去る2019年11月23日に、緩和ケア研修会@福山市民病院 に参加いたしました。

緩和ケアの基本的な知識を確認し、ロールプレイング、事例検討によるケアプランの作成などを実習しました。
大変勉強になったので、ご報告します。

緩和ケア研修会 実習録

緩和ケア研修会(PEACE)を受講いたしました。
2019年11月23日に福山市民病院で開催された緩和ケア研修会(PEACE)を受講し、緩和ケアに必要な知識・技術を学びました。
その概要を以下に示します。

緩和ケアの定義

生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族の痛み、その他の身体的、心理社会的、スピルチュアルな問題を早期に同定し適切に評価し対応することを通して、苦痛を予防し緩和することにより、患者と家族のQuality of Life を改善する取り組みである。
我が国では最近までがんとHIV感染症に対してのみ保険適応とされたいたが最近になり慢性心不全も適応とされた。今後非がん疾患にも適応拡大が検討されている。日本呼吸器学会でも慢性呼吸不全患者に対して現在検討中であり、今回の受講動機となった。

がん患者は様々な症状に悩まされる。

がん患者の70%は何らかの痛みを感じており、呼吸困難(10-70%)、悪心(6-68%)、食欲不振(30-92%)、倦怠感(32-90%)、抑うつ(3-77%)、不安(13-79%)などがおおいと報告がある。

全人的苦痛Total pain

緩和ケアは身体的苦痛だけでなく、患者と家族の様々な苦痛に対処し、QOLを改善することが目的である。苦痛を身体的、精神心理的、社会的、スピリチュアルに分類し、全人的苦痛として捉える。

身体的苦痛で頻度が高いものは、痛み、呼吸困難、倦怠感、口渇、早期腹満感、便秘、食欲低下、不眠などである。

精神心理的苦痛では不安、いらだち、うつ状態などが多いが、これらの症状は患者の楽しみ、生きる意義、他者との関係性を害し、QOLを低下させ、痛みや他の身体症状を増幅させる。

社会的苦痛とは、社会の中で果たしていた役割を、病気によって果たせないときや、役割が変化したときに発生する痛みである。経済的問題、職業の喪失や変更、患者自身の家族の生活への影響などが挙げられる。

スピリチュアルペインは、自分の存在自体やその意味を問うことに伴う苦痛と定義される。人生の意味を問うことは病気に罹患しなくてもあることだが、特に死が目前に迫った際にその問が強い苦痛を伴いうる。死に直面していろいろ湧き上がる思いという言い方もできる。

これらの苦痛を正確に分類することにこだわるのではなく、患者の抱えるつらさを全人的苦痛として把握することが重要である。

包括的アセスメントとは

苦痛について様々な側面から検討し評価するアプローチのことをさす。患者だけでなく家族も対象となる。

そのアプローチ方法は、

まず、苦痛のアセスメント(全人的苦痛を身体的→精神的→社会的→スピリチュアルの順に評価する)を行う。       
次に、患者/家族の意向・価値観を探り、目標を共有する。
 現在の気がかり 質問例「今、一番気がかりなことはなんですか」
 大切にしたいこと 質問例「一番大切にしていることはどのようなことですか?」
続いて、家族の評価、をおこなう。
 家族構成、中心的な役割(キーパーソン)、それぞれの家族の役割・機能、家族のつらさを評価

がん疼痛治療

痛みの評価として、痛みの部位と経過、強さとパターン、性状、増悪因子と軽快因子、現行の治療への反応性、日常生活への影響と満足度、などに留意する。
痛みには持続痛と突出痛があり、WHOの定めるがん疼痛治療ラダーに基づいて治療を行う。

オピオイド導入のポイントは

時刻を決めて定時に、
 非オピオイド鎮痛薬を継続するか中止するかは個別に判断する。
 体格が小さい、高齢者、全身状態不良(肝・腎機能低下など)は少量から開始する。
 患者の状態、副作用などを考慮してオピオイドの種類を選択する。

オピオイドの主な副作用は、

悪心・嘔吐・・・1-2週間で軽快する。
 眠気・・・ 数日で軽快する。
 便秘・・・ずっとつづき軽快しないので、必ず対策が必要である。
悪心・嘔吐には、プロクロルペラジン(ノバミン®)1回5mg1日3回、ハロペリドール(セレネース®)1回0.75-1mg1日1回、メトクロプラミド(プリンペラン®)1回5-10mg 1日3回
パーキンソン症候群やアカシジアに注意する。
便秘には、酸化マグネシウム(カマグ®マグミット®)とセンナ、センノシド、ピコスルファート。

主なオピオイドの等鎮痛力価換算比

モルヒネ経口薬60mg/日 = オキシコドン経口薬 40mg/日 =フェンタニル貼付剤25μg/時
 = モルヒネ坐剤40mg/日 = モルヒネ注射液30mg/日 = オキシコドン注射剤30mg/日 
 = フェンタニル注射液0.6mg/日

疼痛コントロールにおいて専門家にコンサルテーションするとき

モルヒネ経口薬120mg/日以上の投与でもコントロール不良の場合で、オピオイドの種類を変更するとき
 使い慣れない鎮痛補助薬を使用するとき
 放射線療法を考慮するとき
 神経ブロックを考慮するとき

痛みの閾値を下げる因子

不安、不眠、疲労、不快、恐怖、怒り、悲しみ、うつ状態、倦怠感、孤独感、内向的心理状態、社会的地位の消失

痛みを和らげるケア

マッサージ、温罨法、冷罨法、軽い運動、装具・補助具の使用、環境調整、気晴らし、一人で抱え込まない

呼吸困難

がん患者に対してモルヒネは呼吸困難改善効果が示されている。

呼吸困難のケア

環境調整(低温、気流)・・・外気をいれる、うちわ・扇風機
 姿勢の工夫・・・起座位、患者の楽な姿勢
 不安への対応・・・そばに付き添う、十分な説明
 酸素療法中の配慮・・・匂いなどの不快感に対処、乾燥しやすいのでいつでも水分を取れるようにする。

悪心嘔吐の病態と薬剤選択

動くと悪化する/めまいを伴う ・・・前庭神経/前庭器、治療:抗ヒスタミン薬
 持続的な悪心・嘔吐、オピオイド血中濃度に合わせて増悪・・・化学受容体、治療:ドパミン受容体拮抗薬
 便秘/食後に増悪する悪心嘔吐・・・消化管蠕動の低下、治療:消化管運動亢進薬

悪心・嘔吐のケア

原因の説明と目標の相談、匂いなどの原因・誘引の除去、必要なものを手元に準備するなど環境整備、体位の工夫、マッサージ、リラクゼーション、食事の工夫、口腔ケア、板皮対策、などが挙げられる。

気持ちのつらさ

まずは身体的苦痛がないか原因を探索し、原因があれば原因への対応を行う。
 社会的支援の拡充・・・介護保険、生活保護、訪問看護・ヘルパーの依頼など。
 自殺のリスクも念頭に置いて、支持的・共感的な態度で関わることが重要。

死にたいと言っている患者への対応

死にたいと思うくらい、辛いことがお有りなんでしょうね。
  きっと何か気がかりなことや、心配なことがおありなんでしょうね。今一番心配なことをお話しいただけますか。辛く感じていらっしゃることにについて、少し詳しくお聞きしてもよろしいですか。
と患者の気持ちを引き出し受容的に対応する。

せん妄

注意力や自分を含めたその場の状況を理解する能力が低下している(意識障害)
・・・一見起きているが、ぼんやりして頭はちゃんと起きておらず、平気でおかしなことを言ったりする。
正しい判断や行動をするための脳機能が低下する。・・・記憶が曖昧になったり、幻覚、錯覚、妄想を訴え
 短期間のうちに出現し変動する傾向がある。一日のうちでも変動する。
 たとえば夜間せん妄・・・昼間はふつうだが、夜間に症状が強くあらわれ、興奮したり怒ったり、豹変する。

せん妄に関連する因子として

準備因子:脳機能の脆弱性 高齢、認知症、脳梗塞の既往
 促進因子:昼間もカーテンをして陽が入らない。モニターや点滴が視界にはいる。メガネ、補聴器が必要なので不使用、ナースコールに手が届かない、4点柵による拘束感
 直接因子:(これを解決するのが重要)脱水、感染、高カルシウム血症、薬剤性・・・可逆性・回復可能
 直接因子:肝不全、腎不全、呼吸不全、頭蓋内病変 ・・・不可逆的

せん妄に対する薬物療法 

抗精神病薬を中心に投与する
 定期処方薬 ;リスペリドン0.5mg、ハロペリドール0.75~3mg、クエチアピン25-100mg、注射剤 ハロペリドール2.5-5mg

せん妄について家族への説明

認知症とは異なり身体疾患や薬剤が原因であることを説明する。
 回復可能な場合は、原因を除去し、症状が改善することを目標とすることを共有する。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者が予め話し合う自発的なプロセス、のこと。
ACPの内容:以下のような内容を確認し対応を考える。
 患者本人の気がかりや意向
 患者の価値観や目標
 病状や予後の理解
 治療や療養に関する意向や選好、その提供体制

ACPの注意点

非侵襲的なコミュニケーションを心がける。
 感情に注目し対応する。
 代理意思決定者と共にプロセスを共有する。
  ・・・代理意思決定者の裁量の余地について尋ねる。
 大切にしたいこと、してほしくないことを尋ねる。
  ・・・人工呼吸器、経管栄養、輸液、心肺蘇生などの生命維持治療に関してもその意向を尋ねる。
 患者にとって最善を協働して探索する。
 患者の同意のもと話し合いの結果が記述され、定期的に見直され、ケアに関わる人々の間で共有されることが望ましい。
※必ずしも医師が行うものではなく、ACPについて理解し、患者との信頼関係が築かれた医療従事者が行う。
予後一週間程度となったときは、「これからの過ごし方について」というパンフレットを活用して家族へ説明するとよい。

コミュニケーションスキル(悪い情報を伝えるとき)

座る位置、目や顔をみる、相槌を打つ、オープンクエスチョン、気持ちを繰り返す、沈黙、気持ち・気がかりを探る、理解できることを伝える。
共感する
 気持ちを受け止める。・・・患者の気持ちを繰り返す。
 沈黙を積極的に使う。・・・患者が目を上げ、発言するのを待つ。
 気持ちや今後の気がかりを探る ・・・「ご心配・気がかりなことを教えていただけますか」
 患者の背景と気持ちがつながれば、気持ちが理解できるものであることを伝える。
  ・・・「そんな状況でお仕事をされてさぞつらかったでしょう」「皆さんそのようにおもわれますよ」「大きの患者さんも同じような経験をされるんですよ」
 ※患者を十分に理解したあとでこの言葉を伝えると効果的である。

療養場所の選択と地域連携

患者がどこでどのように療養したいかを話し合うことが大切である。
地域において医療福祉従事者が顔の見える関係をつくっていくことが重要である。
患者家族の希望に応じて様々な制度や地域のリソースを活用する。
患者の現在の身体症状を評価する。
排泄、食事、移動、保清、更衣、整容

緩和ケアの地域リソースとして以下が挙げられる

在宅療養支援診療所
 訪問看護ステーション
 居宅介護支援事業所 ・・・ケアマネジャーの事務所
 訪問介護事業所 ・・・ヘルパーのこと
 保険薬局
 緩和ケアチーム
 緩和ケア病棟

在宅医療を支える制度として、

医療保険・・ 高額療養費制度
 介護保険・・ がん末期の場合には40歳から利用可能
 社会福祉・・ 障害年金 身体障害者手帳の交付?

末期がんと介護サービス

主治医意見書の診断名に末期がんであることを明示(およそ予後6ヶ月以内)
 認定調査や介護保険認定審査会での迅速な対応を要望する。
 介護申請時にはADLは保たれていることも多いため、意見欄に今後急速に状態が悪化する可能性が高いことを明記する。

緩和ケア研修会 参加者記念撮影

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