日本医師会医学講座(Podcast)にて「新型コロナ時代における嗅覚・味覚異常」を聴講しました

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

テーマ:「新型コロナ時代における嗅覚・味覚異常」

金沢医科大学耳鼻咽喉科 主任教授 三輪高喜先生

匂いは空中のニオイ分子が鼻腔内天井部分の嗅粘膜と接触し、その信号が嗅神経→中枢へと伝達されて感じる。
この経路のどこかに異常があると嗅覚障害が発生する。
嗅覚障害の主要な発生原因として以下の4つが挙げられる。
1.気道性嗅覚障害・・・蓄膿症やアレルギー性鼻炎 
2;感冒後嗅覚障害・・・嗅神経細胞は嗅粘膜の中に細胞の一部を突出させており、そこに上気道炎ウイルスが障害を与えることにより嗅神経細胞の細胞死を生じ、神経性嗅覚障害を生じる。感冒後嗅覚障害は半年から1年かけてゆっくりと回復するが、約3割は回復しない。
COVID-19の嗅覚障害はこれらの病態とは異なる。
その他の原因として
3.顔面・頭部外傷
4.原因不明の嗅覚障害も少なからずある。
その多くは加齢によるものであるが、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の初期症状のこともある。
味覚は、口腔、咽頭、喉頭に広範に分布する味細胞に受容され、顔面神経の鼓索神経→舌咽神経→迷走神経→延髄孤束核→中脳→大脳皮質へと伝達される。
様々な原因で発生するので、嗅覚障害ほど単純ではない。
主な原因は、
 口腔内疾患 ・・・口内炎、口腔乾燥症、
 全身疾患・・・糖尿病など
 薬物
 心因性味覚障害など
さらにこれらの要因が複合することもある。
すべての原因において亜鉛欠乏が関与していることもあり、病因を複雑なものにしている。

COVID-19による嗅覚・味覚障害

発生頻度 10本の論文のメタアナリシスによると嗅覚障害は52.7%、味覚障害は43.9%と高率であり、COVID-19の特徴的症状といえる。
日本人の発生率は今後調査される予定である。
COVID-19の嗅覚障害の特徴は、
 誘引なく突然発生する。
 嗅覚障害の程度は高度あるいは脱失である。
 鼻汁・鼻漏はなく、鼻腔内所見も嗅粘膜腫脹や膿汁は認めない。
 1−2週間程度で急速に改善することが多いが、1−3割の症例で長期間残存する。
 ときに異嗅症として障害が残るものがある。
異嗅症とは匂いが以前と異なって感じたり、何を嗅いでも同じ匂いに感じる。おおくは嫌な匂いとして感じるようである。
演者の経験症例では、発症後3ヶ月くらいしてもフルーツジュースも排気ガスも「シンナーの匂い」のように感じる。カレーのスパイスはわかるが味が変なので食欲が低下するとの訴えがあったという。

COVID-19の嗅覚障害と一般的な嗅覚障害の違い

嗅覚障害の原因として最も多い慢性副鼻腔炎では鼻茸や膿汁を認めるのに対して、COVID-19の鼻内所見は異常がない。
感冒後嗅覚障害は鼻腔内所見が異常がないのはCOVID-19と同じだが、風邪症状治癒後に発生する。COVID-19のそれは風邪症状発生前あるいは発症と同時に発生する。
嗅覚障害は感冒後嗅覚障害では長期間持続するが、COVID-19のそれは症状改善と同時に改善することが多い。

なぜCOVID-19は嗅覚・味覚障害が生じやすいのか

細胞表面のACE2レセプター(ACE2R)はウイルススパイク蛋白が結合するが、鼻粘膜と口腔粘膜が特に多く発現しており、さらにACE2と結合したCOVID-19ウイルスが細胞内に侵入するために関与するのがTMPRSS2という酵素である。ACE2RとTMPRSS2の両方がとりわけ嗅上皮に多く存在していることが最近の研究で判明した。
嗅上皮は匂いの受容体をもつ嗅神経細胞、それをささえる支持細胞、嗅神経細胞の幹細胞である基底細胞で構成されている。
ACE2RとTMPRSS2の両方が支持細胞に豊富であることがマウスの実験で明らかにされており、マウス鼻腔内にCOVID-19を投与するとウイルスは嗅粘膜を変性させると同時にウイルスが支持細胞に侵入することが報告されている。
したがってウイルスは支持細胞で何らかの障害を起こすが嗅神経細胞は障害されていないため、回復が早いと推測されている。
従来の感冒後嗅覚障害はウイルスが嗅神経を障害するので、回復に長期間を要すると考えられる。
口腔内では味細胞、味蕾にACE2Rが豊富に存在することが動物実験で報告されており、味覚障害の機序と推測されている。

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