WEB開催となった第60回日本呼吸器学会学術講演会の講演を聴講し最新の知見を学びました。 (その1)

WEB開催となった第60回日本呼吸器学会学術講演会の講演を聴講し最新の知見を学びました。
WEB開催の良いところは何度も聴講できることです。
この度は特に興味をもった演題について何度も聴講いたしました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

●教育講演8 肺真菌症の診断と治療
大阪市立大学臨床感染制御学 掛屋 弘先生

●Year in Review 腫瘍学術部会 -肺癌診療最近1年間の進歩-
和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科 山本 信之先生

●Year in Review 細胞・分子生物学学術部会
自治医科大学呼吸器内科 鈴木 拓児先生

●教育講演8 肺真菌症の診断と治療

大阪市立大学臨床感染制御学
掛屋 弘先生

代表的な病原真菌は、クリプトコックス、アスペルギルス、ムーコルである。
確定診断は真菌学的診断=培養 と、病理組織学的診断である。

① 肺クリプトコックス症

健常人にも発症する。
画像所見は多彩であり、肺がん、肺結核、難治性肺炎の鑑別として考慮すべきである。
診断の第一歩は、「クリプトコックスGXM抗原検査」である。感度・特異度ともに優れている。
莢膜多糖体のグルクロノキシロマンナンをスクリーニング検査として使用する。
孤立結節影と多発結節影と比較して、浸潤影では有意にクリプトコックスGXM抗原は高値となる。
一方で、15mm以下の結節性病変では陰性がおおい。肺がん疑いで手術後の診断確定も少なくない。
BALF中のクリプトコックスGXM抗原の評価はHIV症例の検討しか報告がない。
・長崎大学の報告(N=429)では、
血清抗原の感度73.9%、特異度98.5%、BALF抗原は感度82.6%、特異度97.8%。
血清とBALFの両抗原を測定した場合の感度は87%、特異度97.3%、陽性的中率64.5%、陰性適中率99.2%であり、スクリーニングとして両者を測定するとさらに意義が高まる。
肺病変の大きさと抗原陽性率については、21mmを超える結節影では血清抗原は80%以上陽性だが、20mm以下の結節では60%未満の陽性率である。BAL抗原では16mm以上で80%以上の陽性率、11-15mmでも70%の陽性率がある。BALF中の抗原を検出することは有用であろう。
・症例) インフリキシマブ投与中のクローン病
β-Dグルカン陽性、クリプトコックスGXM抗原陰性だったが、BALF中の抗原は32倍と陽性であった。
インフリキシマブを一旦中止し、治療にてクリプトコックスの陰影消失後にインフリキシマブが再開された。
再開後約2年で新規病変を認めクリプトコックスGXM抗原陰性だったが、細胞診にて診断し治療を実施した。
インフリキシマブを再開してよかったのか、生物学的製剤の再開が可能かどうかはエビデンスがなく今後の課題である。
・症例 関節リウマチにMTXとステロイドが投与された例
β-Dグルカン高値 → ニューモシスチス肺炎を疑った。ペンタミジンやST合剤点滴など行うが効果なく、その後クリプトコックスの菌血症の状態と判明し死亡した。
・肺クリプトコックス症の画像所見と細胞性免疫との関連
細胞性免疫が十分ある場合は肉芽腫を形成し、胸膜直下の結節影を呈する。肉芽腫中央部が壊死し排出されると空洞影を呈する。
細胞性免疫がやや低下すると浸潤影を呈し、極端な免疫低下は小粒状影やすりガラス影を呈することがある。CMVやPCPの重複感染も考慮される。
細胞性免疫にはINF-γ、TNFα、IL-2、IL-12などのサイトカインが重要である。
・β−1−3−glucanは、真菌の細胞壁の構成成分であり、カンジダ、PCP、アスペルギルスの細胞壁に存在しそれらのスクリーニング検査として使用される。クリプトコックスも同様に細胞壁に存在するが、クリプトコックス症ではβ−D-グルカンは陰性なのが一般的である。
その理由は、クリプトコックスの細胞壁にはβ-1-6-glucanがおおく存在すること、細胞壁の外側に厚い莢膜を有することが理由に挙げられる。
肉芽腫を形成するような病態では(1,3)β-D-グルカンは検出しにくいが、菌血症の病態では高値を示した。
・クリプトコックス症のガイドライン2019において、HIV感染患者においては脳髄膜炎や脳髄膜炎以外の播種性病変、肺病変等が掲載されており、一読をおすすめするとのこと。

② 肺アスペルギルス症

宿主の免疫状態や肺の基礎疾患の違いにより4つの病型を呈する。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)・・・びょうアスペルギルスに対するTh2サイトカインの過剰な免疫反応
肺アスペルギローマ・・・ある程度免疫は保たれるが陳旧性肺結核など既存の肺病変がある場合
慢性肺アスペルギルス症(CPPA)・・・既存の肺病変に慢性進行性を呈する状態
侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)・・・極端な免疫低下状態(長期間の好中球減少、骨髄移植、進行したAIDSなど)
アスペルギルス胞子は径2-5μmであり肺胞に達する。毎日数百から数千の胞子を吸入していると考えられる。

・侵襲性肺アスペルギルス症

1.リスク因子の評価

 好中球減少、免疫抑制療法、ステロイド長期大量投与、肺移植。肝不全、生物学的製剤
近年D-index (好中球数×好中球減少期間)でリスクを評価されている。
すなわち好中球減少の程度が強く長期間に及ぶほどリスクが高いということである。
Cumulative D-Indexを用いると、最適カットオフ値を5500と定めた場合肺感染症発症に対する感度87.7%、特異度74.7%であった。
先制治療に結びつく。
・血液悪性疾患における60日以内に糸状菌感染症を発症するリスク因子7つを用いてスコア化
 以前の糸状菌感染症の既往(10点)、好中球<100/μL、10日間(9.5点)、CMV再活性化(7点)、重症リンパ球減少(5.5点)、高用量ステロイド(5点)、ハイリスク化学療法(5点)、コントロール不良の悪性疾患(4.2点)
→ 合計点数が高いほど発症確率が上昇する。
・近年重症インフルエンザ後が侵襲性肺アスペルギルス症の発症リスクであることが報告されている。
侵襲性肺アスペルギルス症の診断基準は、基礎疾患が血液疾患、ICU入室、COPDに分けて示されている。
COPDでは血清ガラクトマンナン抗原2回連続陽性、血液疾患では血清もしくはBALのガラクトマンナン抗原陽性が診断に推奨されている。

2.診断のポイント

画像診断、血清診断、気管支鏡検査が重要である。
・画像診断では典型的所見を見逃さないことである。
 好中球減少時のhalo sign, 好中球回復後のair crescent sign
しかし、非典型的な陰影も呈するので注意すること
・血清診断
コクランレビューでは、血清診断におけるガラクトマンナン抗原の感度79%、特異度82%であるが、血液疾患や臓器移植などでは感度は41-65%と高くない。そこでBALF中のガラクトマンナン抗原が注目されている。
・BALF中のアスペルギルスGM抗原の評価について(N=251)検討した報告では、血清検体よりもBALF検体で有意に感度と特異度が上昇した。
・血清ガラクトマンナンの偽陽性の問題
偽陽性を呈しうる状態:C.neoformansのガラクトキシロマンナン産生、誤嚥性肺炎患者、クラブラン酸・アモキシリン投与、綿素材による検体汚染、遠心分離用チューブの段ボールによる汚染、大豆タンパクを含んだ経腸栄養、Bifidobacterium sp.の腸管内コロニゼーション、など
・治療前に気管支鏡検査を実施することが重要である。

3.治療について

第一選択:ボリコナゾール、L-アンビゾーム
A.terreusは、AMPH-Bに耐性であることが多く、一般に推奨されない。
A.terreusによる侵襲性肺アスペルギルス症の検討(N=83)では、VRCZ投与群がnon-VRCZ投与群よりも予後がよかった。
一方でA.terreusは、VRCZ低感受性株も分離されている。
→薬剤感受性試験が重要と考えられる。
・侵襲性肺アスペルギルス症診療バンドル(EQUAL)
欧米の5つのガイドラインをレビューして診療バンドル(遵守されるべき重要ポイント)が示されている。
診断:10日以上の好中球減少や同種増結幹細胞移植症例 → 週2-3回のガラクトマンナン抗原検査
発熱時は胸部CT → 陰影があれば気管支鏡検査でBALF採取し、GM、培養、真菌PCRを実施。
BALで陽性なら菌種の同定と薬剤感受性検査実施。
治療抵抗性症例では、生検で病理組織学的検査 → 菌糸を認めれば分子生物学的診断
治療;ボリコナゾール or isavuconazole(本邦未発売)、アゾール予防内服後ではL-AMB、もしくはカスポファンギン(カンサイダス®)
ボリコナゾール使用の際にTDMをしていなければ減点。
CTフォローアップ:治療開始後7日目、14日目、21日か28日

③肺ムーコル症

侵襲性肺アスペルギルス症と比較し頻度は5分の1以下であるが重要な真菌症である。
リスクファクターは肺アスペルギルス症と同じであり、画像所見も鑑別は困難である。
血清診断はムーコル症には「なし」
2019年欧州で発表されたGlobal GLで診断のフローチャートが示された。それによると、胸部CTなどの画像診断で疑ったら内視鏡やCTガイド下生検で病理診断・培養を行う。薬剤感受性検査も推奨。
治療は外科的デブリードマンが推奨されている。
抗真菌薬はL-AMBを初日から高用量投与。L-AMB使用できないときはisavuconazole
・演者らはムーコル症の血清診断のための研究を行っている。
シグナルシーケンストラップ法を用いてRhizopus oryzaeの菌体特異抗原であるRhizopus-specific antigen(RSA)を精製、うさぎに免疫して抗体作成しELISA法による診断キットを作成した。マウスにR.oryzae感染させ、感染後1日目から血清・BALともに陽性となり経時的にRSAは上昇した。RSAが早期診断に有用であることが示唆された。

●Year in Review 腫瘍学術部会 -肺癌診療最近1年間の進歩-

和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科
山本 信之先生

かつて肺癌は切除 → 無理なら放射線 → 無理なら薬物療法 のアルゴリズムであったが、昨今は薬物療法が進歩しその役割が大きくなってきた。
切除+周術期治療、化学放射線治療などである。
進行非小細胞癌では、分子標的治療薬としてドライバー変異や免疫チェックポイント阻害剤が使用されている。
ドライバー変異は、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、に加えて、NTRK、METが新たに追加された。
NTRKはEntrectinib、METにはTepotinib、Capmatinibが有効とされる。
・EGFR 遺伝子変異
FRAURA Final analysis がNEJMに報告され、エルロチニブやゲフィチニブに対してOsimertinibのOverall suvivalが有意に延長したことが示された。→ EGFR遺伝子変異 に対してOsimertinib 1st-lineとされた。
ただし、人種で効果がことなっており、non-Asianで有効性が高く、Asianはさほどでない。
現在進行中の臨床試験は、Osimertinib + Chemo、Osimertinib + Bev, Dacomitinib → Osimertinib、Afatinib後にOsimertinib、AfatinibとOsimertinib交代療法、などがある。
今後、ドライバー変異については、RET、KRAS、HER2に対応する治療薬が開発される可能性が高い。
2nd line以降もバイオマーカーに基づいた治療選択がなされ、リキッドバイオプシーが更に重要性が増すと考えられる。
・遺伝子パネル検査の問題点
組織量・・・気管支鏡で十分な量を採取するのが大変
コスト・・・検査をすればするほど病院にコストがかかる。
→結果導入しない施設も多い。
・免疫チェックポイント阻害薬
PD-L1発現 >=50% Pembrolizumab、Chemo+ ICI
PD-L1発現 1〜49% Pembrolizumab、Chemo+ ICI
PD-L1発現 <1% Chemo+ ICI
Chemo+ ICIが軸となり、今後も発展していくと考えられる。
日本からCBDCA + PTX + Bev +/- Nivoが発表される予定である。
今後2020年末までに、Chemo + Nivo +Ipi、あるいはNivo + Ipiが承認される可能性が高い。
・その他
新規薬剤としてADC(antibody-drug conjugate)、やBispecific antibodyなどが有望である。
・免疫チェックポイント阻害薬においては化学放射線治療にも導入されており、
現在は Chemo + TRT + Durvalumab(イミフィンジ®) が標準的治療となっている。
・StageII/IIIAのEGFR遺伝子変異+の病変に術後にOsimertinib投与するとDFSが著明に改善した。(ADAURA試験:EGFRmt, Osimertinib Adjuvant)
・EGFRとALK以外の遺伝子変異は、ROS1、BRAF・・・HER2をすべて合わせても1%に満たない希少がんである。
・殺細胞性抗がん剤
術後補助化学療法 CDDP + Peme
高齢者非小細胞肺癌 CBDCA + Peme
・SUSPECT 
進行期Non-SQ、EGFR/ALK-WTまたは不明症例に、1st line 治療として
Platinum/PEM/Pembroは確立しているが、薬剤性肺臓炎がおおいと報告がある。
治療開始後90日以内に肺臓炎発生率はany gradeで7.0%、観察期間中央値5.5ヶ月内では12.4%が発生が確認された。
・COVID Pandemicと新規癌患者数 in USA
COVID pandemicで健診等で発見される新規がん患者が減少した。-46.4%。
日本肺癌学会から「COVID-19パンデミックにおける肺癌診療:Expert opinion(03/AUG/2020)」が発表された。
感染の拡大の程度に合わせて3段階で治療方法の優先度を提案している。
例えばIV期NSCLC PD-L1>=50%の場合の優先すべき治療、どれくらいまで遅れが許容されるかなど示されている。
・インフルエンザワクチン接種は強く推奨する。
現時点でICIがインフルワクチン接種に与える影響を報告したものはない。

●Year in Review 細胞・分子生物学学術部会

自治医科大学呼吸器内科
鈴木 拓児先生

加齢・喫煙に伴う正常肺の遺伝子変異について
・正常気管支上皮細胞におけるゲノム異常はどの程度あるのか(イギリスからの報告)
正常気管支上皮細胞においても加齢に伴い遺伝子変異の蓄積がある。
1細胞あたりの年間変異蓄積率は約22個。
喫煙者では遺伝子変異が増加。
Ex-smokerでの1細胞あたりの変異平均は2330個、current smokerでの平均は5300個。
喫煙者の細胞でも非喫煙者と同程度の変異数しか持たない正常に近い細胞がいる(Ex-smokerでは20-40%、current smokerでは5-10が正常に近い細胞)。
禁煙による非喫煙状態への復元?肺癌発症率の低下に関係している可能性がある。
正常気管支上皮細胞においてもドライバー遺伝子変異が観察された。
ドライバー遺伝子変異をもつ細胞の割合は年齢に相関してみられ、加齢とともに10年ごとに1.5倍に増加。
ドライバー遺伝子変異をもつ細胞の割合は喫煙歴と相関し、喫煙者では非喫煙者に比べて2.1倍多かった。
喫煙者ではがん細胞と同様に複数のドライバー遺伝子変異をもつ細胞も観察された。

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