2020年1月16日に 備後インフルエンザセミナー於まなびの館ローズコム の座長をいたしました。 インフルエンザウイルスとその治療について最新の知見を学びましたので報告します。

2020年1月16日に 備後インフルエンザセミナー於まなびの館ローズコム の座長をいたしました。 インフルエンザウイルスとその治療について最新の知見を学びましたので報告します。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

インフルエンザ診療の最前線

つむら診療所副院長
津村直幹先生

・インフルエンザは飛沫感染
数100万のウイルスが鼻にいて、くしゃみ1回で約200万個のウイルスが飛散する。咳は10万個、鼻汁1mL数百万。
人への感染が成立する最少ウイルス粒子数は100-1000個である。
1個のウイルスが感染したとして8時間後約100個、16時間後1万個、24時間後100万個に増殖する。
感染予防にはまず手洗いが重要、咳エチケットを実施すること(マスク、ティッシュ、ハンカチ、そでなどで鼻と口を覆う)
・インフルエンザワクチンの効果
 アメリカではFlu Shotという商品名で町中の薬局で販売している。
またハンバーガーショップなどドライブスルーでナースがワクチンを接種している。
ワクチンは、一般健康成人は発病を約70%以上抑制、高齢者も80%の有効性と言われている。
一方で小児では、厳密に培養や血清診断にて診断すると63-65%発症抑制している。
ただし小児の場合インフルエンザ様疾患として高熱がでた患者を対象しているので正確な統計はとれず、30%程度の有効性との報告になる。
・米国民の40%がワクチン接種するとインフルエンザ感染者は2100万人減少し、死亡者が6万人減少したと報告あり。
重要なのはワクチンそのものの有効性よりも接種率である。集団免疫効果である。
小児インフルエンザ関連死はワクチン未接種児が多いことが示されている。
・日本において2万人の小児を調査し、ワクチン1回うちと2回うちの効果の違いについて研究した報告では、ワクチン1回、2回ともにすべてのインフルエンザに有効だったが、いくつかのシーズンでは2回接種のみインフルエンザBに有効だった。
・妊婦・授乳婦へのワクチン接種
インフルエンザの重症化予防に最も有効であり、母体と胎児への危険性は妊娠全期間を通じて極めて低い。
妊娠後期にインフルワクチンを接種すると生後6ヶ月までインフルエンザ罹患率70%減、入院81%減である。
インフルエンザ薬は妊婦にも積極的に投与して良い。
・2種類以上の降圧薬を処方された高血圧患者においてインフルワクチンを接種すると、全死亡18%低下、心血管死リスク16%減、脳血管疾患死10%減少させる。
・A型インフルエンザの最高体温は、小児ほど高く、高齢になるほど低くなる。
体温38.5度以上になるのは、15歳以下の7割だが、65歳を越えると2割程度である。
・解熱剤は必要?
発熱がウイルス増殖を抑制している。
ただし小児では熱性けいれんなどもあり高熱は悩ましい問題である。
東北大学の報告では、インフルに感染した細胞と非感染細胞を平熱と高熱条件で培養した結果、高熱ではウイルス感染がない状態でも細胞障害が生じることを明らかにした。
つまり、子供や高齢者など高熱によって体調が不良(痙攣、脱水など)となる患者では解熱剤を使用する必要性がある。
安全性の確立されているアセトアミノフェンなどを活用して平熱に維持したほうが、細胞傷害性(=身体に悪影響)を回避できると考えられる。
・インフルエンザ発症とノイラミニダーゼ阻害薬の投与開始日の差による死亡予後の解析
N=10791 投与開始日が遅れるほど死亡率が上昇する。
・ノイラミニダーゼ阻害薬が推奨されるインフルエンザ重症化のリスクファクター
 5歳未満
 65歳以上高齢者
 慢性の肺疾患・心血管疾患・腎疾患・血液疾患・糖尿病を含む代謝性疾患・神経疾患など
 免疫抑制状態の患者
 妊婦及び出産後2週間以内の産褥婦
 アスピリンまたはサリチル酸を含む薬物治療をうけ、ライ症候群のリスクのある18歳以下
 肥満(BMI=40以上)
 ナーシングホーム等の長期療養施設入居者
・抗インフルエンザ薬
昨年ラニナビル(イナビル®)のネブライザー薬が上市された。
ラニナビルとザナミビル(リレンザ®)は再発熱が10%前後ある。
・バロキサビル(ゾフルーザ®)投与後のウイルス量の変化
治療前100万個のウイルス→ゾフルーザ投与→24時間後には100個程度になる。
すなわち24時間で家族内感染を防げるレベルとなっている。(国際共同第III相試験:T0831試験)
・平均解熱時間
インフルエンザ診療マニュアル2019-2020シーズン版によると、
抗インフルエンザ薬のFlu Aに対する平均解熱時間は、H3N2に対してバロキサビル24時間、オセルタミビルは27時間、H1N1pdmに対して28時間と39時間であった。(ただし症例数がかなり少ない)
内科系では投与5日後のH3N2に対してもバロキサビルの抗ウイルス効果は十分認められ、投与開始5日後にウイルスは検出されなくなった。(これも症例数は30と少ない)
・N=708 15歳以下の小児にバロキサビルを投与して臨床効果をみた演者らの検討では、
解熱までの日数を評価した。24時間以内に解熱した著効例は66%、2日以内に91.8%、3日以内で98.1%が解熱した。
・バロキサビル投与症例にて、I38アミノ酸変異の有無別ウイルス力価の推移
ウイルス量が6日目に再増加しその後低下したが、再増加でも100個であり、臨床的に問題となる個数ではなかった。
ただし、小児科学会は12歳未満の小児に積極的なバロキサビルの投与を推奨しないと2019年10月に発表した。
小児の臨床試験では熱、鼻汁鼻閉も評価項目となっているが(成人では評価項目でない)、鼻汁と鼻閉の評価項目があると罹病期間がかなり延長する。すぐに風邪をもらってくる可能性もあり、罹病期間は信用できないとのこと。
オセルタミビルと比較した場合、発熱はバロキサビルが早期に解熱するが、H3N2でもオセルタミビルと同程度であった。
・2008年9年にH1N1オセルタミビル耐性ウイルスが流行したが、成人において重症化率は変化なかった。
また小児においても発症後の経過が長引いた報告はなかった。
耐性化率と重症化率は必ずしも相関しないのではないか。
・PA/I38アミノ酸変異ウイルス(バロキサビル低感受性株)出現に影響する因子
投与前のインフルエンザに対するHI抗体価が高値(>=40倍)のみが有意差(低感受性が出にくい)があった。その他の背景因子は何も有意差なし。
ワクチン接種の有無によるバロキサビルの有効性は同等であった。
バロキサビルは解熱が速やかでウイルス量減少も速やかである。
・抗インフルエンザ薬耐性
昨年A(H1N1)pdm09に対するザナミビルとラニナビルの耐性なし、バロキサビル2.3%(9/395)、オセルタミビルとペラミビル(ラピアクタ®)は0.9%であった。A(H3N2)に対してパロキサビル8.0%(34/424)、その他は耐性なし。
今年はいまのところどの薬剤も耐性なし。
インフルエンザは毎年リセットされてずっと耐性化が残ることはないとのこと。

Q and A

Q1. H3N2に対するバロキサビルの臨床効果は低感受性か感受性かによらず同等なのはどのように考えたらよいか
A. 低感受性株では6日目にウイルス量が若干あがるが10の2乗から3乗個程度であり、さらに発症するレベルでも他者へうつすレベルでもない。すでにウイルスに対する自己免疫はできており、ウイルスを排除可能な状態である。実際に低感受性株でも重症化は認めていない。
感受性株と低感受性株の臨床効果は同等に有効である。
Q2.成人の場合、1日1回のみの投与で2-3日以内に解熱すると、まだ自宅待機期間と考えられる期間でも外出されることあり困る。1日1回は弊害はないのか?
A. 1日1回はアドヒアランスが格段によい。原則大学生以下の学生は5日間の出席停止であるが、社会人には厳密な定義はない。事業所ごとに取り決めがあるが、多くのところで解熱後2日は自宅待機としている。
Q3. ゾフルーザ耐性 について患者に尋ねられたらどのように説明したよいか
A. ゾフルーザは耐性ではなく低感受性である。臨床的な効果は全く同等である。
Q4. 発症48時間以上の患者に抗ウイルス薬はどうするか
A. 3日以上でも有効であるという報告は多数ある。演者は投与している。感染症学会でも3日目以後も使用してよいと提言がある。
Q5. 3日目以降投与の著効例は自然治癒ではないか
A. その可能性はあります。証明はできませんが。

特別講演演者 津村直幹先生、一般演題演者大本真也先生と一緒に。

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