東京国際フォーラムで開催された呼吸器学会学術部会主催の「第40回生涯教育講演会」に出席し、最新の知見を学んでまいりました。

2019年4月11日に東京国際フォーラムで開催された呼吸器学会学術部会主催の「第40回生涯教育講演会」に出席し、最新の知見を学んでまいりました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

呼吸機能検査の現状と将来の課題
埼玉医科大学呼吸器内科 仲村秀俊先生

禁煙指導のUP TO DATE
石川県立中央病院 呼吸器内科 西 耕一先生

喘息予防・管理ガイドライン に基づく最新の喘息治療 〜JGL2018 主な改善ポイント〜
藤田医科大学呼吸器内科 堀口 高彦先生

肺高血圧症の現状
千葉大学呼吸器内科 坂尾 誠一郎先生

ランチョンセミナー 切除不能III期&IV期NSCLCの治療戦略について
佐々木高明先生

COPDガイドライン第5版改訂のポイントと今後の課題
山口大学呼吸器・感染症内科 平野綱彦先生

「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」改訂の意義と展望
順天堂大学 植木 純先生

オミクスが紐解く炎症性呼吸器疾患
大阪大学呼吸器・免疫内科学 武田吉人先生

膠原病的背景をもつ間質性肺炎
浜松医科大学 内科学第二講座 須田隆文先生

非結核性抗酸菌症の診断と治療
慶應義塾大学 医学部 感染制御センター 長谷川 直樹先生

肺癌診療ガイドラインのアップデートと今後の展開
北海道がんセンター呼吸器内科 大泉 聡史先生

呼吸機能検査の現状と将来の課題

埼玉医科大学呼吸器内科
仲村秀俊先生

COPDにおいてICS/LABA配合剤吸入はFEV1を約400ml増加し、残気量を引き出し非常に減少させる。

肺拡散能の改善はあまりない。
肺機能検査は、当日薬剤吸入したかどうかで非常にデータに影響するので、検査前に薬剤投与の有無に注意する。FENO47ppbを超えるとICSが有効。COPDに喘息合併(ACO)の診断に有用である。

現在普及しつつある検査

モストグラフ(当院採用の検査)は安静換気下で5−35Hz のパルス波や雑音波を用い呼吸抵抗を測定するが、喘息やCOPDの経時的評価に有用である。
経皮的CO2モニターは神経筋疾患又は慢性呼吸器疾患患者のNPPVの適応判定及び機器の調整目的での使用が保険適用となっている。
加温により動脈血化した毛細血管から皮膚に拡散したCO2の分圧をモニターする。
呼気ガスと呼気濃縮液・・・臨床研究に利用されている。
身体活動性の評価 ・・・歩数計や加速度計など。COPDの予後と強く関連する。 胸部CT・MRIの応用(後述)。

COPDではリアクタンスXrsについても呼吸周期依存性が強く認められ、喘息では弱い。

PAL(身体活動レベル;physical activity level) について

PAL=総エネルギー消費量/基礎代謝量(安静時エネルギー消費量)
身体活動性、歩数ともに閉塞性障害が重篤なほど低下しており、重症度にかかわらず経年的に低下した。
どの因子と比較してもPALがもっとも予後と関連することが判明した。

フレイルとサルコペニア

フレイル(Frailty)とは、高齢者が筋力・活動が低下している状態。
1.体重が減少
2.歩行速度が低下
3.握力が低下
4.疲れやすい
5.身体の活動レベルが低下
これら5つのうち、3つが当てはまるとフレイルとみなされる。
サルコペニアとは、握力と歩行速度を測定して両者ともに低下していると診断される。

胸部CT・MRIの応用

CTでは、CT値によりCOPDを−950HU以下 、エアートラッピングを-856HU以下で評価することが現在主流となっている。
吸気/呼気のCTを用いて局所換気の評価をおこなえる。重症COPDではほとんど換気は動いていない。
健常者でも中枢気道の開存と虚脱は認められる。
キセノンXenonを用いたdual energy CT(2つのエネルギーのX線を利用する撮影法)では、一見健常者と同程度のCT画像にみえても実は非常に換気が不良であることが検出できる。
Dynamic MRIでは、VRS(肺容量減少術)後の肺の可動性回復(胸郭と横隔膜の動きの改善)がよく分かる。

換気血流シンチとCTの対比により、疾患によって特徴があることがわかる。

CPFE(気腫合併肺線維症)では換気血流のミスマッチが認められる。BO(閉塞性細気管支炎)では、換気血流のミスマッチは認めない。

エコーによる横隔膜機能の評価は神経筋疾患で有用。

正常では、吸気時に横隔膜が2mm超もしくは20%超厚くなる。
ARDSなどの評価も救急の現場ではエコーが利用されている。

電気インピーダンス・トモグラフィ

胸部に電極をつけて弱電流を流してEITモニターで測定(電気の流れにくさを測定)すると局所的な換気分布が可視化される。無気肺、胸水、ARDSなどの病態評価に有用とのこと。

Fiber grating センサー

体幹に照射された多数の輝点をカメラで撮影し、胸腹部の体積変化を解析するシステム。

禁煙指導のUP TO DATE

石川県立中央病院 呼吸器内科
西 耕一先生

禁煙介入群(特別介入群と通常ケア群)を比較したところ、14.5年で、特別介入群は禁煙率21.7%、死亡率8人/1000人・年、一方通常ケア群では禁煙率5.4% 死亡率10人/1000人・年であった。

喫煙者はCOPD発症群も健常者も、4割以上が禁煙に無関心である。
無関心の喫煙者には動機づけ面接(MI:motivational interviewing)が有用である。
 MIの実際: 喫煙者が喫煙に抱いている感情、信念、考え、価値観を探 ることに焦点を置き、喫煙者が喫煙に関する相反する感情を持ってい ることを明らかにする。そして、変わることを意識する受診者の言葉 (Change Talk:喫煙を止めるための理由、思考、必要性など)を拾 い上げ、決意の言葉(Commitment Language:家庭内では禁煙するなど、喫煙習慣を変える行動を引き起こす意思など)を引き出し、強化することである。

  • 禁煙指導で最も重要なことは、「繰り返し指導する」ことである。
  • 禁煙の効果は、1秒量の経年的低下量の減少と、急性増悪の減少、死亡率の低下である。
  • 禁煙プログラムの成功報告例では、認知行動療法プログラムを実施している(CHEST 2005)。さらに参加者に禁煙意識が高かったとことや、頻回に医療者とコンタクトを取ることが許可されたこと、なども禁煙率の高さの要因であろうと推察される。
  • 認知行動療法やRelapse prevention:Marlatt model(内容は省略します)
    これらの禁煙指導はかなりハードルが高い。

呼吸器内科医でもできそうな指導として、一般禁煙者に対する禁煙指導、スパイロメトリー+動機づけ介入、を行うのが良いであろう。
 Fletcher &Petoのdiagram(Br Med J 1977;1:1645-8)を用いて肺機能結果を説明し、スパイロメトリーを実施し説明することで約4−6%の禁煙上乗せ効果があるという。 肺年齢を用いて禁煙を促す禁煙指導を実施した報告では、禁煙成功率は対照群6.4%、介入群13.6%と介入群が有意に高かった 。

行動療法(禁煙の非薬物療法)

重要なのは、面接することである(face to face intervention)。

Dose-response effect

カウンセリングは短時間でもやればやるほどよい。時間と回数に用量反応する。医師以外の介入もあったほうがよい。(ナース、保健師、臨床心理士)

米国ではスマートフォンを用いたSMSが禁煙支援に用いられている。

禁煙効果、お金の節約度、禁煙勧奨文などの内容のメールを6ヶ月間定期的に配信した。対照群の禁煙率5%、介入群11.1%。・・・介入はしないよりはまし、程度の結果である。(面接が重要ということであろう)

禁煙補助薬

循環器疾患患者にはバレニクリンがよい、精神科疾患患者にはニコチンパッチがよい。
偽薬を用いたバレニクリンの効果 :2重盲検試験では有意に有効であった。COPD患者では、行動療法+禁煙治療薬服用で、単独療法に比較し有意に禁煙率が高かった。
精神神経性安全性と有効性の検討では、バレニクリンとニコチンパッチの両者とも精神疾患発症率に有意差なし。

呼気COモニター付き禁煙治療アプリが臨床試験され終了した。解析結果が待たれる。

加熱式タバコ

使用量の90%が日本で消費されている。
低タール高ニコチンのミストが発生する。
タバコ煙VSミスト(iQOS): 製造販売会社とは無関係の研究者の報告では、有害物質は十分に入っていると考えるのが妥当。
ウイスキーに例えると、ストレートで飲むか、割って飲むかの違い。
現在iQOSを吸っている人たちの30年後の予後を見るしか、真の有害性はわからない。
ニコチン依存症は何ら改善しない。
二次暴露の有害性についても、現在日本人しか吸っていないので、今後日本人の健康被害で明らかになる。

喘息予防・管理ガイドライン  に基づく最新の喘息治療 〜JGL2018 主な改善ポイント〜

藤田医科大学呼吸器内科
堀口 高彦先生

第1章 総論

・喘息の管理目標に長期的視点として「将来のリスク回避」が明記 された。
・喘息の問診・聴診・身体所見」,「気道炎症バイオマーカー」, 「喘息の自然史」が追記された。

第3章 危険因子と予防

・喘息の増悪の危険因子がアップデート→重症化と喘息死の 危険因子が追記された。

第4章 病態生理

・気道炎症の分子病態に関する最新の知見の追記。

第6章 治療

・治療ステップにおいて
長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の推奨範囲が拡大された他、
抗IL-5抗体製剤(メポリズマブ)、抗IL-5受容体α鎖抗体製剤(ベンラリズマブ)、
気管支サーモプラスティ追記。  「吸入指導」「医療連携」「難治性喘息への対応」が新規に追記された。

第7章 種々の側面

・「ステロイド抵抗性喘息」が新規に追記された。
・「高齢者喘息」に関する記載がアップデートされた。
・喘息の定義として、改めて気道炎症が本態であることが強調され、その結果として、変動性を持った臨床症状で特徴づけられる疾患であることが図示された。

喘息の病態

いままではTH2サイトカインが重要と考えられてきたが、ILC2から分泌されるサイトカインの重要性が注目されている。

喘息治療の管理目標として

発作や喘息症状がない状態を保つこと、将来のリスク回避(肺機能低下、喘息死、治療薬副作用)が書かれている。
可能な限り呼気中一酸化窒素濃度測定や、喀痰中好酸球検査で気道炎症を評価すると追記された。→喀痰中の好酸球の測定はむずかしいので、血中好酸球でもよいのではないか。
喘息増悪要因は種々あるが、FENO高値、ICS不使用が重要である。

フェノタイプ

女性の肥満、喫煙者の喘息は重症化に関連する。

喘息の問診として

住環境やペットの飼育は重要である。
喘息以外の鑑別として、疑う所見を見逃さないこと。頸部に最強点を認めるstridorなど。

喘息重症化の危険因子は種々あるが、特にステロイドバースト年間4回以上。

気管支拡張症がある症例は、呼吸機能経年低下の程度が大きいと言われている。
喘息重症化の危険因子についてガイドラインに追記されたのは以下のとおりである。(p47 表 3-3)
 ①コントロールが不良な喘息症状
 ②不適切な喘息治療
 ③高度な気流制限(特に予測値に対する1 秒量が60%未満)
 ④全身性ステロイド薬による治療を必要とする増悪
 ⑤ステロイド薬治療にも関わらず残存する気道炎症(喀痰好酸球増多,FeNO上昇など)
 ⑥喫煙
 ⑦増悪因子(職場·学校や家庭におけるダニ,真菌,ペットなどの感作アレルゲンなど)
 ⑧合併症(肥満,鼻炎,副鼻腔炎,COPD,気管支拡張症,うつ病,不安症など)
 ⑨小児期の発達障害,喘息,感染症などによる呼吸機能の成長異常
 ⑩遺伝的背景

主な長期管理薬の効果に関する特徴として

LABA単独は危険であることを注意喚起する意味でも気道分泌亢進させると明記した。

喘息治療ステップ

最重要治療薬はICSである。治療ステップ2からLAMAが使用可能となった。

喘息長期管理の進め方

もし良好なコントロールが得られない場合には、何はともあれ吸入手技の再確認・指導が強調された。
吸入療法の現状と吸入指導の重要性についてガイドラインで追記された部分は以下のとおりである。(p123 表 6-15)
 ①患者の半数以上は正しく吸入出来ていない
 ②最も多いのは不良手技
 ③pMDI:同調,ゆっくり深く吸う,吸入後の息止めなどが出来ていない
 ④DPI:薬剤のセット,吸入前に吐く,吸入後の息止めなどが出来ていない
 ⑤多くの医療スタッフは吸入方法を正しく示すことが出来ない
 ⑥吸入手技の不良な患者はそれに気づいていない
 ⑦完全な吸入器は存在しない
 ⑧短時間の吸入指導が喘息コントロールの改善に繋がる(エビデンスAJ)
 ⑨舌を吸入器の下に入れ,なるべく下げるように指導する
 ⑩正しい吸入手技は薬剤の副作用を軽減する
 ⑪患者教育の一環としてコミュニケーションや信頼関係の構築が重要

吸入指導の手順

環境再生保全機構よりDVDが作成され頒布されている、演者は利用をすすめられた。
デバイスの変更(Device Swtich)が重要なポイント。
シムビコートには「息止め不良」と記載があるが、実際には増悪時など末梢まで治療薬を届けるには、すべての吸入製剤は息止めが必要である。

吸入時に口腔内の舌を下げることで、喉頭内に薬剤吸入量が増える。

DPIには非常に有効、MDIでも有意に増加する。
うつむかないこと。
ホーっと心の中で思いながら吸う。かつ、テスターで十分音がなるまで練習する。

血中好酸球300/μL、血清IgE30kU/Lで治療方針を分類(Eur Respir J 2016; 47: 304–319)

血中好酸球>300/μL、血清IgE<30kU/L・・・Th2-Low →BT、マクロライド、体重の減量
血中好酸球<300/μL、血清IgE>30kU/L・・・Atopic →オマリズマブ
血中好酸球>300/μL、血清IgE<30kU/L・・・Non-atopic →Anti-IL-5、 Anti-Th2、オマリズマブ(POC)
血中好酸球>300/μL、血清IgE>30kU/L・・・Atopic athma with eosinophilia →オマリズマブ、Anti-IL-5、Anti-Th2

気管支サーモプラスティ(BT)は現在500例以上が日本で実施され、解析中である。

呼吸機能の改善というよりも、増悪抑制が期待される治療である。

Q and A

Q LABAと呼吸分泌について
 2008年ではLABAは気道分泌は抑制だったが、今回の改訂は真逆で増加。
 ここをどう考えるか。

A 玉置先生の研究では、気道分泌は抑制しない。
喘息にはLABA単独は用いないことを一般の先生に警告するため記載した。

肺高血圧症の現状

千葉大学呼吸器内科
坂尾 誠一郎先生

今回の内容の種本は 「肺疾患にともなう肺高血圧症」である。
日本医療機能評価機構(Minds)にもとづくガイドライン作成を行った。GRADE方式を採用。
診療上の重要度の高い医療行為→それに関するエビデンスを徹底的にあらう(システマティックレビュー)→益と害のバランス→患者への適応。
・2018年2月に作成され、2018年12月にフランス・ニースで第6回肺高血圧ワールドシンポジウムでパブリッシュされた。
・肺高血圧の定義が変更された。 (旧)平均肺動脈圧25mmHg以上→(新)20mmHg以上に変更!
分類は大きく変更ないが、1群は肺動脈性肺高血圧、3群は呼吸器疾患または低酸素血症に伴って起こる肺高血圧症、となった。
・1群しかエビデンスのある薬剤はないが、果たして3群に適応してもよいか?
1.5 PAH long-term responders to calcium channel blockersと 1.6 PAH with features of venous/capillaries、が新たに1群の分類となったのが大きな変更点である(動脈も静脈も関連していると考えられるようになったため)。

3群肺高血圧症の評価

1群でエビデンスのある選択的肺血管拡張薬は、3群のMild-to-ModeratePHには用いてはいけない、とされている。
・クリニカルクエスチョンCQ1 COPDに伴う肺高血圧症患者において、選択的肺血管拡張薬を用いることが推奨されますか?
この問題を解決するために、COPD,ILD,CPFEについての論文をGRADE方式で検討した。その結果、現状では十分なエビデンスはなく、専門的知識と治療経験の豊富な施設でのみ使用されることを提案する、とした。

全身性強皮症合併肺高血圧症

間質性肺疾患合併強皮症症例はASPIRE Registyによると肺高血圧症は予後不良。
COPD530万人 →約5万人にPH合併している。
SSc-PHのみだと1群だが、これにIP合併すると3群になってしまう!? →1群に適応の薬剤は使えるか?(・・・臨床的問題であるが結論はない)
70歳代女性 肺病変なしの典型的SSC 換気シンチも不均等なし→予後良好
同じく70歳代女性 間質性肺炎あり 換気シンチで不均等あり →予後不良

低酸素性肺血管攣縮HPV

病変部分の血流を減らして健常部位に血流を再分布するための反応。
もしこれに選択的肺血管拡張薬を投与するとどうなるか?→ シャント血流がふえることになる。よって専門施設での適応検討が望ましい。

ランチョンセミナー 切除不能III期&IV期NSCLCの治療戦略について

佐々木高明先生

NSCLCの病期別割合 III期21.1%、III期は根治可能な最終段階である。
臨床病期IIIAは呼吸器外科を含めた集学的治療グループで検討すべきである。
IIIA N1は手術、N2は術前治療ののち手術、あるいはIV期と同様の治療。
IIIb,IIIcは根治照射可能かどうか検討する・・・少なくとも対側リンパ節転移は根治照射不能。
切除不能III期は、化学放射線療法+RT同時併用治療が推奨。
切除不能症例は放射線、化学療法、免疫チョックポイント阻害薬 →肺障害との戦いである。

放射線照射による肺障害

放射線肺臓炎と放射線肺線維症の2つの病態からなる。
照射野範囲外にも肺炎が生じる。乳がんの接線照射などはよく知られている。
電離放射線は肺内の成分を電離しフリーラジカルを発生する →毛細血管内皮細胞やI型肺胞上皮細胞を障害する。→障害部位から炎症性サイトカインが発生する →炎症性細胞浸潤、硝子膜形成、肺胞出血を発生 →線維化。

放射線治療(RT)の進歩

2Dシミュレーション→3D→4D(呼吸も同期する)
照射方法の進歩の結果、放射線治療後の陰影が放射線肺臓炎かどうかを判定することが難しくなった。

IFRT (Involved Field Radiation Therapy

少し照射範囲を絞って原発巣に強く放射線をあてる治療)
RTはENI(原発巣と転移巣およびその通り道を推察して照射する治療)が標準であるが、最近IFRTを試みられている。現在のところIFRTで治療成績が向上するとのエビデンスは十分ではないが、化学療法併用例や高齢者でGTV(肉眼的腫瘍体積)が大きく照射野が大きくなる場合には有用である。

DVH(Dose Volume Histogram;線量体積ヒストグラム)

照射野には、肺、心臓、食道、脊髄などが含まれ、放射線による障害が起こりうる。
DVHを作成することによって放射線性肺臓炎のリスクを予測したり(V20:20G当たる部分が肺の何%になるか)、放射線照射量の推定ができる。
V20が40%を超えると有意に肺臓炎のリスクが上昇するので、37%以下にするのが望ましい。

化学放射線療法で使用される薬剤

CDDP+ DTX or S1 or VNR

免疫チェックポイント阻害薬による肺障害

日本人におけるニボルマブによるILD(市販後調査) ・・・COP、NSIP、HP、AIP
AIP(びまん性すりガラス)15.7%あったが、予後不良であった。
peritumoral infiltration(PTI):腫瘍周囲への陰影出現
肺内に多発転移巣がある場合に、転移腫瘍周囲にリンパ球が集簇してすりガラスを呈するような画像所見がみられ、これをPTIという。

免疫チョックポイント阻害薬(ニボルマブ)の有害事象分類(札幌医大 鳥越先生の分類)

タイプA T細胞がneo-antigenを認識するもの・・・例えば、悪性黒色腫のメラノサイト→白斑となる
タイプB 形質細胞/B細胞が抗体をつくる→ ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、甲状腺機能低下症を発症
タイプC 自然免疫、IL-6、IL-1、TNFαなどの炎症性サイトカイン、樹状細胞、単球、マクロファージ→大腸炎、血球貪食症候群を発症。AIPも関与していると予想される。
タイプD 薬剤の抗体とII型アレルギーを起こす。 例えばCTLO抗体による下垂体障害。

PACIFIC試験

根治的同時化学放射線療法後に2群に分ける→ デュルバルマブ(イミフィンジ®)群(N=476)、プラセボ群(N=237)。
デュルバルマブ群では有意にPFS、OSが延長した。
デュルバルマブ群で33.9%の放射線性ILDが生じている。プラセボ群で24.8%。アジア群が欧米人よりもILD発症率が高い。肺臓炎のリスク因子:アジア人、PSが悪い症例のほうがILDの発症率が若干高い。
・8週間以内にRT後肺臓炎発症が多いが、デュルバルマブ群も3ヶ月くらいがピーク。
・間質性肺疾患(RT肺臓炎を含む)の対処方法
Grade1 投与継続、Grade2 休薬、Grade3以上投与中止
デュルバルマブ(イミフィンジ®)を2週間間隔で12ヶ月間まで投与。

EGFR−TKI

症例)70歳女性 EGFR exon 19 del変異あり。 
ゲフィチニブ投与 →PDとなり CDDP +PEM →オシメルチニブ(タグリッソ®)に変更し、治療開始から4年生存中。
オシメルチニブはT790M変異の他、L858R点突然変異、エクソン19欠失変異などのEGFR活性型変異に有効。
オシメルチニブは野生型EGFRには作用しないので、皮疹や下痢などの副作用が少ない。
頭蓋内への薬剤移行がよい。

FLAURA試験 (オシメルチニブと従来薬との比較)

未治療のEGFR遺伝子変異陽性進行NSCLC (N=556)に対して、オシメルチニブ群と標準EGFR-TKI(ゲフィチニブまたはエルロチニブ)群を比較し、PFS中央値が有意に延長した(18.9ヶ月vs. 10.2ヶ月)。
副作用の間質性肺疾患の発現状況/発現時期・・・3%程度であり日本人にも少ない。
肺がん診療ガイドライン2018では、EGFR遺伝子変異陽性では、推奨はオシメルチニブ、2nd lineにゲフィチニブ、ダコニチニブなど。
ゲフィチニブまたはエルロチニブでは、経過中に50%にT790Mの変異が起こり有効性が低下する。HER2増幅やMET増幅なども生じる。
※オシメルチニブ初回治療後のC797X出現頻度は7%、オシメルチニブ二次治療後のC797X発現頻度は3%程度。
オシメルチニブの初回治療と二次治療ともに、耐性機序の多数派はMET増幅とC797X獲得変異のようだが、前者ではT790M変異が全く認められず、後者では約半数にT790M変異が残っている。
・免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験にEGFR阻害薬は除外されていたので、現状では併用の試験データはない。
・TATTON試験
オシメルチニブとデュリュバルマブの併用療法は、ILD発現率が38%あり危険である。
※オシメルチニブの添付文書に、他の抗悪性腫瘍薬との併用による安全性は確率されていない。

COPDガイドライン第5版改訂のポイントと今後の課題

山口大学呼吸器・感染症内科
平野綱彦先生

改訂のポイントは以下の6項目である。

1.定義の見直し、2.診断、3.管理目標の整理(4項目)、4.薬物療法のアップデート、5.非薬物療法のアップデート、6.『喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)診断と治療の手引き2018』との連携
定義の見直し:肺の炎症性疾患→肺疾患、呼吸機能検査で正常に復すことのない気流閉塞→呼吸機能検査で気流閉塞を示す。通常は進行性である→この表現は削除 (肺の発育不良による症例は進行しないので)。
COPDは炎症性だけでなく、非炎症性の原因も含まれる。

肺の発育不全

20歳の時点で肺機能が悪い(発育不良)症例では、小児期に不十分な喘息管理状態、母親の胎児期における喫煙、感染等の可能性が挙げられている。

COPDの診断

まずは疑うことが大切である。
喫煙歴、咳・痰・喘鳴、労作時息切れ、風邪症状時の咳痰・息切れ、風邪症状を繰り返す/回復に時間がかかる、などの病歴があれば疑う。
併存疾患;心血管疾患、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症、など
診断: 気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーでFEV1/FVC<70%であること。
長期の喫煙歴などの暴露因子があること。
他の気流閉塞を来しうる疾患を除外すること。
鑑別疾患:
 閉塞性換気障害を来す疾患:喘息、肺結核が重要。
 呼吸困難を来す疾患:心不全・不整脈、肺血栓塞栓症が重要。全身性疾患として神経筋疾患、貧血、甲状腺機能異常、代謝性アシドーシス。
 慢性の咳・痰を来す疾患:肺がん

COPDの管理目標

I.現状の改善

1.症状およびQOLの改善
2.運動耐容能と身体活動性の向上および維持

II.将来のリスクの低減

3.増悪の予防
4.全身併存症および肺合併症の予防・診断・治療

・COPDの治療の中心は気流制限をいかに取るかである。
・COPDの末梢気道には平滑筋はなく、壊れやすい。正常では肺胞壁がバネの役割になっているが、COPDではバネが壊れている状態であり、呼気時に気道が閉塞/狭窄する。その結果労作時に動的肺過膨張を生じる。
健常者は最大吸気量(IC)が大きく余力があるが、COPDでは機能的残気量が増加しICが減少している。
・症状およびQOLの客観的評価法 mMRC,CATがある。・・・治療前に評価することで治療後の評価が可能となる。
・COPDの身体活動レベルの低下は、COPD全死亡に対する最大の危険因子である。
COPDは、強度のつよい運動ほど施行しておらず、呼吸困難の症状が強い人ほど、身体活動レベルが落ちている。
mMRC 2度以下でも1日30分以上の運動は4割程度しかしていないが、3度以上では8割が運動していない。
COPDは全身併存症発症させるが、ここでも日常活動性が低下しているほど発症率が高くなる。
慢性粘膜炎症、運動不足によるマイオカイン分泌の低下 →糖尿病、動脈硬化、認知症、がんのリスク増。
※マイオカインとは運動により筋肉から分泌されるホルモンの総称である。

COPDにおける増悪の重要性

繰り返す増悪は、次の増悪までの間隔がどんどん短くなっていき、死亡率が上昇する。
頻回増悪は、一秒量の急激な低下・気道炎症増加・QOL低下・死亡率増加、を来す。
・従来の考えでは、年齢・喫煙にCOPDが合併して併存症発症 →現在はCOPDになった時点で種々の合併症を持っている。
・薬物療法の中心は気管支拡張薬である。まずこれから投与を考慮する。
忘れてはならないのは非薬物療法であるが、リハビリテーション、禁煙、ワクチンなどがある。
COPDは迷走神経の興奮が過剰に亢進している。その結果分泌物が増加、気道内腔狭窄する。よって抗コリン薬が有効。
吸入抗コリン薬投与は気管支内腔が拡張し過膨張が改善し、動的肺過膨張も起こりにくくなる。
COPD患者においては、LABA、LAMA単剤よりも、配合剤がより効果的である。
・吸入ステロイドを長期に服用することにより肺炎リスクが上昇する。
したがって、ACO(喘息とCOPDの合併)でないとICSを投与してはいけない。
LABA/LAMA vs ICS/LABAのCOPD増悪予防効果は、LABA/LAMAのほうが有意に効果があった。
ただし、十分な抑制効果とは言えないので、今後も検討必要である。
・ACO : 40歳以上、気管支拡張薬吸入後のFEV1/FVC<70%、喘息の特徴(呼気NO35ppb以上)を併せ持つもの と定義される。
呼気NO35ppb以上の割合は16.3%程度である。
・行動変容プログラムが今後必要になってくるであろう。
・高齢者のCOPDは終末期医療と隣合わせである。人生の最終段階の医療の充実が望まれる。

「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」改訂の意義と展望

順天堂大学
植木 純先生

2001年に初めてステートメントが発表されたが、当時は安定期のCOPDを対象としたものであった。
今回の改訂では、COPDだけでなく呼吸器疾患全般、および急性期のリハビリも含む。

呼吸リハビリテーションの有益性(呼吸リハビリテーションに関するステートメント2018)

 呼吸困難の軽減
 運動耐容能の改善
 健康関連QOLの改善・不安・抑うつの改善
 入院回数および期間の減少
 予約外受診の減少
 増悪による入院後の回復を促進
 増悪からの回復後の生存率を改善
 下肢疲労感の軽減・四肢筋力と筋持久力の改善
 ADLの向上・長時間作用性気管支拡張薬の効果を向上・身体活動レベル向上の可能性
 協働的セルフマネジメントの向上・自己効力感の向上と知識の習得

2018年定義呼吸リハビリテーションとは

呼吸器に関連した病気を持つ患者が可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため、医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して、自立できるよう生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入である。

呼吸器リハビリテーション料は以下の疾患で算定可能である。

急性発症した呼吸器疾患
肺腫瘍・胸部外傷その他の呼吸器疾患またはその手術後
慢性呼吸器疾患
食道癌・胃癌・肝臓癌・咽喉頭癌手術前後の呼吸機能訓練を要するもの

コンディショニングとは

運動療法を効率的に行うために、呼吸や身体の状態を整え、運動へのアドヒアランスを高める介入である。
呼吸練習、リラクセーション、胸郭可動域練習、ストレッチング、排痰法等がある。
・特に慢性の呼吸器疾患では、胸郭を含む全身の筋肉や関節の柔軟性の低下、筋力低下を伴う身体機能の失調・低下をきたし、運動療法の効率が低下するため、コンディショニングを時間をかけて実施することが望ましい。
・一方、身体的な介入のみに止まらず、運動に対する不安感の解消、モチベーションやアドヒアランス向上を目的としたメンタル面の介入、呼吸困難の軽減を目的とした服薬アドヒアランスの向上、運動前の短時間作用型気管支拡張薬の吸入等の指導も含まれる。
・口すぼめ呼吸を歩行リズムに同調させて行うと、運動耐容能が若干改善する(演者の未発表データ)。
・呼吸リハビリテーションは一秒量は改善させないが、肺の過膨張は若干改善させる。
・運動処方はFITT(Frequency,Intensity,Time,Type)に注意して指導する。週3回以上の実施が望ましい。
急性期のリハビリの目的は、臥床による合併症予防、身体機能低下の遷延の軽減、回復の促進である。
術後回復期のリハビリ目的は、呼吸器および臥床に伴う廃用症候群をはじめとする各種合併症を予防し、早期ADLの回復である。 
・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会では、日本で初めてのセルフマネジメント教育の定義を作成した。
セルフマネジメント教育は、健康問題を持つ人が疾患に関連する知識を得るだけではなく、自身が多様な価値観に基づき達成目標や行動計画を医療者と協働しながら作成し、問題解決のスキルを高め、自信をつけることにより健康を増進・維持するための行動変容をもたらす支援である。
・HOTの有用性を検討した報告では、24時間酸素吸って外出をした群が最も予後がよく(3.5年後に8割生存)、酸素吸ってるだけで動かない群は3.5年後に6割しか生存しなかった。

※(補足)伊勢丘内科クリニックでは、井原市民病院と提携して呼吸リハビリテーションの習得および自己管理のための療養日誌記録などセルフマネジメント教育に特に力を入れており、かつ通院中のすべての在宅酸素療法中の患者がセルフマネジメントを実践しています。

オミクスが紐解く炎症性呼吸器疾患

大阪大学呼吸器・免疫内科学
武田吉人先生

・オミクス =生体内分子を網羅的解析することを指す。
オミクス解析のおかげで、血培すると約10分で起炎菌が同定できる。
喘息・COPDのような多因子疾患ではゲノムだけでは解明困難である。多数の遺伝子が関わっている。
多因子疾患では環境要因も含めた細胞分子ネットワークの調節不全が関与している。
木を見て森を見ずでは全体像は理解できない。
・気管支喘息を14万人レベルで調査し、多面的関連解析を行うと、炎症性疾患に多くの共通点が見つかった。
・複数のGWASを統合し、疾患や臨床データをゲノムレベルで関連付けた。
・細胞膜4回膜貫通型蛋白ファミリー:テトラスパニン CD9
演者らは、CD9ノックアウトマウスではCOPDが発症することを報告した。
※テトラスパニンは、ヒトではCD9、CD63、CD81、CD82、CD151など33種類のメンバーが知られており、その機能は一言でいえば他の膜タンパクと結合してコンプレックスを形成することである。細胞膜上のラフト分子などと相互作用し、膜の配置を整えることにより炎症を制御している可能性がある。(大阪大学HPより引用)
※脂質ラフトは、スフィンゴ脂質とコレステロールに富む細胞膜上のドメインである。膜を介するシグナル伝達、細胞内小胞輸送、細菌・ウイルスの感染、などに重要な役割を果たすと考えられている。

シングルセル解析(CyTOF) 

多種多様な細胞集団の中から単一の細胞に焦点を当てて解析する技術。
例えば、肺の検体にこの解析方法をもちいることで、肺内の好塩基球がマクロファージの成熟を制御していることが判明した。
・血清proteomeのハードル: 血液の99%は夾雑蛋白である。
・Exosomeはバイオマーカーの宝庫
ExosomeのMicroRNAを採取して癌を診断する。
COPD患者由来のエクソソームをマウスに投与するとマウスにCOPDを誘導できた、という論文がでた(Cell)。
COPDについてマウスモデルの血清エクソソームから疾患特異的BM(バイオマーカー)候補を同定した。
・シングルセル解析(CyTOF) が免疫療法の効果予測になる
演者らはニボルマブ投与するメラノーマ症例でレスポンダーとノンレスポンダーを予測できる可能性を示した。

メタボロームの特徴

ターゲットが少ない、解析が確立している(容易)、低分子、表現型に近い、種差が少ない。
例として、患者尿に線虫が反応する、という現象が確認された。尿中のアミノ酸や脂質などのメタボライトを嗅ぎ分けているらしい。
・従来型の個別分子に注目する研究は各オミクス階層内の網羅性に乏しく、単階層のみを対象とするシングルミクス解析では階層間の作用が未知のまま残る。

膠原病的背景をもつ間質性肺炎

浜松医科大学 内科学第二講座
須田隆文先生

症例)

画像と病理はUIPパターン、しかし抗核抗体強陽性
IPFなら抗線維化薬、膠原病ならステロイド+免疫抑制剤。この症例の場合はどうする?
確立した膠原病の診断基準は満たさないが、膠原病と関連した症状や検査所見を示す間質性肺炎の患者群が存在する。・・・IIPsの中に少なからず存在する。
・UCTDは以前は膠原病の初期病変と考えていたが、ずっと膠原病を発症しない患者もいる。
Kinderらはbroad definition , Corneらはstrict definitionを提案した。
Corneの診断基準でUCTDと診断しても、病理組織がUIPならNSIPよりも予後不良であった。
・外科的肺生検を施行したLung-dominant CTD
病理組織と自己抗体で診断。症状は無関係。
組織型がUIPはNSIPよりも予後不良であった。

Autoimmune-featured ILD(AIF-ILD)

膠原病特異的症状 と 全身性炎症所見の組み合わせ、で定義。
組織型がUIPならば、予後はIPFと同等に不良であった。→わざわざ分類する必要はないかもしれない。

以上を踏まえて、ATS/ERSがIPAFを提唱した。

あくまで専門家が提唱したものであって、現在検証中である。
IPAFとは、
1.間質性肺炎の存在(HRCT or 外科的肺生検)
2.間質性肺炎の原因が不明
3.確立した膠原病の診断基準を満たさない
4.以下のドメインの中で、各ドメインの項目を満たすドメインが2つ以上ある。
A.臨床的ドメイン(膠原病の症状)B.血清学的ドメイン(自己抗体)C.形態学的ドメイン(CT、病理、他部位の合併症)
・IPAFの予後因子として、組織型は予後と無関係だった。
・IPAFの画像所見について(Chung JH. AJR 2017)
間質性肺炎の画像分類としては、UIP、possible UIP , inconsistend with UIPの3型が提唱されているが、
IPAFの画像所見(HRCT)では52%がUIPだった。
しかし、他の報告では、NSIPが64%だった。
※報告者によってIPAFの病理の頻度や予後の報告が異なっている。
・演者らの報告では、non-IPAFに比較してIPAFは予後良好。しかも組織型がUIPでもNSIPでも予後は比較的良好であった。

IPAFの治療

Mycophenolate(MMF)が有効との報告あり。肺機能低下を抑制した。
サイクロフォスファマイド(CPA)投与後は肺機能低下抑制や改善もあった。
・IPAFを含む進行性線維化を伴う間質性肺疾患にニンテダニブを52週間投与し登録終了した。(PF-ILD試験)
ピルフェニドンの治験も進んでいる。
・演者らは膠原病的背景をもつIIPsの前向き観察研究を進めている。N=376例
IPAF診断基準を満たすIPF6%、NSIP50%、→観察中に典型的膠原病を発症してきたものもあるという。

まとめ

今後IPAFの前向き研究により臨床的意義や治療法が明らかになると考えられる。

非結核性抗酸菌症の診断と治療

慶應義塾大学 医学部 感染制御センター
長谷川 直樹先生

・結核菌とNTMの祖先は同一である。
・非結核性抗酸菌は種々の特徴から環境で生息できる。
・NTMの診断は、喀痰で2回以上検体を検出するか、気管支鏡検査で1回検出することが必須である。
喀痰で2回以上検出することがcolonizationではなく感染症と診断するために重要である。
・NTMの感染症は肺だけではない。
リンパ節、骨・関節、播種性感染症(HIV、抗INFγ自己抗体)、皮膚・軟部組織にも認める。
医療関連感染が増加しており、Tatoo、美容形成、レーシック術に伴う眼科領域、内視鏡挿入部、腹膜透析カテーテル、デバイスなどの感染である。
とくに抗INFγ自己抗体が原因で後天性に播種性感染症を起こすのがトピックである。
・診断は喀痰からの検出が必須であるが、抗glycopeptidolipid(GPL)-coreIgA抗体も有用である。
Capillia®では感度0.69、特異度0.91。ただし肺MAC症の罹患率は日本が圧倒的に高く、諸外国ではMAC以外のNTMが多い国もある。
・肺MAC症の2病型:小結節気管支拡張型NB(55−80%)、線維空洞型FC(10−42%)
・発展途上国においては、TB多剤耐性菌と考えられていたものがNTMだったことがある。
・演者らはNTMの期間有病率を調査した。
2012−2013年の2年間で、24人/10万人・年、死亡統計から推定すると年間1500人が死亡し、33−66/10万人の有病率である。
・非結核性抗酸菌の微生物検査法として同定法は質量分析法(MALDI-TOF MS)が望ましいとされている。DDHは30年位前に開発されてアップデートされてない。

MAC症の治療適応について

確立した基準はまだないが、治療適応としては、
 FC型・・・早期に治療開始。手術療法も検討。(空洞病変は放置しない!)
 NB型は、血痰、喀血、排菌量がおおい、喀痰塗沫陽性、気管支病変が高度、病変の範囲が広い(一側肺の3分の1を越える)
一方、経過観察をしてよい場合としては、
 NB型で病変の範囲が少なく(一側肺の3分の1を越えない)、かつ気管支拡張病変が軽度、かつ自覚症状に乏しく喀痰塗沫陰性
 あるいは、75歳以上の高齢者

治療効果判定 治療期間について

菌陰性化の定義:4週間以上間隔をあけて、3回連続で呼吸器系検体の抗酸菌培養陰性。
治療期間は、菌陰性化した最初の検体採取日時から1年間(米国、日本)。
排菌陰性化してから最低1年間(英国)。

治療成績

マクロライドを含むレジメでの菌陰性化率は60%である。12ヶ月以上治療できると73%となる。
小結節·気管支拡張型は、治療期間が短いと再排菌率上昇し、治療期間延長しても再排菌率には変化なし。
線維空洞型は、排菌陰性化達成後2年間治療を推奨。排菌陰性化後さらに9ヶ月間の治療延長が再排菌率低下させると報告がある。

肺MAC症の治療効果を期待できない要因

 高齡者
 既治療例線維空洞型
 喀痰抗酸菌塗抹陽性一菌量が多い
 原因菌がM.aviumよリM.intracellulare
 クラリスロマイシン耐性
 クラリスロマイシン投与量<800mg/day
 EBの使用期間が5ヶ月以内
 治療期間が12ヶ月未満
・一旦治療が終了したあと、再排菌する可能性が高いのは、線維空洞型ではなくて、結節・気管支拡張型である。5年で50%以上。しかも、再燃ではなく70%−80%は再感染による病巣である。
・CAM耐性肺MAC症は予後不良
中途半端な治療で生じやすい。
初期からCAM耐性という率はすくない。
耐性化の要因として、CAM単剤、CAM+ニューキノロン、CAM+EMを含まないレジメ、などである。
CAM耐性判明後の予後は、多剤耐性肺結核と同程度である(17.5%が2年で死亡する)。
菌耐性化率は約10%。→ 肺手術+アミカシンで予後が改善。
・ガイドラインに準じた多剤併用療法を半年以上継続しても排菌が持続している難治性肺MAC症では、リポゾームアミカシン吸入療法をアドオンすると、排菌陰性化する症例が報告されている。
4ヶ月で29%の症例が喀痰培養陰性化した。
・M.kansasii症は治る。
・肺Mycobacteroides abscessus complex
3つの亜種にきちんと同定することが重要である。
M.abscessus(60%),masilliense(35%),bolletii(5%)。
M.abscessusとM.bolletiiはマクロライド使用によりマクロライド耐性遺伝子(erm)発現が誘導されるが、masillienseはermは誘導されない。

外科治療

気管支拡張症が目立つ部分、肺構造が破壊されている部分を除去しないと排菌陰性化が期待できない症例に適応となる。
演者らが125例の手術症例を経過観察したところ、8割は再排菌しなかった。26例死亡。
予後不良因子は、空洞病変を残した症例、片肺全摘術例であった。→空洞を取り切れるうちに手術すべきではないか。
・家庭内で非結核性抗酸菌の暴露を低減するには、次のような対策を講じる。
 シャワーヘッドを時々取り替える。
 風呂を洗うときマスクする。
 浴室内でのエアロゾル噴霧を減らす。(できるだけシャワーを使わない)
 加湿器を使用しない。
 土を掘り起こすときにはマスクをする。
・NTMの感染には環境が大事な要因である。
土・園芸、生活用配管、浴槽・シャワーヘッド、Hot tab、加湿器、中年、痩せ型、女性など。

肺癌診療ガイドラインのアップデートと今後の展開

慶應義塾大学 医学部 感染制御センター
長谷川 直樹先生

III期NSCLC

対側肺門リンパ節よりも進展しているようなN3症例では照射野が広くなるので、通常は化学放射線療法を施行しない。

RT治療ががん細胞の免疫プロファイルに与える影響

HMGB1は活性化する。
RTで生き延びたものはPD-L1を発現して逃げる。

アブスコパル効果

放射線治療によって、CD8+T細胞を中心とした抗腫瘍免疫を活性化し、照射外の腫瘍細胞にも抗腫瘍効果をもたらすことをいう。RTだけで臨床的に実感する効果は認めず、免疫治療との併用が必要。

PACIFIC試験

切除不能局所進行非小細胞肺癌において、化学放射線療法後の抗PD-L1抗体デュルバルマブ(イミフィンジ®)療法が新たな標準治療となった。デュルバルマブ群は有意に無増悪生存期間を延長した。

EGFR遺伝子異常陽性NSCLCにおいて

FLAURA試験:EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌においては、オシメルチニブ群がゲフィチニブやエルロチニブよりも良好な成績だった。ガイドライン推奨度1B
EGFR遺伝子変異陽性NSCLCでは、チロシンキナーゼ阻害剤とプラチナ併用あるいは血管新生阻害剤(ベバシズマブ)併用療法が初回標準治療となっている。
NEJ009試験(第III相)(演者ら): ゲフィチニブvsゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド において3者併用が予後を有意に改善 推奨度2B

産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業 SCRUM-JAPAN

全国規模で行われている遺伝子スクリーニングネットワークプロジェクト(肺癌領域ではLC-SCRUM-JAPAN)であり、希少なドライバー遺伝子異常(RET、ROS1、METなど)症例の集積とその分子標的治療の開発研究に重要な役割を果たしている。

初回プラチナ併用療法

KEYNOTE-189:非扁平上皮癌 ペムブロリズマブ+プラチナ+ペメトレキセド 推奨度1B
IMpower133:進展型小細胞癌(EGFR/ALK陰性)Atezolizmab+CBDCA+ETP
CheckMate227:NSCLCニボルマブ/イピリムマブ(PD-1/PD-L1抗体とCTLA4抗体の併用) vs プラチナ併用療法 ・・・免疫チェックポイント阻害薬の併用療法
Tumor Mutation Burden(TMB)のmutationが多いと予後が良好らしい。現在検証中。

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