずむずする」「ほてる」といった強い不快感が現れる病気です。この病気には、以下の4つの大きな特徴があります。
脚を動かさずにはいられない強い衝動や不快感がある。
座ったり横になったりして、じっとしている(安静にする)と症状が現れたり悪化したりする。
夕方から夜間にかけて症状が強くなる。
脚をさすったり、歩き回ったり、ストレッチなどの運動をすると、その間は症状がスッと軽くなる。
むずむず脚症候群は、脳内の神経伝達物質(ドパミン)の働きの低下や、鉄分の不足などが原因で起こると考えられています。また、頭痛との関連も指摘されており、健康な方の発症率が1.8%であるのに対し、片頭痛をお持ちの患者さんでは13.7%と、非常に高い確率でむずむず脚症候群を合併しやすいことが分かっています。治療には、不足している鉄分を補うお薬や、ドパミンの働きを助けるお薬を使用します。ただし、ドパミンのお薬は長期間使用すると、逆に症状が昼間から出始めたり、腕など他の部位に広がったりする「オーグメンテーション(症状の増悪)」という現象が起こることがあります。データによれば、一部のお薬(レボドパ)では使用開始から約71日(中央値)で60%の方に、別のお薬(ドパミンアゴニスト)でも10年間使い続けると毎年5〜7%の確率でこの増悪が起こるとされています。そのため、専門医による慎重なお薬の調整と、定期的な鉄分(フェリチン)の血液検査が非常に重要になります。
睡眠中のピクつき「周期性四肢運動障害」などの運動障害
睡眠中に、自分では無意識のうちに足首や膝がピクッ、ピクッと周期的に動いてしまう病気です。多くの場合、20秒から40秒くらいの間隔で数秒間の筋肉の収縮が繰り返されます。この動きによって睡眠が細かく分断されてしまうため、本人は「長く寝たはずなのに疲れがとれない」「日中に強い眠気がある」と悩むことになります。医学的な基準として、小児では1時間に5回以上、成人では1時間に15回以上このピクつきが起こると「異常」と判定されます。重症な患者さんの中には、1時間に61回以上も激しいピクつきが起こり、ご家族から「蹴られた」と心配されるケースもありますが、適切なお薬で劇的に改善させることが可能です。
その他の睡眠中の運動として、以下のようなものもあります。
睡眠関連こむら返り:いわゆる「足がつる」現象で、99%が片足だけに起こります。
睡眠関連歯ぎしり:お子さんや若者に多く(3〜10歳および18〜19歳で約13%)、年齢とともに減少して60歳以上では3%程度になります。
睡眠関連律動性運動障害:乳幼児が寝入りばなに頭を布団に打ち付けたり体を揺らしたりする行動で、生後9か月の赤ちゃんの実に59%に見られる生理的な成長過程の現象でもあります。
寝ぼけや夢の行動化「睡眠時随伴症(パラソムニア)」
睡眠時随伴症とは、眠っている間や、半分眠って半分起きているような状態の時に起こる、複雑な異常行動のことです。眠りの深さによって、大きく2つのタイプに分けられます。
① 深い眠り(ノンレム睡眠)の時の異常行動
主に睡眠の前半、ぐっすり深く眠っている時に起こります。突然起き上がって悲鳴を上げる「睡眠時驚愕症(夜驚症)」や、無意識に歩き回る「睡眠時遊行症(夢遊病)」などがあります。これらはお子さんに多く、脳の発達途中で起こる一時的なものが多いですが、大人になってからストレスや睡眠不足で現れることもあります。また、夜中に無意識のうちに高カロリーな食べ物や、時には食べられないものを食べてしまう「睡眠関連摂食障害」という危険な病気もこれに含まれます。
② 夢を見る眠り(レム睡眠)の時の異常行動
ここで最も注意が必要なのが「レム睡眠行動障害(RBD)」です。通常、私たちが夢を見ている間(レム睡眠中)は、脳からの指令で全身の筋肉がダラリと緩み、夢の中の動きが現実の体に出ないように安全装置が働いています。(※逆に、目が覚めたのにこの筋肉の緩みだけが残ってしまい、体が動かせなくなる現象が「金縛り(反復性孤発性睡眠麻痺)」であり、健康な人でも15%〜40%が経験します)。
しかし、レム睡眠行動障害ではこの筋肉の安全装置が壊れてしまい、「何かに追われて逃げる」「敵と戦う」といった恐ろしい夢の内容に合わせて、実際に隣の人を殴ったり、ベッドから飛び降りて怪我をしたりしてしまいます。一般人口の0.5〜2%に見られるとされています。
この病気で最も重要なのは、将来の脳の病気(神経変性疾患)の「非常に強力な早期サイン」である可能性があるという点です。世界的な大規模な調査(3942名を対象とした77の研究データ)によると、この病気と診断された方の32%が、平均約4.8年の間にパーキンソン病(44%)やレビー小体型認知症(25%)などの病気を発症したことが分かっています。そのため、「ただの寝ぼけ」と放置せず、早めに受診していただき、ベッドの周りにクッションを置くなどの怪我の予防対策を行うとともに、数年単位での定期的な健康チェックを行っていくことが極めて大切です。
高齢者の「夜間せん妄」と睡眠薬の注意点
ご高齢の患者さんで、夕方から夜にかけて急に怒りっぽくなったり、つじつまの合わないことを言ったりして動き回る「夜間せん妄」という状態があります。これは認知症がゆっくり進行するのとは違い、数時間から数日という短期間で急激に状態が変化するのが特徴です。脱水や感染症など、体調のわずかな悪化が引き金になりますが、実は「眠れない」という訴えに対して安易に処方されがちな一般的な睡眠薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)が、この夜間せん妄を強く引き起こす原因になることが分かっています。当クリニックでは、ご高齢の方の不眠や夜間の異常行動に対しては、せん妄を起こしにくい安全なお薬(メラトニンの働きを助けるお薬など)を慎重に選択し、治療にあたっています。
まとめ
夜間の異常な行動は、患者さんご本人はぐっすり眠っていて全く覚えていないことがほとんどです。ご家族やベッドパートナーの方が「おかしいな」と気づかれた時が、治療の第一歩です。受診される際は、ぜひ夜間の様子をご存知のご家族と一緒にいらしてください。「どのような行動をとっていたか」「それは夜の何時頃だったか」「目は開いていたか」といった情報が、診断の大きな手がかりになります。病気が疑われた場合には適切な専門医に必要に応じてご紹介します。専門施設では夜間の睡眠状態や脳波、筋肉の動きをビデオで記録しながら精密に調べる検査(終夜睡眠ポリグラフ検査)などを実施されます。一人ひとりに合った安全な治療法をご提案していただけると思います。
本稿は以下の講演を参考にしています。
日本睡眠学会第49回定期学術集会
睡眠学基礎セミナー15
睡眠時随伴症/睡眠関連運動障害
鈴木圭輔先生(獨協医科大学 脳神経内科)
