第114回日本内科学会中国地方会 第54回中国支部主催生涯教育講演会 於岡山コンベンションセンター

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以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

高齢者の心不全を考える 奈良県立医科大学循環器・腎臓・代謝内科学 斎藤能彦先生

このままの出生率では100年後の人口は明治維新なみの3300万人になると推定されている。
2013年JROAD報告では心不全入院は約23万人、AMI6万8千人。
入院死亡率は心不全もAMIも8%前後である。
NIPPON DATAによるとBNP100以上が心不全治療の必要性の可能性が高く、有病率男性2%、女性0.3%程度である。
とくに男性は60歳以上で急激に増加する。入院患者の中で心不全は 60歳以上2%、70以上で4%、80歳以上で10%を越える。
高齢者心不全の特徴と問題点
 HFrEF 対する治療戦略の改善がある。
 HFpEFの増加 ・・・死亡率を低下させる治療法がまだない。
 多臓器疾患としての心不全
   心腎貧血症候群
 入退院の繰り返し
NARA-HF研究によると心不全の平均年齢は73歳で、75歳以上が50%以上である。つまり心不全は後期高齢者の疾患である。
背景疾患として75歳未満では拡張型心筋症と糖尿病が多いが、75歳以上では高血圧が84%、心筋梗塞がおおい。
高齢者は非心血管死亡が増加してくる。後期高齢者では感染症死がとくに多くなる。
多変量解析では全死亡では男性、NYHA、高血圧、eGFRが予後因子である、心血管死に限るとNYHAとeGFRが有意である。一方感染症死に対する予測因子では有意な因子はいまのところない!
心不全で入院したEFは35%と65%の2峰性であるが、同じ病態ではないであろう。
高齢者の心不全はHFpEFが悪い。拡張能が悪い。収縮性は保たれている。
HFpEFは収縮能が保たれていてもHFrEFと予後は変わらない。
治療;HFpEFの予後改善するものは今のところない。
 浮腫には利尿薬
 併存疾患への治療 高血圧 糖尿病 腎疾患 貧血
 臨床治験中の薬がある LCZ696
PDF9Aの発現がHFpEF患者に増加している。AMP由来のcGMPが低下しておりHFpEFの病態であろうと言われている。
心不全患者の貧血を調査すると、MCV100以上の大球性貧血の患者がおおく、予後もわるい。
BNPのカットオフ値と数値による対応
 正常は18.4、
 一般的に40以下は心不全の可能性は少ないが経過観察すること。
 40-100未満は 軽度の心不全の可能性あり精査する。
 100以上は治療の対象となる心不全の可能性があるので精査あるいは専門医へ紹介する。
 200以上は治療対象となる心不全の可能性が高い。
BNPは前駆体として分泌される 前駆体は→ NTproBNP(切れ端) +BNP活性体 に分離される。
NTproBNPのデータの解釈は
 BNP40相当は125、 BNP100相当は400、 BNP200以上相当は900となる。正比例ではないので注意が必要。
NTproBNPは腎機能障害があると過大評価(つまり上昇する)ので注意。
BNPやNTproBNPは管理目標値、というものはない! 体調がよいときのデータと比較して2倍以上に上昇した場合に何かしらの増悪があったと考える。
BNPが2倍以上に上昇した場合の対応
 レントゲン、心電図、実施する。
 症状安定なら2-4週以内に再検する。
 症状増悪なら治療強化か専門医に紹介。
BNP100程度なら心房細動だけでもあがりうる。

COPDと喘息の合併症候群(ACOS) 山口大学呼吸器・感染症内科学 松永和人先生

喘息の定義が2015年に若干変わったので注意。

COPDの定義は、 吸入有害粒子に対する異常な炎症反応により肺が障害され、持続性の気流閉塞が生じる疾患(FEV1/FVC<70%)

COPDでは喫煙によりHDAC2が低下し(つまりHDACの機能不全)、炎症サイトカインが上昇する。
テオフィリンはHDAC2を回復する作用が認められている。
喘息とCOPDが合併している頻度は推定で10-30%。
N=228例の喘息患者を長年月追跡調査したThorax2003の報告では、当初は全例可逆性気流閉塞だったが、非可逆性となる症例が10数%認めた。
ACOSは増悪頻度が高い、 年2回以上の急性増悪や救急受診頻度も高い。
喘息の固定性気流障害となる理由:慢性持続炎症や急性増悪から再生する過程で基底膜肥厚、平滑筋増生、線維化などを生じることによる。
肺機能は25歳頃にピークとなるが、幼少期に肺炎などの感染症、小児喘息、先天性肺疾患などに罹患すると、非罹患群に比し有意に肺機能が低下する。
若年発症COPD(40代で発症するのも)に対する寄与因子はなにか。
 タバコ 39%
 気道過敏性 15%
 喘息既往 9%
 幼少時の感染症 6%
喘息はすべての年齢層で発症する。
 女性30% 男性40%は成人発症である。
喘息が持続性の気流閉塞を合併する要因
 喘息患者が喫煙をつづける
 気道過敏性亢進はCOPD発症のリスクファクター
 気道リモデリングの進展(肺発育不全、慢性炎症)
GINA2014ではACOSの診断ステップを提案している。
治療 ACOSでは気流制限がつよいのでトリプルテラピーが推奨 ICS+LABA+LAMA
スペインCosio BGらの報告では(CHEST2016)
 ACOS合併は15%。しかしACOSとnon-ACOSの臨床像を比較すると何一つ有意差はなかった。
 ではどうやって鑑別するのか。炎症に着目する。
 喘息では好酸球性炎症、ACOSも好酸球性気道炎症あり。
ACOSの補助診断における呼気NO濃度測定は有用性である。ある報告では気道可逆性試験よりも有用。
喀痰好酸球によるCOPDのステロイド反応性の予測 (Leigh R ERJ 2006)
 COPDと診断した患者の喀痰中好酸球が3%以上あればICSは有効、3%未満なら効果なし。
 アトピー素因もなくて呼気NO35ppb以下の症例ではICSによる呼吸機能改善は全く認めない。
COPDにおいてICS吸入は高用量ほど肺炎リスクが上昇する。(Yawn BPら Int J COPD
2015)
mMRC ,%FEV1, 身体活動性 を指標にして治療薬の併用について検討することが大事。
喀痰好酸球、呼気NO濃度、血清IgEなどを参考に喘息の合併を判断する。
末梢血好酸球5%以上、実数350以上なら好酸球性気道炎症もあるかもしれないと考える。
ACOSに高用量ICSは肺炎のリスクが上昇するので、低用量がのぞましい。

尿酸管理に関する最新知見 帝京大学内科学講座腎臓グループ研究室 内田俊也先生

慢性腎不全は進行する運命にある
 ネフロンは120万
 腎不全の機序: 初期侵襲→ ネフロン減少→輸出細動脈を収縮させて濾過量を増やす →糸球体高血圧・糸球体過剰ろ過 →糸球体硬化
糸球体高血圧・糸球体過剰ろ過は尿アルブミン 尿蛋白をおこし、最終的に腎線維化
透析は1人500万、 1兆5千億円かかっている。
高血圧、尿蛋白がCKDの2大リスク因子、次に高尿酸血症である。
eGFRが60を下回ると急速に尿酸値が上昇する。
便に尿酸が分泌されて尿酸値上昇を代償していると考えられている。
尿酸に特徴的な障害として輸入細動脈に障害を起こす。
動物実験では高尿酸血症により輸入細動膜症(輸入細動脈の肥厚)を起こすが、尿酸をアロプリノールで低下させると輸入細動脈の障害が改善した。演者らの研究では高尿酸血症で尿蛋白も増加する。
CKDの進行は直線的に機能低下すると考えられていたが、実際には波打ちながらとかあがって下がるとか、種々の経過があることが分かった。
Coresh JらJAMA2014によると2年間でeGFR30%低下すると予後不良
糖尿病、高尿酸血症、蛋白尿、高P血症が予後不良因子。
RAS inhibitor は女性にのみ有効で蛋白尿減少に寄与するらしい。
高尿酸血症の治療目標
 随時尿UA/CRE <0.5、は尿酸排泄低下型・・・腎不全による
                          >0.5 ・・・治療薬はアロプリノールなど
ガイドラインでは尿酸値>8mg/dLで薬物治療となっているが、CKD進行抑制としては6以下がよい。
生活習慣病としての尿酸値は5.5以上は異常と考える。

インクレチン関連薬の現況について 岡山大学腎・免疫・内分泌代謝内科学 和田淳先生

血糖コントロール熊本宣言2013
糖尿病治療ガイドには薬の使い方は書かれていない。
欧米のガイドラインでは食事・運動療法後 メトホルミンをまず処方しその後の追加も示している。
DPP4阻害薬は、GLP1を増加させる
DPP-4阻害薬はGLP-1非依存性にNa利尿を促進する。
DPP-4阻害薬の腎保護効果 ・・・蛋白尿が減少する。
DPP-4阻害薬は以下の作用をもつ。
 可溶型DPP-4阻害薬による血糖降下作用
 グルカゴン抑制作用
 血糖変動抑制作用
 心血管腎保護作用
 血管内皮機能保護作用
 脂質異常の改善作用
DPP-4阻害薬の副作用に、 
 類天疱瘡の報告あり。 リナグリプチン シタグリプチン ビルダグリプチンで報告あり。
 その他アナフィラキシー、スティーブンス・ジョンソン症候群など
 ビルダグリプチンによる肺多発結節影(肉芽腫)アレルギー機序を疑うが、投与中止で消失した。
GLP-1注射薬は血圧と脈拍を増加させる。・・・心血管保護作用は本当かどうかやや疑問もある。
SGLT2阻害薬のエビデンス
 尿糖排泄増加 ・・・インスリンとは無関係に血糖が下がる →その結果インスリン低下・グルカゴン上昇Empagliflozinは1型糖尿病患者の糸球体過剰ろ過を抑制する。
db/dbマウスの実験では、ダパグリフロジンは糸球体の過剰ろ過を抑制し蛋白尿を減少させた。
SGLT2阻害薬は、
 インスリン非依存性の血糖降下作用 グルカゴンの糖新生の増加
 肥満の改善
 腎保護作用
 心血管死を予防
SGLT2阻害薬の投与推奨例は、
 2型でインスリンが保たれている。
 若年でメタボ ・・・インスリンだと食欲も増しコントロールできないこともおおい。
 インスリン抵抗性がつよい。
 高血圧合併。
 腎機能が保たれ蛋白尿がある。
投与を控えるべき症例は
 高齢者 シックデイが理解できないことがおおい。
 痩せた高齢者 ・・・脱水に注意

脳卒中 予防と治療の最前線 川崎医科大学脳卒中医学教室 八木田佳樹先生(やぎたよしき)

脳卒中:脳血管の異常により急性に生じる脳機能異常。 死亡原因の第4位、寝たきり原因の第一位。
脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 がある。
60代以上で急激に増加し特に70から80代がおおい 90代以上も増えている。
急性期治療:
 いかに速く閉塞血管を開くかが重要である。
 rt-PA 発症4.5時間以内に治療開始できるものに限る ・・・出血性合併症が起こるから
 2015年 血栓回収術の有効性が証明された!
rt-PA  の問題点
  頭蓋内出血 5.8%。
  時間的制約があり急性期脳梗塞の10%程度である。
   4.5時間とは最終無事確認時間からカウントする!
  無抗例がある、 自宅に帰って仕事復帰できるのは37%である。
急性期血管内治療の有効性: かなり再開通までの時間が短縮されるようになった。
脳卒中の初発症状
 片麻痺 49%
 構音障害 23%
TIAは脳梗塞発症の警告症状である。
7日以内にTIAが疑われる患者では、
 発症48時間以内なら専門医に紹介。
ABCD2スコア TIA後の脳梗塞発症リスク評価 (LANCET2007)
脳卒中は10年で50%が再発、 メタ解析でも40%が再発する。
発症予防には、危険因子の回避が重要。
ラクナ梗塞の責任部位は細動脈、 アテローム血栓性脳梗塞は動脈硬化が原因で大血管、 心原性脳梗塞は心房細動。
脳卒中治療ガイドライン2015
 一次予防と二次予防に分かれて解説されている。
PROFESS試験 対象は発症後15日からエントリーの患者群であり、血圧は低いほどよいという結論。
PROFESS試験 (JAMA2011) 対象は慢性安定期の患者。
 収縮期血圧平均120-140でもっとも再発がすくなく、110未満だと逆に脳梗塞が再発が多かった。
脳梗塞再発予防のための抗血小板療法
 非心原性では抗凝固薬よりも抗血小板薬がよい。
 非心原性のとき、シロスタゾール、クロピドグレル アスピリン チクロピジンが投与される。
 ラクナ梗塞では抗血小板療法が進められる。
脳血管障害の特徴:
 細動脈病変(ラクナ梗塞)の存在。
  動脈硬化とは異なる病態である。
  抗血小板療法の効果は限定的である。
高血圧を基盤として穿通枝にリポヒアリノーシスを起こしている(血管の土管化と表現された)。
アスピリンは効果の立ち上がりが早い。
 アスピリンの抗血小板作用は不可逆的。
 大量投与で血管内皮障害による血栓形成促進する。→低用量なら問題とならない。
クロピドグレル
 プロドラッグであり立ち上がりが遅い。ゆえに急性期には向かない。
 血小板以外への作用がすくない。
シロスタゾール
 cAMPを増加させて抗血小板作用を発揮。
 血管拡張作用 血管内皮保護作用がある。
 心臓に頻脈を起こす可能性あり。
ラクナ梗塞に抗血小板療法を上乗せしても再発は抑制されず、脳出血合併症が増えた。(NEJM2012)
ラクナ梗塞では降圧療法は有意に再発を抑制した。
心房細動症例における左心耳内血栓に注意。
CHADS2スコアと脳卒中発症率 
 2点以上ならリスクがあっても、ワーファリゼーションが有意に脳卒中を抑制する。
ワルファリンの特徴(良くない点)
 相互作用が多い。
 治療域が狭い。
NOAC: ダビガトラン リバーロキサバン アピキサバン など 計4種が使用可能。
 安全性は高い、 頭蓋内出血が少ない。
外因系が血栓形成スイッチであり、内因系は血栓増殖系と称される。
 ワルファリンは両系をズタズタにする。
 NOACはXa阻害薬であり系が保たれているから出血が少ないのであろう。
NOAC投与で出血させないために、
 高血圧を厳格に管理。
 禁忌の認識 腎不全。
 ハイリスク症例の認識 高齢 低体重 脳卒中の既往。
 ワーニングサインのチェック PT、aPTTをモニターする。とくに Hbの低下は要注意。
抗血栓療法中の血圧コントロールは 130/80未満とすること。
ダビガトランの拮抗薬でイダルシズマブが開発中である。
抗血小板薬の使い分けについて
 脳梗塞の25%は塞栓原因は不明と言われている。
ESUS (Ntaios Gら Stroke2015)
 50%未満の軽度血管狭窄病変、大動脈原性脳塞栓、 卵円孔開存 などがリスク因子。
ある試験では、原因不明脳梗塞の30%が一過性心房細動である。
一過性心房細動 PR間隔延長 QTc延長を見逃さないこと。

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