第116回日本内科学会総会・講演会に出席し最新の知見を学んできました

第116回日本内科学会総会・講演会 於名ポートメッセなごや

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

シンポジウム3 薬剤耐性への国家的アクションプラン

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

S1.世界と我が国の耐性菌疫学とJANISの今後
国立感染症研究所 菅井基行先生

S2.我が国のアクションプランの概要と現状(日本におけるAMR(薬剤耐性)対策の概要と現状)
国立国際医療研究センター 大曲貴夫先生

S3.院内感染対策とAntimicrobial Stewardship Program
京都大学 長尾美紀先生

S4.病院・国内でのChoosing wisely導入と教育活動
群生沖縄臨床研修センター 徳田安春先生

S5.開業医での抗菌薬適正使用実践例
まえだ耳鼻咽喉科クリニック 前田稔彦先生

●教育講演12 腸内細菌と消化器疾患
慶應義塾大学 金井隆典先生

●教育講演13 1型糖尿病の病態と治療の最前線
近畿大学 池上博司先生生

●教育講演14 ANCA関連血管炎AAVにおける間質性肺炎
東邦大学 本間栄先生

●教育講演15 全身性エリテマトーデスの臓器病変と治療
和歌山県立医科大学 藤井隆夫先生

●教育講演16 慢性腎臓病患者の心血管病管理
神戸大学 西慎一先生

S1.世界と我が国の耐性菌疫学とJANISの今後

国立感染症研究所
菅井基行先生

オニールレポート:経済学者が立てた将来予測。このまま耐性菌対策をせず現状のままであれば、2050年には耐性菌による死亡者数は癌を上回る。その人数は820万人を上回るであろう。

イギリス、インド北部のカルバペネム大腸菌感受性データによると、NDM-1 産生菌→ほぼすべての抗生物質に耐性でチゲサイクリンくらいしか効かない。
アシネトバクターが特にcritical であるが、アシネトバクター・バウマニによるカルバペネム耐性は日本を除く世界中に認められ、アジアの国の80%が耐性である。
クレブシエラ・ニューモニエ、大腸菌も同様で特にインドで耐性菌が多い。
MRSAも世界中に分布している。
日本の耐性菌の状況であるが、ヨーロッパと比較し、アシネトバクター・バウマニのグループの耐性は0.4%と低く、MRSAは51%、緑膿菌は17%である。
クレブシエラ・ニューモニエ5.1%と低いが、大腸菌は17.3%が耐性、肺炎球菌の耐性はさら高い。

2015年にWHOの総会でグローバルアクションプランを立てることを推奨された。

そこで2017年に日本で薬剤耐性研究センターが設置された。
日本のアクションプランの特徴は数値目標があることである。
2020年には肺炎球菌ペニシリン耐性を15%以下にする、大腸菌・肺炎桿菌の耐性菌を0.2%以下にする、などである。

薬剤耐性サーベイランス 日本ではJANISである。

特に検査部門と全入院患者についてのサーベイランスが重要である。
国立感染症研究センターにデータが集約され、その解析結果を各医療機関にフィードバックする。(還元情報提供)
JANISに参加する医療機関は毎年増加し、2150施設以上(日本の病院の3分の1)となっている。
200床以下の病院の参加はまだ少ない。
現在までにMRSAの耐性菌は低下しているが(6.5%)、フルオロキノロン耐性大腸菌は年々増加傾向で6%程度である。
JANISから、何の検体から耐性菌が検出されているという還元情報も提供される。
また情報の共有および還元情報の有効利用のために、2018年度末から全データのCSVデータをダウンロードできるようになっている。

今後の展望

JANISだけでは耐性菌サーベイランスができないので、連動したものを開発中である。
東南アジアにおけるAMR(薬剤耐性)サーベイランスへのJANIS利用(タイ、ベトナム、モンゴル)することで、日本への耐性菌流入を防ぐ。

S2.我が国のアクションプランの概要と現状(日本におけるAMR対策の概要と現状)

国立国際医療研究センター
大曲貴夫先生

(前提)医療に革命を起こした薬剤が失われる。AMR(薬剤耐性)がおおきな健康負荷になり、現代医療の前提が壊れる。

高度医療、移植医療では感染症制御に抗菌薬大量投与が前提であり、耐性菌の対策を立てないとそれらの治療そのものが成り立たなくなる。
今行動を起こさなくてはならない!

日本の抗生物質の使用量の比較では、日本はEUの国々と比較し下から3番目と使用量は少ないが、広域スペクトル抗菌薬の使用が多い。

レセプトデータを使った本邦の研究では、急性上気道炎の病名のついた患者のうち60%が抗菌薬投与されていた。
広島の開業医の先生の研究では、本当に抗菌薬投与が必要な症例は7%しかいなかったと報告している。
本来は使用しなくて良い抗菌薬をいかに減らすかが重要事項である。

「抗微生物薬適正使用の手引き」がH29年に厚生労働省より発表された。急性気道感染症と急性下痢症は自然経過で治癒する疾患であることを強調されている。

日本は欧州各国と比較し、患者の抗生物質に関する正確な知識の保有率が低い!ある報告では欧州は抗生物質の投与について52%の方が正確な知識をもっていたが、日本人は25%しかなかったという。
急性気道感染症の患者への的確な説明は満足度を高める。昨年の診療報酬改定で小児科領域では適切な説明で抗菌薬投与を回避したら点数がつくことになった。

J-SIPHE(感染対策連携共通プラットフォーム)は、

AMR(薬剤耐性)関連のデータを集約し、医療機関や地域ネットワークで活用する感染対策共通プラットフォームである。
微生物検出状況、抗菌薬使用状況、感染症診療指数、感染症検査指標、感染対策指標 などがまとめられ、各医療期間に還元される。
他施設とナショナルデータとの比較が可能である。現在150程度の医療機関が参加している。

抗菌薬の販売量は減ってきている。ただし、静注抗菌薬は減っていない。

高齢者への投与が非常に増加している。(Infection 2018 )
大腸菌のフルオロキノロン耐性をヒトと動物で比較すると、ヒト分野でどんどん増加している。(JANISとJVARMの比較)

ヒト・環境・動物 をワンヘルスアプローチすべきである。

S3.院内感染対策とAntimicrobial Stewardship Program

京都大学
長尾美紀先生

演者は検査部・感染制御部に所属している。

WHOプライオリティリスト(薬剤耐性菌のインパクト)

カルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニ と 緑膿菌がおおい。・・・抗菌薬の選択肢がなく大変困る。
第3世代抗生物質耐性大腸菌とクレブシエラの増加(ESBL産生菌)は、市中疾病負担と耐性菌の流行度に関与する。
ESBL産生菌の分離頻度は10−26%。演者らの研究では2002年からサーベイランス開始し当初は1.4%だったのが、現在は19%まで増加している。・・・カルバペネム使用量増加と関連する。
例えば救急外来で尿路感染症が来院したときに、いきなりカルバペネム投与が必要な場面がある可能性あり。
クレブシエラ耐性化率は3→12.5%に増加。
京都と滋賀を比較すると、その耐性菌は異なっており、地域差・施設差があることに注意すべきである。
プロテウスミラビリスは滋賀でおおい。

耐性菌増加の関連因子としては、

不十分な迅速診断、医療環境への伝播、ヒトへの誤った抗菌薬投与や過剰投与などが挙げられる。

耐性率は抗菌薬投与量に比例する。

ヨーロッパの研究では、各国でペニシリン処方量とペニシリン耐性肺炎球菌の率が相関した。
抗菌薬への暴露→耐性菌増殖→不十分な院内感染対策/公衆衛生機能不十分により耐性菌が伝播→耐性率増加、となる。

昨年より抗菌薬適正使用支援加算100点(入院初日)が導入されている。

細菌検査データの確認と患者情報収集 →担当医・病棟スタッフとのディスカッション→経過フォロー→コンサルテーション→このサイクルを繰り返す。 演者らは早期の診療支援・介入を行っている。

菌血症 :カンジダ症が最も死亡率が高い(30−40%)。次が腸球菌。

MRSAの菌血症の死亡率が京大病院では介入後に減少してきている。
早期の適切な抗菌薬投与、血培再検、早期の点滴抜去、などなどの工夫が必要。
指導介入することで診療科の先生方の行動変容が起こり、だんだん介入前にすでに対策を施してくれていることも増える。

伝播経路の遮断 が重要である。

15年前に多剤耐性緑膿菌感染症で死亡患者がでている。健常人には検出されず、易感染状態の患者に感染する。
緑膿菌は水回り、保菌患者など必ず伝播経路がある。
調査の結果、職員の手洗いが不十分、自動尿測定器の汚染、シャワー室の汚染、尿路カテーテル留置、カルバペネムの投与などがリスク因子。
緑膿菌は腸管にコロニゼーションすることがおおい。
演者らは緑膿菌感染のアウトブレイクを起こしたが、感染対策の徹底とカルバペネムの使用制限/使用許可性をおこない終息できた。

enviromental schwerdship

天然資源を適切に管理し未来に渡って使用できるようにすること。

S4.病院・国内でのChoosing wisely導入と教育活動

群生沖縄臨床研修センター
徳田安春先生

Choosing wiselyは医学界のなかでEBMに基づいた医療介入をしていこうとする活動である。

多くの学会が自発的にChoosing wiselyの実施を発表している。

・例えば、
下痢のないときにクロストリジウム・ディフィシル(CD)感染の検査を行うことは避ける。
上気道感染症で抗菌薬投与は避ける。
無症候性細菌尿に抗菌薬投与は避ける。
尿路感染症状がない場合の高齢者の尿路感染に抗菌薬投与は避ける。
ペニシリンアレルギーの確固たる病歴がない患者に、βラクタム型抗菌薬の投与は避ける。
外傷において局所抗菌薬をルーチン投与することは避ける。
アトピー性皮膚炎で抗菌薬投与は避ける。
患者の尿測定の目的のみのために、あるいは医療従事者のケアを楽にするための尿道カテーテルの挿入はさける。
・患者向けパンフレット、youtubeなどでChoosing wiselyについてメッセージが発せられている。
・Choosing wiselyに関する問題で、もっとも問題になっているのが抗菌薬である。
・急性疾患で入院→尿道カテーテルの留置がもっとも尿路感染症のリスクである。
倉敷中央病院の報告では、ICU領域において54%が適切な尿道カテーテル留置と考えられた。つまり46%は不適切だった。
適応の再考をすべきである。

5LIST(日本)

1.無症状の人々に対してPET検査によるがん検診を推奨しない
2.3.・・・検診に関するもの(早すぎて記録できず)
4,腹部Tなど
5.尿道カテーテル留置

S5.開業医での抗菌薬適正使用実践例

まえだ耳鼻咽喉科クリニック
前田稔彦先生

抗菌薬使用ではなく風邪に漢方薬を投与しようと考えて開業したが、開業当初は漢方いらないと言われた。

風邪症症状→抗菌薬、症状に関係なくほぼ一定の処方→効果がない→抗菌薬の種類を変えていく。
患者から抗菌薬服用してもあまりよくならない、と受付の薬剤師にもらされた。
グラム染色・・・誰でも簡単に見分けられるようになる、という感染症専門医の講演をきいた。
導入時の不安: 間違ったら…、
片っ端から検体を染色すると、3ヶ月ほどでグラム染色と培養結果がほぼ一致することが判明。

最初のルール

鼻汁グラム染色で白血球のみ 細菌なし→抗菌薬投与せず
肺炎球菌陽性 →ペニシリン投与
グラム染色なしの処方がむしろ不安になってきた。

ある患者 抗菌薬もらえないならもう一軒行こうかな、という意見がでた。

→モニター付き顕微鏡を購入し、患者に直接説明することにした。
医師が鼻汁採取→看護師や薬剤師が染色→薬剤師が検鏡し判定。

グラム染色導入後は

抗菌薬を処方しない患者、および抗菌薬を欲しがらない患者さんが増加
抗菌薬選択が病名ではなく菌名に変更した。


小児急性中耳炎診療ガイドライン軽症(5点いか)のフローチャートでは、軽症なら3日間は経過観察すべしとあった。

痛み、発熱、涕泣・機嫌、鼓膜一部発赤、鼓膜部分膨隆、耳漏
たとえ6点以上でも、鼻汁のグラム染色で菌陰性だった。カロナールとムコダインだけ処方し翌日受診を指示したが、
鼓膜病変は消退傾向、自覚症状もなくなっていた。ウイルス性中耳炎。
その結果、抗菌剤投与は最大時の7分の1となった。マクロライドは16分の1,セフェム系22分の1,キノロン系139分の1
逆にペニシリン系は3倍に増加した。
如何に不適切な抗菌薬投与をしていたかが判明した。

Q and A

Q グラム染色を痰でやってるが、職員の感染は大丈夫かと他院から質問をうけることがある。
演者らはどうしているか

A 洗面台のところに窓があり、染色時は窓を全開、手袋をはめるくらいである。検査技師、看護師、薬剤師が実施している。
座長よりコメント ;喀痰については、喀痰は結核菌など空気感染もあり、検体が異なる。→厳密には喀痰を処理できる陰圧のキャビネットで
実施するのが大事である。

教育講演12 腸内細菌と消化器疾患

慶應義塾大学
金井隆典先生

なぜいま腸内細菌か → 技術革新が可能とした!

無菌マウスに一つの菌を感染させるとどうなるかを調べられる。
Organoid、immunometabolismなどである。

演者の私見であるが、腸内細菌の全貌に対して、現在はごく僅かな知識/情報しか我々はもっていない。研究は始まったばかりである。

腸内細菌は21世紀に発見された新臓器

一人に100兆個の腸内細菌を飼っている。 約2kgである。ヒトゲノムは2万3千個の細胞でできているが、腸内細菌は300万個。
ヒトは1000種類の腸内細菌と共存している。
腸内細菌はほとんど大腸に存在(10の11乗個)、小腸にはほんの一部しかいない(10の7乗個)。
大腸は嫌気性である、小腸は酸素は薄いが通性嫌気性菌が主体である。
大腸はFirmicutes ,Bacteroides, 酸素の嫌いな発酵菌。
口腔内は酸素があるのでproteobacteriaなどの通性嫌気性菌。

善玉菌

一言でいうと発酵菌、Fiber発酵菌、食物繊維を餌にしている。→ 短鎖脂肪酸、propionate,Acetate,Butyrateなど人間に必要なものをつくる。
制御性T細胞を増やし炎症を抑制、大腸上皮の増殖にも関与。

悪玉菌

単糖類や二糖類、脂肪、アルコール、活性酸素を餌にしている。→硫化水素、TMAO→動脈硬化、炎症を促進、 ブチルアセテート→癌化

善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れ、悪玉菌優位になると疾病が発症する可能性が高まる。

西洋化生活が21世紀病をつくっている。

抗生剤の多量投与、帝王切開、人工乳、ストレス、運動不足、Low fiber, high fat 、家畜なし、過衛生
→ディスバイオーシス(Dysbiosis);腸内細菌の統制が乱れる、となっている。その結果炎症性腸疾患、過敏性腸症、大腸がんなどの疾患を引き起こす。喘息、アトピー、肝硬変、リウマチ、自閉症、動脈硬化にも関与することが示唆されている。

腸内細菌は全身に影響する。

300万個の腸内細菌が産生する代謝物は非常に分子量が小さいので容易に吸収され、免疫細胞を刺激したり末梢神経を刺激して脳に信号を送る(脳腸相関)、門脈を介してあるいはリンパ管を介して、腸肝相関、などがある。

免疫チェックポイント阻害剤と腸内細菌

免疫チェックポイント阻害剤は20−30%が有効だが、それ以外にあまり効かない群は腸内細菌が関与を示唆する報告が多数発表されてきた。
すなわちビフィズス菌、バクテロイデス、アカマシア、ファーカリバクテリウムなどを腸内細菌に優位だと「有効」らしい。
化学療法や放射線療法などが免疫チェックポイント阻害剤と併用が言われているが、腸内細菌を補充する方法も考慮される。

腸内細菌の研究方法の潮流

メタジェノミクス・・遺伝子から菌の存在を証明する。
トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームなど ・・・細菌の機能を考察できる。ただし病因には迫れない。
病因にせまるためにノトバイオートシステム(ヒト化した腸内細菌をもつマウスを用いて実験):便移植をしてヒトと同じ疾病が発病するかどうかをみることが可能。あるいは、無菌マウスに一つだけ菌を感染させて反応をみる。

原発性硬化性胆管炎PSC

肝臓免疫難病 ステロイド無効 右側型の潰瘍性大腸炎様の腸炎を合併 大腸がんのハイリスク。
これらの特徴から、まさに腸内細菌の研究に向いている疾患ではないか。
無菌マウスにPSC/UC患者の糞便移植マウスで肝臓内に病的TH17細胞が高率に集積することが判明した。
そして腸間膜リンパ節へ細菌のコロニーを形成した。すなわちクレブシエラ ニューモニエ、プロテウス ミラビリス、エンテロコッカス ガリナルム?(いずれも腸内細菌としては珍しいもの)が腸間膜リンパ節のみにコロニーをつくった。
PSC/UC患者のクレブシエラ、プロテウス、エンテロコッカスのいずれも粘膜内へ侵入することが判明した。
PSC腸内細菌感染説と除菌療法の可能性がでてきた(HP除菌療法と同様に!)

1000種類の腸内細菌のなかで、どれが病原菌なのか。

腸管内リンパ節を調べて病因細菌の絞り込みを行った。

糞便微生物移植

紀元世紀から報告がある。
1958年 オランダのグループが偽膜性腸炎を便移植FMTでなおした報告した。
FMTは有望であるが、感染細菌の混入の可能性もあり、まだまだ慎重におこなうべきものである。

教育講演13 1型糖尿病の病態と治療の最前線

近畿大学
池上博司先生

1型糖尿病の分類と診断

1型はβ細胞が破壊されて通常は絶対的インスリン欠乏に至る。 分類は劇症(あっという間)、急性発症、緩徐進行型(月から年単位)。
典型例は急性発症 3ヶ月以内にインスリン依存となる。
膵島関連自己抗体陽性:抗GAD抗体とIA-2 抗体、空腹時CPR<0.6ng/mL以下、尿中CPR10−20マイクログラム未満(24時間)

インスリン分泌パターン(1型)は、ほぼインスリンないが、グルカゴンで最大刺激してわずかにインスリンは分泌されることがある。

このわずかの残存が非常に臨床に影響する。
インスリンが完全に枯渇した患者は血糖コントロールを非常に不安定にすることがわかってきた。血糖が動揺する。
1型のコントロールが難しいのは完全枯渇した症例である。 ・・・brittle diabetes

そこでインスリン分泌能が残っているのかどうかが、まず重要事項である。

基礎インスリンの部分がとくに管理に難しい。
持続皮下インスリン療法(基礎注入量可変などいろいろな機器がでてきた)が最後の手段である。
健常人でも夜間低血糖管理するためにインスリン分泌が減少し、明け方は徐々に増加して早朝の高血糖を抑制している。
ポンプによる基礎インスリン分泌の調整は非常にむずかしい。
残存するβ細胞のインスリンを利用するのが必要。

初期治療により、インスリン分泌が回復する。

インスリン依存で受診した患者が、β細胞の微小残存でいけるのか、完全廃絶なのか、はその後の血糖コントロールに非常に重要となる。

誘因が判明していなかったが、最近わかってきた。

インターフェロンにより発症した糖尿病では、95%の症例で膵島関連自己抗体が陽性、かつ1型糖尿病感受性遺伝子を持っていた。
インターフェロンは免疫を促進する、免疫チェックポイント阻害剤は抑制する。
抗PD_1抗体治療に関連した1型糖尿病では半数が劇症型であった。果たして自己免疫?自己抗体は関与しているが。

劇症1型糖尿病

何が劇症化させるのか? GWASの検索から12番染色体長腕にCSAD(タウリン生合成の律速酵素)の遺伝子多型が見つかった。これはランゲルハンス島の保護をしている可能性のあるものである→ランゲルハンス島が脆弱となり劇症化しやすいという仮説。
CSAD/inc-ITGB7領域の遺伝子はインテグリンB7の発現を増強する遺伝子。→ランゲルハンス島の破壊促進・脆弱性に関与するという仮説。
これらの遺伝子は1型糖尿病を劇症化させる因子と考えられる。

教育講演14 ANCA関連血管炎AAVにおける間質性肺炎

東邦大学
本間栄先生

ANCA関連血管炎(AAV)

MPA EGPA EGPA(CSS) この3つが代表的であるが、呼吸器障害は60%程度が生じる。

  • MPA:microscopic polyangiitis顕微鏡的多発血管炎
  • GPA:granulomatosis with polyangiitis多発血管炎性肉芽腫症:昔はウェゲナー肉芽腫症
  • EGPA:eosinophilic granulomatosis with polyangiitis好酸球性多発血管炎性肉芽腫症:昔はチャーグストラウス症候群

MPAは間質性肺炎と肺胞出血、GPAは肺胞出血と壊死性肉芽腫性期気管支肺病変、EGPAは気管支喘息と好酸球性肺炎の合併が多い。

IP合併AAVをANCAで分類した場合、MPAと分類不能型で間質性肺炎の合併がおおいが、いずれにせよMPO-ANCA陽性例が多い。

間質性肺炎は予後不良因子である。もっとも予後不良はIPF/UIPパターンである。

特発性間質性肺炎は9型に分類されるが、AAVでみられるのはIPF/UIPパターンが多く、予後不良。

IPFでフォロー中の患者が途中でMPO-ANCA陽性になることがある。UIPパターンは非常に予後不良で5生率約30%である 。

演者らは、UIPとpossible UIPを合わせてUIPパターン、inconsistant (Non-UIPパターン)の2型に便宜的に分けて検討したところ、
AAVに合併するIPは、UIP、NSIP、器質化肺炎が高頻度である。

non-UIPはステロイドなどの免疫抑制薬がある程度有効。UIPは抗線維化薬の適応である。

AAVの胸部画像所見を検討した研究 n=199症例 MPAが圧倒的に多いが、
UIPパターン NON-UIPパターン、CPFE(上葉が気腫、下葉が線維化)パターンの3つに分けられる。

線維化以外の所見として、結節性病変、空洞、嚢胞、コンソリデーション、小葉中心性粒状影(細気管支炎を表している)、気管支拡張。
多彩な所見がMPAの患者で認められる。 蜂巣肺や牽引性気管支拡張の周囲にすりガラスがでてくるのがAAV-IPの特徴かもしれない。

MPAの肺病変

演者らはN=24例の肺病変を有するMPAを検討した。
間質性肺炎+MPO-ANCA陽性をPLVと定義して検討。

症例) IPFとしてフォロー中にMPO-ANCA陽性となりDAHを発症した。


2年で血痰、腎炎合併、MPO-ANCA急上昇しMPAと診断した症例だが、ステロイドと免疫抑制薬でDAHが改善するもUIPは改善しなかった。
MPA24症例をまとめた報告では、女性がおおく、粉塵吸入歴が多い。肺病変はIP、DAH、細気管支炎が多い。
死因: 呼吸感染症半分、次に肺胞出血。UIPかnon-UIPかで予後に差はない。
・MPAの18例中6例がIP先行だった。 男性、UIPはパターンが80%。

症例)  MPO-ANCA陽性例

典型的UIPパターン、病理は小葉辺縁にUIPパターン、一部の末梢肺動脈周囲に血管炎を合併。
CS+CPA投与しANCA低下したが、最終的には肺炎合併、肺線維症も進行し呼吸不全で死亡。
→本当に免疫抑制剤は必要か、抗線維化薬は必要か?
剖検にて、半月体形成性腎炎、筋肉の壊死性血管炎を認め、全身型MPAと最終診断した。

症例2) NSIPパターンとUIPパターンの混在 ・・・NSIPとした。ステロイドが有効。

尿所見なし。
ステロイド単剤で治療。→ 肺線維症周囲のGGOが軽度改善、ANCA値低下した。
こうした症例での肺病変のなかで血管炎を証明するのは難しい。
残存線維化病変に抗線維化療法と投与すべきなのか?

MPA合併間質性肺炎は、PLVに比較してANCAが高い。KL-6,SP-DはIPFパターンが最も高値。

PLVはKL-6が高値
MPAとPLVはUIPパターンが優位である。

PLV  (定義)特発性肺線維症にMPO-ANCA陽性となるもの。(特発性肺線維症の10%)

15例の検討では、6例が初診時ANCA陰性で、経過中に陽性となり、予後不良。
死因は急性増悪(死因の50%)がおおい、次に感染、肺がんなど。

まとめ

ANCA陽性間質性肺炎のケースコントロール研究では、高齢、男性、UIPパターン、基礎疾患にMPAが多い、予後不良、であった。
病理の所見: MPO-ANCA陽性UIPでは、リンパ濾胞が多い、細気管支炎合併、病理解剖ではDAH、胸膜炎、なども多い。
蜂巣肺周囲の肺野濃度の上昇は、ステロイドで消失するが蜂巣肺は消失しない。
コンソリデーション→高度の細気管支炎に伴って細気管支が崩れて嚢胞形成→蜂巣肺 の可能性が考えられている。(IPF/UIPの嚢胞形成とは違う機序)

治療について

最重症: ステロイドパルス+IVCY+血漿交換
肺限局型:ステロイド単剤 (+免疫抑制剤)
MPA-IP、PLVについては今後検討されるべきである。

好中球に膜型セマフォリン4Dは発現しており、AAVの患者は遊離型セマフォリン4Dが増加し血管炎の発症・進展に関与している可能性が報告されており、今後の治療ターゲットとなりうる。

※ AAV発症のメカニズム(大阪大学のHPより引用)
血管に発現する「PlexinB2」と、好中球に発現する「セマフォリン4D」が結合し、好中球の暴走にブレーキをかけている。
AAV患者では、ADAM17という酵素の働きによって好中球のセマフォリン4Dが切断され、好中球のブレーキがはずれ、不適切に活性化している 。

教育講演15 全身性エリテマトーデスの臓器病変と治療

和歌山県立医科大学
藤井隆夫先生

SLEのLupusは狼噛まれたようだ、が語源である。
男女比1:9で好発年齢20−40歳。
一卵性双生児で発症する確率は30%。・・・発病因子は遺伝子だけではない。
1948年 他の細胞の核成分を貪食する好中球を発見した。
SLEではほぼ全例で抗核抗体陽性である。
SLE新基準案が2019年に提唱された。
必須要件に、Hep2陽性の抗核抗体を持つものとされた。一度も抗核抗体陽性にならない症例はSLEと診断できない。
症状は多彩であり、中枢神経障害、TPP症例では重篤である。

ループス腎炎は予後を規定する重要な合併症である。

大多数に免疫抑制剤を必要とするため、原疾患よりも感染症での重篤な病状になりやすい。
SLE活動性の評価
副腎皮質ステロイド 免疫抑制剤 生物学的製剤 抗マラリア薬(HCQなど)

治療について SLE診療ガイドライン2019 もうすぐ発表される

ヒドロキシプロロキン(HCQ)を皮膚型LEに対してまず使用する。
皮膚型LE症例N=103例を3:1に振り分けて検討し、HCQが有意に有効かつ有意に再燃を抑制。
HCQは、皮膚症状、関節症状、腎症状を改善させる可能性があり、すべてのSLE患者に投与を考慮する。
HCQの副作用 ・・・HCQ網膜症(機序不明):網膜神経細胞変性萎縮がおこる。累積投与量が1000g、投与開始から5−7年で起こりうる。眼科と密に連携する必要あり。
ループス腎炎: ミコフェノールモフェチル(MMF)、アザチオプリン、またはタクロリムスを使用する。
神経精神ループス: 高用量グルココルチコイドとシクロフォスファミド間欠静注療法、難治性ならリツキシマブ(保険未収載)。

SLE患者ではB細胞活性化因子が活性化されている、 Bcell activating factor (BAFF/BLySブリス)

BAFFを欠損させると、B/T細胞の抑制と臨床症状の改善が認められる。(J Immunol 2006)

Belimumab(抗BAFFモノクローナル抗体)

50年ぶりののSLEの新薬である。
N=667に投与し、有意に有効。
安全性;感染症の頻度は上昇していない。うつ状態や自殺企図の増加の報告があるが、東アジアにおいては今の所ない。

治療は患者との共同的な意思決定である。

治療は長期予後、臓器障害の抑制、QOLの最適化を目標とする。
多臓器疾患であることを考慮する。
ヨーロッパでは2019年にrecommendationが示されている。

”SLEの寛解”とは、ステロイド中止、長期間無症状、抗DNA抗体・補体正常化、 SLEDAI=I の4つが達成されることである。

教育講演16 慢性腎臓病患者の心血管病管理

神戸大学
西慎一先生

腎移植ドナーの実測GFRと年齢の関係

年令とともにGFRは低下していくが60以上ある。よって60未満をCKDと定義する。
なぜ年齢とともに低下するのかは不明である。
高齢者になるとMR (medulary ray;集合管の密度が多い部分)がまず線維化してくるらしい。この部分は低酸素に弱い部分であり、背景に動脈硬化が進んでいる。糸球体硬化症。

CKDの特徴

全身の血管の動脈硬化も進んでいく。心臓腎臓は動脈硬化に弱い。
尿毒症、酸化ストレス、なども関与する。

血圧は多くの患者がガイドラインに沿って治療し日中は正常化しているが、糖尿病群においてはRiserパターンがおおい。

CKDを合併する糖尿病患者は夜間に非常に血圧が上昇する。
このRiserパターンの症例についてのリスクを検討した結果、糖尿病とBNP上昇が腎死のリスク因子としてあがる。
Riser patternでBNPが高い症例は、腎機能低下が早く予後不良であることが判明した。つまり夜間や早朝高血圧があってBNPが高いと予後不良。

高リン血症は血管石灰化のリスク因子である。血管石灰化面積と血清P値が相関する。

CKD患者の血清Pが高いほど血管石灰化が進行する。
透析1年目で死亡する患者は、感染症と心不全である。心臓弁石灰化や冠動脈石灰化の患者が透析導入後に心血管イベントをおこしやすい。
冠動脈と心臓弁石灰化は左室肥大と関連する。

CKDーCVD対策

夜間高血圧が問題なので、クロノセラピーの考え方でBed time dosingがよい。MAPEC STUDYでは、Bed time dosingを行うことで生命予後が改善することが報告されている。
興味深いことにBed time dosingは、新規糖尿病発症抑制効果がある。

新規透析患者への早期リン吸着薬処方の効果

日本透析学会ではあくまでPが基準値より高い場合に投与としている。演者らは炭酸カルシウムCC、または炭酸La(LC)、を投与し、炭酸Laのほうが冠動脈石灰化を抑制した。
尿毒素の主たるものにインドキシル硫酸があるが、血管石灰化にも非常に関与する物質である。インドキシル硫酸を活性炭で吸着することで動脈硬化を抑制できる。
ビタミンD治療は、酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdGが低下する。(8-OHdGは糖尿病でアップレギュレートされている)。
Nrf2はVitDで誘導される→強力な抗酸化作用を発揮するという。
※8-OHdG(8-hydroxy-2’-deoxyguanosine)は、DNAを構成する塩基の1つであるデオキシグアノシンの8位の炭素が酸化されて生成され、デオキシグアノシンはデオキシリボ核酸の4種類のDNA塩基のうち最も活性酸素種による酸化を受けやすいため、その酸化生成物である8-OHdGは活性酸素種による生体への影響を鋭敏に反映、生成された8-OHdGはDNA修復酵素の作用でDNAから切り出され細胞外に排出され,尿中に排泄される。尿中8-OHdGは非侵襲的に生体内の酸化ストレスを評価するために広く用いられている。
※Nrf2とは: 転写因子Nrf2を制御因子Keap1が常に分解制御しており、生体が酸化ストレスに曝された際には、この分解が停止しNrf2による防御応答が即時に発動し生体を防御する。

昨今漢方薬が注目されている。

黄耆を大量投与すると抗酸化作用Nerf2を活性化するらしい。

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