2018年6月28日木曜日にビッグローズにおいて 第2回呼吸器疾患の治療連携を考える会 が開催されました。

2018年6月28日木曜日にビッグローズにおいて
第2回呼吸器疾患の治療連携を考える会が開催されました。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

第2回呼吸器疾患の治療連携を考える会 於ビッグローズ 増加しつつある非結核性抗酸菌症

特別講演 増加しつつある非結核性抗酸菌症
独立行政法人 国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター
臨床研究センター 感染症研究部長 露口一成先生

ほとんどの抗酸菌は自然界の中で生存しているが、結核菌だけはヒトの体内でしか生存できない、かなり特殊な菌である。
結核菌の特徴は、ヒトの体内のみで生息する、1コロニーでも検出できれば感染症、放置すると悪化、空気感染、抗結核薬が有効。
非結核性抗酸菌症(NTM)の特徴は、環境中に生息、複数回検出しないと感染とは考えない、ヒト−ヒト感染しない、ゆっくり発育進展する。2005年頃以後急速に増加している。最近では菌陽性肺結核の発症数を上回った。
現在NTMの菌種は200種以上あるが、頻度の多いものはM.avium, M.intracellulare, M.kansasii, M.abscessusである。
最近の抗酸菌の同定方法には、PCR法、ゲノムシークエンス、MALDI-TOF MSなどがある。
キャピリアTB は、結核菌が特異的に分泌する蛋白であるMPB64を検出する。培養抗酸菌株にこの検査をして結核菌の確定診断を行う。結核菌でなかった場合は、18種類の抗酸菌を検出可能なDDHマイコバクテリアを実施し、菌を同定する。DDHは日常検出される抗酸菌のおよそ9割をカバーしている。
・NTMは環境常在菌なので、1回の検出では確定診断とならない。喀痰からの検出が2回以上、あるいは気管支鏡検査により1回以上の検出が必要である。
MAC抗体はカットオフ値を0.7U/mLとした場合、感度84%、特異度100%と有用である。たとえMACに感染していても診断基準を満たさない例では抗体は上昇しない。MAC抗体陽性時は気管支鏡検査を行い確定診断を行う。
・MAC症は、NTMのうち7−8割を占める。中年以降の女性で特に増加傾向である。患者により病状の進行速度はまちまちである。
病型は、結節・気管支拡張型(NB型)=中葉舌区型、と線維空洞型(FC型)の2種類がある。
NB型は種々の菌による再感染(入れ替わり立ち替わりに違う菌種に感染しては寛解する)を生じている。
FC型は単一菌による持続感染で、病状の進行が速く、予後不良である。
・どこから感染するのか
肺MAC症の患者の自宅浴室のぬめりから分離された菌株と患者から得られた菌株が一致したとする報告がある。
肺MAC症ではない気管支拡張症患者とMAC症患者をマッチングさせてMACに暴露しそうな環境要因についてアンケート調査を行った研究では、土壌への暴露週2回以上、ジェットバスを使用する、の項目が有意差があった。

予後

昔からFC型は予後が悪いことで知られている。
とにかく肺病変に空洞がある症例は予後が悪い。空洞のある病変では経過観察してはならない。
FC型はもちろんであるが、NB型でも限局性に空洞があると予後は不良。
NB型は、限局性空洞を含む病変の手術療法は予後がよい。
演者らの報告では、25名の軽症NB型症例の経過観察をしたところ、5名は自然に排菌陰性化した、治療基準を満たした例でも何名か菌陰性化した、最終的に排菌持続した例のみを治療したら最終的に菌陰性化した。
500例以上の肺MAC症を検討したIto、Hayashiらの報告では、すべての原因による死亡は5年目まで23.9%、10年目までは半数が死亡しているが、肺MAC症による死亡率は5年で5.4%、10年で累積15.7%であり、肺MAC症が原因の死亡はさほど高くない。
予後不良因子は、空洞病変、やせ、である。BMIが低い、CRPが高い例も予後不良の傾向であった。

治療

REC(CAM、EB、RFP)、アミノグリコシド、ニューキノロン(STFX、MFLX)

クラリスロマイシン(CAM)がキードラッグ。できるだけ800mg/日を投与すべきである。次に重要なのはEB。
体重40kg以下の患者ではCAM減量することもあるが、可能な限り800mg,日を投与する。800mgを入れるか入れないかでかなり予後にも影響するという報告もある。
MACに対する感受性試験は、CAMのみ有用性が示されており、プロスミックNTM®、がある。
CAM単剤治療は避けるべきである。耐性が誘導され、CAM耐性NTMは多剤耐性結核菌に匹敵するほど予後不良である。
肺MAC症にアミノグリコシドは有効であり、3剤(REC)治療で約50%の有効率→アミノグリコシドを追加で約70%まで上昇する。
レボフロキサシンの治療効果は低い。

肺MAC症に対する新たな治療について

Bedaquiline ベダキリン
リポソーム化アミカシン吸入・・・ 約3ヶ月で菌陰性化率約30%(AJRCCM2017)
 かなり有用な方法。アミカシンは本来点滴なので病院に通院して注射が必要であったが、ネブライザー吸入ならば自宅で実施できる。
Clofadimine。。。。。

薬は減量してはだめなのか

間欠投与法と連日投与法で副作用発現をみた場合、EBによる視力障害が間欠投与で1%、???、連日で24%と有意な差を認めた。ただし、CAM単剤投与およびCAM+ニューキノロンのみの投与は絶対にしてはならない。耐性を誘導する。

治療開始のタイミング

FC型は治療必須。血痰・喀血などを認めた場合。NB型は経過をみてもよい。

副作用

 肝障害RFP CAM、血小板減少 RFP
 視力障害 EB 定期的眼科受診が必須、EBの視力障害は徐々に進むので気づきにくい。
CAM:味覚障害 (口が苦い)
皮疹・薬剤熱・・・減感作を実施
 その他 経過中の肺がん合併に注意する

排菌陰性化後1年間の治療期間は妥当なのか

再排菌した症例の再治療成績は極めて不良である。
。。。。

肺MAC症の外科治療

線維空洞型では可能なら手術を選択する。限局的な空洞病変には治療成績は良好である。
FB型についても基本的には治療を勧めて本人が希望しない場合には経過観察とする。
治癒は困難、一生付き合う病気である。予後は個人差が大きい。
畑仕事もできれば中止してもらう。

M.kansasii

日本では2番めに多い。
結核とよく似ており肺尖に空洞病変が多い。発生は全国的で地域集積性が高い(工業地帯、製鉄業)
粉塵暴露歴、喫煙歴と関連していることがある。水島コンビナートや川崎の臨海工業地帯などに多いと言われている。
治療により治癒が期待できる。禁煙が重要である。
RFPがキードラッグである。INH、RFP、EBで 1年半から18ヶ月。
肺結核よりは再発しやすく、将来的に他のNTMやアスペルギルスを合併することがある。

M.abscessus

いわゆる迅速発育菌である。
非喫煙、中高年、女性におおく、肺MAC症に画像が似ている。気管支拡張症も認める。
NTMの中で最も難治性と言われる。
内服はCAMしか効かない、IPM、AMKの注射が有効である。
シタフロキサシンやファロムの経口抗菌薬を投与することもあるが、エビデンスはない。
演者らの施設ではIMP+AMKの投与症例があるが、保健は通らない。
abscessusでは最近3種類に亜種に分類される。
 abscessus・・・予後不良 erm(41)geneが発現しておりCAM耐性となる。
massiliense・・・予後良好 治療により9割くらい排菌陰性化する。erm(41)geneはmutantとなっており発現しない。
bolletii
演者らの施設ではreal time PCR法を用いてabscessusかmassilienceかを同定している。今後治療効果の観点から両者を鑑別することが重要となるであろう。

稀なNTM

エキスパートオピニオンしか拠り所はない。
複十字病院の倉島先生の論文、あるいはATSのガイドラインに則って治療を行う。

まとめ

 NTMは菌種同定が重要 kansasiiは予後良好、abscessusは難治、MAC症はその中間だが難治例もおおい。
 空洞病変のある肺MAC症は早急に治療を行い、できれば手術を行う。
 CAM単剤治療は決しておこなってはならない。少なくともEB+CAMが望ましい。
 kansasiiのキードラッグはRFP、abscessusは難治だが、予後良好なサブグループのmassilienseがある。

Q & A

Q. 線維空洞型における免疫抑制剤やバイオ製剤の使用に関して注意事項を教えてほしい
A, FC型では、免疫抑制剤はリスクは高い。できれば手術後であれば可能かもしれない。
NB型においては、排菌陰性で治療効果があるものにおいては、免疫抑制剤やバイオ製剤は使用可能である。
Q. CAM耐性の菌にはどのように治療をするか
A. 世の中ではCAM単剤で治療する機会が割とおおく、NTMの耐性菌が懸念される。
 CAM耐性にはいろいろ使用可能な薬剤を使ってみる。clofadimineなど使ってみたいが、副作用に色素沈着がありNTMは女性がおおいので使いにくい問題点がある。
Q. NB型に空洞がある場合はどうしたらよいか。
A. とにかく空洞のあるなしが重要である。
 韓国のグループの報告では、NB型の空洞をもつ群とFC型の空洞を認める群で予後の差はあまりない。
Q. なぜNTMは増加しているのか
A. 詳しい理由ßは不明である。

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