JSA/WAO Joint Congress 2020(その3)

日本アレルギー学会学術大会とWorld allergy organizationの合同開催となったJSA/WAO Joint Congress 2020に出席し、最新の知見を学びましたので報告します。 この会議は残念ながらWEB開催となりましたが、期間中何度でも視聴可能でしたので、興味ある演題について繰り返し聴講いたしました。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

教育講演EL-2 薬剤アレルギーとアナフィラキシー
帝京大学ちば総合医療センター 第三内科 山口 正雄先生

教育講演EL-11 成人喘息 喘息難治化要因と治療戦略
東京女子医科大学 呼吸器内科 多賀谷 悦子先生

教育講演EL-2 薬剤アレルギーとアナフィラキシー

帝京大学ちば総合医療センター 第三内科
山口 正雄先生

20年間で食物と薬剤のアナフィラキシーが増加しているが、死亡の増加はない。
アナフィラキシーの約20%は薬剤である。
アナフィラキシーは5分以内に対処しないと予後不良となる。
・医療事故調査・支援センターの発行した医療事故の再発防止に向けた提言
アナフィラキシーに関して6つの提言をしている。
提言1.あらゆる薬剤、複数回安全に使用できた薬剤でも発症しうる
提言2.発症の危険性が高い薬剤使用時は注意深い観察を
造影剤、抗菌薬、筋弛緩薬等は発症例がおおい。
静脈注射する際は、投与開始から「5分間」は注意深く観察する。
症状例:ふらつき、喉のかゆみ、しびれ、ムズムズ感、嘔気、息苦しさ、くしゃみ、体熱感、皮膚紅潮、眼球上転、痙攣、急速な換気困難、心電図のST上昇 等。
提言3.症状が出現したら薬剤投与を中止しアドレナリン準備を
薬剤投与開始から5分以内に皮膚症状の有無に関わらず症状が出現した場合はアナフィラキシーを疑う。
薬剤投与中止し、助けを呼び、アドレナリン筋肉注射を準備する。
※蜂毒や食物に比較して薬剤の場合心停止に至る時間が早いので注意を要する。
提言4. 疑いがあればためらわずにアドレナリンの筋肉内注射を
成人の場合アドレナリン0.3mgを大腿前外側に筋肉内注射する。
※アドレナリン0.3mgの筋肉内注射であれば、有害事象が起きる可能性は非常に低い。
提言5. 速やかなアドレナリン筋肉内注射が可能な体制の整備を
抗菌薬、筋弛緩薬、造影剤等アナフィラキシーを起こしやすい薬剤を使用する際には、いつでもアドレナリンを投与できるように配備する。
※アドレナリン0.3mgをすぐ用意できるように定位置に常備する。
提言6. 患者の薬剤アレルギー情報を把握し共有できるシステムを
患者のアレルギー情報を事前に把握することが、可能な限りアナフィラキシーの発症を予防することにつながる。
患者のアレルギー情報は多職種間で共有を徹底することが重要である。
年間50-70人がアナフィラキシーで亡くなっている。

・Drug as immunogens
メカニズム
完全抗原 巨大分子・・・インスリンや他のホルモン、酵素やプロタミン、抗血清、リコンビナントタンパク
ハプテン ・・・βラクタム系抗菌薬、キニジン、シスプラチン、ペニシラミン、バルビツール、抗甲状腺薬、重金属(金など)
代謝を経てハプテン ・・・スルホナミド、アセトアミノフェン、フェナセチン、フェニトイン、プロカインアミド
単体でTCRを活性化 ・・・スルホメトキサゾール
HLAと結合 ・・・リドカイン、メピバカイン、カルバマゼピン、アバカビル、アロプリノール、ラモトリギン
・薬剤アレルギーの一般的検査
皮膚テスト ・・・即時型の判定;皮内反応、プリックテスト、スクラッチテスト、遅延型:パッチテスト
試験管内検査 ・・・血清トリプターゼ、薬剤特異的IgE、好塩基球ヒスタミン遊離試験、リンパ球刺激試験LST
試験的再投与 ・・・重症例には原則禁忌。

造影剤過敏

・重症な副作用は2500例に1例程度。重篤な副作用は25000例に1例。造影剤過敏を確実に予知する方法はない。
テストアンプルによる副作用予知の信頼性は否定されている。
近年、即時型皮膚反応を推奨する動きがある(特にヨーロッパ)。
造影剤副作用発現の危険因子について
 アトピー体質(軽度増加する)
 気管支喘息(重篤な副作用を6-10倍増加させる)
 過去の造影剤副作用歴
 普段用いている薬剤(特にβ遮断薬投与下では重篤な副作用は増加し、ショック治療で用いるアドレナリンの効果が十分に得られない。)
・造影剤ハイリスク患者への予防薬投与(成人) (Middleton’s Allergy 2013)
過去に造影剤の副作用歴のある症例は再投与に際し副作用を生じるリスクが高い。
造影剤を血管内に投与しない検査(ERCPなど)でも注意が必要である。
どうしても必要な場合、以下の対応でリスクを減少することができる。
 非イオン性造影剤の使用
 予防薬の投与
13時間前 プレドニゾロン1mg/kg
7時間前 プレドニゾロン1mg/kg
1時間前 プレドニゾロン1mg/kg + ジフェンヒドラミン1mg/kg + シメチジン4mg/kg(or 他のH2ブロッカー)
※メチルプレドニゾロンの単回投与では予防できないと言われている。

局所麻酔薬に対する過敏

・特に歯科で頻度が高い。局所麻酔を受けた患者の2.5%から10%に何らかの異常反応を経験する。
しかし実際にはアレルギー反応は極めて低率と言われる。(異常反応のうちの1%以下とされる。)
リドカインによるアナフィラキシー反応の発生頻度は100万から150万人に1人と推定されている。
 特に確定診断の検査を受けずに「局所麻酔薬アレルギー」とされてしまうことが多い。大多数の偽陽性患者において、以降の診療に多大な支障が生じる。
・局所麻酔薬間の交差反応について
エステル型とアミド型とは交差反応しない。
エステル型局所麻酔薬間では交差反応がある。エステル型局所麻酔薬が加水分解されるとパラアミノ安息香酸を発生する。
アミド型同士間では交差反応は少ないが報告はある。
IV型アレルギーではエステル型同士、アミド型同士では高頻度に交差反応を示す。
アミド型:リドカイン(キシロカイン®)、メピバカイン(カルボカイン®)、ブピバカイン(マーカイン®)等
エステル型:プロカイン(プロカイン®、ロカイン®)、テトラカイン(テトカイン®)
・局所麻酔注射薬の安全確認方法 (JAMA 278: 1985, 1997)
病歴上、局所麻酔薬に対する過敏症状でないことが明らかであれば、あえて検査をしなくてもよい。
必要ならチャレンジテストが実施される。
 1.局所麻酔薬を用いたプリックテスト
 2.100倍希釈液を用いた皮内テスト
 3.原液0.1ml皮下投与
 4.原液1ml皮下投与
不安の強い患者には適宜プラセボを含めても良い。

ペニシリンアレルギー

・IgE依存性の薬剤性アナフィラキシーの典型である。ペニシリンGに皮膚反応陰性なら重篤なアナフィラキシーは起こらないとされる。
数年のうちにペニシリンに対する過敏性が消失する。10%以下が長期間経過しても過敏性が持続する。
アナフィラキシーはβラクタム環よりも側鎖が重要であることが多い。
※昔のアレルギー歴に引きずられるのではなく、現在も過敏体質が続いているのか積極的に調べる方向になってきている。
・ベータラクタム系抗菌薬は共通する側鎖に注意する。
ペニシリン系とセフェム系で、アモキシシリン = セファドロキシル、アンピシリン = セファレキシン。
アモキシシリンやアンピシリンにアレルギーのうち、12-38%は側鎖の同じセフェム系薬にも反応する。
側鎖が同じ例として、セフォタキシム=セフトリアキソン=セフジトレン、アズトレオナム=セフタジジム等。

内服抗菌薬による即時型アレルギー既往者に行う検査の例

・病歴聴取、検査をしないといけない状況なのかを考慮する。
検査が患者にとって何らかの意義がなければ実施しない。
1.皮膚テスト :プリックテスト、皮内反応
2.口腔粘膜反応(舌下投与)
3.内服チャレンジ:通常量の1/100、1/10、通常1回量 の順。
※全身症状をできるだけ誘発せずに陽性反応を得ることを目指す。
・アナフィラキシーの原因薬剤を特定したい場面での即時型皮膚反応検査プロトコール例(演者ら)
入院し、血管確保。
薬剤溶液の原液および10倍ごとの希釈系列(10〜100万倍)を用意する。
1.プリックテスト :100万倍溶液から原液濃度まで順に。初回は生食も実施する。
2.皮内反応 :1万倍希釈液から原液濃度まで。
コントロールとして初回は生食も実施。
各処置の都度、Vital signをチェックする。
低濃度のテストで陽性がでたらそれ以上の濃度で実施してはいけない。
陽性反応が出たら健常人でもテストを行い、非特異的反応かどうか確認する。
所要時間3〜4時間。
・皮膚テストで判明しなかった場合、舌下・内服チャレンジプロトコールへ移行する。
通常1回使用量と、1/10の散薬1包、1/100の散薬2包を準備する。
1.口腔粘膜反応:1/100の散薬のうちごく少量を舌下投与
2.内服チャレンジ:1/100、1/10、1回量を順に。
各段階で20〜30分間経過観察する。
1回量内服後、30-60分経過観察する。
各処置の都度Vital signチェックする。
所要時間2-4時間。
・薬剤脱感作による克服
基本的には、即時型反応では速やかな脱感作プロトコール(1日で完了)
遅延型反応では緩徐な脱感作プロトコールを行う。
変法として、遅延型に対して比較的速やかな脱感作を行うこともある。

・好塩基球の脱感作状態を実験的に誘導できる。
脱感作誘導条件の例
1.極めて弱いIgE架橋刺激を加え続ける。(刺激閾値よりもわずかに低い濃度)
2.所要時間は2時間以上、4時間で十分。
3.一旦脱感作を誘導すると、2-3日では戻らない。
脱感作好塩基球において認められること。
 表面に架橋物質が存在する。
 IgE internalizationは起こらない。
 Lyn,Sykの欠乏は起こらない

教育講演EL-11 成人喘息 喘息難治化要因と治療戦略

東京女子医科大学 呼吸器内科
多賀谷 悦子先生

日本の重症喘息のリスクファクター

アレルギー性鼻炎 65.2%
副鼻腔炎 41.3%
BMI25以上、あるいは女性ではBMI23以上
Aspergillus、Penicillium、Staphylococcus aureus endotoxin A への感作
肺気量の低下
気道過敏性の亢進
身体活動性低下
アディポカインによる炎症
慢性炎症
合併症など

アディポカイン

脂肪細胞から分泌される。
アディポネクチン:善玉、抗炎症作用、インスリン抵抗性改善作用、動脈硬化予防など。
レプチン:悪玉、視床下部に作用してエネルギー代謝に関与している。レプチンは通常であれば代謝亢進や摂食抑制に働くのでよいが、病的な肥満ではレプチン感受性が低下しレプチン高値にも関わらずレプチン抵抗性となっている。レプチンは好酸球を活性化させ、炎症性サイトカインであるIL-1やIL-6を産生する。
PAI-1(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1):MMPを抑制し、気道壁の細胞外基質蛋白の沈着を亢進させたり、フィブリン沈着を促進し、気道リモデリングを引き起こす。
TNF-α:脂肪細胞、マクロファージから分泌され、インスリン抵抗性を悪化させ、IL-6,IL-8などの炎症性サイトカインを産生を誘導することで喘息の難治化を起こす。

肥満喘息患者の特徴

喀痰好酸球数が多い。喀痰好中球数も多い。IgEは低値、IL-6とレプチンは高値、PAI-1高値、であった。

喘息の難治化要因としての上気道の好酸球性炎症

好酸球性副鼻腔炎合併喘息における喘息治療を強化すると、副鼻腔CTスコアが低下(改善)した。
好酸球性中耳炎合併喘息に喘息治療を強化すると、耳鏡所見改善しCTスコアも改善する。
喘息のコントロールを良好にすることが合併症の発症やコントロールを良くすると考えられる。
喘息死した気道では杯細胞が増生している。
長時間作用型β2刺激薬は以前は気道分泌抑制とされていたが、研究の結果気道分泌を亢進することが判明した。  一方チオトロピウムは気道分泌抑制効果が高い。・マウスによる実験では、
卵白感作したマウスに卵白を吸入させ、サルメテロール単独、フルチカゾン単独、サルメテロール+フルチカゾンを吸入させてムチン含有細胞数を検討した。
サルメテロール単独吸入では有意にムチン含有細胞数が増加したが、フルチカゾン単独やサルメテロール+フルチカゾン群では有意にムチン含有細胞数を減少させた。
チオトロピウムを気道分泌亢進している喘息・COPD患者に8週間投与したところ、喀痰中のムチン濃度や固形成分が有意に減少する。
喀痰中炎症細胞により重症喘息のフェノタイプを分類した報告では、55%が好酸球性(好酸球>=3%、好中球<76%)であった。
CTを用いて重症喘息患者のmucus plugsを定量的に検討した報告では、mucus plugsが高値群では有意に低肺機能であり、喀痰中好酸球が多いことが示された。
ETosisが粘稠な喀痰を形成する。好酸球性中耳炎にもこの機序が関与していると言われている。
演者らの報告では、気道細胞にIL-13を作用させると杯細胞が増生するが、除去すると杯細胞は線毛細胞に変化することがわかった。
IL-13はMUC5ACの発現誘導するが、ステロイドを投与してもその発現は抑制されない。気道分泌の多い患者にステロイドを投与するとむしろ痰が固くなるという報告もあるので注意が必要である。
デュピクセントを投与した患者は、特に痰は非常に減少する。2週間でかなり症状改善し即効性を示す。
・Th2 high 重症喘息
アレルギー優位では、Early onset、皮膚テストやRAST陽性、IgE>100、アレルギー性鼻炎、FeNO高値(30−50ppb)、血中好酸球数<300/μL
好酸球優位では、Late onset、皮膚テスト陰性やRAST陰性がおおい、IgE<100、アレルギー性鼻炎、FeNO非常に高値(>50ppb)、血中好酸球数>300/μL
という特徴がある。

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