2018年6月5日に開催された、第374回福山市医師会消化器病研究会 に出席し、最新の知見を学んできました。
以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。
糖尿病における肝関連疾患の現状と脂質管理の重要性
松村 剛先生
糖尿病は有意な肝がん発生要因である。
N=5642 中 N=18名が肝がん発がんした。
発がんした糖尿病患者の特徴
体重がおおい
AST、ALTが高値
アルブミンが低い
γGTP 70以上
FIB4 index ・・・2.454より大、強い相関を示す
脂肪肝と動脈硬化性疾患との関連性はあるのか?
動脈硬化性疾患ガイドライン2017では脂肪肝はリスクに含まれていない。
脂肪肝は頸動脈硬化症の独立した予見因子である。(J Hepatol 2016)
冠動脈や脳梗塞と脂肪肝の関連性について、現状では報告はみられない。
LDL-Cの管理目標について
家族性高コレステロール血症や急性冠症候群では一般的にはLDL-C<100mg/dLを目指すが、
糖尿病に喫煙、CKDなどの合併があれば、LDLーC<70を目指すべきである。
日本人2型糖尿病患者のTGは平均153mg/dL、健常人の平均は109。
日本人2型糖尿病患者の冠動脈疾患危険因子の1位はなんと中性脂肪TGであり、2位がLDL-Cである。
LDL-cの測定に関して
一般診療ではFriedewald式(F式)でLDL-Cを求めることを基本とするが、
食後TG400以上のときはLDL-C直接法か、non-HDL-C値を使用すること。
・インスリン抵抗性の状態では肝にてLarge VLDL産生が増加しTG代謝に関与するリパ蛋白リパーゼ(LPL)活性が低下するため、レムナントリポ蛋白の蓄積を生じ、さらにsmall dense LDLの増加につながる。
このsmall dense LDLが非常に悪影響を及ぼし、たとえLDL-Cが低くても、small dense LDLが多ければ単独で動脈硬化のリスクである。
・HDL-Cに関しては、中性脂肪が高いとHDLーCは低い。
・糖尿病の脂質の特徴は、
レムナントの増加
small dense LDLの増加
HDL-Cの低下
これらが相まって動脈硬化が進展する。この脂質異常を改善させることが重要である。
・血清TG150以上の患者は、small dense LDLが有意に増加する。
・エゼチミブ単独療法による血清脂質改善効果は、ストロングスタチン並みにLDL-Cを低下させ、HDL-Cを上昇させる。
エゼチミブにストログンスタチンの組み合わせは特にLDL-Cを強く低下させる。同時にTGも低下させる。
アトルバスタチン20mgを投与するよりも、アトルバスタチン10mg+エゼチミブ10mgのほうが治療効果が高い。
・スタチンを連用していると、治療効果が低下していく症例を経験する。リバウンド効果というが、スタチンによりLDL合成阻害することにより消化管からの吸収が増加するためである。ストロングスタチンほどリバウンドが大きいことが知られている。
・エゼチミブ投与半年後の脂肪肝の状態を調べた報告では、明らかに脂肪沈着が低下していた。NASHを予防するために早めにエゼチミブを投与するほうが良いかもしれない。
・演者らの報告では、2週間の2型糖尿病教育入院において食事療法でLDL-C低下効果が高い患者はエゼチニブの効果が低い、一方で食事療法に反応しない患者群ではエゼチミブ有効であった。
・イプラグリフロジンなど多くのSGLT2投与によりトランスアミナーゼは改善し脂肪肝が改善する。
まとめ
糖尿病患者では、
まず食事療法・運動療法
禁煙
スタチンとエゼチニブ さらに両者を併用すると脂質代謝の改善効果が高い。
SAS、高尿酸血症、CKD、高血圧、脂肪肝 の治療管理を同時に実施することが重要。
質疑
Q. 高血圧が肝がん発がんの因子として挙がっていたが何故か
A. 多変量解析で挙がってきた因子であるが、現状では因果関係は不明。
今後の課題である。
Q. コレステロールが高い場合の食事療法が必要・あるいは不要と情報が錯綜しているが真実はどうか。
A. 欧米ではすでに食事療法でのコレステロール摂取上限は撤廃されている。
日本でも軽症患者については上限は撤廃。
理由はコレステロール制限によるコレステロール低下のエビデンスがないからであるが、
実際には、コレステロールの制限で下がる人もいる。
食事療法に反応する人としない人の判断が現在のところできないので、下がる人を捨てるわけにはいかないので、演者の考えとしては食事療法は残しておく方がよい。
Q. スタチンの6%ルール (倍量しても6%しか下がらない)のメカニズムは何か。
A. コレステロールをスタチンで合成抑制すると、吸収は亢進する。
なので、スタチンを増量しても吸収が亢進していることによる効果がうすれる。
したがって、エゼチニブを併用する意味がある。