2018年5月10日に開催された、第7回福山夜間成人診療所プライマリケア・ミニ勉強会、の座長をいたしました。

2018年5月10日に開催された、第7回福山夜間成人診療所プライマリケア・ミニ勉強会、の座長をいたしました。
外来での抗菌薬の使用について最新の知見を学びましたので報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

タイトル:夜間成人診療所で役立つ抗菌薬の使い方

演者:独立行政法人国立病院機構南岡山医療センター院長 谷本安先生

【はじめに】

2017年6月に抗微生物薬適正使用の手引きが厚労省から発刊された。今後経口セフェム系、マクロライド系、キノロン系薬の処方量を現在の50%まで減らすのが目標にある。

【抗菌薬の基礎知識】

抗菌薬の種類、作用機序、臓器移行性、各種抗菌薬の特徴と副作用などについて説明されました。
ペニシリン系はGPC用をGNRへスペクトラム拡大したがMRSAと非定型細菌はカバーできない。βラクタマーゼ阻害薬配合でMSSA・嫌気性菌をカバーする。アンピシリンをアロプリノールと併用したり、EBウイルス感染症(伝染性単核球症)に投与すると高率に薬疹が発生するので注意が必要である。
 セフェム系は腸球菌、嫌気性菌に基本的に無効(ただしセフメタゾンは有効で腹部領域で使用される。)第3世代経口薬は腸管吸収率が低く、長期間使用されると偽膜性腸炎に注意すべきである。特に乳児ではピボキシル基が関与した第3世代経口薬では低カルニチン血症の発症(低血糖、けいれん)に留意する。
 キノロン系は嫌気性菌に基本的に無効。したがって誤嚥などではキノロン系単剤投与は推奨しない。使用する際に結核がないかどうか留意すること。中枢神経系副作用(頭痛、めまい、NSAIDsとの併用でけいれん)がある。
 静注薬との効果の差が少ない、すなわち消化管からの吸収が非常によい経口抗菌薬として、AMPC、第1世代セフェム(CEX)、CPFX,LVFX,MFLX、ミノサイクリン、クリンダマイシン、ST合剤、リネゾリドなどがある。キノロン系薬は制酸剤(Mg,Ca,Al)や鉄剤を同時服用するとキレートを作って著明に吸収が低下するので、 やむを得ず併用する場合には服薬のタイミングを分ける。
とにかく第3世代セフェムは腸管吸収率が低い。

ここからは各論です。

【呼吸器感染症】

・急性気道感染症は感冒、急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性気管支炎が含まれ、一般的に風邪として受診される病態である。原因微生物の約9割がウイルス(ライノウイルス、コロナウイルスなど)であるが、ウイルス以外ではA群β溶連菌(GAS)による急性咽頭炎、マイコプラズマによる急性気管支炎が挙げられる。
・感冒の経過はまず微熱、倦怠感、咽頭痛、続いて鼻汁や鼻閉、その後に咳や痰であるが、症状のピークは3日前後であり10日以内に軽快する。ガイドラインでは、「抗菌薬を使用しない」ことを推奨している。その根拠として上気道炎後の肺炎、咽頭炎後の咽後膿瘍などに対する抗菌薬投与による発症予防効果はNNT4000(4000人に一人だけ予防できる)程度しかないことによる(BMJ)。ただし、進行性に悪化する場合や、症状の再増悪時には細菌の二次感染を疑う。
・急性ウイルス性上気道感染症のついて、急性細菌性副鼻腔炎を合併する頻度は2%未満である。鼻汁の色だけではウイルス感染症と細菌感染症の区別はできない。症状が2峰性に悪化する場合は細菌感染症を疑う。一般的に肺炎球菌が多い。軽症では抗菌薬を使用しないことを推奨している。39度以上の発熱、膿性鼻汁や顔面痛が3日以上続く、一度軽快して再度悪化した場合などにアモキシシリン(AMPC)内服5-7日間の投与を考慮する。耐性菌の可能性や一次治療不応例ではクラブラン酸・アモキシシリン(CVA/AMPC)を選択する。 βラクタム系にアレルギーがある場合には、フルオロキノロン系を推奨する。テトラサイクリン系もガイドラインでは推奨されているが、日本では主要な原因菌の肺炎球菌に対して耐性率が高く問題である。
・急性咽頭炎は大部分はウイルス性だが、20-50歳に限ると約30%がGAS陽性である。38度以上の発熱、咳がない、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、白苔を伴う扁桃腺炎、最近の曝露歴があればGASを疑うが、GAS迅速抗原検査や培養検査が望ましい。治療はGASが検出されていなければ、抗菌薬投与を行わないことを推奨。GAS陽性ならアモキシシリン10日間。ペニシリンアレルギーがある場合には、セファレキシン(CEX)やクリンダマイシンを推奨。ただし、βラクタムに共通にアレルギーの場合はセフェム系でもアレルギーが生じる可能性があるので、診療所レベルではニューキノロンを使用することもやむを得ないであろう。
鑑別として伝染性単核球症が挙がるが、性的にナイーブな若年者、肝・脾腫大、前頸部+後頸部リンパ節腫大、などが鑑別点となりうる。
・急性気管支炎は咳が平均17.8日間つづく。ウイルスが90%、5-10%が百日咳、マイコプラズマ、クラミドフィラである。喀痰の色の変化では細菌性と判断できない。基礎疾患のない70歳未満の成人では、バイタルサインの異常や胸部聴診に異常なければ胸部レントゲンは不要とされる。百日咳は、咳後の嘔吐、吸気時の笛声、流行期、患者への接触歴がある場合に疑うが、LAMP法が迅速性、特異度に優れている。
 急性気管支炎の治療であるが、手引きでは基礎疾患や合併症がない場合、抗菌薬投与を行わないことを推奨。ただし百日咳ならば治療を行う。成人のマイコプラズマ感染では、肺炎の合併がなければ抗菌薬治療の必要性を支持する根拠に乏しいとされている。しかしマイコプラズマは聴診所見に乏しいことも多く、症状のつよい場合は抗菌剤投与もやむを得ないかもしれない。慢性呼吸器感染症や基礎疾患のある成人で発熱・膿性痰を認める場合は、喀痰グラム染色を実施し、細菌感染が疑われる場合には抗菌薬の投与が望ましい。咳が2週間以上続く場合は結核の除外が必要である。
 百日咳にはマクロライドが第1選択である。ただし成人に適応があるのはエリスロマイシンで、アジスロマイシンは保険適応外である。小児はクラリスロマイシンに適応がある。慢性呼吸器疾患の気道感染症に対してはフルオロキノロンが第1選択、CVA/AMPCなどが第2選択である。 誤嚥など嫌気性菌の関与が疑われる場合にはCVA/AMPCなどを投与する。マクロライド少量長期療法を行っている患者が急性増悪を起こした場合でも基本原則は同じである。慢性下気道持続気道感染を認めるの急性増悪、例えばDPBなどでは緑膿菌が持続感染しているが必ずしも急性増悪の起炎菌とはいえないので、これらをカバーする抗菌薬を選択することになる。

【急性下痢症】

・急性下痢症の9割は感染性、残りは非感染性(薬剤性、中毒性、虚血性など)である。大部分はウイルス性で、ノロウイルス、ロタウイルスなどが代表的。感染性急性下痢症の症状は、嘔気、嘔吐、腹痛、発熱、血便、テネスムスなどである。2011年からロタウイルスワクチンの任意接種が始まり、ロタウイルスによる下痢症は減少傾向である。
細菌としてはサルモネラ、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌、ビブリオなど。海外渡航者の下痢は腸管毒素原性大腸菌、カンピロバクター、稀に赤痢やコレラがある。最近の抗菌薬投与歴がある場合には、クロストリジウム・ディフィシル腸炎を考慮する必要がある。  
感染性胃腸炎は毒素性のものと細菌増殖による非毒素性がある。毒素性のものは一般的に潜伏期間は短く、黄色ブドウ球菌(調理者の手の傷)、セレウス菌などがある。急性胃腸炎の場合は摂食したものをよく聞き取ることが重要である。ノロウイルスは二枚貝、ウェルシュ菌はカレーやシチュー、サルモネラは生卵、腸管出血性大腸炎は生や加熱不十分の牛肉、カンピロバクターは鶏肉(生や生焼け)、などが頻度が多い。
・急性下痢症の治療は、成人ではウイルス性、細菌性にかかわらず自然軽快することが多く、基本的に対症療法のみを行うことを推奨。脱水の補正など。海外渡航者は毒素原性大腸菌、コレラ、赤痢、重症例や菌血症では抗菌薬投与を考慮するが、専門医療機関に紹介するのが妥当である。抗菌薬を使用するとしたら サルモネラやカンピロバクターである。腸管出血性大腸菌の推奨治療はまだ統一見解はない。

【尿路感染症】

尿路感染症に関する内容は手引にはないため、2015年のJAID/JSC感染症ガイドラインに基づく内容である。
・急性腎盂腎炎は症状がつよく入院が必要なことも多いが、基本的には膀胱炎の治療と同様であるが、治療期間は長くなる。
・急性単純性膀胱炎で閉経前の場合、性的活動期の女性に多い。GNRが約80%で多くが大腸菌、GPCが約20%である。妊婦では胎児に対する影響を考慮して抗菌薬を選択し、可能な限り短期投与にすること。無症候性細菌尿も積極的に治療すべきとある。
 急性単純性膀胱炎にはGPCをカバーする目的でキノロン系が第1選択で3日間、第2選択は第2世代か3世代セフェム系またはCVA/AMPCを5-7日間、妊婦の場合はキノロンとCVAの含まれるものは使えないので、第1選択はセフェム系5-7日間である。セフェムはCCL、CFDN、CFPN-PI、CPDX-PRなどである。
・高齢女性で閉経後の膀胱炎の場合、若年女性に比して治癒しにくく再発しやすい。GPCの分離頻度が若年女性より低く、大腸菌はキノロン耐性率が高い。再発を繰り返す場合は、尿路や全身性の基礎疾患の検索が重要である。
 治療は第1選択がセフェム系またはCVA/AMPC、第2選択はキノロン系、ESBL産生菌が検出されている場合にはFOMまたはFRPMを選択する。
・複雑性膀胱炎では、代表的な基礎疾患は前立性肥大症、前立腺がん、膀胱がん、膀胱結石、尿道狭窄、神経因性膀胱などがある。糖尿病、ステロイド・抗がん剤投与中など全身性感染防御能低下状態も起こりやすい。原因菌はキノロン耐性菌、ESBL産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌、MRSAなどの存在に注意が必要である。
 治療は薬剤感受性検査結果に基づいて薬剤選択を行う。難治例では入院加療、注射薬点滴も考慮される。第1選択薬はキノロン系またはCVA/AMPC、SBTPCを7-14日間。第2選択はセフェム系を7-14日間である。
 ※泌尿器系の抗菌薬治療は今度見直される可能性がある。

【皮膚軟部組織感染症】

・丹毒、蜂窩織炎、伝染性膿痂疹などの皮膚軟部組織感染症では、黄色ブドウ球菌、A群レンサ球菌によるものが多い。治療の第1選択は第1世代セフェムのCEX(セファレキシン)である。第2選択はペニシリン系(AMPC,CVA/AMPC)である。
・褥瘡、血流不全、糖尿病性足病変に伴う皮膚軟部組織感染症では、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌などの腸内細菌科、嫌気性菌によるものが多い。
 治療の第1選択はCVA/AMPC、第2選択はキノロン系とCLDMの併用である。

【動物咬傷】

・猫や犬が多く、猫のほうが感染を起こしやすい。 歯が鋭く細いのでより深いところに感染し、しかも鋭い傷なので傷が小さく洗浄がしにくいからである。
治療は洗浄、debridementが重要である。パスツレラ感染症に注意すべきで、口腔内嫌気性菌や黄色ブドウ球菌も原因菌となる。
 治療の第1選択はCVA/AMPC。感染兆候がなくても予防投与3日間が推奨される。

講演後には活発なディスカッションが行われました。

Q. 若年者の単純性膀胱炎にキノロン3日間では再発しやすい印象だが実際にはどうか。
A. ガイドラインでは3日間となっているが、演者らは5日間使用することもありうる。3世代セフェムも3日間でよいという報告もあるが、ガイドラインでは5日から7日間、ペニシリン系や第2世代セフェムでは7日間が推奨されている。なかなか難しい部分であり、今後ガイドラインも改訂されていくはずである。
Q. AMRアクションのフィルターを通してみた場合、今後ABPCやCVA/AMPCが重要になると思われるが、猫に噛まれたときなどABPC250mg 3錠 + CVA/AMPC 250mg 3錠 分3、で高用量を投与しているが、投与量についてはどうか。
A. 猫の歯が深く刺さりパスツレラ感染が成立している場合は、AMPCは高用量でよい。CVA/AMPCを6錠にすると、CVAによる副作用(肝障害)が懸念されるため、ABPCとCVA/AMPCを組み合わせて用いる。

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