日本呼吸器学会の主催する第35回生涯教育講演会 に出席して最新の知見を学んできました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

第35回(2014年)生涯教育講演会 日本呼吸器学会

LMS法による呼吸機能新基準値
●2001年に日本呼吸器学会でスパイロメトリー基準値が示され、性別に身長と年齢の2変数の重回帰分析一次式で予測式を作成した。回帰分析を行うには従属変数・独立変数ともに正規分布していることが必要だが、実際の臨床測定値は若年では肺の成長とともに増加し、成人では加齢とともに低下するので、年齢との関係を一次式で示すことが困難であった。
そこでLMS法という、正規分布しないデータにおいて主に年齢に関連する予測式を構築するために使用される統計手法を用い、20341名の健常人データを元に2013年JRSスパイロメトリー基準値が改訂された。これにより若年層や高齢者の加齢による変化をより正確に反映されるようになった。
男女ともに高齢者ではFVCはVCよりも有意に小さい。air trappingによると考えられるが、高齢者ではVCの評価が重要である。

 
●肺気量については、加齢にともないRV(残気量)増加し、IC・ERV減少、TLC不変、残気率は増加。身長は高くなると肺気量が増加するが、ICは変わらず、FRC・ERV・RVの変化が大きい。

 
●肥満はFRC・ERV・RVを減少させるが、特にERV減少が顕著である。ERV・FRCの減少をICの増加で代償することでTLC・VCを維持している。

 
●FRC減少時は末梢気道閉塞の可能性があるので、Closing capacityでの評価が望ましい。

 
●肺拡散能力については、従来のBurrows基準値での%DLco・%DLco/VAは日本人の肺拡散能力を過小評価していると考えられる。新基準値使用が望まれる。

呼吸器疾患と感染制御

●飛沫感染と飛沫核感染について
飛沫は>5μm、飛沫核は=<5μm と定義されていたが、飛沫の動態は湿度・温度などにも影響され、その径もダイナミックに変化する。よって飛沫の飛散距離を以前は一律1m程度としていたが病原性の強い微生物は患者から2−3m以内に近づくときはマスクを着用、患者にもマスクを付けることが賢明である。

 
●空気感染 結核は空気感染のみで感染、麻疹や水痘は空気感染優位、SARS、インフルエンザ、ノロウイルスなどは特定状況下で空気感染する。例えばカーペットに嘔吐した吐物中のノロウイルスが、乾燥して歩行者による舞い上がり空気感染することがあると言われている。

 
●院内発生感染症のうち39%が肺炎である。最多の起炎菌は黄色ブドウ球菌であり、その大多数がMRSAである。
インフルエンザ 健常者の1−65歳はワクチン接種による予防効果は70−90%と高い効果を有する。一方療養施設生活の高齢者では予防効果20−40%と低い。ただしインフルエンザによる関連死は80%減少させると言われている。

特発性間質性肺炎の再考 ガイドラインup to dateと治療戦略

●2013年に特発性間質性肺炎(IIPs)の分類が改訂された。
主要IIPs:特発性肺線維症(IPF)、特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)、呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)、剥離性間質性肺炎(DIP)、特発性器質化肺炎(COP)、急性間質性肺炎(AIP)
まれなIIPs:特発性リンパ球性間質性肺炎(LIP)、特発性胸膜肺実質線維弾性繊維症(PPFE・日本ではいわゆる網谷病)
分類不能IIPs:不十分な臨床・画像・病理所見によるもの、臨床・画像・病理所見の重大な不一致がある場合(しばしば組織障害の混合パターンによる)で以下のようなもの
(a)治療により画像や組織所見にかなり変化をきたした場合(ステロイド治療後など)、(b)現時点では十分に認知されていない新たな疾患概念、既知の疾患のまれな変異型(器質化肺炎と線維化の併存など)、(c)HRCTあるいは組織パターンが複合的に認められる場合

 
●HRCT所見におけるUIP pattern
2011年のIPF国際ガイドラインにおける画像診断基準では
胸膜直下・肺底優位、線状影、蜂巣肺 ± 牽引性気管支拡張症、、inconsistent with UIP patternの所見を認めない、の所見をすべて認めた場合は、臨床的にIPFに矛盾しなければ外科的肺生検しなくても診断可能。
このようにHRCT診断は重要であるが、演者らの報告ではHRCTで専門医がUIPと読影した28例を外科的肺生検で確認したところUIP20例、NSIP1例、Unclassified 7例で不一致例(約3割)もかなりあり、蜂巣肺の診断精度は必ずしも良好ではない。またCTでNSIPと診断した22例のうち、病理ではUIP9例(約4割)、NSIP12例、unclassified1例であり、治療反応性が悪い場合はIPF/UIPであったとかんがえるべきである。

 
●HRCT所見におけるinconsistent UIP patternとは
画像所見で以下の7項目のうち1つ以上該当すれば、組織所見でUIP patternを認めても多分野協議にてIPFか否かを検討する必要がある、とされている。
1.上肺野あるいは中肺野優位、2.気管支血管束優位、3.著明なすりガラス陰影(広がり>線状影)、4.多数の小結節(両側、上肺優位)、5.散在性嚢胞(多発、両側、蜂巣肺から離れた部位)、6.びまん性モザイク陰影/エアトラッピング(両側性で3葉以上)、7.気管支・肺区域の浸潤影
各所見の鑑別疾患は以下のとおり
所見1は慢性過敏性肺臓炎(CHP)、サルコイドーシス
所見2はNSIPとサルコイドーシス
所見3はNSIP、DIP、CHP、膠原病
所見4はNSIP、サルコイドーシス、肺結核
所見5はDIP、ランゲルハンス細胞組織球症
所見6はCHP、サルコイドーシス
所見7はNSIP、COP、pneumonia
※ HRCTと外科的肺生検の検討から、画像でinconsistent UIP patternを認めた場合は、ほぼUIPではないことがわかっている。

 
●possible IPF/UIP patternとは、蜂巣肺がはっきりしないが、陰影が胸膜直下優位、肺低区優位、線状影、IPF/UIP patternに矛盾する所見を認めないものをいう。

 
●胸膜肺実質線維弾性線維症(idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis; PPFE)
主に上肺の胸膜および胸膜直下の線維化をきたすまれな疾患である。約半数は感染症を繰り返し、気胸を起こしやすい。通常成人で年齢の中央値は57歳。家族性や自己抗体を認めることもある。PPFE所見の他にUIP所見等を認める場合もある。疾患の進行は60%、死亡率は40%程度である。

 
●主要IIPsの重要な鑑別疾患
過敏性肺炎、膠原病に伴う間質性肺炎
家族性間質性肺炎はIIPの2−30%の症例に認められるが、現在はIIPに含まれる。
膠原病の診断基準は満たさないが疑われる症例の一群は、現時点ではIIPに含まれる。

 
●IPFにピレスパは弱く推奨する治療、とされた。

 
●特発性NSIPは比較的均一な線維化が特徴であるが、シクロフォスファミドとプレドニゾロンの併用療法はIPFには無効だが、f−NSIPには有効。

 
●特発性器質化肺炎の画像パターンは外層領域の浸潤影、気管支血管束主体の陰影、Reversed halo sign、帯状浸潤影。

 
●喫煙関連間質性肺疾患 呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患RB-ILD
喫煙患者で画像所見(すりガラス陰影と小葉中心性の結節)とBAL所見(リンパ球増多を伴わないsmorker’s macrophages)をもとに外科的肺生検はなくとも診断されることが多い。

 
●IIPsを疾患経過(disease behavior)によって分類することが提案されている。

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