第445回福山地区内科会学術講演会 於福山ニューキャッスルホテル 平成28年3月24日

第445回福山地区内科会学術講演会 於福山ニューキャッスルホテル 平成28年3月24日

「私ならこう使う~SU剤からSGLT2阻害薬まで~」

東大和病院 糖尿病センター センター長犬飼浩一先生

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

糖尿病講演会といえば・・・・
低血糖だめ 食後高血糖だめ だからSU剤だめ 質のいい血統コントロールを、
⇛ SU剤は絶対必要である。
SU剤と同様の作用としてインスリン・GLP-1注射薬
SU剤はとにかく安い。
心血管イベントを抑制が大事,というが、がん検診をしっかり受けるほうが死亡率の低下に有効。
肥満ダメ、でもSGLT2阻害薬は慎重に!!
⇛ SGLT2阻害薬は積極的に使用しましょう。
インスリンの早期介入を
GLP-1注射薬の早期介入を、と言われるが非専門医はめったに導入することはないであろう。
⇛ 病態に応じた適応、費用対効果を考えましょう。
HbA1cは7%未満にしましょう。
⇛ 症例に応じた薬の選択や変更が重要。
どの薬も効果は同じですよ、と言われるが
⇛ 同じクラス内でも効果はかなり違います。
Beyond the BS control がんに良い

●インスリン分泌低下型の痩せ気味の患者には、インスリン分泌系薬物を有効に活用する。

インスリン分泌系薬物には、
SU剤 グリニド系(グルファストなど)、DPP-4阻害薬
インスリン分泌系薬物は、インスリン分泌低下型糖尿病に投与する。
インスリン分泌能はどうやって判断するのか。
尿中Cペプチド
空腹時Cペプチド
HOMAーβ
C-ペプチドindex
これらはすべて空腹時のインスリン評価なので時代遅れ。
※ 食後の血中Cペプチドで判断するのがベスト
食後1-2時間に血中Cペプチドを測定すべし。
インスリンを測定するのは無意味。刻々と変化するから。
ただし、クレアチニン1.5mg/dLを超えるとCペプチドは血中に残るので、食前のデータも必要となる。
インスリン分泌能低下の評価は
食後血中Cペプチド(CPR) 4ng/mL 未満 である。
インスリン抵抗性の場合は
食後血中Cペプチド 4ng/mL以上 である。
肥満が非常に強い人は6ng/mL以上のこともある。

恒久的インスリン注射の開始基準は以下のいずれかがある場合。
食後CPR2.0ng/mL未満
経口薬やGLP-1注射薬を駆使しても1年以上HbA1c8%未満を達成できない
細小血管合併症の進行(網膜症、腎症)
尿ケトンが大事 尿ケトンが2+以上あるとまずはインスリン開始。

症例1 84歳高齢者の痩せた症例に治療の変更をした。

アマリール6mg(SU剤の2次無効)、ジャヌビア投与中
HbA1c9.6%、尿ケトン陰性
どんな変更をしたか?(4択)
ジャヌビア→テネリアへ変更
SGLT2阻害薬を上乗せした
インスリンを開始した
アマリール6mg→1mgへ減量した ・・・正解はこれ!その理由は以下のとおり
※なぜ糖尿病(高血糖)を放置するとインスリン分泌が低下するのか
高血糖が持続すると免疫染色にてラ氏島のβ細胞はインスリンとグルカゴンの両者が染まるようになる。つまりβ細胞がα細胞に再分化してグルカゴンを分泌し始める。インスリンで血糖を下げるとグルカゴンは染まらなくなる(可逆的な変化である)。高血糖でインスリン分泌負荷がかかり、小胞体ストレスといって作り損ないのタンパク質が細胞内に溜まってアポトーシスを起こす(不可逆的変化)。
グルカゴンはインスリン分泌を抑制するが、インスリンはグルカゴン分泌を抑制する。
SU剤はβ細胞とα細胞の両者に作用するが、インスリン分泌能が保たれているときは分泌されたインスリンがグルカゴン分泌を抑制するので結果として血糖が低下する。逆にインスリンを分泌できない患者にSU剤を投与するとグルカゴンを分泌促進してしまう!
※ SU剤高用量による血糖上昇のメカニズム
少量SU剤はβ細胞をより刺激してα細胞には少ない刺激、高用量はその逆となる。だからSU剤は絶対に少量で使うべきである。
アマリールは1mgを最大用量とし、体格が大きければ2mgまで。
SU剤のポイントは、投与量を増やさないこと。増やすと血糖上昇させる原因になる。

症例2 74歳女性 165cm 67kg BMI24 eGFR64.8 軽度認知症

ベイスン0.6、 テネリア、 メトグルコ 投与中 HbA1c11.6%
アクトスで浮腫の既往
インスリン分泌系がなぜ入っていないのか!片手落ちである。
テネリアは分泌系であるが、インスリン分泌促進薬がないと今ひとつ効きが悪い。
→ ベイスン中止・・・1日3回も飲めない、認知症があるのに。
メトグルコは中止・・・高齢者でeGFRが低めなので乳酸アシドーシスを起こす可能性が高い。
本例のような高齢者こそ、必要に応じて少量のSU剤・グリニドは効果的。 (アマリールやグルファストなど)
高齢者において毎食前服薬はコンプライアンスの低下を招く。認知症があるとまして難しい。(指導した内容を翌日には忘れている。)
→ 高齢者は朝1回に内服をまとめる。
高齢者でインスリン分泌低下している症例にはSU剤は非常に効果的である。

DPP-4阻害薬とSU剤などのインスリン分泌系薬とは非常に相性がよい。
DPP-4阻害薬で血糖コントロールが悪い場合は少量のSU剤かグリニドを加えること。
DPP-4阻害薬は基礎インスリンと相性がよい。逆に超速効型インスリンとは相性がわるい。
強化インスリン療法にDPP-4阻害薬加えてもあまり効果ない。DPP-4阻害薬は中止するか、超速効型インスリン部分をDPP-4阻害薬に置き換えることを考える。
基礎インスリンだけでは食後の高血糖が抑え難いが、そこにDPP-4阻害薬を加えると平坦になる。
たとえば、ランタス10単位 + エクア を加えるとか。
DPP-4阻害薬が低血糖を予防する働きがある。DPP-4阻害薬は血糖の高いところを下げ、低いところをあげる。

症例3 72歳男性 痩せ型、インスリン分泌低下型の症例 eGFR 60

ランタス8単位 + エクアで昼食前と眠前の高血糖(180-200mg/dL)が抑制できなかった。
やはりこの症例もインスリン分泌促進が少量入ると効果的であるが…
選択枝として以下が考えられる。
ボーラスインスリンを昼食前と夕食前に加える ・・・確かに下がるが高齢者では低血糖のリスクが高まる。
少量SU剤を加える  ・・・朝食前に低血糖が危険 1日じゅう血糖を下げるので。
グリベス(グルファストとベイスンの合剤) 毎食前を加える ・・・血糖は低下するかもしれないが、高齢者に毎食前はおそらくコンプライアンスが悪い。おすすめできない。
シュアポストを1日2回加える ・・・シュアポスト(レパグリニド)はグリニドではあるがいわゆるグリニドとは違い、SU剤よりも効きが速く、しかも非常に半減期がながく、内服3時間後まで有効。 なので、一日2回食後に服用させても十分に食後血糖を抑制できる。わざわざ食前に服用しなくても十分に有効である。とくに本例は昼食前と眠前の高血糖なので最適である。グリニドは毎食後では意味がないが、シュアポストは長時間効くので食後でも血糖改善する。シュアポストは半減期が長めのSU剤と考えた方が理にかなっている。
シュアポストは1日1回だけでもよい。本例のような痩せている高齢者(分泌低下型)では昼間効いているだけでも意味がある。

※まとめると、インスリン分泌低下型糖尿病(痩せてる患者)のステップアップは
1 DPP-4阻害薬
2 DPP-4阻害薬 + グリニド
3 GLP-1注射薬 へ移行
4 DPP-4阻害薬 +SU剤
5 ランタスBOT+DPP-4阻害薬 ・・・コレが王道

●BMI 25以上 の肥満の比較的若年者の治療

日本においてSGLT2阻害薬に対する評価が著しく低い、何故か。
経口摂取をした炭水化物を尿糖として排出する、ということが糖尿病専門医からすると気に入らない!
※崇高な糖尿病治療に対するインチキ食事療法であると。
Q SGLT2阻害薬による体重減少の主な機序は、尿糖排出によるカロリーロスか?
A 違う
SGLT2阻害薬投与は、腎機能低下によって尿糖排泄が低下しHbA1c低下効果は弱まるが、体重減少効果は強まることがわかっている。
SGLT2阻害薬はマウスの実験において糖の分解を抑制(5分の1)して、脂肪の分解を促進(2倍)する。
SGLT2阻害薬はα細胞に作用してグルカゴン分泌促進し肝糖新生を増加させる。グルカゴンは脂肪を分解して糖新生している。
つまり、SGLT2阻害薬服用すると、グルカゴンを分泌させ脂肪を分解して糖新生し血糖は上がるが、その糖は腎臓から排泄される。腎機能が低下した症例はグルカゴンクリアランスが低下して濃度が上昇しており、体重が減りやすくなる。ただし高度の腎障害では尿糖排泄がおいつかなくなるので血糖上昇がまさり、HbA1c が上昇する。
SGLT2阻害薬はHbA1c低下を期待してはいけない。体重減少→インスリン感受性改善に期待。

症例 50歳男性 BMI 32、 HbA1c7.4% SGLT2阻害薬投与してもあまりHbA1c は低下しなかった。(-0.4%)
ある研究では、肥満患者の目標体重は -5%である、そうすると耐糖能は改善し糖尿病発症の相対リスクは58%くらい低下するという。
ランタスにSGLT2阻害薬をadd on した群(HbA1c-0.7%、体重-2kg)よりも、switch群の方が体重は減った(HbA1cは低下せず、体重ー5%以上)、ただしHbA1cはあまり低下しなかったが、体重減少効果でインスリン感受性が改善してくる。この症例ではHbA1cは一旦8.2%まで上昇後7.3%に低下した。
アクトス→SGLT2阻害薬に変更してもやはり同様に体重が減少しその後HbA1cが一旦上昇後低下する。

※まとめると SGLT2阻害薬投与時のインスリン作用の減弱法→グルカゴン優位となり脂肪分解がすすむ。
SU剤 最少用量まで減量もしくは中止
TZD(アクトス) 中止
α-GI薬 グリニド 中止
DPP-4阻害薬 後述
ボーラスインスリン 6単位未満  ・・・はじめから6単位未満なら中止。
基礎インスリン 2-3割減 ・・・でもしっかり残す
これらの選択肢から1-2つは実施してみる。

※血糖降下薬中メトホルミンがもっとも安価で有用
症例45歳男性 (写真あり)
アピドラ中止してメトホルミンを追加したら更に体重がへった。インスリン分泌系なのに、なぜ追加したか?
メトホルミンはグルカゴン分泌を増やすので体重が減るのである!
海外では特に肥満者の糖尿病に、SGLT2阻害薬とメトホルミンが2大処方となりつつある。

肥満が強い人ほどDPP-4阻害薬は効果が低い!(HbA1cは0.5%しか低下しない。)
DPP-4阻害薬は太りにくいというが、グルカゴンを促進しないので痩せにくい。
BMI25未満だったらDPP-4阻害薬
BMI30未満ならインスリン作用を補完しグルカゴン抑制作用を考慮してDPP-4阻害薬で治療
BMI30以上ならSGLT2阻害薬に変更 (インスリンは分泌されているのだから、インスリン分泌系は余計太る。インスリンを抑制し、脂肪を燃焼するのがよい)

BMI 30以上 かつHbA1c7.5%以上なら DPP-4阻害薬→SGLT2阻害薬に切り替えるのがよい。

症例 40歳女性 治療でどんどん太るため演者に紹介された。
ジャヌビア メトグルコ アマリール セイブル を処方されていた。
ジャヌビアとアマリールを中止し、SGLT2阻害薬追加とメトホルミンで、体重はかなり減少し、HbA1cは横ばい。

SGLT2阻害薬が高齢者によくないと言われるのは、 ・・・脱水の副作用が増える
脱水(易疲労感・脱力)
1 Na利尿 2-4Wで改善傾向
2 浸透圧利尿(水利尿) 十分な水分摂取が必須
65歳以上の高齢者に注意
1)口渇中枢の感受性低下
2)軽度認知障害による指導の不徹底・・・飲水を指導しても、すぐ忘れる
3)頻尿のため飲水を控える ・・・水を飲むから頻尿になるのではないかと考える
SGLT2阻害薬の投与に関して特に高齢者では以下の症例を推奨する。
脳梗塞の既往、軽度認知障害、頻尿傾向 のいずれもなし。
SGLT2阻害薬間で強弱の差がない。 尿糖排出はほぼ全開と考えて良い。
イプラ50
ダパ10
トホ20
ルセオ5
カナグル10

まとめ
1.SU剤は空腹時血糖改善を目的にインスリン低下型糖尿病に対して上限2mgとして使用する。
2.SGLT2阻害薬はBMI25以上の症例に対してインスリン分泌系薬物を減量しながら投与する。

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