第61回日本呼吸器学会学術講演会(WEB開催)聴講録 その3

2021年4月23日から25日まで第61回日本呼吸器学会学術講演会(WEB開催)が開催されました。
オンデマンドで何度も聴講し最新の知見を学びましたのでご報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆シンポジウム10 気管支拡張症の病態を俯瞰する

●S10-1 細菌感染症と気管支拡張症
産業医科大学呼吸器内科学 矢寺和博先生

●S10-2 肺非結核性抗酸菌症と気管支拡張症
結核予防会複十字病院呼吸器センター 森本耕三先生

●S10-3 ABPMを除く喘息と気管支拡張症
〜閉塞性細気管支炎と気管支拡張を含めて〜

近畿大学医学部呼吸器・アレルギー内科 松本久子先生

●S10-5 COPDと気管支拡張症ならびにアジアにおける気管支拡張症研究の取り組み
北海道大学呼吸器内科学 鈴木 雅先生

●Year Review in Asssembly 10/臨床諸問題学術部会
沖縄県立中部病院呼吸器内科 喜舎場朝雄先生

◆シンポジウム10 気管支拡張症の病態を俯瞰する

S10-1 細菌感染症と気管支拡張症

産業医科大学呼吸器内科学
矢寺 和博 先生

気管支拡張症の成因と機序、重症度評価

・4つの因子が相互に関与する:気道の機能障害、局所の炎症、慢性感染症、気管支拡張/肺の破壊
・気管支拡張症の重症度評価にはFACEDスコアとBSIがある。
BSIは入院に関して予測能が高い。死亡に関しては両者に差はなく有用である。
BSIにさらに各背景疾患の重み付けをしたBACIという指数もある。5生率予測に有用であるが煩雑である。

気管支拡張症の病因細菌

病因としてインフルエンザ菌、緑膿菌、クレブシエラなどの感染症がある。緑膿菌はバイオフィルムの中に存在する。
局所でマクロファージが好中球を遊走させて、好中球が炎症・組織破壊を起こす。また好中球エラスターゼはマクロファージの機能を抑制し、好中球からの脱顆粒が遷延する。
喀痰培養による報告では、細菌叢は緑膿菌とインフルエンザ菌が多くを占め、ブドウ球菌、モラクセラとつづく。
一方喀痰の16S rRNAの検討では、緑膿菌、インフルエンザ菌、パラインフルエンザ菌、の順に検出されている。
BSI scoreを用いた重症度で分けると、重症度が高くなるほど緑膿菌の検出割合が高くなる(mild4%,Moderate 16%, Severe 18%)。
嚢胞性線維症以外の気管支拡張症のmicrobiomeの経時的変化を評価した報告では、菌叢自体は大きく変わらないが、一部の症例では菌叢が大きく変わる人もいる。

気管支拡張症と緑膿菌

緑膿菌が培養されたらヘモフィルスは少ししか培養されず、逆もまた然り。両者は排他的な発育をするものと推察される。
緑膿菌定着群は非定着群に比して入院OR6.57、死亡2.95といずれも高かった(Finch S et al. Ann Am Thorac Soc 2015)。
喀痰中のNET(Neutrophil extracellular traps:好中球細胞外放出核内クロマチン網)量が多いほど急性増悪の頻度が高く、生存率が低い。
また緑膿菌が検出されないと急性増悪時の抗菌薬治療後2週間の喀痰中NET量は減少するが、緑膿菌あり群は治療後もNET量は低下しない。緑膿菌あり群は次回増悪までの期間が短く、頻度も多い。(Keir HR et al. LANCET Respir Med 2021)。

安定期の治療 ーBTSガイドラインー(Thorax 2019)

STEP1から5まであり、各ステップごとに推奨治療を行い、年3回以上増悪、があれば次のステップに進む。
ステップ3において緑膿菌感染症あれば長期抗菌薬吸入療法 or マクロライド長期少量療法を推奨している。
緑膿菌なしの場合は、マクロライド長期少量療法推奨。
マクロライド長期少量療法のRCTでは、患者背景によらず、 有意に急性増悪頻度の抑制、次回までの増悪期間延長、QOL改善効果がある。
AZM250mg、週3回、12ヶ月間投与後、喀痰のNET濃度は有意に減少していた(Keir HR et al. LANCET Respir Med 2021)。

吸入抗菌薬療法

トブラマイシン、シプロフロキサシン、アズトレオナムなどがある。
トブラマイシンの継続的で周期的な使用は安全かつ緑膿菌喀痰密度を低減させるとした(ERJ 2021)。
ただしシプロフロキサシンとアズトレオナムは相反する報告あり、今後の検討が待たれる。

胸部CT画像所見と各部位における細菌叢について

気管支拡張部位の周囲に浸潤影があると嫌気性菌(Prevotella等)が多く検出され、粒状影ではストレプトコッカスとGranulicatellaが検出された。非病変部は検出されなかった。

NTM疑いで気管支鏡検査実施した症例の細菌叢

NTMと確定診断した群(N=27)では、嫌気性菌が全体の53.8%を占めた。
NTMでなかった群(N=25)では、嫌気性菌は26.4%で、緑膿菌とブドウ球菌が15%程度とおおかった。

NTMでは肺胞マクロファージの貪食能が低下している。

演者らはNTMとS.aureusを共感染させる研究を実施し、NTMを共感染させるとブドウ球菌が有意に増加することが判明。
またNTMの患者の肺胞マクロファージを採取すると、非活性マクロファージが有意に増加していた。このマクロファージは貪食能が落ちており、ブドウ球菌と共感染が起きている理由と推察された。

Q and A

Q NTMの発症因子としてGERDとか誤嚥が多いとか、臨床的背景はあったか。
A NTMの肺炎のときにGERDデータを取っていなかったので不明だが、今後重要と思われる。
NTMで画像がよくなったり悪くなったりするのは、周囲の嫌気性菌などの影響もあるのではと思っている。

S10-2 肺非結核性抗酸菌症と気管支拡張症

結核予防会複十字病院呼吸器センター
森本 耕三 先生

NTMは病初期に胸膜直下の粒状影として認められ、その後気管支壁肥厚と粒状影→気管支拡張→最終的に区域の器質化へと進展する。
一方で宿主要因として、mucociliary clearanceの低下などの機能異常や免疫異常などの要因から気管支拡張となりそこへNTMが腐生するという機序も言われている。つまりNTMと気管支拡張は鶏と卵の関係である。

肺NTM症とは

既存肺疾患、もしくは既往の乏しい中年女性に発症する。
慢性進行性の難治性呼吸器感染症
特殊型をのぞき、ほとんどが気管支拡張を呈する

気管支拡張症とは

慢性の呼吸器症状、CT画像上の気管支拡張、多様な基礎疾患が含まれる。
主な原因:特発性、post-infection(結核、非結核性抗酸菌症、その他の感染症)、免疫不全、ABPA
稀な疾患:びまん性汎細気管支炎、GERD、誤嚥、膠原病、関節リウマチ、他

気管支拡張症は40年で5倍に増加している。

欧州では気管支拡張症の原因と一部としてNTMと考えられている。
日本ではNTMという一つの疾患群として認識されている。
1970年以後気管支拡張症の死亡は横ばいであるが、NTMは急増している。
特に女性が増加しており、男性はむしろ減少傾向である。
演者の多数の治療経験では、NTMの標準的治療を実施して排菌陰性化し経過良好に見えたものが、緑膿菌感染症で急性増悪することがしばしばある。気管支拡張症はNTM治療の後遺症と言ってもよいかもしれない。

NTM、気管支拡張症のレジストリ JMBR(Japanese Nontuberculous Mycobacteriosis-Bronchiectasis Registry) N=962

肺NTMなし群に比較して、肺NTM症群(N=741)では、背景疾患が少ない特発性71.5%。女性が83%、BMI19.1と低い。
肺NTM症群では病変が広く、気管支拡張病変が重症である。

クラスター解析を用いた臨床的表現型分類

5つのクラスターに分類された。さらに気管支拡張の背景疾患・肺NTM症の有無で分けられた。
クラスター2は胸部画像で病変が進展しており、年齢が高く、BMIは低く、症状強く、BSIも悪く、CRPは高く、増悪率が高い→死亡率も相対的に高い。
クラスター2のSubgroup 解析にて、現在排菌中で治療中の患者の緑膿菌の同定率は10%ないが、抗酸菌培養陰性で治療していない群で最も緑膿菌が多く検出された(37%)。また2014年にFujitaらの報告でも、緑膿菌やアスペルギルスは治療前の検出率は低いが、治療開始で増加し治療後に最大となった(緑膿菌は治療前25.7% → 後 93.1%、アスペルギルスは50%→81.8%)。
 → 日本ではNTM治療後の気管支拡張は緑膿菌感染症が問題となる。

補足

NTMが多いので気管支拡張症はなんでもNTMが原因と考えてしまうかもしれないが、
希少疾患、たとえば原発性線毛機能不全症などもあり、背景疾患も含めて病態の把握をしっかりと実施してほしい。

Q and A

Q 気管支拡張が起こってNTMが発症する群と、背景疾患なしで発生するNTMでは、菌の要因になにか特徴があるのか。
A まだ菌の解析は十分実施していない。

Q NTMで気管支拡張があって死亡例は、細菌感染が原因なのか。
A 3割は特発性なのでNTMそのものの増悪によるものと細菌感染が混在していると考えられる。

S10-3 ABPMを除く喘息と気管支拡張症
〜閉塞性細気管支炎と気管支拡張を含めて〜

>近畿大学医学部呼吸器・アレルギー内科
松本 久子 先生

気管支拡張症における喘息合併頻度

本邦では気管支拡張症の7%に喘息が合併する。米国では29%、欧州では3.3%とされる。
気管支拡張症の合併を喘息からみると日本では62%に、諸外国も30-68%に認める(CT画像で伴走する気管支肺動脈径よりも太い気管支を気管支拡張と判定した場合)。
拡張に関与する因子として、喘息重症度、喘息入院歴、一秒率の低下、喀痰症状、肺炎歴などがある。
ステロイド依存性喘息において、気管支拡張症の併存は予後が悪い。
一方炎症の程度は喀痰中の好酸球は同等、血中好酸球も気管支拡張の有無とは無関係であった。
・演者らは気管支拡張症合併難治性喘息の全国実態調査を実施され、
 回答率71%、NTM症例は除外、ABPMは除外し、主治医判断の好酸球型と非好酸球型+不詳型の2群に分類した。
 好酸球型N=41、非好酸球型N=155。
 好酸球型は好酸球性副鼻腔炎合併30%、非好酸球型は好中球性副鼻腔炎合併32%であった。
 好酸球型は末梢血好酸球数が多く、細気管支炎の罹患がおおい。非好酸球型は緑膿菌検出が多かった(34%)。
 過去2年間に全身性ステロイド投与や入院回数は有意差は認めなかった。
 過去2年間に抗菌剤投与を必要とした増悪回数は、非好酸球型で有意に多かった(0.6回/年 vs 1.1回/年)。
 また経口ステロイドあり群は増悪が多かった。

気管支拡張像と末梢気道病変の関係
〜閉塞性細気管支炎における気管支拡張像の意義〜

肺気腫、ABPA、肺手術後を除外した気管支拡張症例N=100を対象としたCT所見と呼吸機能の関係の報告では、
気管支拡張像があるだけで、気流閉塞がある。気道壁肥厚や低吸収域が気流閉塞・残気量に関与していた。

閉塞性細気管支炎(BO)におけるCT上気管支拡張像の意義

2009年から2019年に肺移植を受けたBO患者(N=38)において、
気管支拡張ありとなしの2群に分類し、さらに吸呼気CTを実施して評価した。
%RVが気管支拡張群で非常に高度であった。(87% VS 176%)
喀痰中緑膿菌 は気管支拡張なし群からは検出されず、あり群の39%に検出された。
呼気CTではエアトラッピング有意に気管支拡張あり群で多かった。
CT画像で気管支拡張の出現しているものは、
 過膨張進行のサインであり、
 病理では閉塞性細気管支炎進展が認められた。
→ 一般臨床では気管支拡張像を認めた場合、NTM症のみならずBOも想起していただきたい。

Q and A

Q 好酸球性細気管支炎は気管支拡張症に進展していくと考えるか。
A 好酸球性細気管支炎は気管支拡張にはあまりならないと考えている。
 今回の検討も好酸球型は細気管支型が多かった。

S10-5 COPDと気管支拡張症ならびにアジアにおける気管支拡張症研究の取り組み

北海道大学呼吸器内科学
鈴木 雅 先生

気管支拡張症における一秒量の低下は気管支拡張の程度よりも気管支壁肥厚と呼気時の肺濃度低下と関連している。
すなわち、より末梢の気道病変が重要である。
COPD側からみても気管支拡張症側からみても両者の合併例は予後不良である。
北海道COPDコホート研究の解析では、気管支拡張を気管支径が伴走肺動脈径の1.5倍以上と定義すると26%に合併しており、有意に予後不良であった
(10生率 BEなし 68% vs BEあり 38%)。

ANOLD

アジアの慢性気道疾患研究ネットワーク
研究対象:COPD → 気管支拡張症へ移っている。
アジアの気管支拡張症患者のレジストリ研究が開始されており、知見の集積が期待される。

Year Review in Asssembly 10/臨床諸問題学術部会

沖縄県立中部病院呼吸器内科
喜舎場 朝雄 先生

スマートホンを用いた禁煙支援

通常の禁煙治療とスマートホンを用いた禁煙支援を実施した報告では、通常群に比し常に10%程度禁煙継続率が高かった。

肺移植の患者で摘出して移植するドナー肺のCT所見が早期予後を予測できる

ドナー肺の胸部CT検査にて浸潤影を認める群は気管支吸引検体の培養で8割陽性だった。MSSA、カンジダ、コアグラーゼ陰性ぶどう球菌、緑膿菌、の順に検出されていた。
浸潤影を認めない群では26%培養陽性、カンジダ、MSSAであった。
浸潤影あり群は手術時の出血量が2倍以上多かった。人工呼吸器装着時間、ICU滞在期間ともに浸潤影あり群で長かった。
また、最初の72時間の時点でGraft dysfunction率が高かった。

急性呼吸不全患者に対する肺エコー

気胸の除外が可能 (Koenig S et al. Chest 2020)
 エコー所見としてLung sliding、Lung pulse 、B lineの存在は気胸の除外になる。
 Lung pointの指摘は気胸の特異度が高くなる。
(筆者追加 Youtubeに素晴らしい説明動画があります。 https://www.youtube.com/watch?v=iysmB61K7QA)

 間質症候群の所見は、
 B lineの存在
 B line の濃度と関連した臨床情報
 心原性肺水腫ではBline は両側びまん性で均一な濃度で荷重域に分布する
 ARDSやCOVID-19肺炎ではB line は斑状、不均一に分布し急に正常域に移行する
肺胞領域の病変の所見は、
 無気肺では吸気で陰影が縮小する
 胸水近傍の陰影は圧迫性無気肺の可能性がある
 Air bronchogramは吸気サイクルで動き、その場合は肺炎の可能性がある

間質性肺炎の緩和ケア(Akiyama N et al. J Pain Symptom Manage 2020)

IPF患者にどのように緩和ケアを実施しているか、130名の医師(ILDを診療経験10年以上が8割)にアンケート調査した報告では、
 痛みに関して問診することはまれである・・・5割。
 終末期のコミュニケーションに関してどれくらいの頻度で行うか・・・まれ、時々が多くをしめた。
 労作時息切れに対するオピオイドの使用が肺癌の約半分であった。安静時の息切れ対しても肺癌の6割程度と少なかった。
終末期のディスカッションをいつすべきか? 
 理想は在宅酸素療法導入時であるが(実際には2割)、現実は急性増悪で入院した際(全体の6割)となっている。
 ケアのゴールに関して、患者や家族と医療関係者との間に病態の理解の乖離がある。
 ケアのゴールについてのコミュニケーションが十分ではない。

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