第54回日本呼吸器学会総会学術講演会 一般演題 の聴講メモ

第54回日本呼吸器学会総会学術講演会」に出席して、最新の知見を学んでまいりました。以下は私の聴講メモです。
(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

モストグラフ関連

  • PP337 肺気腫の1秒率低下は縦隔内気道の動的狭窄に起因する:最大努力呼気4DーCT画像による直接検証 の平田陽彦先生の発表では、健常者は強制呼息中に縦隔内気道の形状に顕著な変化は生じなかったが、COPD患者では全例で膜様部の嵌入による高度狭窄を生じた。肺気腫における1秒率の低下は肺の過膨張による縦隔内気道の動的狭窄が原因である可能性が高い。
  • PP729 肺気腫患者の気管膜様部の呼息中の振動が呼吸抵抗の周波数依存性を起こす という北岡裕子先生の発表では、モストグラフで認められる肺気腫患者の呼吸抵抗呼吸周期依存性・周波数依存性の発生理由について検討されていた。肺気腫患者では肺弾性圧の減少を補うために努力呼吸をするので胸腔内圧が陽圧になり、周囲の過膨張肺によって圧迫されている気管膜様部が壁内外圧差に負けて内側に反転し気管断面積が減少するので呼気時気道抵抗が上昇する。膜様部が内側に反転した状態で強制オシレーション法により口腔内に振動が与えられると、胸郭入口部の気管膜様部がペラペラと共振(10−20Hzの振動)し振動が吸収されてしまう。一方5Hzの振動は共振を起こさないので肺まで到達すると考えられる。従って安静呼気時のR5-R20 は気管膜様部の変形を反映しているという。
    強制オシレーションの臨床使用に関する提案をされていた。

    1. COPDにおける呼吸抵抗の周波数依存性は、気管膜様部が過膨張肺によって呼息時に圧迫されていることを反映している可能性が高く、肺内病変の寄与と弁別しがたい。→周波数依存性を末梢気道病変の指標とすべきではない。
    2. 気管膜様部が過膨張肺によって圧迫されるのは呼息時に特有の減少であるので、広域周波数を用いずとも、呼吸周期依存性によって認識できる。 など。
  • PP728 呼吸抵抗の異常を認めない慢性閉塞性肺疾患の検討 の発表では、異常を認めない症例は軽症例が多いとした。

感染症関連

  • PP467 初回治療多剤耐性肺結核の一例 の発表では、40歳代の生来健康な男性が肺結核を発症したが、標準初期治療のINH,RFP,EB,PZAで治療開始したが、培養株感受性試験でPZA以外のすべてが耐性と判明し、SM、PZA,CS,THに治療を変更した。右下葉の空洞病変は難治性で、手術にて切除した。2年間の治療により再発なし。10年間で5例の多剤耐性結核を治療し幸い全例治癒している。日本の多剤耐性結核の頻度は未治療患者で0.7%と報告がある。
  • PP475 LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法が診断に有用であった重症レジオネラ肺炎8症例の検討 の発表では、8例中尿中抗原陽性は4例であったが、LAMP法は全例陽性であった。尿中抗原陰性であった4例のうち2例は培養陽性でどちらも血清型5であった。文献的にも尿中抗原陽性率は約6割だが、LAMP法は約96%と有用である。
  • PP481 我が国における百日咳抗体価の分布 の発表では、2007年7月から2013年9月に咳と咳以外の呼吸器症状で受診した1472例を対象に抗PT抗体陽性率を検討した。100単位以上を百日咳感染のgold standardとした場合陽性者107例(7.3%)を認めた。年齢別陽性率は30−80歳で6.4−8.8%とまんべんなく陽性であった。発表施設の職員は有意に陽性率が高く、外来が感染源の可能性があると考察されていた。また、百日咳抗体陽性でも1年以上咳が続いている症例は6%、咳がない症例は8%、併せて13%は既感染か不顕性感染の可能性があった。ペア血清を用いた陽性者の大半が急性咳嗽である。
  • PP869 ヒトメタニューモウイルス(hMPV)肺炎51例の臨床像および画像所見の検討 の発表では、3施設のhMPV感染アウトブレイクの経験からその特徴を検討した。診断はhMPV PCR,あるいは迅速抗原テスト陽性で判定し、105人の症例のうち確診は30例、疑診(症状から診断)が75例、51例(49%)が肺炎を呈した。肺炎ありとなし()内、で臨床像を比較すると、体温は平均39.1度(38.6)、WBC7350(5300)、CRP10,79(4,52)、CPK128.5(65,5)、AST32(19)、であった。胸部CT実施した24例では気管支肺炎像が両肺(88%)、多肺葉(100%)、気管支壁肥厚(96%)を呈した。喀痰検査の可能だった26例では、肺炎球菌5例(19%)、緑膿菌4例(15%)、モラキセラ・カタラーリス3例(12%)、インフルエンザ菌2例(8%)、MRSA1例(4%)、normal flora12例(46%)であった。
    ※ hMPVは2001年に発見された呼吸器感染のウイルスであるが、若年者と高齢者に肺炎を起こしやすいとされる。
  • PP866 インフルエンザ流行期における呼吸器ウイルス感染症の疫学および臨床像の解析 の発表では、インフルエンザウイルス迅速検査のために採取された咽頭拭い液の残液をmultiplexPCR法にかけて病原体検索を行った。195例中88例がPCR陽性であり、インフルエンザA/B陽性は35例、Rhinovirus25例、RS virus8例、Coronavirus7例、Parainfluenza virus7例、Adenovirus6例、Bocavirus4例、Enterovirus2例、Metapneumovirus1例、であった。インフルエンザウイルス感染に特徴的とされる頭痛、関節痛、筋肉痛は特異的な所見ではなく、診断には有用ではないと考察された。
  • PP662 広範な分布をきたす感染性細気管支炎の臨床的検討 の発表では、4葉以上にわたる広範な感染性細気管支炎の原因微生物、臨床背景、閉塞性細気管支炎(BO)の発症などについて検討されていた。1668例の肺炎・細気管支炎症例のうち定義したとおりの症例は20例。起炎菌はマイコプラズマ8例(40%)、インフルエンザウイルス3例(15%)、インフルエンザ桿菌2例(10%)、RSウイルス+ライノウイスル1例(5%)、と限定的であった。感染後のBO発生は認めなかった。

治療関連

  • PP506 当院におけるPirfenidone(PFD)投与例の臨床経過に関する検討 の発表では、38症例(うちpossible UIP 3例)のPFD投与例の長期効果(1年以上)と認容性を検討された。6ヶ月以上の継続群は25例で、非継続群に比較して投与開始前の%FVCと%DLcoは高く、CPI: (Composite Physiologic Index 生理学的複合指標)は低く、6分間歩行距離は長かった。導入6ヶ月後、12ヶ月後は有意に改善していた。既報どおり軽症例で有効かつ認容性が高いと結論した。しかし、18ヶ月の評価ではほぼベースラインまで戻っており、1年以上の長期効果は期待できない。

その他

  • PP644 画像診断にて肺炎像を呈する肺癌の臨床的検討 の発表では、画像上肺炎像(エアブロンコグラム、気道散布陰影、すりガラス陰影)を呈する肺がん8症例の臨床的特徴を検討していた。すべての症例は初診医は炎症と判断し肺炎治療あるいはステロイドホルモン投与された。3症例は気管支鏡検査を実施されるも確定診断は得られなかった。最終診断は全例mucinous adenocarcinomaでありEGFR遺伝子変異、ALK転座は陰性、3例にKRAS遺伝子変異を認めた。初診から210日以内に2例が死亡。肺炎像を呈する肺癌は病理診断の難しさから確定診断が大幅に遅れる可能性があり注意が必要と述べていた。
  • PP745 Hoover兆候の誤解に関する考察 の発表では、Hoover兆候はCOPD患者の診断に有用だが、誤解されている論文が散見される。Hoover兆候とは吸気時における肋骨角の鋭角化である(costal angle closing)。
  • PP763 気管支喘息患者における嗅覚障害の実態調査 の発表では、喘息132例の嗅覚障害を検討した。匂いを感じない程度をVASスケールで評価したところ、VAS50mm以下(嗅覚障害あり)は36%、そのうち鼻ポリープ合併は内科外来患者の25%であった。ダニに感作されていない症例に嗅覚障害の程度が高度であり、嗅覚障害が強い症例は喘息コントロール不良例が多かった。末梢血好酸球が多いほど嗅覚障害がつよい傾向にあった。

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