第4回 福山市民病院 がん診療連携合同カンファレンス  於福山市民病院 に出席し最新の知見を学んでまいりました。

2019年1月10日に、第4回 福山市民病院 がん診療連携合同カンファレンス  於福山市民病院
に出席し最新の知見を学んでまいりました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

血液学からのアプローチで、ありふれた病気『がん』を治す

岡山大学病院 血液・腫瘍・呼吸器内科学教授 前田嘉信先生

白血病と抗がん剤

がんは増えており現在10人のうち4人ががんで死亡する時代である。
白血病は抗がん剤で治療。
白血病は不治のやまいと考えられているが、1970年代は10%程度の生存率であったが、最近は45%治癒する。
白血病は造血幹細胞から分化するが、ある分化段階で際限ない増殖をおこし正常細胞を圧迫し死に至る。
何歳でも発症するが、若年者の死亡原因の第一位である。
骨髄腔には種々の細胞が認められるが、白血病になると一つの腫瘍細胞に置き換わってしまう。 
抗がん剤はどうして効くのか。細胞分裂の際にDNAが複製されるときに抗がん剤が効き目があるとDNA複製に失敗して細胞が死ぬ。
最初の抗がん剤はナイトロジェンマスタードであり、1943年の輸送船爆撃でマスタードガスがもれでたあと兵士の白血球が著名に減少したことから、白血病の治療に使えるのではないかと考えられた。実際に悪性リンパ腫の治療に利用された。
1兆個の白血病細胞が一回の抗がん剤治療で100分の1になり、2回めで残りがまた100分の1に低下する。
正常細胞は回復するが、白血病病細胞は減っていき、治癒に至る。
抗がん剤の副作用は増殖する細胞を攻撃するので、副作用として脱毛、下痢、嘔気、口内炎、正常白血球減少などが起きる。
急性前骨髄球性白血病では、異常な染色体から異常なタンパク質が生産され、白血病化する。分子標的薬レチノイドにより95%以上が治癒あるいは寛解する。慢性骨髄性白血病では、分子標的薬TKI が著効。10生率 92%。

・すべてのAML患者にゲノム異常が見つかる。一つの疾患に大体3-4つ遺伝子異常が入る。
異常がわかればそれを標的にした阻害薬が作られる。
・Precision Medicine Approach
遺伝子検査をまずおこない、その結果から治療を選択する。
がん治療の最先端では抗がん剤と分子標的薬、さらに免疫療法が加わる。

免疫チェックポイント阻害剤

T細胞は興奮すると非常に危なっかしい細胞なので、抑制するメカニズムが非常に発達している。T細胞はPD-1という抑制指示がはいるレセプターがあり、正常組織にはPD-L1が発現しておりPD-1に結合してT細胞の免疫活動抑制する。一方がんはPD-L1を発現しており、T細胞ががんを排除しないようにしている。
1992年にPD-1分子が発見され、2008年にホジキンリンパ腫に於けるPD-1経路の解明がなされ同年PD-1抗体の臨床試験が始まった。
肺がん、悪性黒色腫でオプジーボの有効性が証明され上市された。→95%くらいの患者に有効であった。
がん細胞の目印となるタンパク質を狙う。
リンパ腫はCD20に対する抗体(リツキサン)を使ってリンパ腫を攻撃する。
・がんに対する免疫を強化する
リンパ腫をT細胞に攻撃させたいが、リンパ腫の場合T細胞はリンパ腫細胞を認識できず直接は攻撃できない。そこでがんとT細胞を連結させる”BiTE抗体”が考案された。T細胞(CD3)とリンパ腫(CD20)を連結させてT細胞にリンパ腫を攻撃させる治療法である。非常に有効であり、さらに白血病にも有効である。T細胞が活躍するとがんには非常によい。
さらに、CART細胞が開発された。
 患者から血液採取しT細胞分離→T細胞にCAR遺伝子を導入→CART細胞を増殖→患者にCART細胞を輸注。するとCART細胞ががん細胞を認識し攻撃する。がん細胞がある限り(がんの抗原がある限り)CART細胞は増殖し攻撃をつづける。
 非常によく効き、再発・難治ALLにCART療法を1回おこなうと、80%が完全寛解し、9ヶ月で60%生存、最終的に約30%が治癒すると考えられている。再発した白血病は一般的にほぼ助からないが、CART療法はたった1回で治癒させるかもしれないすごい治療といえる。再発した白血病が免疫の力で治癒するのである。
BiTEとCARTの違い ・・・CARTは認識するがん細胞抗原がある限り増え続けて治癒するまで攻撃する。
ただし、多量のサイトカインがでて40度の発熱、肺は真っ白になり、痙攣をおこし、半数が意識低下するのでICUに入室する。すごい副作用とすごい効果がある。
1回の治療で47万ドル(約5000万円)かかるので、アメリカでは25歳以下しか適応しないとした。
もうすぐ日本でも認可されるが同様の年齢制限がされると考えられる。
CART療法の適応; 再発・難治性のAML、ML、Myeloma、 固形がん・・・治験が始まっている。

白血病は遺伝子を調べると治るかどうか予測できる

わずか数%しか助からない症例には、造血幹細胞移植/骨髄移植で治す。
抗がん剤投与しても100分の1に減らない白血病は治癒しない。そこで大量抗がん剤でどんと叩く代わりに正常白血球もなくなり回復しなくなるので、造血幹細胞移植/骨髄移植を行う。骨髄移植のよいところは、抗がん剤を加減しなくてよいところである。造血幹細胞移植は自己と他者(がん細胞)を免疫学的に明確に区別して他者を排除できることを利用している。

誰から骨髄をもらうのか。

免疫の細胞は自己と他者を明確に区別する。
造血幹細胞移植では赤血球の型は合わなくてよいが、白血球の型HLAをあわせないといけない。(数万人に1人しか合わない)
家族・兄弟で型が合いやすいが、中国人は一人っ子政策で兄弟がいないのでできない、日本人も最近は少子化で兄弟がすくなく合いにくい。そこで骨髄バンクが必要。
善意のドナーは48万人で移植待機患者は4000人である。現在はほとんどの患者がHLAはマッチする。
例えば岡山大学に患者がいて、札幌にドナーがいるときは、札幌まで検体を取りに行く。
骨髄移植前には大量抗がん剤と全身に放射線をあてて骨髄細胞を0にする。その後移植すると血球は回復する。
生涯でがんに罹患する確率は男性62%、女性46%
年齢とともにがんの罹患率・死亡率は高くなる。
とくに50歳以後急激に増加していく。

新しい移植 ミニ移植

中等量の抗がん剤+正常免疫反応 →高齢者に適応可能
ハプロ移植
 通常の移植はHLAが一致;免疫反応は中くらい だが、
 HLAが半分不一致;免疫反応は強い ・・・母親から生まれたこどもは必ずHLAは半分合致している。免疫抑制薬が発達してきたので移植可能となった。→ドナー不足は解決
その他骨髄バンク以外では臍帯血を利用できる。

抗腫瘍効果GVL(Graft versus Leukemia) と 移植片対宿主病GVHD(Graft versus Host Disease)

ドナーT細胞は白血病細胞を強力に攻撃するが、正常組織にも攻撃する。これをGVHDという。
T細胞は自己と他者を区別して攻撃しているだけであり、白血病細胞が悪いと思って攻撃しているわけではない。
一卵性双生児同士が移植しても、免疫反応が起きないので再発率は60%である。
一方急性GVHDが起これば白血病再発は非常に低率になる。
またGVHDが起きないのに再発率が一卵性双生児より低くなっている、つまりGVL効果がでている症例がある。
つまり、GVLとGVHDは全く同じではなく区別できる可能性がある。
・GVHDとGVLの病態を考える
GVHDはサイトカイン単独で起きることが判明した(Teshimaら)。
骨髄移植したあとに白血病が治るのは、なぜか?もしがん細胞に同種抗原が発現していなければ、がん細胞はドナーT細胞から攻撃されず死滅しない。同種抗原を認識したCTL機能を発揮させるのが重要である。サイトカインが多量にでてもがん細胞は死なない。
サイトカインを抑制し、CTL機能を増強させる ことががんを叩くために必要。
GVLとGVHDを分けることができると考えて研究中である。

質疑応答

Q. 免疫チェックポイント阻害薬やCARTが今後保険治療の中心になっていくのか。
A. CART細胞は血液の世界では非常に成功しているので、1回5000万円かかるが、おそらく今後普及していく。固形がんにも広げる研究がされている。CART細胞はCD20をみつけて最後の1個までみつけて攻撃しつづける。その結果B細胞は全く消失し年単位でB細胞はでてこない。そのかわり白血病はなおる。人間はB細胞がなくても生きていける。例えば肺がんの場合は正常肺の抗原を認識すると正常肺も攻撃されて死に至る。どういう抗原をターゲットにするかが固形がんの場合には非常に難しい。ただしがん治療にとって最後の1万個から0にするためには免疫の力が必要である。
Q. CART細胞による治療でも再発する症例はどのような機序か。
A. 腫瘍が免疫を回避するシステムを獲得する。最も単純な系はCD20の抗原を発現しないようになり攻撃を逃れるようになる。その対策としてCD19、CD20のダブルで認識するCARTの作成が研究されている。免疫細胞が攻撃する対象が際限無くあると、T細胞が疲弊して攻撃をやめることがある。その主な機序としてPD-1が発現する。対策として、CART細胞をCD19,CD20,認識し、PD-1抗体を自己産生するものを作成する。
Q. 血液の腫瘍は完治することが多いが、固形がんにおいて免疫治療で治癒する時代はくるのか。
A. 血液の疾患では生存曲線はプラトーになるが、肺がんはプラトーに達せず延命にとどまる。1回の治療で画像上は見えなくなるくらいの治療のパワーがあれば、最後は残存がんを免疫治療で根治できるであろう。
Q.  免疫チェックポイント阻害薬のなかで、スーパーレスポンダーを経験することがあるが、そのような患者群の特徴などがわかってきているか。
A. 免疫チェックポイント阻害薬が効くか効かないかの判定が重要である。PD-1の発現を見つけなくてはならない。
スーパーレスポンダーについては、遺伝子がタンパク質を翻訳するのに、どれくらい翻訳するかは後天的に決まる。いつも抗原を発現しているのではなく、発現レベルは変化する。たまに遺伝子変異により多量にPD-L1を発現するがんがあり、そのがんはPD-L1に頼り切っているので抗PD-1抗体がめちゃめちゃきくのであろう。
スーパーレスポンダーを見つけたらそのサンプルを取っておいてなぜ効くのかを明らかにしてほしい。

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