2016年3月11日 福山ニューキャッスルホテルに於いて「IPFセミナー 」が開催されました。

2016年3月11日 福山ニューキャッスルホテルに於いて「IPFセミナー 」が開催されました。
演者 国立病院機構南岡山医療センター 呼吸器アレルギー内科 谷本安先生
演題は『特発性肺線維症(IPF)の治療を考える』です。
先生にご教示いただいた最新の知見について報告します。
以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

IPFの予後は不良

生存期間中央値は2-3年で5生率は30%前後である。
診断時の年齢とIPFの予後の関係は、高齢ほど予後が悪い。
画像で典型的IPFと非典型IPF(画像はNSIP)では、非典型のほうが予後がよい。
IPFとf-NSIPの予後比較では、5生率ではfは6割あり、IPFより予後がよい。
日本のIPFより診療の現状:自治医大Bando先生の報告では、軽症IPDFの殆どは2001年は全く治療していないが、2009年以後pirfenidonを使用が増え、それ以外は免疫抑制剤を使用。一方重症IPDFはステロイドと免疫抑制剤、2009年は4割がpirfenidonを使用。
2014年のBandoらの報告では、症状発現からの生存期間の中央値は105ヶ月、初診時からの生存中央値は69ヶ月と延長してきている。
IPFは悪性腫瘍のターミナルと比較して、終末期ケアへのアクセス不足が問題である。予後は肺がん並にもかかわらずである。息切れが強い、息切れ、疼痛、不安症状は殆ど軽快することはない。HOTから死亡までの期間は中央値8.4ヶ月。
Q:終末期に急性増悪のために突然亡くなるかもしれない患者に、どのようにICするかが課題である。
人工呼吸器を装着されたIPFは患者の院内死亡率は50% (Respir med 2015)。
IPF患者における急速な肺活量の低下は急性増悪のリスクである。(Kondohら )
治療効果判定基準(呼吸器学会 間質性肺炎診療ガイドライン)
 開始後3-6ヶ月後に評価する。
 悪化なければ継続し、以後6ヶ月ごとに効果判定する
 ①改善とは 2項目以上
  症状、画像所見、呼吸機能%VC、などなど
 ②安定 2項目以上
 ③悪化 2項目以上
pirfenidoneはプラセボ群(VCが-150ml/年)に対してVC減少を半減させる。
%VC70%以上の症例で、よりpirfenidoneは有効である。
無増悪生存期間は52週であった。
CAPACITY/ASCEND試験の解析から、pirfenidoneは軽症例でも有用性がある。
軽症例において治療効果がより大きいことが判明した(Japan Respir Invest 2015)。
治療1年後では、予測努力肺活量(%FVC)が10%以上減少した患者の死亡を約43%減少させた。
pirfenidoneに認容性の高い(つまりきちんと薬が服用できる)IPF患者は、ベースラインの呼吸機能が良好かつ治療も有効(Konishiら Internal Med 2015)。
IPFに対するニンテダニブの効果- Tomorrow試験-
  プラセボ群に比しニンテダニブ150mg 1日2回投与群が、%FVCの低下を有意に抑制した。
INPULSIS試験層別化解析によると、ニンテダニブは軽症IPF群に対しても有効性が示された。
IPF群に対するニンテダニブ、ピルフェニドンは死亡アウトカムに対する有効性は認めらない(CHEST2016)、というネガティヴな報告も最近認める。
ピルフェニドン長期投与(2年目以後)では、%VC減少抑制効果が認められなくなるという印象である。

症例1 74歳男性
 PFD投与後1ヶ月後からKL6は低下傾向 3ヶ月後で829→452、FVCが2.75→2.90、しかし6ヶ月後は617と再上昇傾向。FVCは2.94と減少なし。

症例2 62歳男性 つりが趣味
 PFD開始時KL-6 3433, FVC2.81 PFD投与でKL6はどんどん低下したが、光線過敏のためPFD3ヶ月で中止した。ニンテダニブ開始時FVC3.00(75.8%),KL-6 1854 →3ヶ月でFVC2.93 KL-6 3321。・・・PFD中止で活動性が高まりニンテダニブの効果がすぐには見えなかった症例。

症例3 74歳女性
 XPが6年前 4年前 受診時と徐々にゆっくり増悪。半年前との比較では著変ないが、数年前と比較すると増悪がわかる。4年前のCTと比較すると受診時はかなり線維化が進行していた症例である。

症例4 69歳男性
 VATSで診断した症例。PFD投与後2年7ヶ月で急性増悪し死亡。PFD投与後1年目は有効、2年目で増悪。ニンテダニブに変更したが、副作用(嘔気嘔吐)で自己判断で中止。その後まもなく急性増悪。

間質性肺疾患におけるテロメア長 (Chest2015)
 IPFではテロメア長が短い。
 TERT変異を持つ家族性IPでは特に短い。
IPFに対する胎盤由来間葉系幹細胞投与 (Daniel. C. Chambers et.al Respirology 2014) で肺機能が維持?された。

まとめ

IPFは早期介入の時代になる。そこで
 指定難病の申請を
 ピルフェニドンとニンテダニブのどちらかを先に使うか
 ピルフェニドンは食欲低下と光線過敏症に注意
 ニンテダニブは肝障害と下痢に注意
  下痢は6割といわれるが、意外に軟便程度のことも多い。
 ニンテダニブの200mg/日の有効性は?
 今後の薬剤や再生医療に期待
※悪性腫瘍にニンテダニブが投与された報告では急性増悪の報告がある。薬剤性なのか原疾患の急性増悪なのかは確定できない。
※国立病院機構と京都大学の間で、疾患特異的なIPS細胞を樹立するための共同研究がすすんでおり、かなり樹立されているらしい。

Q and A

Q1 ピルフェニドンはせいぜい%VCの低下スピードを緩徐にする程度の効果と考えていたが、演者の実感はいかがか。
A1 よくなったという実感がある症例は確かに少ない。

Q2 ニンテダニブによるQOL改善はどうか。
A2 まだ発売して半年だが、いまのところピルフェニドンより有効だった、という実感のある症例はまだない….ただし、ピルフェニドンが使えない、あるいは効果が減弱した状態での治療変更として投与しているので、バイアスはかかっていると思う。
咳が目立つ患者が、かなり咳の量が減った症例はある。

Q3 薬物作用機序からピルフェニドンやニンテダニブは中止すると急性増悪しやすいのではないか?
A3 切り替えのタイミングなどは治療効果が悪いときなので、タイミング的には増悪しやすいのかもしれない。

Q4 ピルフェニドンとニンテダニブの併用はどうか。 
A4 ピルフェニドンがニンテダニブの血中濃度を下げるので併用は推奨しない。

Q5 症状のない症例はどのように扱うか。
A5 確かに治療は難しいが、経過をみて陰影やKL-6が増悪したときに提案すべき。できれば3ヶ月事に検査をフォローしていき、変化を捕まえて治療をすすめる。

Q6 年齢制限はあるか、評価は%FVCか%VCか。
A6 年齢よりも服薬がきちんとできるかどうかが重要。評価は%VCでも%FVCのどちらでもよい。

Q7 健診発見の軽症例、早くVATSしたほうがよいか。
A7 VATSはしたほうがよいであろう。

Q8 Possible IPと判明した場合、すぐ治療したほうがよいか。
A8 治療については経過をみて、増悪を確認してからの方がよいであろう。

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