その「眠気」、本当にただの寝不足ですか?

2025年6月28日29日に広島において開催された日本睡眠学会第49回定期学術集会に出席しました。
さらにオンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたので報告します。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

日中の強烈な眠気や、いくら寝ても起きられない症状でお悩みの方へ。それは決してあなたの「気合い」や「やる気」の問題ではないかもしれません。
現代の忙しい社会では、誰もが睡眠不足を感じることがあります。しかし、夜に十分な睡眠時間を確保しているはずなのに、日中に「耐え難い強烈な眠気」に襲われ、仕事や勉強、運転などの日常生活に大きな支障が出てしまう場合、それは単なる疲労ではなく「過眠症」という病状かもしれません。
※筆者補足)日本国内では人口の約3%程度に日中の過剰な眠気が見られ、主な原因として睡眠時無呼吸症候群(約35%)、特発性過眠症(約11%)、ナルコレプシー(約9%)が挙げられます。つまり脳の病気である可能性があります。
脳の病気である過眠症は、脳の中にある「睡眠と覚醒(起きている状態)を切り替えるスイッチ」がうまく働かなくなってしまうことで起こります。決して「怠けている」わけではありません。

代表的な過眠症①:ナルコレプシー(居眠り病)

過眠症の中でも代表的なものが「ナルコレプシー」です。欧米などでは2000人に1人の割合ですが、日本では約600人に1人と、世界的に見ても日本人に多い傾向があります。特に13歳〜14歳という思春期に発症しやすいのが特徴です。
ナルコレプシーには、以下のような特徴的な症状があります。
日中の耐え難い眠気:人と話している時や歩いている時など、普通では考えられない状況で突然眠り込んでしまいます。
情動脱力発作(じょうどうだつりょくほっさ):大笑いした時や、ひどく驚いた時など、感情が大きく動いた瞬間に、突然カクッと膝の力が抜けたり、顔の筋肉が緩んだりします。
入眠時幻覚と睡眠麻痺:寝入りばなに、そこに誰かがいるような極めて鮮明で怖い夢を見たり(入眠時幻覚)、いわゆる「金縛り(睡眠麻痺)」に遭ったりします。健康な人でも金縛りを経験する人は約7%いますが、ナルコレプシーの患者さんでは78%という非常に高い確率でこれらを経験するというデータがあります。

【なぜ起こるの?】

脳内には「オレキシン」という、人間をしっかり目覚めさせておくための重要な物質(脳内ホルモン)があります。ナルコレプシー(タイプ1)の患者さんは、このオレキシンを作り出す脳の細胞が90%以上も失われてしまっていることが分かっています。脳脊髄液(脳の周りを流れる液)の検査をすると、このオレキシンの濃度が「110 pg/mL以下」という極めて低い数値まで低下しています。(正常値は200-300pg/mL以上)
また、体質(遺伝的な背景)も深く関わっており、白血球の型(HLA遺伝子)を調べると、一般的な日本人では約19%の人しか持っていない特定の型を、ナルコレプシーの患者さんは100%持っていることも分かっています。

代表的な過眠症②:特発性過眠症

もう一つ、非常に厄介な過眠症として「特発性過眠症」があります。ナルコレプシーよりもさらに珍しい病気です。
ナルコレプシーのような突然の脱力発作はありませんが、最大の特徴は「異常なほど長く眠ってしまうこと」と「目覚めの極端な悪さ」です。
客観的な検査を行うと、1日の合計睡眠時間が660分(11時間)以上、典型的な患者さんでは12時間〜14時間にも及ぶことが確認されます。これほど長く、しかも質の良い睡眠をとっているにもかかわらず、日中は頭に霧がかかったようにずっとぼーっとしてしまいます。また、朝起きる時に、まるでひどく酔っ払っているかのように頭が働かず、無理に起こされると不機嫌になったり暴れてしまったりする「睡眠酩酊(すいみんめいてい)」という症状を伴うのも特徴です。

睡眠の検査(睡眠ポリソムノグラフィー検査:PSG検査)

過眠症かどうかを正しく見極めるためには、まず「単なる睡眠不足」や「睡眠時無呼吸症候群(OSA)」が隠れていないかPSG検査で調べます。もしOSAがないと判断されたら、過度の眠気の原因精査は専門施設で実施されますのでご紹介します。

日本睡眠学会睡眠医療認定施設での検査と診断、治療

専門施設では特殊な「昼寝の検査(反復睡眠潜時検査:MSLT)」を行います。これは日中に2時間おきに何度か昼寝をしていただき、どれくらい早く眠りに落ちるか、どのような脳波が出るかを調べるものです。過眠症の患者さんは、ベッドに入ってから平均8分以下という異常な速さで深い眠りに落ちてしまうことがデータとして確認されます。
診断確定したら治療と上手な付き合い方についても指導があります。
過眠症は長く付き合っていく必要のある病気ですが、適切な治療と工夫で、日常生活を大きく改善することができます。
「怠けではない」という理解(ご本人と周囲の方へ):一番大切なのは、患者さんご自身が「これはオレキシンという物質が足りないために起こる脳の生理的な現象であり、自分の精神力が弱いせいではない」と理解することです。ご家族や学校、職場の方々にも正しい知識を持っていただくことが治療の第一歩です。
計画的な昼寝の導入:ナルコレプシーによる眠気には、10分〜20分程度の短い仮眠(昼寝)を計画的にとることが驚くほど有効です。短い睡眠でも脳がすっきりとリフレッシュします。
お薬によるサポート:日中のどうしても我慢できない眠気に対しては、脳を優しく刺激して目を覚まさせる薬を使用します。また、笑った時の脱力発作や金縛りに対しては、それらを強力に抑える作用のある別のお薬(抗うつ薬の成分を応用したものなど)を使用します。薬には動悸(頻脈)や口の渇きといった副作用が出ることもあるため、医師や薬剤師と一緒に、血圧などを確認しながら安全に量を調整していきます。
過眠症の治療は現在も大きく進歩しており、将来的には根本原因である「オレキシン」を直接補うような新しいお薬の登場も期待されています。
「日中の異常な眠気」でお困りの方は、一人で悩まずご相談ください。あなたの「起きていたいのに眠ってしまう」という辛さを、医学の力でサポートいたします。


本稿は以下の講演を参考にしております。
日本睡眠学会 第49回定期学術集会
睡眠学基礎セミナー14
過眠症:概念と診断分類
本多真先生(公益財団法人神経研究所 附属晴和病院 / 公益財団法人東京都医学総合研究所 睡眠プロジェクト)

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