第61回日本呼吸器学会学術講演会(WEB開催)聴講録 その1

2021年4月23日から25日まで第61回日本呼吸器学会学術講演会(WEB開催)が開催されました。
オンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたのでご報告します。

(注意)あくまで私の聴講メモですので記載内容が正確でない可能性があります。責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

●教育講演11 薬剤性肺障害診療の現場
日本医科大学呼吸器内科学 齋藤好信先生

●教育講演17 COPDの身体活動性向上にむけての治療戦略はどこまで進んだか
東北大学環境・安全推進センター 産業医学分野 黒澤一先生

●教育講演20 加熱式タバコ・電子タバコの肺障害
弘前大学呼吸器内科学講座 田坂定智先生

●教育講演15 小細胞肺癌の薬物療法
北海道がんセンター呼吸器内科 大泉聡史先生

●教育講演16 肺癌におけるゲノム医療の現状と課題
順天堂大学呼吸器内科 宿谷威仁(しゅくやたけひと)先生

●Year Review in Assembly3 /閉塞性肺疾患学術部会
福島県立医科大学呼吸器内科 柴田陽光先生

●Year Review in Assembly 4 /びまん性肺疾患学術部会
神戸市立医療センター西市民病院呼吸器内科 冨岡 洋海先生

●Year Review in assembly 5/細胞・分子生物学学術部会
自治医科大学呼吸器内科 鈴木拓児先生

●Year Review in Assenbly 6 /腫瘍学術部会
和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科 山本信之先生

●Year Review in Assenbly 9/ 呼吸管理学術部会
神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科 富井啓介先生

教育講演11 薬剤性肺障害診療の現場

日本医科大学呼吸器内科学)
齋藤好信先生

過去の薬剤性肺障害において重要なもの

小柴胡湯による間質性肺炎100例の検討では、症状出現から投与中止までの期間が、死亡例で約16日、生存例で約6日と死亡例での投与期間が長いことかが判明した。基礎疾患として呼吸器疾患を合併している例が多かった。
→症状が発現したら速やかに対処することが重要と示された。
ゲフィチニブは肺がんで初めての分子標的薬だが、急性肺障害、間質性肺炎、死亡例が報告された。発現頻度は5.8%、死亡割合38.9%、PS2以上、既存の間質性肺疾患があり、男性に多いことが判明した。
→既存の間質性肺疾患のある肺癌患者には投与は慎重あるいは中止すべきとなった。
レフルノミドは関節リウマチに開発されたが、市販後に間質性肺炎とその死亡例が報告されるようになった。
5000人規模の調査で1.2%に認め、既存の間質性肺疾患の存在が最もリスク因子であった。
他人種と比較し日本人では肺障害がレフルノミドで100倍、ブレオマイシンは66倍の頻度と明らかに多い。
肺障害のように市販後に判明する重大な肺障害がありことから、全例調査が実施されるようになった。

最近10年の話題となった薬剤について

mTOR阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬、EGFR-TKI、抗HER2抗体薬物複合体など。
エベロリムス(アフィニトール®);mTOR阻害薬である。腎細胞がんや乳がんで投与、間質性肺障害は27.7%と非常に効率であるが、死亡は少なく、ステロイドに反応して予後が良好であることが今までのILDと扱いがやや違う。Grade1は慎重に投与しながら経過を観察するだけでよいとされている。
ニボルマブ(オプジーボ®);免疫チェックポイント阻害薬である。肺障害の発現は9.57%、Grade5は10%、死亡例は発現時期が早い。60日以内に発現するILDは要注意である。
CT所見 ;COPパターンが47%と最多である。HP様パターン24.3%、AIP/DAD様パターンが13.2%、NSIP様パターン8.3%であった。
特徴的な所見として、腫瘍周囲すりガラス陰影(治療例の15%に認める)、既存感染症の増悪(ニューモシスチス肺炎など)、Radiation recall pneumonitis(以前放射線治療した部位にILDを呈する)が知られている。
特に腫瘍周囲すりガラス陰影は腫瘍免疫に関連した炎症細胞浸潤を見ている可能性がある。
ILDがステロイド投与により一旦寛解後に、ステロイド中止で再燃する例が報告されている。海外の報告では3回再燃し、4回目はゆっくりとステロイド減薬すると再燃しなかった報告がある。減量が早いと再燃しやすいことを示唆している。

免疫チェックポイント阻害薬のILDマネジメントのアルゴリズム

薬剤によって多少の違いがある。
Grade1ではニボルマブは投与中止だが、回復すれば再開可能である。
ペンブロリズマブ(キイトルーダ®)、アテゾリズマブ(テセントリク®)、デュルバルマブ(イミフィンジ®)はGrade1でも投与継続可能。Grade2で投与中止。回復すれば投与再開可能である。
学会推奨のステロイド量よりもやや多めの投与量で、1ヶ月以上かけて漸減中止することが望ましい。
再投与の報告例として、1826例に免疫チェックポイント阻害薬投与し64例がILD発症。寛解後にG1-2の10例に再投与し、3例再燃したがいずれもG2以下で全例軽快した(ERJ 2017)。他の報告ではG2以下のILD12例に再投与で3例再燃あり。いずれもG2以下で全例軽快した。 
 →再投与後の再燃は多くない。

EGFRーTKI

ゲフィチニブ、エルロチニブ(タルセバ®)、アファチニブ(ジオトリフ®)、オシメルチニブ(タグリッソ®)。
ILDの発現頻度はどの薬剤も大差なく4.5−6.5%であるが、ゲフィチニブとエルロチニブは死亡割合が35%程度なのに対し、アファチニブ17%、オシメルチニブは12%と低い傾向にある。
この理由は、CT画像でDADパターンの頻度がエルロチニブは22.3%、オシメルチニブは11.7%と差があることに関連する。
エルロチニブは膵癌に適応があるが、膵癌症例では死亡割合は3.84%と非常に低く、その理由は不明である。
まとめると、ILDの合併、喫煙歴、PS3以上、などが発症因子として挙げられる。
ILD発症後の再投与は推奨されないが、有効性ゆえに個別には検討されるであろう。
オシメルチニブの全例調査から、再投与例39例(G2以下31例、G3-4;8例)のうち再燃7例(G2以下5例、G3-4;2例)であり、1例転機不明を除く全例軽快している。

トラスツズマブ デルクステカン(抗HER2抗体薬物複合体)(ハーセプチン®)

乳がんと胃がんに適応薬。臨床試験段階のデータであるが、乳がんでは全体で13.6%、日本人では30%にILDが発現している。胃がんでは全体で9.6%、日本人は11.1%。死亡例もある。
画像は、OPパターンが69.4%、DADが22.2%で、DADで死亡例が多い。

薬剤性肺障害の診療上の問題点

COVID-19とILDは画像では区別はできない。新型コロナPCR検査を積極的に実施すべきである。

予後に影響するDADパターンは、初期像だけでは読影困難である。
発見後はこまめにフォローすること、KL-6、SP-D値を参考にして重症度を推し量ることが重要である。
普段肺を観察しない診療科でも多数の分子標的治療薬が処方されており、呼吸器専門医は正確な情報に基づいた適切な対応が求められる。

教育講演17 COPDの身体活動性向上にむけての治療戦略はどこまで進んだか

東北大学環境・安全推進センター 産業医学分野
院長 黒澤 一 先生

呼吸器疾患患者は息切れ → 閉じこもり気味 →身体機能の失調 ・・・悪循環となる。
身体活動性のある人ほど長生きする(CHEST 2011)。
COPDの生命予後規定因子の中で身体活動性(Physical activity level;PAL)が最強と判明した。
この論文以後身体活動性をいかに保つかが強調されるようになった。
1990年代から筋肉は分泌器官であると言われるようになった。
身体活動性は、全死亡の減少、心血管疾患、高血圧、脳卒中、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、乳がん、大腸がん、直腸がん、うつ病、認知症に有効であることが示されているが、筋肉から分泌される液性因子がことごとくこれらに関与していることが報告されている。(Physiology 2013) 
→ 運動はすべての治療につながっている。運動は万能薬。
筋肉より分泌される液性因子が循環を介して全身の臓器に何らかの作用を及ぼしていると最近は考えられている(臓器連関)。
日本呼吸器学会COPDガイドラインにおいても安定期COPD管理のアルゴリズムには非薬物療法として、初期段階から身体活動性の向上と維持が治療目標となっている。
身体活動とはエネルギーを使って骨格筋を収縮させて行うあらゆる身体の動きをいう。生活活動、職業、運動が含まれる。
換言するとライフスタイルを活動的にするということであり、単に鍛えるのでもなく、よい生活習慣に行動変容することである。歩数計や身体活動計で測定するのが一般的である。
COPDにおいて、活動的であることの意義は以下のとおりである。
 1)COPDに罹患するリスクが低い
 2)入院リスクが低い、増悪リスクが低い
 3)一秒量の経年減少が小さい
 4)死亡リスクが小さい
 5)その他いろいろあり
運動療法(呼吸リハビリテーション)は短期的な若干の効果がある。メタアナリシスでも短期的な弱い効果の可能性のみ。
薬物療法 あっても短期的な弱い効果。高強度のレベルの活動に若干効果があるが、低レベル活動は不変。
→ 運動療法や薬物療法だけではライフスタイルへの介入は不十分である。(演者曰く、ぱっとした効果はない。)
厚生労働省の統計では、運動習慣のある人の割合は男性30%前後、女性22%前後と20年前から不変である。
たとえばアルコール日誌をつけて飲酒量を制限しようとしてもアルコール制限を超えてしまうなど、やろうと思っていてもわかっていてもできないのである。
なぜか。
行動経済学の始祖の一人で2002年ノーベル経済学賞を受賞されたダニエル・カーネマン先生によると、人間の情報システムには2つの種類があるという。
 システムI ;反射的な判断を司る、システムII ;熟慮的な判断を司る
人の意思決定の95%は直感的な思考、つまりシステムI の判断である。
例えばシステムI には、アルコールはついつい飲んでしまう、エレベータやエスカレータについつい乗ってしまう、ついつい座ってばかりいる、などの行動に結びつく。
システムIIの思考では、アルコールは飲まないほうが健康に良い、階段を利用するほうが健康によい、歩いたほうが健康によい、などの行動となる(厚生労働省のパンフレットより)。
システムIは、直感的、不合理的(悪いとわかっていてもしてしまうので)、本能的(無意識な行動)、感情的、速い思考、マルチタスク対応、疲れない。
システムIIは、論理的、合理的、理性的(意識的行動)、客観的、遅い思考、シングルタスク対応、疲労感・負担感がある。
呼吸リハビリテーションはどちらに属するか?教育効果を期待してシステムIIの思考に訴えかけているのである。ということは教えただけでは5%しか行動変容に結びつかないかもしれない、ということである。
スウェーデンの事例として、エスカレータ横の階段をピアノの鍵盤に見立てて音もなるようにしたら、面白がってみんな階段を利用するようになったという。→ 楽しみが人々の行動を良くする。
システムIの直感的な思考によって行動が起こるように工夫するのが、知らず知らずのうちに身体活動性が向上・維持されるのがよいのではないか。
COPDの身体活動性介入として、歩数計を装着させその歩数カウントを日誌に記録させるのがよい。
ただし、「目標」を与えるととたんに「だめ」になる。あくまで歩数を記録するだけの指示にとどめておくのがエビデンスである。
街の紹介をしている地図とウォーキングコースを提案した報告では、運動耐容能が上昇した。
犬の散歩と孫の世話はCOPD患者の身体活動性を改善した。ちょっとした工夫や作戦が功を奏する一例である。

まとめ

身体活動性の向上と維持に関する介入はCOPDの重要課題である。
単なる運動療法や薬物療法だけでは生活習慣へのインパクトは少ない。
ライフスタイルの問題、生活習慣への介入が必要であり、システムIを利用することが介入のヒントである。

教育講演20 加熱式タバコ・電子タバコの肺障害

弘前大学呼吸器内科学講座
田坂 定智 先生

新型タバコには電子タバコと加熱式たばこがある。
電子タバコ・・・海外ではニコチンを含むリキッドを低温加熱、霧化、エアロゾル吸入するが、日本では薬事法からニコチンは吸入不可なので、ニコチンを含まないものが販売されている。
加熱式タバコ・・・タバコ事業法で認可された製造たばこである。高温加熱(200−350℃)のアイコス®、グロー®、プルーム®などと、低温加熱(30−40℃)のプルーム・テック®、グロー・センス®などがある。
加熱式タバコの売上は紙巻たばこの代わりに置き換わる形で売上増加している。
2019年の男性喫煙歴は27%であるが、紙巻きたばこのみが72%、加熱式のみが20%、併用7%。20代から40代の喫煙者の4割が加熱式タバコであり、若年層に広がっている。
紙巻たばこを加熱式タバコに変更した理由について尋ねると、紙巻きよりも健康によさそうという理由が最も多い。
禁煙試行者における禁煙方法として、2016年は自力が72%、禁煙外来14%、市販の禁煙薬21%、加熱式タバコを含むタバコが25%であったが、2018年の調査では、加熱式タバコ51%、電子タバコ27%、自力42%、であり、禁煙ツール?としての使用が増えていた。
加熱式タバコで発生する白い煙はただの蒸気ではない。グリセロールやグリコールを加熱することで目に見える蒸気になっている。
動物に電子タバコを吸入させた研究では、ニコチンを含む製品の吸入により肺に気腫性変化が生じた。
培養したヒト肺胞上皮細胞に、IQOS®やマルボロライト®の抽出液を暴露させた研究では、酸化ストレスを示す遺伝子発現が認められた(Ito Y et al. PLoS ONE 2020)。
血管系への影響の評価として酸化ストレスのマーカーであるNOX2関連ペプチドや血流依存性血管拡張反応があるが、電子タバコや加熱式タバコの暴露後に悪影響が観察され、紙巻たばこと同程度であった。

EVALI (e-cigarette, or vaping, product use associated lung injury)

加熱式タバコに関するWHOコメントが発表されている。
 加熱式タバコは有害物質が少ないことが強調されているが、必ずしも健康上のリスクを軽減することにはつながらない。受動喫煙の有害性も否定できない、と指摘し従来のタバコと同様に規制するように呼びかけた。
電子タバコによる急性肺障害の報告が米国で相次いだ。
電子タバコ使用開始から90日以内に急性呼吸不全を発症した98例(男性79%、年齢中央値21歳)の報告では、93例が入院し25例が人工呼吸管理、2例死亡した(NEJM 2019)。
全米で2020年2月時点で2807名が入院し、68名が死亡した。CDCは電子タバコのよる肺障害をEVALIと呼ぶことにし啓発している。
EVALI388例の臨床像:呼吸器症状95%、消化器症状77%、SpO2<95%は57%、ICU管理47%、人工呼吸管理22%、ステロイド治療88%、ステロイド奏功82%、平均在院日数6.7日。 51歳以上は他の年齢と比較して、ICU管理69%、人工呼吸管理54%と高率であり、高齢者は重症化しやすい。
EVALI17名の病理像は、気道中心の急性肺障害、粘膜浮腫を伴う細気管支炎、泡沫状マクロファージの集簇、4例でDAD(NEJM 2019)。
原因として疑われる物質は、
 ①グリセオールの霧、②ニコチン、③大麻抽出物(THC;tetrahydrocannabiolなど)、④香料・添加物(酢酸ビタミンEなど)。④についてはBALを施行したEVALI 51例中48例で酢酸ビタミンEを検出した(NEJM 2020)。VitEは経口や皮膚へ塗布は無害だが、吸入で呼吸器系に悪影響を及ぼす可能性が報告されている。
日本でもEVLAIが報告されており、紙巻きタバコから電子タバコに変更し約1ヶ月で重症肺炎を発症した例もある(村田昇太,他. 日呼吸誌 2021)。
EVALI国内症例の演者のまとめでは、半数が喘息やアレルギー・自己免疫疾患の既往があった。
EVALIとCOVID-19の画像の鑑別について海外の報告ではどちらも広範なすりガラスを呈する(ものがある)。鑑別点としてCOVID-19は末梢優位、EVALIは末梢をspareするとあるが、日本の報告のEVALIは急性好酸球性肺炎の像を呈するものがあるので、必ずしも該当しないと思われる。
・日本呼吸器学会は「加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解と提言」を公開している。

教育講演15 小細胞肺癌の薬物療法

北海道がんセンター呼吸器内科
大泉 聡史 先生

治療のあゆみ

進展型小細胞肺癌に対するイリノテカン/シスプラチン(IP)群と従来の標準であったエトポシド/シスプラチン(EP)群を比較し、IP群が初回治療の標準治療となった。IP群vsアムルビシン/シスプラチン(AP)群、イピリマブ/プラチナ群、のいずれもIPを超える成績は示されなかった。
こうして2018年までは初回治療はIP、イリノテカンの毒性が懸念されるときか、71歳以上ではEPが標準治療とされた。PS3以上ではカルボプラチン/エトポシドが選択された。
2020年の報告では、小細胞肺癌の罹患数や死亡自体は減少傾向であるが、生存率は改善されていない(NEJM 2020)。本邦でも2年生存率は11%、女性は17%と改善はない。

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とプラチナ併用療法

進展型小細胞肺癌の二次治療において、ニボルマブとアムルビシン、またはノギテカンが比較されたが、全生存期間および無増悪生存期間に統計学的有意差は認めなかった(CheckMate331試験)。
プラチナ製剤によるimmunogenic cell death(ICD)を介した免疫システムの活性化が注目されている。
その機序は①ICDによる樹状細胞活性化、②樹状細胞を介したT細胞活性化、③より強固な腫瘍細胞の認識、④T細胞からのGranzymeBなどの放出。その効果はオキサリプラチン>シスプラチン、カルボプラチンである。
NSCLCではすでにICI+プラチナ併用療法は初回標準治療となっている。

進展型小細胞肺癌のICI + プラチナ併用療法

IMpower133、KEYNOTE604、CASPIAN試験、の3つの試験によりICI併用の効果が示された。
ICI臨床試験時代の評価項目について、従来からの生存率や生存期間中央値に加えて、「テイルプラトー」と呼ばれる長期生存期間の指標が重要になってきている。
以上の知見から、2020年肺癌診療ガイドラインでは進展型小細胞肺癌PS良好例(o-1)にプラチナ併用療法+PD-L1阻害剤を推奨している。

小細胞肺癌(SCLC)のICIにおけるバイオマーカーについて

一般的にSCLCではPD-L1は低発現である。CASPIAN試験において腫瘍細胞で94.9%、免疫細胞で79.5%がPD-L1陰性である。
ただし、PD-L1発現によらず治療効果が出ている印象である。
IMpower 133試験のサブグループ解析では、循環腫瘍細胞(Blood-based tumor mutation burden;bTMB)またはPD-L1発現と全生存期間には関連性は認めなかった。またbTMB高値またはPD-L1の発現が高いからといって長期生存例が増加しているわけでもなかった。tTMBについても同様に関連性はなかった。
SCLC切除例124例のコホートにおいて、CD4とCD8陽性の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の浸潤が多いほど、無再発生存期間(RFS)や全生存期間(OS)が長いことが示された。→ TILはバイオマーカーの候補となりうる。
最近では、転写因子や遺伝子背景からSCLCをグループ化する試みがなされており、SCLC-I subtypeにおいて、INF-γ発現やTILが増加して、ICI+化学療法(IMpower 133 アテゾリズマブ群)のOSが良好であることが示された。

教育講演16 肺癌におけるゲノム医療の現状と課題

順天堂大学呼吸器内科
宿谷 威仁(しゅくやたけひと)先生

NSCLCの治療は以前は病理組織型によって治療が決定されていたが、現在は遺伝子変異に合わせて治療が選択される時代となった。
以前は遺伝子検査を1遺伝子ずつしか調べられなかったが、2019年6月に3つの遺伝子パネルが承認された。
オンコマイン TM Dx Target Test CDxシステム®:対象遺伝子数46、コンパニオン診断用
Onco Guide NCCオンコパネルシステム® :対象遺伝子数114、TMBが検査可能、がんプロファイリング診断用
Foundation One® CDx :対象遺伝子数324、TMB/MSI-high ともに検査可能、コンパニオン・がんプロファイリング両方可能
コンパニオン診断とは、ある遺伝子異常が陽性であれば、承認された有効な治療薬が投与可能となるもの。通常は一次化学療法が実施される前に行われる。
プロファイリング検査は、標準治療が完了後、さらなる治療の可能性を求めて行うもの。治療選択は臨床試験などの未承認薬を検討することになる。
オンコマインは、薬事承認を得ている遺伝子測定検査(ALK融合遺伝子,BRAF V600変異,EGFR変異,ROS1融合遺伝子)以外は、研究目的で医師から申し出があった場合のみ参考情報として返却可能だが、治療目的では使用できない。
Foundation One(F1)は、324遺伝子の塩基置換、挿入/欠失、コピー数異常を検出するために全エクソン領域を解析する。36遺伝子は遺伝子融合等を検出するためにイントロン領域等を解析する。
NCCオンコパネルは、遺伝子プロファイリング検査であり、114遺伝子+12融合遺伝子、13の生殖系遺伝子の検査が可能。
日本肺癌学会バイオマーカー委員会の手引によると、進行再発NSCLCの分子標的治療へのアルゴリズムとして、
 1,まずオンコマインで検査しEGFR,ALK,ROS1,BRAF異常が見つかったら、分子標的治療(※1)
 2.METeX14 skipping 変異が見つかったら → AcherMET or F1CDxで確認診断し、分子標的治療(※2)
 3.NTRK融合遺伝子変異が見つかったら → F1 CDxで確認診断し、分子標的治療(※3)
となる。
(※1)Ex19Del およびEx21 L858Rには、ゲフィチニブ(イレッサ®)、エルロチニブ(タルセバ®)、オシメルチニブ(タグリッソ®)、アファチニブ(ジオトリフ®)
ALK融合遺伝子には、クリゾチニブ(ザーコリ®)、アレクチニブ(アレセンサ®)
ROS1融合遺伝子には、クリゾチニブ
BRAF V600E変異には、ダブラフェニブ(タフィンラー®)+トラメチニブ(メキニスト®)併用療法
(※2)カプマチニブ(Tabrecta™)、(※3)エヌトレクチニブ(ロズリートレク®)
(※1から3の薬剤はすべて経口投与)

オンコマインを用いた4遺伝子を含む46遺伝子検査の検出成功率を解析した報告では、(WJOG13019L、N=533)
4遺伝子変異をすべて成功した割合は80.1%、EGFR exon19 del, exon21 L858Rの両方成功率は85.4%、ALK89.9%、ROS189.9%、BRAF85%であった。
検体採取方法では、測定成功率がTBB検体76.8%、CTガイド下生検78.2%、エコーガイド下生検66.7%、胸水75%、外科的切除88%であった。
腫瘍細胞含有率30%未満の検体では、マイクロダイセクション実施したほうが測定成功率が高かった(実施あり83.7%vs なし68.5%;P=0.11)。
(※マイクロダイセクション:顕微鏡下でレーザー光を用い、組織材料の特定の細胞集団を選択的に捕捉する技術)
演者らは呼吸器内科、病理医、放射線科医が毎週カンファレンスすることにより生検材料の改善などもあって診断成功率が高くなっている。
ゲノムプロファイリング検査は以下の制限がある。
 1.標準治療がない/終了見込みの進行・再発固形がん患者が対象、2.1症例1回のみ、3.がんゲノム医療中核拠点病院、拠点病院、連携病院のみ検査可能、4.エキスパートパネルが必須、5.検査提出から結果がでるまで4-8週間、6.結果説明しないと、48000点が算定できない。
・今後研究が進み、がんゲノムプロファイリング検査に加えて、Liquid biopsy、Amoy9-1 kitなどが導入されるであろう。患者の状態や検査の特性に応じ、どの検査を提出するかを選択することが重要である。

Year Review in Assembly3 /閉塞性肺疾患学術部会

福島県立医科大学呼吸器内科
柴田 陽光 先生

・イタリアのエピセンターであったLombardyからの疫学研究の報告では、69092人のCOVID-19陽性患者において3940人が共同研究しているネットワークのICUに入院し、重症COVID-19患者の死亡リスク因子を検討した。
男性が8割、年齢中央値63歳。発症からICU入院までの中央値は10時間、併存症は高血圧が最多であった。
高齢者ほど死亡率が高く、COPD、高コレステロール血症、糖尿病の既往が有意に関連していた。
ACE阻害剤、ARBは死亡率と関連はなかった。
・喫煙レベルと肺機能の減衰についての報告では、
過去喫煙者と1日5本未満の現喫煙者は、非喫煙者と比較して肺機能がより減衰していた。しかも1日5本未満の群と1日5本以上の群では同等の呼吸機能減衰が認められた。これらの結果は、喫煙暴露のレベルが高かろうと低かろうと、持続的かつ進行性の肺損傷に関連している可能性があることを示唆している。

・息切れを訴えるCOPD患者にLABA/LAMAは単剤治療よりも有効かつ安全か?
ATSのメタアナリシス報告では、呼吸困難および/または運動不耐性の症候を有するCOPD患者では、悪化および入院のリスクはLABAまたはLAMA単独療法よりもLABA/LAMA併用療法が優れている。→ATSではLABA/LAMA併用療法を推奨。
ICS/LABA/LAMAトリプル療法では、ICSがCOPDの急性増悪頻度を減少させるリスクと肺炎発生頻度のリスクの増加とのバランスを取る必要がある。
特に、COPD増悪のベースラインのリスクが高いサブグループ、すなわち過去1年間に抗生物質および/または経口ステロイド投与、または入院を必要としたサブグループでのみ、トリプル療法の使用が支持された。

Year Review in Assembly 4 /びまん性肺疾患学術部会

神戸市立医療センター西市民病院呼吸器内科
冨岡 洋海 先生

・COVID-19と診断され入院したILD(間質性肺疾患)の転機を調査した国際多施設共同研究の報告では、
ILDなしの死亡率は35.4%に対し、ILDあり群の死亡率は49.1%と非常に効率であった。
服用中の薬剤(免疫抑制剤、ニンテダニブ(オフェブ®)、ピルフェニドン(ピレスパ®)、ステロイド、ミコフェノール酸等)は予後に影響しなかった。
予後不良因子は、ILD、肥満、FVC低下。

IPFの予後

Ley Bらが報告した間質性肺炎のStaging (GAPモデル:Ann Intern Med 2012)は欧米で用いられているが、日本人のILD予後を過小評価していることが判明した。特にStageI,IIの軽症の死亡率がGAP予測よりもかなり高率であった(3年死亡率:GAPモデルStageI16.3%、StageII42.1%、日本人は34.3%、62.6%)。Nishikiori Hらは変数の重み付けをCox比例ハザードモデルで調整し修正GAPモデルを報告した。それを用いると日本人と韓国人のStage別生存曲線がきれいに分離された。
東アジアでは急性増悪が死因として多く、急性増悪の予後因子であるVC、FVCがの重み付けが重要であると述べている。

パルスオキシメトリーSpO2による重症度分類と予後

日本では重症度分類に動脈血ガスを実施するが、患者負担もありSpO2で代用する報告がなされた(TakeiらRespir Investig 2020)。
安静時PaO2 80 torr →SpO2 96%、安静時PaO2 60 torr →SpO2 90%と考えて、
StageI 安静時SpO2 96%以上、かつ6MWT時SpO2<90%にならない →5生率90%
StageII 安静時SpO2 96%以上、かつ6MWT時SpO2<90%になる →5生率65%
または 安静時SpO2 90-95%、かつ6MWT時SpO2<90%にならない
StageIII 安静時SpO2 90-95%、かつ6MWT時SpO2<90%になる →5生率30%
または 安静時SpO2<90%

間質性肺炎のバイオマーカー

IPFの予後を予測するバイオマーカーはいくつか報告されているが、いずれも抗線維化薬の治療を受けていない場合のデータである。
一方抗線維化薬治療を受けると、予後予測因子とならなくなるものが存在する。
抗線維化薬投与中の予後予測バイオマーカーに関する報告では(CHEST 2020)、CA-125、CXCL13、MMP7、YKL40、オステオポンチン(いずれもHR3-4.3)が有用である。SP-Dは抗線維化薬の治療効果のために有意な変化がおこらないのでマーカーとしては不向きである。
IPFの下気道bacterial burdenは疾患進行、予後と関連しているが、BALF bacterial burdenを16s rRNA gen quantitative PCRで前向きに評価した報告(N=193)では、bacterial burdenが重いほど予後が不良であることが示された。BALF好中球比率とbacterial burdenに相関なく、胸部CT所見による重症度とも相関はなかった。
・IPF急性増悪の予後
IPF急性増悪 (N=1607)の報告では(BMJ Open 2020)、APACHE IIスコア、急性増悪前の酸素投与量、P/F ratio、LDH、WBCが有意な予後因子とされた。

IPFレジストリーにおける抗線維化薬治療

ドイツではNAC(N-アセチルシステイン)とステロイド併用療法が多く行われているが、その背景でも抗線維化薬治療はIPFの全死亡率を有意に低下させる(Behr JらERJ2020)。この論文において特に注目すべき点は、抗線維化薬投与の有無でFVC,DLCOの経年低下は変わらず同等だが、投与なし群の死亡率が高いことである。
 →抗線維化薬治療なしでFVCが安定していても死亡リスクは改善しないのだから、FVC安定を根拠に抗線維化薬使用を控えるべきではない!

IPFに対して抗線維化薬治療導入する要因について

米国Pulmonary Fibrosis Foundation Patient Registry のデータでは(Respir Res 2020)、IPF1218例のうち抗線維化薬投与は57.7%、うちニンテダニブは312例(44.4%)、ピルフェニドン391例(55.6%)であった。
治療未介入の要因は、高齢者、DLcoが良好、逆に治療介入の要因は診断から経過が長い、臨床試験参加歴、酸素使用であった。
米国IPF PRO Registry のデータでは(Ann Am Thorac soc 2020)、IPF782例のうち登録時抗線維化薬治療ありは70.5%、うちニンテダニブ224例(40.7%)、ピルフェニドン293例(53.2%)、併用34例(6.2%)。
治療介入因子は、若年、FVC低値、酸素使用、HRQOL不良、肺生検あり、である。
6ヶ月後の治療状態も検討しており、治療継続率は94%、治療継続因子はHRQOL良好、酸素使用なしであった。
一方、治療未介入だった231例のうち約3割は6ヶ月後に治療開始されていた。
治療開始因子は、DLco低値、ILD家族歴、IPFの確定診断などであった。

IPFの抗線維化治療と患者報告アウトカム(PRO)

PFの進行がHRQOL、症状に与える影響、重症度で層別化したニンテダニブのHRQOLへの効果をみるため、INPULSIS®のPROデータを検討したところ、FVCが低下するほど息切れは悪化、急性増悪を起こすとHRQOL、息切れは悪化していた。咳はかわらなかった。
GAP stage Iの場合、プラセボ群とニンテダニブ群のSGRQスコアの有意差はないが、GAP stage II,III では有意に増悪を抑制していた。
 → 進行したIPFでは、ニンテダニブ投与によりHRQOL悪化を抑制する。

クライオバイオプシー

クライオバイオプシーは多くのILD症例において診断確信度を上げる(ERJ 2020)。
臨床情報と胸部CTだけでは、診断確信度>=90% の割合は11.7%であるが、加えてBAL + クライオバイオプシーだと53.9%に上昇する。

IPFの周辺疾患について

分類不能型ILDにおいて末梢血テロメア長を測定した報告では、テロメア長が最も短い群はIPFと同等に予後不良であった。
HMGB1は発癌、間質性肺炎、急性肺傷害に関連する炎症促進性蛋白である。
ILD合併肺癌において、HMGB1の癌化学療法急性肺障害に対する意義を検討した報告がある(Nakao Sら、Respir Med 2020)。
ILD合併肺癌でHMGB1は高値であり、腫瘍量とも相関していた。
多変量解析ではHMGB1が肺障害のリスクとして残る。
過敏性肺臓炎(HP)に実施されたBALはILDとの鑑別に有用であるか検討した報告では(HP診断ガイドラインのsystematic review)、BALFリンパ球%はIPFよりもnon-fibrotic HPで有意に高値であった。同様にFibrotic HPにおいても同様であった。しかし、感度・特異度の高い閾値は得られなかった。→ BALの手技が統一されていないなども要因であろう。
慢性過敏性肺臓炎(CHP)とIPFの予後は有意差はなかった。
早期全身性皮膚硬化症にトシリズマブの投与は、%FVCの変化に対しては投与後若干改善し、改善後に維持できることが示された。皮膚硬化には効果はなかった。
線維性肺サルコイドーシスについて、無肺移植生存期間の生存曲線が肺動脈主幹径/上行大動脈→肺動脈主幹径/体表面積のほうが予後が良好に予測できることを示した。さらにそれを用いた修正Walsh’s algorithmを提案し、Stage 4肺サルコイドーシスに対して、予後不良群と予後良好群で比較した報告では(Jeny Fら、Respir Med 2020)、きれいに生存曲線が分離された。
全死亡多変量解析においても、修正Walsh’s algorithmの予後不良群は有意に予後不良であり、人種や年齢も予後不良因子であった。

IPF、ILDにおける終末期医療

IPFは予後不良疾患ながら緩和ケアの実施が不十分であり、unmet care needsが高い。
Kalluri Mらの報告(カナダ)では以下の介入と検討を実施した(Ann Am Thorac Soc 2020)。
介入:診療所と地域の多職種チームをつなぐ多職種連携ケアモデル(MDC)を導入し、早期に統合的緩和アプローチ(IPA)を提供。
方法:IPFと診断され観察期間内に死亡した全患者を早期IPA群と従来治療の群に分類。
主要評価項目:死亡前1年間の医療資源利用および医療費。
結果:IPA群はリハビリ導入率や抗線維化薬導入率がたかい、オピオイド投与率が高かった。長期ケア施設の入所率9%(非IPA群は30%)、病院死率は44.9%(非IPA群は66.8%)であった。死亡前3ヶ月の医療費もIPA群が有意に抑制した。その理由は入院が少なく、救急外来受診もすくなかったことによる。
結論;終末期IPF患者にIPA介入により、終末期医療の質の改善と医療費削減が可能。ただしIPF患者に緩和ケアを行うことが前提である。
一方我が国では、ILD患者はホスピスを利用することができない。

Koyauchi Tら(日本)は、ILDと肺癌の患者を比較した報告をしている(Thorax2021)。
ILD患者は呼吸困難に非常に苦しんでいる。
緩和ケアへアクセスしている患者はアクセスしていない患者よりも死の質(QODDのスコアが高いほどよい)がよい。アクセスしていない患者は「苦痛症状の緩和」「過ごした環境」「予後認知と治療方針への参加」のスコアが特に低値だった。
オピオイドの使用や緩和ケアチームの介入が少ない。
死亡48時間前の時点でDNARコードが入っている頻度が低かった。
→ ILD患者は肺癌患者に比して望ましい死を遂げられていないことが多い、と結論づけた。
不十分な症状コントロール(特に呼吸苦)、療養環境、患者本人の予後認知と治療方針への参加が不十分であり、改善が必要としている。

Year Review in assembly 5/細胞・分子生物学学術部会

自治医科大学呼吸器内科
鈴木 拓児 先生

呼吸不全を伴う重症新型コロナウイルス感染のゲノム解析(NEJM 2020)

COVID-19感染で無症状から重症まで様々な程度の症状が見られる。そのなかで遺伝的要因を検討したのが本報告である。
GWAS(ゲノムワイド関連解析)とは:ヒトゲノムの99.5%は他人と同じであるが、1000万ヶ所以上の1塩基多形(SNP)が存在し、そのうち50万から100万ヶ所の遺伝子を決定し、SNPの頻度と病気などとの関連を統計的に調べる方法。
SNP(single nucleotide polymorphism)について:血縁関係にない二者間ではDNAの塩基配列は99.5%が共通だが、ゲノム上で同じ位置を比較すると塩基が異なっている箇所がある。そこがSNPである。
SNPを位置マーカーとして用い、特定の病気と連動するSNP(例えば非患者群よりも患者群で有意に高頻度に認められる)を見つけ出して、その近傍に存在すると推測される感受性遺伝子をリスト化する。
疾患易罹患性、個体の形質、薬剤の応答性などと関連する遺伝要因を、遺伝子の機能に関係なく仮説を設定することなく(データ主導型に)探索する。
さて本論文の結果は、第3染色体(3p21.31)と第9染色体(9q34.2)にCOVID-19重症呼吸不全との相関が見られた。
特に第3染色体の関連領域には6つの候補遺伝子が同定され、ACE2で調整されるトランスポーターや線毛関連等、であった。
第9染色体は血液型遺伝子であり、A型は高リスク、O型は低リスクと考えられている。
更に12番、19番、21番染色体にも重症化リスク配列があると報告されている(Nature 2021)。

関節リウマチに関連した間質性肺炎RA-ILD

RA−ILDの発症リスク因子はこれまでも研究されてきた。高齢、男性、喫煙、RF高値、抗CCP抗体高値、など。
遺伝的要因として過去にRA-ILDやIPFでプロモーター領域のMUC5B遺伝子の関連が指摘されていたが、この遺伝子座の変異は人種差が大きいことが知られている。日本人には当てはまらないのではと考えられていた。
日本人のゲノム解析を実施した研究では、RA患者を間質性肺炎合併の有無で2群に分け、群間比較した。
358人のRA-ILDと4550人の非合併者。
結果、RA-ILD群で有意に多い遺伝子多型として、7番染色体上のRPA3遺伝子領域(テロメア調整、DNA安定化に関わる)が同定された。
この遺伝子座はUIPやprobable UIPパターンで強く相関する。

自己免疫性肺胞蛋白症(PAP)

抗GM-CSF自己抗体により肺胞マクロファージが機能不全となり、肺サーファクタントが肺に貯留し呼吸不全に至る疾患。
198人のPAPのGWASを実施し、HLA遺伝子領域の遺伝的変異が発症と強く関連することが判明した。
HLA-DRB108:03は抗GM-CSF自己抗体の量を増やす効果を持つ。 HLA-DRB108:03は対照群中にも7.4%存在する遺伝子型であり、希少疾患の発症にも集団中にありふれた遺伝的変異が関連するという興味深い結果であった。

Year Review in Assenbly 6 /腫瘍学術部会

和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科
山本 信之 先生

非小細胞肺癌NSCLCの治療は、分子標的治療(ドライバー変異と免疫チェックポイント阻害薬)が発展している。

ドライバー変異は、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、NTRK、METに加えて、近いうちにRET、KRAS、HER2の測定が必要とされている。
EGFR遺伝子変異陽性、エクソン19欠失またはL858R変異陽性の場合の推奨一次治療は、オシメルチニブ、あるいはゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド、またはエルロチニブ+血管新生阻害薬、とされている。
第3世代EGFR-TKIsとして現在中国や韓国で開発されているが、いまのところ奏効率はオシメルチニブと比較し同定度である。
2020年度版肺癌診療ガイドライン(以下ガイドライン)ではエクソン20挿入変異にEGFR-TKIを行わないことを推奨されているが、Amivantamab (EGFRとMETの両者を阻害する抗体)のPhase II study では奏効率が40%と高いことから、最終結果次第では今後推奨度が変更になるかもしれない。
免疫チェックポイント阻害薬は化学放射線治療と合わせて、Chemo+TRT+Durvalumab(PACIFICと呼ばれる治療)、ドライバー変異は切除+周術期治療として組み込まれている。(TRTとは、標的アイソトープ治療:Targeted Radioisotope Therapy)
切除不能III期NSCLCに対するPACIFICについて4年フォローアップデータが発表された(J Thorac Oncol 2021)。4年生存率は49.6%、Progression free survivalは35.3%でありtail plateauに達している。すなわち3人に1人は全く癌が再発せずに5年以上生存できるのである。
オシメルチニブの術後補助化学療法(ADURA試験)については第60回の記事を参照のこと。
NSCLC stage II-IIIAの患者で術後化学療法後にアテゾリズマブ(デセントリク®)の補助療法群と支持療法群で比較し、有意にDFSを延長した。

術前化学療法

NSCLC stage IB-IIIAの術前化学療法+ニボルマブを投与しその後切除する試験(CheckMate 816)は、primary endpointはpathological CR、secondary endpointは病理学的奏効率(MPR)である。
NIVO+Chemo群はChemo群と比しpathological CR達成率24%、Chemo群2.2%と有意に良好だった。Objective response rateはNIVO+ChemoとChemo群の比較ではCR,PRともに差はないが、Pathological Responseは圧倒的にNIVO+Chemo群が良好である。
NEOSTAR試験(Casconeら、Nature Med 2021)の報告(N=44)では、術前補助化学療法としてNIVO vs NIVO+ipilimumab併用群において、MPR(病理学的奏効率)は22% vs 38%と有意に併用群が良好だった。残存腫瘍細胞内にはeffector memory T cellsが浸潤しており、ipilimumab併用により長期間効果が持続すると考えられる。

Year Review in Assenbly 9/ 呼吸管理学術部会

神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科
富井 啓介 先生

CPAP治療アドヒアランスに対するテレモニタリングの効果

睡眠呼吸障害にCPAPを実施した場合、アドヒアランスに対するテレモニタリングの効果を検討したランダム化試験の報告では、通常治療とテレモニタリングで有意なアドヒアランスの改善は認めなかった(Tamisier Rら、CHEST2020;158(5):2136-45)。
N=789260のCPAP患者のアドヒアランスを検討した報告では(Patel SRら、Chest 2021;159(1):382-9)、女性で若年者、金曜日と土曜日はアドヒアランス不良であった。

OSAにおける舌下神経刺激療法(UAS)

UASとPAPの効果を比較した試験では(Walia HKら、Chest 2020;157(1):173-83)、眠気に関して有意差なく同等に有効であった。(ESSスコアがPAP-2.7点、UASが-3.5点)。一方血圧に関してはUASはPAPほど低下させず、特に拡張期血圧は低下しない。
OSAはCOVID-19の重症化リスクであるとの報告があるが(Bmj Open Res2021)、肥満、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患はリスク因子でありOSA患者はしばしば合併しているので、これらの因子を調整した上で検討した場合も、重症化のオッズ比は2.93-3.85と高かった。

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