第67回日本アレルギー学会学術大会 その2

第67回日本アレルギー学会学術大会 その2

2018年6月22日から24日までの3日間、第67回日本アレルギー学会学術大会 於千葉幕張メッセ が開催され、最新の知見を学んでまいりました。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

シンポジウム6 好酸球性気道炎症の病態
自然免疫と獲得免疫

S16-1 IL-22によるアレルギー性気道炎症抑制機構

千葉大学
伊藤 崇先生

近年、難治性喘息の解析からTh17細胞やTh17細胞が分泌するサイトカインであるIL-17を中心として
好中球性炎症の病態(Th17- mediated Athma)が知られている。
当初Th17サイトカインとして同定されたIL-22やIL-22のみを放出するTh22が喘息患者の肺で増加していることが
報告されているが、喘息における意義についてまだ明らかとなっていない。
IL-22 はIL―10スーパーファミリーの一つである。
IL-22産生細胞は、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、ILC3、γδT細胞がある。
IL-22レセプターは、IL-22 R1とIL-10R2 のヘテロダイマーで構成されている。
このレセプターの結合したIL-22はJAK1やTYK2のリン酸化を通しSTAT3のリン酸化を導き核内移行して生理活性を示す。

IL22 R1は上皮系の細胞に多く発現しており、以前から上皮系細胞がターゲットではないかと言われている。
IL22は炎症促進と抑制の両面の報告があり、肺・消化管・皮膚では炎症促進、肝臓・膵臓では炎症抑制。
喘息での関与は不明である。
・IL22ノックアウトマウス、野生型マウスにHDMで誘導されるアレルギー気道炎症を惹起させた。
BAL中の炎症細胞浸潤を評価・・・KOマウスでは好酸球、好中球、CD4陽性T細胞が増加した。
炎症細胞中の好酸球の割合も増加した。
IL-22陽性細胞は肺において主としてCD3陽性でCD4陽性T細胞であった。
IL22陽性CD4陽性T細胞はINFγ、IL-5、IL-13、IL-17、などやT-bet、GATA3などの転写因子を出していない。
→既存のTh1、Th2、Th17とは異なるサブセットである。

小まとめ1

・IL-22は喘息においては抑制的に働く。
・IL-22陽性マウスにおいて、肺にIL-22 R1はを投与するとReg3γを含む12遺伝子が同定された。
・Reg3γとは以前から腸管上皮細胞から分泌される抗菌ペプチドとして知られている。
 また心筋梗塞後にReg3βが発現し炎症を抑制していることがわかっている。
・HDM刺激を受けたマウスにおいて、BAL中のReg3γ蛋白は増加するが、IL-22ノックアウトマウスでは上昇しない。
 → Reg3γ蛋白はIL22 により発現誘導されることが判明した。
Reg3γノックアウトマウスは炎症性腸疾患を自然発症することが知られている。
Reg3γ中和抗体を投与すると、BAL中の好酸球、CD4陽性T細胞を増加させる。
気管支血管周囲の炎症細胞浸潤が増悪し、杯細胞過形成が観察された。
血清中のHDM特異的IgG1が上昇した。気道抵抗性も増悪した。

小まとめ2

・CD4陽性T細胞よりIL-22を放出→ 気道上皮細胞のIL22レセプターに結合→Reg3γを放出
 → アレルギー性気道炎症を抑制する。
・EXTL3は肺の気道上皮細胞に非常に多く発現しており、HDM誘発喘息にてその発現が
さらに上昇することが判明した。
気道上皮細胞はIL-25、IL-33、TSLPなどの上皮サイトカインを通してアレルギー性気道炎症に寄与している。
Wild typeのマウスの気道にHDMとRecombinant -Reg3γを投与→ Reg3γはHDM誘発TSLPとIL-33の分泌を抑制する。
同様に肺内のILC2の集積を抑制した。

まとめ

HDM刺激→ CD4陽性T細胞よりIL-22を放出→ 気道上皮細胞に結合してReg3γ蛋白分泌 →上皮のEXTL3を通じて 
→ TSLP、 IL-33を抑制、ILC2集積抑制 → アレルギー性気道炎症を減弱させる。


S16-2 好酸球性気道炎症の病態形成におけるILC2の役

国立成育医療研究センター
森田 英明先生

小児期の喘鳴は必ずしもIgE抗体の関与しない喘鳴である。

ウイルス感染、ストレスによる喘息増悪があり、これも抗原暴露とは無関係。
これらを説明するものとして、自然リンパ球(ILC)である。
 リンパ球の形態、抗原受容体を持たない、大量のサイトカイン産生する、という特徴をもつ。
ILCは気道上皮近くの粘膜下に存在し、おもに組織構成細胞の環境変化による信号に対して鋭敏に反応する。
その信号を増幅して周囲に知らせるという役割がある。

抗原由来のプロテア-ゼがIL-33を介して喘息様気道炎症を惹起するが、ILC2を除くと炎症は惹起しない。

プロテアーゼを吸入させるマウスの系では、若年マウスほどILC2を介した気道炎症が強く誘導される。
ILC2もIL-33も乳幼児期の肺にもっとも高発現しており、乳児期のウイルス感染が喘息発症の誘因の一つとなっている。
近年ニューロメジンUという神経ペプチドが直接ILC2を活性化し好酸球性炎症を誘導することが判明した。すなわち
ストレスなどの抗原とは無関係のイベントが喘息を悪化させる機序の一つと考えられる。
・細胞の結合部分に存在するE-カドヘリンはILC2の活性を制御する。ILC2はE-カドヘリンに接着してIL-5と13の放出を制御されている。
・ILCの1,2,3は可塑性がある。つまりこの1,2,3の特徴を行ったりきたりする。
・Treg誘導因子の中で、レチノイン酸がILC2からIL-10の産生を誘導する。
レチノイン酸は濃度依存性にILC2からIL-10産生を誘導するが、Type2サイトカインは誘導しない。
つまり、レチノイン酸はILC2をIL-10を産生する細胞に変化させ、ILC2様の特徴を失わせて、Treg様の特徴を有する。
IL-10産生性ILCは、IL10 を介してCD4+T細胞とILC2の増殖を抑制した。

IL10陽性制御性細胞やCD4陽性T細胞は健常人では認めないが、炎症のある部位では増加する。

IL-10産生性ILCは好酸球性副鼻腔炎の鼻組織で上皮下に増加している。
同様にHDMを吸入したマウスの肺で好酸球性炎症を惹起させると、IL-10産生性細胞が増加している。
もともとILC2は腸間膜で発見されたが、HDMを暴露して肺に炎症を惹起しても腸間膜ではIL-10産生性ILCは増加しない。
炎症局所の上皮下で誘導されて増加する。→炎症局所での上皮とのinteractionが重要なのであろう。

レチノイン酸に変換する酵素の局在は限られている。ヒトの鼻の上皮細胞、特にポリープの上皮で高発現している。

炎症で惹起されたIL-13が気道上皮細胞からのレチノイン酸合成を誘導(レチノイン酸に変換する酵素をアップレギュレート)する。

サマリ

 ILC2は上皮のEカドヘリンで制御(抑制)されている。(定常状態)
 → プロテアーゼ、真菌ウイルス感染などの障害でILC2の抑制が外れ、
   かつIL-13、TSLPが分泌されILC2も一旦増加し気道炎症を惹起する。
   神経ペプチドも炎症惹起に関与している。
 → 一方で、IL-13は上皮細胞からレチノイン酸を誘導し局所でIL-10産生性ILCに変化して、炎症の抑制を行う。

質疑応答

Q. ILC2だとIL-5などがTh2の数百倍産生分泌されるが、IL-10に関してはどうか。
A. 1細胞あたりで厳密に比較したことはないが、今回は1万個で100-300pgのIL-10がでており
かなりの量だと思われる。
Q. 可塑性について興味がある。
ILC-regとなった細胞は炎症終息後にもとにもどるのか?
A. 研究中だが戻ると思っている。
Q. ILC2からのみILC-reg様細胞が誘導されるのか。
A. Type3の炎症でも同様にILC-reg様細胞は出現するので、別のメカニズムはあるであろう。


S16-3 自然免疫系等による好酸球の組織集積と活性化機

埼玉医科大学アレルギーセンター
小林 威仁先生

重症喘息患者ではICSが十分量投与されても喀痰中の好酸球が多く存在している。
重症喘息では好中球性炎症、好酸球性メディエーターの持続的放出を認める。
重症喘息では好酸球性炎症と好中球性炎症の両者があり、喀痰中にIL-8が増加しており、
IL-8濃度に依存して好中球が動員されている。

IL-8刺激好中球は好酸球の基底膜通過遊走を誘導する。

一部の重症喘息でなぜIL-8の過剰産生が生じているのか。
ステロイド抵抗性の重症喘息患者のBALF中には気道感染がなくとも高濃度のLPSを認めることが判明。
その濃度はIL-8mRNAの細胞発現増加と相関する。下気道中にエンドトキシンが増加することがIL-8のトリガーとなる。
生活環境中のエンドトキシン高濃度の予測因子は 犬、猫、、ゴキブリ、フロアカーペットのダニ、喫煙。
これらが下気道中のLPS濃度を上昇させる。
好中球単独あるいはIL-8単独では好酸球の基底膜通過遊走反応は修飾されなかったが、
LPSに暴露した好中球は好酸球の基底膜通過遊走反応を劇的に誘導した。
環境中のエンドトキシン刺激によりIL-8産生増強、好中球の活性化がおこりステロイド抵抗性好酸球気道炎症が生じると考えられる。

近年ダニはアレルゲンとして作用するほか、免疫担当細胞を直接活性化することが指摘されている。

健常者にダニ抗原を暴露すると、好酸球活性酸素産生能を直接的に誘導することが観察された。
つまり生活環境中のダニに暴露することで、ダニに感作している・いないにかかわらず
好酸球性炎症を直接惹起する可能性がある。

尿酸・尿酸ナトリウム塩はDANGER signalとしられ、好酸球の走化性を誘導する。

主としてChemotaxsisである。
尿酸・尿酸ナトリウム塩が好酸球の脱顆粒を誘導する。
・ATPも尿酸同様に好酸球の走化性を誘導する。
・ペリオスチンと好酸球性炎症
ミシガン大学の報告では、ダニで誘導される気道への好酸球集積が抗ペリオスチン抗体、あるいは
ペリオスチンノックアウトマウスにおいて抑制された。
演者らはペリオスチンは好酸球の自然接着反応を誘導し、VCAM1と同等であることを示した。
ペリオスチンは好酸球を活性化させ、活性酸素産生反応を誘導し、その効果はIL-5と同等であった。
IL-13の制御を受けるペリオスチンの好酸球性炎症調節因子機能を示唆する。
IL-13産生細胞であるILC2の好酸球性炎症への関与を示唆する。 

まとめ

自然免疫系における好酸球の組織集積と活性化機構として、
 ①IL-8あるいはLPSに暴露して活性化した好中球は好酸球の組織集積を増強する。
 ②ダニへの暴露はダニIgEの有無に関わらず、直接的に好酸球の接着反応とエフェクター機能を誘導するが、
 この機序はPAR2が関与している。
 ③尿酸あるいはATP放出のdanger signalは、好酸球遊走、あるいはエフェクター機能を誘導している。
 ④ペリオスチンの好酸球の接着および活性酸素産生誘導はILC2の好酸球性気道炎症調節の一機序と考えられる。

質疑応答

Q. INFβは川崎病を治すが、先生の理論ではどうなるか
A 悪者の位置づけ
Q. 好酸球浸潤はIL-8単独、好中球単独では起きないとのことだが、IL-8が何かメディエーターを出しているのではないか
A. LTB4 が産生されていることによる。


S16-4 好酸球性気道炎症において線維化誘導-病原性ヘルパー細胞が誘導する組織線維化の形成機構について

千葉大学
平原 潔先生

Th2型の好酸球性炎症が慢性化した炎症に関与する。
気道の線維化に焦点を当てて発表する。
慢性気道炎症における気道リモデリングは患者のQOLを低下させる。
重症喘息で死亡した患者の気道周囲にはコラーゲン沈着を認めるが、
この病変に対してステロイドが効果無いことがわかっている。

演者らはマウスにて以下の実験を行った。

OVA抗原特異的記憶Th2細胞を作成した。
それをマウスに大量に移入したあと、OVA暴露マウスと非暴露マウスの肺組織を観察すると、
暴露群のみコラーゲンが沈着し、IL33、IL-25が増加していた。
IL-33ノックアウトマウスにOVA暴露しても、気道周囲線維化は惹起されなかった。
ST2ノックアウト記憶Th2細胞の移入では、気道周囲線維化反応は著明に減弱された。
→ 気道周囲線維化はIL-33-ST2経路に依存する。

IL-33はST2陽性記憶Th2細胞からのAmphiregulin蛋白産生を誘導する。

Amphiregulinは上皮成長因子のメンバーでありEGF受容体に結合し作用する。組織修復プロセスに関与する。
記憶Th2細胞が産生するアンフィレグリンは気道周囲の線維化を誘導する。
好酸球が細胞外マトリックスのオステオポンチンを産生する。
→組織へ浸潤した好酸球の近傍にコラーゲン沈着が認められる。
Amphiregulinは好酸球に作用し炎症性好酸球にフェノタイプが変化する。
 →RNAシークエンスの結果からオステオポンチンが増加することも証明された。
好酸球由来のオステオポンチンが気道周囲の線維化を誘導する。

EGF受容体阻害剤(エルロチニブ)投与は抗原の反復暴露による気道周囲の線維化を減弱させる。

 好酸球の分泌するオステオポンチンを減少させた。

好酸球性副鼻腔炎のポリープは線維性変化が認められる。

ポリープには高濃度にamphiregulinが含まれていた。
ポリープをCD45RO(ヒトの記憶細胞のマーカー)とCD4でFACSにより細胞集団を集めたところ、
患者の末梢血のオステオポンチン濃度は高くないが、ポリープ中のオステオポンチン濃度は上昇している。
→ヒトにおいてもオステオポンチンを介する線維化は重要な機序であろう。

まとめ

ステップ1:IL-5産生Tpath2細胞が好酸球の局所への浸潤を誘導する。
ステップ2:amphiregulin産生Tpath2細胞が好酸球をリプログラムし、好酸球からのオステオポンチンの産生を誘導する。
その結果気道周囲線維化を誘導する。

質疑応答

Q. 好酸球はTGFβを多量に産生する細胞であるが、オステオポンチンとのバランスはどうなるか。
A.アンフィレグリンをノックアウトしても50%しか抑制しない。そののこりがTGFβの寄与が大きいであろう。
  TGFβをノックアウトしたことがないのでやってみたい。
Q. アンフィレグリンのメジャーソースはマスト細胞と考えらているが、マスト細胞起源はどれくらいか。
A.ILC2とTpath2を比較しているが、Tpath2がの関与が大きい。マスト細胞は測定していない。
Q. 線維化を起こすまでに何度かチャレンジが必要ということだが、EGF受容体が増えるのか線維化が蓄積されるのか?
A 刺激によるEGF受容体の発現量は変わらない。繰り返しの細胞外マトリックスの蓄積と考えている。
Q. 気道周囲の線維化のあるマウスにおいて気道抵抗は測定されているか。
A 別の系で測定しており著明に気道抵抗値は上昇している。
Q. ペリオスチンとの関係はどうか。
A.検討を要するものであるが今回は見ていない。
Q. IL-5陽性Tpath2とamphiregulin陽性Tpath2ではどちらがどのステージで優位になるのか。
A.基本的にどちらが優位となることもなく存在する。
Q. オステオポンチンの産生細胞はTh1が主といわれていたが、この系ではTh2と考えてよいか。
A.OVAの刺激はTh2、HDの系は混合だが、Th2優位。

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