演者
大野 修嗣 先生
大野クリニック院長
日本東洋医学会 副会長
埼玉医科大学リウマチ膠原病科非常勤講師
明治薬科大学客員教授
漢方薬には清熱剤があり体を冷やす作用がある。熱中症に補助的につかうと有効である。
熱中症でもっとも有名な処方は清暑益気湯。
熱中症により胃腸が弱っているときにNSAIDS投与はあまりよくない。
発汗に対処する処方は西洋医学にはない。
漢方では、熱中症の病態は 表虚、水毒、脾虚、気虚、である。
清暑益気湯は発汗の抑制、胃腸の改善、気力・体力の回復、水毒を治し頭痛も治る。
熱中症の初期
口渇、頭痛、めまい、尿量減少(脱水や飲水量少・発汗) → この症状には五苓散が非常に有効である。
高齢者が暑い日に畑仕事をしたいと訴えた場合には、まず五苓散を服用してから作業するように指示するとよい。
五苓散について
茯苓・猪苓・沢瀉・蒼朮・桂皮 の生薬からなり、利水剤の代表的漢方薬である。
利水剤は脱水、溢水、体液の偏在などの水毒を是正する。→臨床症状として口渇、尿量減少・増加、浮腫、頭痛を改善させる。
急性期の胃腸障害(嘔吐・下痢)を改善。 胃腸の水がチャポチャポしているのにも有効。
蒼朮はサードスペースの水を体内に引き込む作用がある。
比較;猪苓湯は類似する処方であるが、沢瀉と猪苓を含み、蒼朮は含まない →尿量は五苓散よりも増えやすい。
熱中症真っ盛り の時期
ほてり、発汗多量、口渇 → この症状には白虎加人参湯が有効である。
熱証の盛んな時期に使用機会がおおい。
白虎加人参湯について
知母、石膏、人参、粳米、甘草
効能①清熱 知母と石膏が体を冷やし、人参が胃腸系を立て直し、粳米が口渇の煩わしさを改善する。
不明熱で体温下げたいときに白虎加人参湯が役立つことがある。
皮膚温を下げて発汗を抑制する。
※発汗を抑制する方法は漢方ではいくつかあるが、白虎加人参湯は皮膚温をさげて抑制する。
効能②生津剤 体液を増やす
強い発汗・熱感・筋痛 の時期
熱感・発汗・筋痛・掻痒 → この症状には越婢加朮湯が有効である。
越婢加朮湯について
生薬構成 麻黄、石膏、蒼朮 他・・・麻黄と石膏が組むと止汗!となる。
効能
①清熱剤 皮膚炎、関節痛、筋痛などの消炎鎮痛鎮痒
②利水剤 麻黄・蒼朮はサードスペースの体液を体内に吸収する
③麻黄は石膏と組むと止汗作用を発現する。
※帯状疱疹の水疱期に抗生剤と一緒に越婢加朮湯を1週間しっかり服用すると経過がよく、しかも帯状疱疹後神経痛はほとんど発生しない!
白虎加人参湯よりも越婢加朮湯のほうが止汗作用がつよい。
熱中症で疲労 の時期
倦怠感、食欲不振、熱感、発汗 →清暑益気湯 全体的に体力た落ちてきた状態にとくに有用。
清暑益気湯について
軽度の発汗(発汗傾向)、熱感、体力低下、食欲不振、夏痩せ、などの症状
熱中症に対して夏季に定期的に服用する。→高齢者は熱中症になりにくい。
人参、黄耆、蒼朮、陳皮、甘草 は胃腸機能を補って気力を増す(補気益気)
麦門冬、五味子、人参・・・この3つで生脈散:心肺機能の補助 として昔から使われている。
人参、黄耆、蒼朮、五味子、黄柏 汗腺機能を回復させて止汗させる。
当帰: 補血、行血、調血 とくに末梢動脈の血流を改善させる。
熱中症後遺症 倦怠感、食欲不振、盗汗(寝汗) → 補中益気湯
体力を増しながら気力を増す。
芍薬甘草湯 筋拘縮・攣縮を伴った急性の疼痛に有効である。横紋筋にも平滑筋にも有効。
こむら返り、尿管結石、胆石発作、しゃっくりに有効。
芍薬甘草湯は平均6時間くらい有効。
熱中症関連ストレスの漢方治療
心身の状態を漢方用語で読み直す 気逆 気鬱 気虚
暑気によるストレスに起因する気の異常
気逆・・ のぼせ ほてり イライラ の症状がある。
気鬱・・ 不安感 憂鬱感 心煩
気虚・・ 無気力 全身倦怠感
気逆の病態
気が身体上部に集まる→ 興奮状態を惹起 焦燥感 不眠
気の体温維持の作用が上部に集まる → ほてり 四肢末梢の冷え 冷えのぼせ
ほてり イライラ には、黄連解毒湯
脱水傾向から便秘傾向 には、 三黄瀉心湯
発汗後の胃部不快感・便秘 には、調胃承気湯
頑固なのぼせ、めまいには、女神散
頭部に熱が籠もるが無汗(汗がかけない) には、柴葛解肌湯(サイカツゲキトウ)
柴葛解肌湯は、体が暑いのに汗がかけない結果、体に熱がこもっている症例に有効。
気虚の兆候
元気がない、倦怠感、疲れやすい、食欲不振、日中から眠い
望診で眼勢無力、舌胖大、地図状舌、淡白色の舌色
補中益気湯の近縁処方
補中益気湯を処方したいような患者で
血虚高度・脾虚少ない → 十全大補湯
不眠・不安感 → 帰脾湯 さらにほてりあり → 加味帰脾湯
血虚・不眠 人参養栄湯
冷房病であれば、五積散が有用である!