睡眠時間は足りているのに疲れがとれない?〜「睡眠休養感」と心身の健康〜

2025年6月28日29日に広島において開催された日本睡眠学会第49回定期学術集会に出席しました。
さらにオンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたので報告します。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

毎日しっかり布団に入って眠っているはずなのに、朝起きると「なんだか疲れがとれていない」「すっきりしない」と感じることはありませんか?
本稿では、近年医学界で注目されている「睡眠休養感」という新しい健康のサインについて、最新の研究データをもとにわかりやすく解説します。

「睡眠休養感」とは何か?

私たちはこれまで、健康のためには「何時間眠ったか」という睡眠の「量」ばかりを気にしてきました。しかし最新の医学研究では、「朝起きた時に、睡眠によってしっかり休まった感覚があるか」という、主観的な「睡眠休養感」が、睡眠時間と同じくらい健康にとって重要であることが分かってきました。
実は、「なかなか寝付けない」「夜中に何度も目が覚める」といった一般的な不眠の症状は年齢を重ねるにつれて増えていきます。しかし、「寝たはずなのに休まった気がしない(休養感のない睡眠)」という症状は、働き盛りの若い世代に多い(有症率は5%)という特徴があり、現代社会における新たな健康課題となっています。
> 直接引用:「有症率は5%、不眠の訴えと異なり、若年世代に多い」

「休養感のない睡眠」が引き起こす深刻な悪影響

「たかが疲れが残っているだけだろう」と甘く見てはいけません。睡眠時間は十分に確保していても、この「休養感」がないだけで、様々な病気のリスクが高まることが明らかになっています。

① 死亡リスクの上昇 睡眠時間が短い場合だけでなく、睡眠時間が十分(8時間以上)であっても、休養感がない場合は死亡リスクが約1.6倍に上昇します。ベッドに長く横になっていても、休養感が伴わなければ健康にはマイナスに働いてしまうのです。

② 糖尿病など生活習慣病のリスク 約3600人を平均14年間追跡した大規模な調査により、休養感のない睡眠をとっている方は、そうでない方に比べて糖尿病になるリスクが1.36倍高いことが判明しました。

③ メタボリックシンドロームの要因 肥満、高血圧、糖尿病といったメタボリックシンドローム全体の発症に、睡眠休養感の欠如が大きく関わっています。

④ 持病の悪化 すでに身体の病気(高血圧や糖尿病など)をお持ちの方の場合、睡眠休養感がない状態が続くと、さらに命に関わるリスクが高まります。

心の健康や日常の事故との関係

心の健康との関わりも非常に深く、睡眠の質とメンタルヘルスは「双方向」に影響し合います。睡眠休養感がない状態が続くと、1〜2年後にうつ症状が現れやすくなったり、「死んでしまいたい」という思い(希死念慮)を抱きやすくなったりすることが分かっています。
さらに、日中の不注意による軽微な事故のリスクも高まるため、日常生活の安全性にも影響を及ぼします。
ちなみに、「真面目で責任感が強い」「几帳面」といった性格の方ほど、日々のストレスを抱え込みやすく、休養感のない睡眠に陥りやすい傾向があることも分かっています。

なぜ「休養感」が失われるのでしょうか?

では、なぜしっかり眠っているつもりでも睡眠休養感がなくなってしまうのでしょうか。その原因の多くは、私たちの何気ない「生活習慣」に潜んでいます。
① 不健康な食習慣と運動不足
「早食い」「夕食の時間が遅い」「夜間の間食」「朝食を抜く」といった食習慣の乱れや、定期的な運動を行わないこと、歩く速度が遅いことなどは、睡眠休養感を悪化させる強い原因となります。
② 過度な飲酒 寝酒を含む過剰なアルコール摂取は、睡眠を浅くし、休養感を奪います。1日あたりの飲酒量が多いほど、休養感がなくなる確率が大きく跳ね上がります。 男性においては1日あたり飲酒を3合以上とっていると休養感のない睡眠になる確率が30%上昇し、 女性においては2合以上で36%上昇するという結果が報告されています。
③ 就寝前のスマートフォン 特に若い世代や学生において、寝る直前までスマートフォンなどの電子端末を使用していると、休養感のない睡眠に陥るリスクが約2倍になることが分かっています。
脳波を詳しく調べた研究によると、休養感がない状態の時は、眠りについて最初におとずれるはずの「一番深い睡眠(徐波睡眠)」が減少し、脳と体が本当に必要としている深い休息が得られていないことが判明しています。
一般的な睡眠薬の多くは「眠りにつくこと」を助けてくれますが、休養感の源である「一番深い睡眠」を必ずしも増やしてくれるわけではありません。そのため、薬で長く眠っても「すっきりしない」という状態が続くことがあるのです。

睡眠休養感を高めるにはどうすればいいか?

睡眠休養感をアップさせ、朝すっきりと目覚めるためには、ご自身の生活習慣を見直すことが最も効果的です。
① 就寝前のリラックスと軽い運動 寝る前に激しい運動をするのは逆効果ですが、ストレッチや筋肉の緊張をゆっくりほぐすようなリラクゼーション(漸進性筋弛緩法)を行うと、深い睡眠(N3と呼ばれる深いノンレム睡眠)が増えやすくなります。また、心を落ち着かせるマインドフルネスも有効です。
② 食生活のリズムを整える
夕食は就寝の数時間前までに済ませ、夜食は控えましょう。朝はしっかりと朝食をとることで、体内時計がリセットされます。
③ 就寝30分前のデジタルデトックス
ベッドに入る30分前にはスマートフォンやタブレットの画面を見るのをやめ、脳を休める準備をしましょう。
④ カフェインの制限
夕方以降のコーヒーやお茶は、睡眠を浅くする大きな原因となります。過剰なカフェイン摂取には注意が必要です。

まとめ

「しっかり眠ったはずなのに疲れがとれない」という感覚は、あなたの身体が発している重要なSOSのサインかもしれません。睡眠の「長さ」だけでなく、「質の良さ(休養感)」にも目を向けてみましょう。
生活習慣を見直しても休養感が改善しない場合、背景に睡眠時無呼吸症候群などの隠れた病気が潜んでいる可能性もあります。睡眠についてお悩みがある場合は、気軽に当クリニックの医師やスタッフにご相談ください。


本稿は以下のシンポジウムを参考にしています。
日本睡眠学会 第49回定期学術集会
シンポジウム40
睡眠休養感と心身の健康 一最近の知見と公衆衛生向上のための戦略一

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