2019年12月8日にGSKが主催する「Respiratory Seminor 2019 in Sapporo 於札幌プリンスホテル」 に出席し、 喘息とCOPDに関する最新の知見を学んでまいりました。

2019年12月8日にGSKが主催する「Respiratory Seminor 2019 in Sapporo 於札幌プリンスホテル」 に出席し、喘息とCOPDに関する最新の知見を学んでまいりました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

気道過敏性は数年に渡ってゆっくり改善していく。
気道過敏性を指標に加えてコントロールするとICSは多くなるが、増悪回数は減少し呼吸機能改善も大きく、気道リモデリングの程度は軽減することがわかっている。世界では2億3千500万人 日本では1000万人が喘息である。

※喘息管理では、症状のみでは過小治療になる可能性があり様々な病態要素を指標を用いて管理すべきである。

講演1 今そこにある咳症状治療から長期の喘息治療に繋げる実践的アプローチとは

〜今後の治療選択を見据えてICS/LABAのポジションニングを採光する〜

東邦大学呼吸器内科教授
松瀬厚人先生

咳の神経経路

人の全肺組織 WESTら AJRCCM2015 ・・・現在もっとも詳しい咳の機序を説明している。
咳の経路は、基本的には気道上皮の間に咳受容体があり物理的化学的刺激が入ると迷走神経の求心路を介して延髄咳中枢にパルスが伝わって異物をはじき出すという生体防御反応である。
この経路で最重要なものは上皮にあるが分泌腺、血管、平滑筋であったりいろいろなところにあり、咳の出方は一つの機序ではない。
一種類の咳止めだけで咳を止めるのは困難である。
原則的に咳は末梢の神経反射であり、上皮の受容体に刺激がはいると咳中枢を介した神経反射であり不随意な反応であるが、一部の咳のメカニズムにはより高位、つまり脳中枢、大脳皮質が関与している可能性が示唆されており、随意な反応である。
いわゆる気持ちの問題も含まれる。咳は痰を伴うか、持続時間がどうかが重要。

・咳の分類咳嗽
・喀痰の診断と治療のガイドライン2019によれば、
急性咳嗽は3週間以内、8週間を越えると慢性咳嗽、3−8週は遷延性咳嗽
・感冒による咳嗽の持続期間は、
 種々の文献のメタ解析からおよそ3週間(17.8日)である。
 昼間の咳は12.7日、夜の咳は10.4日、湿性咳は13.9日つづく。
つまり風邪の咳は1日中咳がでていたのがまず夜の咳が軽減してだんだん眠れるようになり、乾性咳嗽から湿性咳嗽に変化していく。
喘息は夜間の咳がつよくなる。
つまり、2−3週間以内に咳のピークが過ぎていて全身状態のよい場合の急性咳嗽は治療不要である。
・慢性咳嗽は咳喘息がおおい。
ある報告では慢性咳嗽で受診した患者のうち、聴診とレントゲンだけでは原因が診断できない咳嗽の3分の2が咳喘息と咳優位型喘息であったという。
・患者はとにかく日中の咳をなんとかしてほしい
患者に「もっともなんとかしてほしい症状はなにか」と問うたアンケート調査によると、
 日中の咳(13%)が最も多かった。そしてどの症状よりもまず咳を止めてほしいと考えている。
 日中に咳がおおいほどQOLが低下するし、仕事ができにくい。
喘息患者の主治医に対する2大不満は、
 鼻閉鼻汁を治してほしい、喘鳴を改善してほしい。
重症喘息患者においても咳はQOLの低下と関連している。
・喘息の咳は簡単には治せない、手強いものである。
喘息患者の咳の発生機序に関する報告では、
そもそも喘息患者は咳が出やすい。
カプサイシンによる咳反射の研究から喘息の咳反射は亢進している。
男より女のほうが咳がでやすく、健常人より喘息患者が咳がでやすい。
 →この咳(咳反射亢進)はLABAやICSも効果なく対処方法がない!
喘息患者は気道収縮すると咳反射が亢進し咳がでやすい。 ・・・LABAが有効
 ↔ 風邪のときの咳反射亢進にLABAは無効である。
喘息患者にアレルゲン負荷した場合、まずヒスタミンなど遊離されて早期相の気道収縮がおきる。次に6時間後に遅発相(LAR)の炎症が惹起される。早期相、遅発相の両者でカプサイシンで刺激すると、収縮時の咳の誘発が見られる、炎症があっても咳反射が亢進することが判明した。
気道炎症がつよくても咳反射が亢進する。・・・ICSが有効
したがって、喘息は気道収縮と炎症の両者を制御しないと咳症状をコントロールできないのである。
・ホザワらの報告では、呼気NO40ppb以上残存の患者にFF/VI100を投与2週間で抗炎症効果が十分得られ、中止後1ヶ月でもとに戻る。
・FFについて、アデノシンに対する気道過敏性の評価、副腎抑制をみた安全性評価では、
FFはtherapoitic indexが大きい→つまり治療効果と安全域がひろい。(ブデソニドやフルチカゾンと比較して)
FF、VIそれぞれの単独投与ではLARの炎症は十分には抑制できないが、合剤にすれば十分に抑制できる。
・どんなによい薬でも服用できなければ効き目はない。
デバイスは楽でわかりやすいほうがよい。
エリプタは操作が簡単である。
 Stanfordら(JACI 2019)の報告では、一日1回と複数回のデバイスで比較すると、きちんと吸えている患者は1回なら35%程度、2回以上は25%程度しかいなかった。
FF/VIは1日1回で48時間後まで気管支拡張作用が証明されている。
・日本のガイドラインはFF/VIは1日1回でアドヒアランスが高い。
Take Home Message
急性咳嗽は安易に喘息治療をしない
喘息の咳嗽は気道収縮や炎症など様々な機序で発生する。
→LABA/ICS合剤を使用すべきである。

講演2 私はバイオ製剤をこう使う!実践的な重症喘息治療

北野病院呼吸器内科部長
丸毛聡先生

吸入薬で管理できない重症喘息の治療に 生物学的製剤である。
症例 69歳男性
35歳のとき感冒を契機に発症。66歳以後経口ステロイドでも不安定となったのでバイオ製剤を検討。
末梢血好酸球 560、FeNO 90、総IgE高値、好酸球性副鼻腔炎、肥満、GERD、OSA合併。
まずオマリズマブ投与したが4ヶ月でコントロール不良、月1回のOCSバーストを抑制できず。
ベンラリズマブに変更すると末梢血好酸球は0になったが、OCSバーストを完全には抑制できず。
その後メポリズマブで抑制できた。呼気NOは低下せず推移した 。

この症例をもとに、2つの課題を議論したい。
1.複数のバイオ製剤適応がある場合の選択基準
2.効果予測因子がある患者でも効果がでない場合がある

そこで、バイオマーカーと併存症の2つの観点でバイオ製剤を分けてみたい。
・バイオマーカーの実践的再考
バイオマーカーの役割;診断、効果予測(効果、治療反応性、不適切な治療を予防)、予後(増悪低減、肺機能低下抑制)
誘発喀痰好酸球数、末梢血好酸球数 血清IGE、FENO ペリオスチン等がある。
誘発喀痰好酸球数はもっともよいマーカーであるが、高価、煩雑、時間がかかる。
末梢血好酸球数 血清IGE、FENO が一般臨床で使える。
血清IGEは増悪予測には使えない。効果予測にも使えない。
末梢血好酸球数、FENO高値 は、どのバイオ製剤の治療予測因子となり重複する。
・Prognostic biomarkers
 喀痰好酸球数は増悪回数と正の相関、IgEでは逆相関、→IgEは予後や治療効果判定にはつかえない。
FENOは増悪回数の予測にはあまり相関なし。
末梢血好酸球数がもっとも増悪回数と相関あり。
本邦のデータでは末梢血好酸球数300以上では年間3回以上の増悪回数が増える。FENOでは相関しない。
FENO 40以上では、症状コントロールがよくても肺機能の経年低下は避けられない。
現在のところ末梢血好酸球>FENO>IgEの順に有用である。
→ 末梢血好酸球数を除去する治療方針は妥当であろう。
症例にもどると、本例では末梢血好酸球数高値、高IgE 、肥満、OSA合併であったことからType2と非Type2の併存症と考えられた。
IgEは治療予測因子にはならないのだから、オマリズマブより抗IL-5抗体が有効であると予測できたのではないか。
・喘息併存症について
演者は2型炎症と非2型炎症に分類するのがよいと勧められた。
本例では、
ECRS 好酸球性鼻副鼻腔炎 ・・・Type2
肥満、OSA ・・・非Type2
・ECRSは喘息重症度が高いほど合併しやすい。
 主要な症状は嗅覚障害、アスピリン不耐症、優位な病変部位:篩骨洞、
 手術をしても6年で50%再発する。アスピリン喘息患者は4年で全例再発する。
重症ECRSに対する治療
 OCS;有効だがなるべく避けたい。最近の報告では年4回以上ステロイドバーストを行うと長期的な副作用が増加する。しかしリセットに必要。
 ICS経鼻呼出に関する報告がある。
→ECRSに対するファーストチョイスは経鼻呼出である。
 辛夷清肺湯内の、辛夷と黄芩は好酸球のアポトーシスを誘導するという基礎研究がある。
演者らはICS抵抗性の副鼻腔炎合併喘息(N=41)に辛夷清肺湯を処方したところ、6割程度に治療効果を認め問題となる副作用はなかった。
・Forkkens WJら(Allergy 2019)の報告では、
好酸球性副鼻腔炎に対するバイオ製剤の適応について示している。
 1.Tpye2炎症がある、2.全身性ステロイド投与が必要(過去1年に2回以上投与)、3.QOLの有意な低下、4.有意な嗅覚障害、5.喘息合併の5項目のうち、すでに手術歴のある症例は3項目以上、手術歴のない症例は4項目以上を満たす場合に適応としている。
・肥満 GERD OSA
これらの合併症は欧米では多いが、日本ではそこまで合併例は多くない。
 CPAPだけでは体重が増加するという報告があるが、喘息コントロールには有効である。
肥満、GERD、OSAの合併はこれらが相互に関連してType1炎症を引き起こすと言われている。
 →現在使用可能なバイオ製剤はType1炎症に無効と考えられる。
・喘息併存症とバイオ製剤の使い分け (演者の私見と言われたが)
慢性蕁麻疹 オマリズマブ
アトピー性皮膚炎 デュピルマブ
花粉症 オマリズマブ
好酸球性副鼻腔炎 デュピルマブ、メポリズマブ
EGPA メポリズマブ
COPD メポリズマブ

・バイオ製剤の不応例
演者らの施設において、症状改善、増悪抑制、経口ステロイド減量、 いずれの改善もなかったものを不応例とした。
バイオ製剤ナイーブ例が35例あり有効28例、無効例7例。
 高齢者、肥満、GERDのある患者が不応であった。
メポリズマブ投与中の急性増悪において喀痰中好酸球は1.1%であった。
つまり投与中の増悪は非好酸球性の可能性が高い。

・バイオ製剤の比較
メポリズマブVSオマリズマブ
Zervas E、ERJ Open Res 2018
 A → オマリズマブ、B→メポリズマブ
オマリズマブ→メポリズマブに変更した単研究では急性増悪を抑制したものもある。
MNAやITCについて
ITCの報告では、増悪に関してオマリズマブよりメポリズマブのほうがよい。

メポリズマブVSデュピルマブ
 報告はMNAが1本あるのみ、同等である。
 個人的にはアトピーのある患者はデュピルマブである。その日からかゆみ軽減する。
 EGPAにはメポリズマブ

ベンラリズマブVSメポリズマブ
増悪抑制、好酸球除去率、長期効果、安全性/中和抗体
増悪抑制率については、
 メポリズマブのMENSA MUSCA試験によると増悪抑制率は50%以上。増悪0%率は20%未満である。
 ベンラリズマブはCALIMA試験で抑制率28%、増悪0率は20%以上である。
 すなわちメポリズマブは安定している、ベンラリズマブは著効例があるということになる。
末梢血好酸球除去率は、
 メポリズマブでは84%程度除去する。
  ベンラリズマブはADCC活性を有するので、1日でほぼ100%好酸球を除去できる。
好酸球には1.炎症性、2.恒常性免疫調節、の2つの側面がある。炎症性は疾患と関連するものであるが、
アレルギーマウスを用いた試験では、メポリズマブは炎症性好酸球のみを抑制し、恒常性好酸球は抑制しないとの報告がある。ただし人間では証明されていない。恒常性免疫調節を行う好酸球は、メタボ疾患の恒常性を維持することにも作用している可能性があるので、症例においてベンラリズマブが無効でメポリズマブが有効だった理由かもしれない。
長期の安全性に関して、
DREAM試験およびCOLUMBA試験によると、メポリズマブは208週間に渡り増悪を抑制した。
メポリズマブは平均13mg経口ステロイド投与していた患者は128週間ステロイドを減量させた(最終1.3mg)
有害事象は有意なものはない。
中和抗体についてその意義はまだ不明だが、メポリズマブは中和抗体の報告はないが、ベンラリズマブは10%程度出現する。

・まとめ
メポリズマブは、
 一貫した増悪抑制
 炎症性好酸球を抑制し、常在性好酸球は抑制しない。
 安定した長期効果
 安定した安全性
 中断後も再開で有効
 中和抗体は発現しない

Keynote Speech 一ノ瀬正和先生
2018年呼吸器学会のガイドラインでは、COPDの治療はLAMA/LABAおよび配合薬であり管理効率は非常に改善している。
気管支拡張薬で気管支を広げるほど息切れ、QOL、肺機能、増悪頻度が改善する。
一秒量が100ml以上増加すれば12%、比例して有意に改善である。
COPDの患者は気腫化により肺の弾性収縮圧は低下するので過膨張となるが、
LAMA/LABA配合薬は肺容量減少効果が証明されている(過膨張を改善する)。
さらに、急性増悪の頻度を20−40%低下させる。
COPDにおけるICSの位置づけであるが、COPDの重症度を問わず、喘息状態の合併があれば投与してよい。
FENO35以上、IgE173以上の両者が陽性の患者は確実にType2炎症を有すると考えられるが、COPD全体の24%存在し、ACOと診断される。
COPDと喘息の合併が多い根拠の一つに「肺の低発育」がある。
GOLDによると肺の低発育(成長障害)がCOPD発症原因のかなり重要な部分を占めるとされている。(Jamesら、AJRCCM2005)
喫煙するとよりCOPDを発症しやすいが、小児喘息患者は正常人健常人に比較して一秒量の到達点が低くなる。
従来COPDに認可をうけたICS製剤に加えてトリプル製剤が認可された。

講演3 COPD治療におけるトリプル製剤への期待

久留米大学呼吸器・神経・膠原病内科部門教授
川山智隆先生

ICSは痰がでるCOPDには肺炎リスクを高めるので、喘息の既往があきらかか、FENO高値かIgE高値であれば使用する。
肺機能がどんどん低下する症例もあり、COPD患者に半年ごとに肺機能検査をしてICSを投与するかどうか考慮している。
GOLD updated 2019によると息ぎれが強いタイプは気管支拡張薬を投与し、増悪が多いタイプはICSを考慮する。
すなわち過去1年に増悪2回以上あればICSを考慮、あるいは日本のガイドラインでは末梢血好酸球300以上なら考慮して良い。
肺機能が改善しても患者にはよくわからないが、症状が改善すれば患者はよく分かる。
チオトロピウムは4年間投与すると死亡リスクを13%抑制した。LAMAは第一選択薬である。
3剤併用したら肺機能がもっとも改善される報告がある。
そもそもCOPDにICSは投与してよいのか。
 大規模スタディの結果を精査すると、肺機能が悪い症例、禁煙した症例がよりICSが有効である。
 これらの群では一年間の一秒量の経年低下を抑制する。増悪も25%減少させる。
 同一患者が何度も気管支鏡検査にてフルチカゾン投与後の気道炎症を評価した報告では、COPDの患者にフルチカゾン単独で投与しても炎症細胞にはほとんど影響しなかった。
 一方LABA/ICSにすると炎症細胞が減少するという報告がある。LABAとICSの相互作用があるのであろう。
大量のICSは不要だが、少量ICS投与により肺機能が維持できる患者群がいる。肺機能検査で追っていく必要がある。
・重症喘息にICS/LABAが入っている患者に、チオトロピウムを追加投与すると肺機能は改善し増悪は31%、入院21%低下させた。 プラセボ群でも肺機能は20%も改善していたことから、臨床試験に入ることでアドヒアランスが改善したと考えられる。
・FULFIL試験
FF/UME/VI配合剤とBU/FMを比較した試験。
薬剤もデバイスも吸入方法も違う試験なので、本当に比較してよいのかという疑問はあるが、この試験ではカテゴリーDと言われる患者が全体の4割をしめている。
52週の時点で患者は3剤配合剤のほうが有意に肺機能改善し、症状改善し、増悪回数も35%抑制した。有害事象の肺炎は3剤配合剤がややおおい。
3剤配合剤を使用する症例は、LABA/LAMA配合剤では症状が取り切れない患者群である。あるいはACOの診断である。
・末梢血好酸球は簡単に測定できるのでぜひ調べてICSの適応がある症例を見つけてほしい。

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