第54回日本呼吸器学会総会学術講演会 の講演・セミナー・シンポジウムなどの聴講メモ

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

◆教育講演9 呼吸器感染症の最近の話題−疫学診断から治療まで−

大分大学医学部呼吸器・感染症内科学講座 門田(かどた)淳一先生

肺炎:70代から急激に肺炎増加 肺炎死亡の98%は60歳以上で若年者の1000倍の死亡率である。 ただしもし肺炎がなくなっても平均寿命は1年しか伸びない(厚労省発表)。
誤嚥性肺炎のリスク「寝たきり」の原因の1位は「認知症を含む脳血管疾患」である。
誤嚥性肺炎の定義はさだまっていない。
演者らは嚥下造影検査で何らかの以上を確認された誤嚥性肺炎53名のCTを解析したところ 68%が気管支肺炎パターンであった。

ほぼ全例が背側および肺底部など重力方向に陰影が分布する。
誤嚥性肺炎の演者らの定義 嚥下機能以上と胸部CTで上記分布を有するもの
肺炎の予後について、高齢者の死30日以内亡予測因子は誤嚥性肺炎のみである。
誤嚥の危険因子保有は長期予後や肺炎再発に影響する。 1348 例を検討した欧米の検討でも同様の結果であった。
高齢者肺炎 ≒ NHCAP医療介護関連肺炎
NHCAPにおいては嫌気性菌 黄色ブ菌が原因菌として多い。
とくに誤嚥性肺炎では口腔レンサ球菌が最も多い  →おそらく治療しても無理な肺炎である。
それ以外は肺炎球菌、インフルエンザ菌、口腔レンサ球菌、緑膿菌が多く、治療は可能。
耐性菌のリスク因子は、過去90日における2日以上の入院、過去90日以内の抗菌薬投与、免疫抑制、制酸薬の投与などである。
→治療 NHCAPガイドラインのフローチャートを参照すること。
米国22の介護施設で認知症が進行した肺炎225例の前向き研究では、抗菌薬を投与することで死亡リスクは80%減少したが、人生最後のEnd of Lifeの質は低下した! (2010年の報告)
高齢者肺炎の分類(案) (I期)通常の市中肺炎 (II期)誤嚥性肺炎 (III 期)誤嚥性肺炎の繰り返し
今年から胃瘻の点数は半減6000点となり、他施設に紹介するときには嚥下評価が必要となった。

◆インフルエンザ

H1N1 2009年のパンデミックは日本が世界でもっとも死亡がすくなかった。
最近のH5N1インフルエンザA型について、 カナダの20歳代女性 北京からの帰りの飛行機で発症し髄膜炎を併発して7日後に死亡した。家禽との接触なし。

最近のH1N1pdm2009は従来の季節性にくらべて細気管支からさらに肺胞レベルにまで感染(肺胞2型上皮細胞に感染)するのでサイトカイン・ストーム→ARDSとなりやすいことがわかっている。

H5N1(高病原性鳥インフルエンザ)はとくに肺胞上皮への感染が強い → ARDSになりやすい。

H1N1pdm09は入院後にすぐにオセルタミビルを投与すること。一日遅れるごとに死亡率があがっていく。

RCTによる検討では、インフルエンザ合併症に対するノイラミニダーゼ阻害薬を出来るだけ早期に投与するほど喘息、COPD、慢性心不全、易感染宿主、65歳以上の高齢者、などの患者の合併症が減少する。

抗インフルエンザ薬の選択について :入院患者は内服か点滴。肺炎を合併しているものには吸入薬は投与しないこと!

H1N1インフルエンザウイルス感染症に対するステロイド治療について
23の観察研究のメタアナリシスでは、6650人の患者のうち37.8%に投与されたが合併症はなかったが、有効性もなかった。

スペインでの研究では、H1N1pdm2009 の733人にオセルタミビルとマクロライドを併用したが特に効果はなかった。

Ishii H(2012)の報告では、熱だけの段階でマクロライド併用は重症化しなかった。
Kakeya Hら(2014)の報告でアジスロマイシン併用で最高体温が低めになったと報告した。
※インフルエンザウイルス感染症時にマクロライドの併用が予後を改善するとは言えないようである。

◆生物学的製剤と感染症 (ガイドラインを参照すること)

生物学的製剤はその機序からマクロファージ活性化と好中球集積・活性化も抑制してしまう。

生物学的製剤の危険因子:結核の既往歴・家族歴、胸部画像検査で陳旧性肺結核の所見、IGRAが陽性などがあり、特徴として肺外結核、播種性結核 がおおい。肺内に病変がなくても要注意である。

結核発病率 10万人あたり6人程度であるが、TNF阻害薬をつかうとかなり発病率が上昇する。

インフリキシマブ投与5000人中14例に結核発症したが、そのうち結核既往なしが12例といわれていが、呼吸器内科医がその後レントゲンを再読影すると10人は既往の疑いがあった。この10人もINHを予防投与(インフリキシマブ投与前3週間から6−9ヶ月まで投与)していれば発症しなかったかもしれない。
結核対策を行われるようになってから、結核発症率はTNF阻害薬投与しないRAに匹敵するところまで低下している。

併発結核治療の際に、副腎皮質ステロイドやMTX、生物学的製剤はどうするか?
一般的にMTXは中止。ステロイドは継続投与(paradoxical reactionが起こるからである)する。
生物学的製剤は原則中止だが、paradoxical reactionがおこるので最近は投与したほうがよいのではとも言われている。肉芽腫内で結核は薬剤の攻撃から保護されているが、生物学的製剤によりその肉芽が崩壊して薬剤で叩きやすくなり、治癒が促進される可能性がいわれている。

paradoxical reactionを疑う減少 はい陰影の増悪 空洞化 胸水の出現 リンパ節腫大 など。

◆シンポジウム11

これまでの大規模臨床試験のプラセボと比較すると、ステロイドと免疫抑制薬(シクロスポリンなど)との併用は重症のIPFのFVC低下を抑制する可能性がある。

◆急性増悪に関するステロイドの適否

北海道studyでは215例の急性増悪のうち生存71人だった。

日本呼吸器学会では急性増悪の治療は確立していないがステロイドおよび免疫抑制薬が推奨されている。

治療薬:ステロイドパルス98.5% 免疫抑制剤49.2%、シベレスタット72%、が使われている。

産業医大のIPF57名を検討したところ、急性イベントは39例におこり、一人あたり年間0.22回だった。 急性イベントの内訳は感染症や心不全もあり、入院時にすぐに確定はむずかしい。

急性イベント症例のうちIPF急性増悪は45%で、一旦退院できるが、IPF急性増悪以外(感染症や心不全など)は75%が退院可能であった。(IPF急性増悪の予後は不良である。)

IPF急性増悪時の外科的肺生検による病理所見は、CHEST2005ではIPF7名のうち5例はUIP-DADだったが、生存は1名だった。
Sakamoto S Inter MED 2010 109 49
Inase

この2つの論文はシクロスポリン併用したほうが予後がよいと報告している。
※ OPや薬剤性肺炎などステロイドや免疫抑制剤で有効な症例もあるので注意することが必要。

IPF急性増悪と診断し剖検した52例では
呼吸困難 咳嗽が40%以上、前治療はステロイド25%、であった。
剖検結果は DAD78.8%、PTE17.3%、肺胞出血28.8%、その他に右室負荷
DADのない症例は UIPパターン以外に肺胞出血、真菌感染症が多かった。

ステロイド前治療があった症例ではグラム陽性球菌陰性桿菌 アスペルギルス CMVなど種々の感染症が約3割に認められた。ニューモシスチス感染症はなかった。日本ではST合剤を併用するからであろうか。

ステロイドパルスを行った後、感染症合併15例のうちCMV肺炎は11.5%にみとめた。アスペルギルス感染は7例にみとめた。カンジダは1例のみ。消化管出血も多かった。
感染症以外の合併症として、気胸5例(平均1ヶ月で起こる)。

◆Probable and possible IPF ステロイド、免疫抑制剤使用の適否 井上義一先生

10年前に近畿中央病院でおこなった160例の肺生検症例をフォローした場合は、BSCの方がステロイドや免疫抑制剤で治療した方よりも予後がよかった。NSIPの場合は予後の差はなかった。

IPFで治療を検討して良い場合
数ヶ月の経過で自覚症状や画像所見の悪化を認める場合
HRCT上明らかな蜂巣肺を認めない場合
BALF中リンパ球増加をみとめる場合
今のところ典型的IPFではステロイドの治療効果はない と判断している。
CTで蜂巣肺はなくてもUIPのことがあり、蜂巣肺にみえてもNSIPのことがある。
possibleIPF は画像上蜂巣肺を認めないが、CT所見では矛盾する所見がないものを指す。

◆ランチョンセミナー25

結核感染の診断と臨床応用 IGRAs  複十字病院呼吸器センター副センター長 佐々木結花先生
結核罹患率人口10万あたり USA4.1 日本19 インド167
IGRAs
臨床医がIGRAsを行おうとする場面
診断確定に十分な情報が乏しい、検体を十分に採取できない
免疫低下させる治療中

1.目の前の患者の診断確定

喀痰がでない、胃液採取できない、
症例として、肺結核とマイコプラズマ肺炎 の画像診断上類似しているような場合。
各種検査においても結核菌同定がむずかしい場合にIGRAsを提出する
不明熱(粟粒結核など)の診断時にも有用

2.既往感染から発病する危険性

2010年現在で70歳は50%以上潜在性結核感染者である。
→どの疾患、どの治療で再燃する頻度が高いのかの目安を知っておくことが必要である。
日本結核病学会予防委員会2013年の報告によると、既往感染者中の再燃リスクが高いのは
HIV/AIDS感染者、 臓器移植、珪肺、慢性腎不全患者、ステロイド投与 ….
ハイリスク疾患におけるLTBI診断とIGRAs

  1. 血液透析:透析導入が最も多いのは70歳代であるが、結核既往感染50%以上なので発病リスクが高い。→IGRAsで既往を調べるのがよい。
  2. 関節リウマチ:155例 BCG既接種103例いた。 TST(ツ反)陰性でIGRAS 陽性は10%いた。ツ反陰性でIGRAs陰性は7%ほどいた。
  3. 血液悪性腫瘍:TST陰性でIGRAs陽性は30%いた。
  4. HIVはTSTもIGRAsも有意差はなかった。
  5. 移植 +免疫抑制剤腎移植後1年以上免疫抑制剤をつかった症例200人についての検討明らかに結核治療歴9例 しかしTST全例陰性だった。IGRAsは40−50%は陽性だった。

注意:IGRAsは陽性であれば必ず画像で確認すること。

2000年−2011集団発生事例680例の報告があるが、この内医療関連141件26.9%であった。その中でクリニックが最も多く、次に高齢者施設。

3.IGRAs の臨床医の悩み

QFT-3GとTSPOT 選択は?

感度はTSPOTが高く特異度はQFT-3Gが高いと言われるが、免疫の弱い乳幼児において実施した研究によると158例のうち148例が一致したので、ほぼ同等であろう。

QFT-3Gの判定保留 ⇛ 感染状況を総合的に判断し決定する ・・・・感染力の強い感染源に暴露していた場合、陰性や判定保留からの発病者もあったため

TSPOTにおける判定保留 ⇛再検査する 再検査後も判定保留なら1)他の検査法を選択 2)総合的に判断する。

QFT−2Gでの報告であるが、年間3%ずつ陰性となっていくと言われている。
LTBI治療をうけた患者ではINH投与6ヶ月でIGRSsの結果は有意に低下し20−30%陰性化するがのこりは陰性とならない。

4.内因性再燃を推定できないか

結核菌が休眠期に至った場合 結核菌の増殖期に分泌されるESAT6/CFP10の産生が減少し、抗原提示が行われると推測される。(原田ら 結核2011)
再燃した場合は上昇すると推察される。

QFT−3G陰転化は6.4%、33%の症例で認められた。・・・精度管理の問題、個人の免疫状態の変化もあるので、いつも同じ値が結果になるとは限らない(変動が意外に多い)

5.T cell Extend 運搬の問題について

採血後8時間以内に検査を行えない場合、T cell Extend 試薬を検体処理直前に添加することで24時間以内に測定できる。今のところ問題なしとの報告が多い。

まとめ

LTBIを100%検出するものではない

質疑:妊娠時のIGRAs反応はどうなるか。→ 妊娠時免疫は低下すると言われており若干低下する可能性はあるがデータはない。

看護学生が100人中2−3人陽性 ・・・不特定多数の方からの感染はありうる。基準値ギリギリの場合は再検も考慮する。

活動性結核の患者でのIGRAsの値は陰性から高値までさまざま。IGRAsは既感染を示しているに過ぎないことを認識すること。CTを実施することを推奨するが、咳痰の症状が少しでもあれば実施するのが妥当かもしれない。

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