JSA/WAO Joint Congress 2020(その2)

日本アレルギー学会学術大会とWorld allergy organizationの合同開催となったJSA/WAO Joint Congress 2020に出席し、最新の知見を学びましたので報告します。 この会議は残念ながらWEB開催となりましたが、期間中何度でも視聴可能でしたので、興味ある演題について繰り返し聴講いたしました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

アナフィラキシー UP TO DATE
横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター 中村 陽一先生

■教育講演21 食物アレルギー診療におけるアレルゲンコンポーネント活用法

●講演1 特異的IgE抗体検査の限界とアレルゲンコンポーネント検査
国立病院機構三重病院 アレルギー疾患治療開発研究室 長尾 みづほ先生

●講演2 特殊型食物アレルギー診断へのアプローチ
横浜市立大学皮膚科 猪又 直子先生

●教育講演2
アナフィラキシー UP TO DATE

横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター
中村 陽一先生

1.アナフィラキシーの概要

定義: アレルゲン等の侵入により、複数の臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機をあたえうる過敏反応。血圧低下や意識障害を伴う場合はアナフィラキシーショック と呼ぶ。
原因: 食物がおおいが、成人では薬物、蜂刺症が一定を占める。
アンケート調査では成人の7%に薬物過敏、薬物によるショックや呼吸困難は0.77%との報告がある。
日本において死に至るアナフィラキシーは殆どが医薬品と蜂毒である。
アレルゲン摂取から症状発現までの時間は、薬物5分、蜂毒15分、食事30分。
最も多い症状は皮膚粘膜症状である。具体的には広範囲の皮膚の紅潮、蕁麻疹、眼瞼腫脹である。
皮膚粘膜症状90%、呼吸器症状60%、循環器症状40%、消化器症状30%程度。
数時間前までの薬物摂取や食物摂取状況、および周辺状況(運動、飲酒、感冒、月経、旅行など)にも注意して問診をすべきである。
アナフィラキシーに関与する患者因子で重要なのは喘息合併例 ・・・窒息の危険
急性期治療の要はアドレナリン注射である。

2.アナフィラキシーUp-To-Date

・ICD 11において分類が変更され、原因別の小分類が設定され統計がとりやすくなった。
・小麦依存性運動誘発アナフィラキシーWDEIA
この疾患では運動誘発は必須なのか?
小麦を運動負荷ありなしで症状誘発を比較すると、運動負荷時にやや症状がつよかったものの、運動がなくても誘発された。
一方小麦負荷のみでは発症しにくい患者で運動はその閾値を低下させることが判明した。
換言すると、WDEIAは運動がなくてもアナフィラキシーを誘発させうる。現在の定義小麦摂取後2-4時間以内の運動で誘発されるという定義は誤っており、他の食物アレルギーも含めて安易な生活指導は避けなければならない。

■教育講演21 食物アレルギー診療におけるアレルゲンコンポーネント活用

●講演1 特異的IgE抗体検査の限界とアレルゲンコンポーネント検査

国立病院機構三重病院 アレルギー疾患治療開発研究室
長尾 みづほ先生

特異的IgE検査の種類と特徴

・複数の測定キットがあるが、ImmunoCAPとその他の検査キットではプロバビリティカーブの数値がかなり異なる。
どのキットを用いて測定したかは解釈の上で重症である。
・症状がなくても感作されやすい抗原ある
多抗原同時測定検査キットでは本来目的としていないアレルゲンに対しても陽性反応がでてしまうことがある。
演者らは84例をView39とImmunoCAPなど他法で陽性率を比較したところ、かなり相違があり、少なくとも食物アレルギーの診断には多抗原同時測定キットの測定結果をそのまま用いることはしないほうがよいであろう。
・アレルゲンコンポーネント
粗抗原のなかからアレルゲンに特異的なコンポーネントを特定したもの。
含有量の少ないアレルゲンのとき感度が向上する。
 例)成人大豆アレルギー患者で、大豆粗抗原特異的IgE陰性、コンポーネントのGly m4陽性
特異的なアレルゲンを用いた検査で特異度が向上する。
 例)クルミ粗抗原陽性、かつJug r1陰性 → 非クルミアレルギー
   クルミ粗抗原陽性、かつ Jug r1陽性 → クルミアレルギー

食物のメジャーアレルゲンのコンポーネント

・卵アレルギーに対するオボムコイドは、加熱卵に対する診断に役立つことはよく知られている。したがって多数の研究者からプロバビリティカーブの報告があるが、年齢や対象によりグラフは異なっており注意する必要がある。
小麦アレルギーでは小麦粗抗原でまず陽性の患者を抽出し、本当にあるかどうかはω5グリアジンで確認するのがよい。
小麦アレルギー患者の中には大麦アレルギーになる患者もある。
牛乳アレルギーは牛乳粗抗原ともっとも相関するのはαラクトアルブミンsIgEであった。
・種実類アレルゲン
 汎アレルゲン・・・交差抗原が見られる PR-14,PR-5、プロフィリン
 貯蔵タンパク・・・2Sアルブミン(アナフィラキシーに関与)、7Sグロブリン、11S グロブリン
 オイルボディ・・・オレオシン
ピーナッツはまず粗抗原でスクリーニングし、コンポーネントのAra h2を測定する。
粗抗原で陰性だが、Ara h2 12以上で90%ピーナッツアレルギーである。→負荷試験不要。
粗抗原7、Ara h2 0.65で50%である。 → 負荷試験を考慮する。
成人の大豆アレルギーではGly m 4が有用で、シラカンバの花粉コンポーネントBet v1と相同性をもち交差抗原性があり感作される。Gly m5やm8は重症大豆アレルギーに関連すると言われている。
小児の大豆アレルギーではGly m4はあまり有用ではない。
小児にはGly m5やm8が有用である。まだ保険適用となっていない。
クルミコンポーネントはJug r 1が有用。
クルミ粗抗原>=0.35 で、
 Jug r 1>=1 ならクルミアレルギー確定。経口負荷試験不要。
 Jug r 1<1 なら経口負荷試験。
クルミ粗抗原<0.35 で、
 Jug r 1>=0.35 なら経口負荷試験
 jug r 1<0.35  ならクルミ摂取開始。 カシューナッツコンポーネントはAna o3 ナッツ類は一つアレルギー陽性だと複数陽性となることがあるが、個別に調べないといけない。 カシューナッツ粗抗原>=0.35 で、
 Ana o 3>=2.5 ならカシューナッツアレルギー確定。経口負荷試験不要。
 Ana o 3<2.5 なら経口負荷試験。
カシューナッツ粗抗原<0.35 で、
 Ana o 3>=0.35 なら経口負荷試験
 Ana o 3<0.35  ならカシューナッツ摂取開始。

■教育講演21 食物アレルギー診療におけるアレルゲンコンポーネント活用

●講演2 特殊型食物アレルギー診断へのアプローチ

横浜市立大学皮膚科
猪又 直子先生

食物アレルギーは年代により臨床型が変化することが知られている。
・新生児・乳児消化管アレルギー → 食物アレルギーに関与する乳児アトピー性皮膚炎 → 幼児でアトピー性皮膚炎 → 学童で気管支喘息 → 成人でアレルギー性鼻炎
幼児以後即時型症状として蕁麻疹やアナフィラキシー。
これらの一般的臨床経過に逸脱して発症するものが特殊型食物アレルギーである。
 食物依存性運動誘発アナフィラキシー ・・・学童期以後
 口腔アレルギー症候群・・・主に成人(ただし小児期から最近は認められる。)

食物依存性運動誘発アナフィラキシー 
(FDEIA: food-dependent, exercise-inducued anaphylaxis)

・何が特殊なのかというと、
再現性が低い・・・食べても出たり出なかったりする。
食後すぐに症状がでない・・・発症のタイミングに二次的要因が関わる。
したがって食べても症状がでなかったからその食物が原因ではない、と安易に否定してはならない。
主な原因食物は、小麦、カニ・エビ、果物である。
二次的要因として、運動、風邪薬、解熱鎮痛薬、などが重要である。
その他の二次的要因として、疲労、寝不足、寒冷刺激、月経、なども報告があり、運動だけではない。
中高生の典型的な発症パターンは、
 朝食後学校までダッシュしたら、昼食後に体育をしたら、間食して部活をしたら。
成人になってからのFDEIAは、はっきりとした運動がなくても発症する。
 食後に軽いウォーキング、入浴、掃除をしていたら、頭痛でNSAIDSを服用後に、疲労・体調不良。

小麦アレルギーの場合はどのような項目を測定するのがよいか

・小麦タンパク質は、
 15%が塩可溶性(アルブミンとグロブリン)・・・immunoCAP 小麦 はこれを調べている。
 85%が塩不溶性(グルテン) ・・・immunoCAP グルテン はこれを調べている。
 さらにグルテンはアルコール可溶性 のグリアジン(さらにその中のω-5グリアジンが特異的)とアルコール不溶性のグルテニン(とくにHMW-グルテニン)
小麦依存性運動誘発アナフィラキシーWDAEIAでは、ω-5グリアジンが感度特異度ともに高く有用である。
またアトピー性皮膚炎患者では、小麦アレルギーがないにも関わらず小麦陽性となる。
では、小麦やグルテン特異的IgEは調べる必要はないのか?
加水分解小麦アレルギーを発症した例では、小麦の陽性率が高くω-5グリアジンの陽性率はひくかった。
すなわち未知のアレルゲンの検出には小麦やグルテンも必要である。

口腔アレルギー症候群

・口腔症状に限局しやすく軽症例がおおい。
次から次へと原因食物が増える。
主に果物や野菜。
花粉症がある。花粉抗原との交差反応によって生じることがおおい。
したがって最近は花粉-食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndorome: PFAS)と呼ぶ。
(発症機序)
経消化管感作、経皮感作・・・食物
経気道感作・・・花粉 → 果物・野菜 (花粉-食物アレルギー症候群:PFAS)、アレルゲンコンポーネントはPR10とプロフィリンである。
経気道感作・経皮感作・・・ラテックス → トロピカルフルーツ(キウイ、マンゴー、バナナ、アボカド、クリなど) (ラテックス-フルーツ症候群:LFS)、アレルゲンコンポーネントはHev b 6とPR3である。
・症例 51歳女性
もも、さくらんぼ、びわ、メロン、りんごで口腔内のかゆみ。その後キウイ、豆乳を飲んでも同様の症状。春に花粉症あり。
本例はimmunoCAPで大豆、もも、キウイのいずれも陰性だった。
PFASに関わるアレルゲンはPR10,プロフィリンともに熱や加工に非常に不安定であり抗原性が容易に失活する。
検査で偽陰性の要因となる。そこでコンポーネント検査が必要である。
本例の場合コンポーネントはPR10の大豆 Glym4陽性、モモ rPru p 1陽性、ハンノキ rBet v 1陽性であった。
一方プロフィリンのGly m 3、rPru p 4,rBet v 2はすべて陰性だった。
以上から原因のアレルゲンコンポーネントはPR-10 の PFASと診断された。
残念ながら2020年10月現在Gly m 4 しか保険収載されていない。
・Gly m 4の臨床的感度は73.5%であり粗抗原大豆よりもかなり感度はよいが、陰性でも大豆アレルギーは否定できない。
PFASは一般的に軽症例がおおいが、例外がある。
 ハンノキ花粉アレルギー-豆乳、ヨモギ花粉アレルギー-セリ科スパイス の2つである。これらは重症となりうる。
PFASの場合、アレルゲンの交差反応がおおいのでアレルゲンコンポーネントを活用する。

現在注目されているアレルゲンマーカー

・GRP(ジベレリン制御タンパク)
PFASでもLFSでもない(花粉・ラテックスともに陰性)その他のアレルギーのマーカーとして
GRP(Gibberellin-regulated protein ;ジベレリン制御タンパク)が注目されている。
植物ホルモンの一種でジベレリンによって発現する。
植物の成長に関与し、抗菌活性、熱安定性、消化耐性(Cysteine含有率が高い)を有する。
GRPは重症な果物アレルギーのアレルゲンであることが判明した。
演者らは重症食物アレルギーやFDEIAにも関与することを報告したが、最近ヒノキ花粉のGRPが果物のGRPと交差反応を起こしてPFASを起こすと報告された。
・話題のアレルギーコンポーネント
経皮感作型食物アレルギーの分類案
乳児アトピー性皮膚炎・・・AD乳児の鶏卵アレルギー
職業性・・・調理師の魚アレルギー
美容性・・・加水分解小麦による小麦アレルギー、ハチミツ美容法によるハチミツアレルギー、コラーゲン含有美容品によるコラーゲンアレルギー
動物刺皎症・・・マダニ咬傷後獣肉アレルギー、クラゲ刺傷後納豆アレルギー
ペット動物飼育・・・動物由来のタンパク質と食品の交差反応によるもの、Pork-Cat症候群、Bird-Egg症候群

Pork-Cat syndromeとα-GALアレルギー

・非霊長類哺乳動物の血清アルブミンに感作して発症。
猫・犬・ハムスター等を飼ってる人が、その皮屑、毛、糞尿中の血清アルブミンであるFel d 2に経気道感作し、その結果交差反応性を有する豚肉(Sus s 1)や牛肉(Bos d 6)にアレルギー反応を起こすものである。
即時相なので肉摂取後2時間以内で発症する。
・α-GALアレルギー
豚肉・牛肉アレルギーにはマダニ咬傷により経皮感作して発症するα-GALアレルギーがあり鑑別を要する。
遅発相なので、多くは肉摂取後2-6時間で発症するが2時間以内のこともある。
・Bird-Egg syndorome
鳥類の血清アルブミンに感作して発症。
ペットとしてセキセイインコ・オウム・カナリア等を飼っていて、その皮屑、羽、糞に含まれる血清アルブミンに感作されると、交差反応性を有する鶏卵(Gal d 5)摂取したときにアレルギー反応が起こる。牛肉で発症する患者もいる。
従来の鶏卵アレルギーは、
 乳幼児期、卵白に感作、経消化管・経皮感作、感作源は鶏卵、鶏肉アレルギーは稀、学童期までに80%寛解。
Bird-Egg症候群では、
 成人期、卵黄に感作、経気道感作、感作源は鳥の羽毛、糞、血清、鶏肉アレルギー合併する、鳥を手放せば寛解の可能性あり。

・まとめ

食物依存性運動誘発アナフィラキシー 小麦 ω-5グリアジン
PFAS 大豆 Glym 4
ラテックス-フルーツ症候群 バナナ・アボカド等 Hev b 6.02
重症果物アレルギー モモ、梅等 Pru p 7
Pork-Cat症候群 豚肉 Sus s 1
α-Gal症候群 豚肉・牛肉 甲状腺サイログロブリン
Bird-egg 症候群 鶏卵 Gal d 5

■Symposium 7 Adult food allergy
●Occupational food allergy
演者 Yuma Fukutomi

職業は成人アレルギー疾患の重要な要因である。
成人喘息の15%が職業性である。

ラテックスーフルーツ症候群

・よく知られた職業性食物アレルギーである。
まず手袋のラテックスタンパクに感作する。経皮的経気道的に感作する。
ヘルスケアワーカーや時として主婦がハイリスクである。
手と呼吸器症状を呈する。
バナナ、アボカド、クリ、キウイが症状を引き起こす食物である。
主要アレルゲンはクラス1キチナーゼ(chitinase)である。
・調理師や食品取扱者の食物アレルギー
調理師や食品取扱者は手湿疹の頻度が高い。
ゆえに接触性皮膚炎のリスクが高い。液体や石鹸、洗浄剤、その他の洗浄品に頻繁に暴露する。
天然ゴム手袋に含まれる化学添加物や石鹸の保存剤、食品のタンパクなどが職業性のアレルギー性接触性皮膚炎の原因である。
すわなち、皮膚の炎症や障害部位を通じて直接食品に暴露し、その結果IgE感作を生じる。
一方粉末状の食品を吸い込んだり、食品タンパクの水溶液が調理中に蒸気となり吸い込むことで感作する。
魚、エビ、カニ、イカがおおい。
生の海産物をさばく寿司職人はハイリスクな職業である。
・美容師とエステティシャン
化粧品やヘアケア製品は食物タンパクや加水分解タンパクを含んでいる。
牛乳、魚コラーゲン、ハーブ、ピーナッツオイル等。
食品由来の加水分解タンパクは、加水分解小麦、コラーゲン、大豆等がある。

コメントは停止中です。