第118回日本内科学会講演会(WEB開催)聴講録その1

2021年4月9日~11日の3日間で第118回日本内科学会講演会(WEB開催)行われ、その後オンデマンドで2週間聴講可能でした。繰り返し聴講し最新の知見を学びましたのでご報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆シンポジウム3 「代謝を標的とした内科疾患の治療戦略」

●S3-4.「SGLT2 阻害薬から改めて学ぶ心不全の病態生理と治療戦略」
慶應義塾大学 佐野 元昭先生

●教育講演3 アドバンス・ケア・プランニングの実践とその効用
神戸大学 木澤 義之

●教育講演4 副腎疾患の最前線
九州大学 小川 佳宏 先生

●教育講演13 尿細管障害の診断と治療
高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科 寺田 典生 先生

◆シンポジウム3 「代謝を標的とした内科疾患の治療戦略」

S3-4.「SGLT2 阻害薬から改めて学ぶ心不全の病態生理と治療戦略」

慶應義塾大学
佐野 元昭 先生

心腎連関とうっ血性心不全

・心腎連関とは心臓と腎臓の双方向の関係のことをいい、どちらかの臓器が障害されるともう一方も障害されてくる。
うっ血性心不全では、心不全として症状発症するときは本来の駆出率よりも低下することがわかっている。
左室駆出率が低下すると心拍出量が低下→脳などの重要臓器に十分な血液が送られない→圧受容体が反応して脳に「十分な血液が流れていない」というシグナルをおくり→ 交感神経系が刺激されて活性化する。
たとえば腎に向かっている交感神経系が活性化し尿細管のナトリウム再吸収を亢進し、同時に傍糸球体装置からレニンが分泌されレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が活性化され、遠位尿細管におけるNa再吸収が亢進する。脳からはアルギニンバゾプレッシンが浸透圧非依存性に分泌され腎臓集合管からの水の再吸収を促進する。その結果として腎臓からの水とNaの再吸収が増加して体液量が増え静脈還流量が増えるので、心拍出量の減少を代償することになる。そうすると右房圧は上昇し肺うっ血が生じる。

腎臓は大量の酸素を消費しながらNa再吸収をしている

健常な腎臓は心拍出量の約5分の1が流れるが、糸球体内の毛細血管で血液を濾過し原尿が生成されたあと99%が再吸収される。
その際にNa再吸収が最もエネルギーを消費する。実に腎臓のエネルギー消費量の60%を占め、再吸収の3分の2は近位尿細管で行われる。

SGLT2阻害薬は慢性心不全も腎不全の悪化も抑制する。

心不全の状態では、心拍出量低下→交感神経系活性化→近位尿細管Na再吸収亢進→酸素消費量が増加→近位尿細管間質の低酸素が生じる。
尿細管間質低酸素血症は腎求心性神経を通じて脳に伝えられ→脳からの交感神経系出力が亢進する。
さらに糖尿病は心腎連関による心臓と腎臓の機能不全を加速させる。
そしてSGLT2阻害薬は近位尿細管Na再吸収を阻害することで近位尿細管の酸素消費を減少させ尿細管間質低酸素を緩和する。
すなわちSGLT2阻害薬は慢性心不全も腎不全の悪化も抑制する。

近位尿細管は糖毒性に非常に弱い。

高血糖環境下における解糖系の活性化はミトコンドリア活性酸素、線維化誘導因子オステオポンチンの産生を促す。線維化が進めば近位尿細管上皮は毛細血管の血流が低下しさらなる低酸素血症を起こす。

教育講演3 アドバンス・ケア・プランニングの実践とその効用

神戸大学
木澤 義之 先生

終末期において約70%の患者で意思決定が不可能である。
→終末期に患者の意向を聞いておけばよいのだろうか?
・The support studyという有名な研究がある。
4804名の患者を対象にアドバンス・ディレクティブ(AD: 事前指示書:判断能力を失った際に自分に行われる治療やケアに関する意向を判断能力があるうちに意思表示すること)を介入としたクラスターランダム化試験が米国で実施された。介入方法は熟練した看護師が病状理解を確かめ、ADを取得し医師に伝えた。その結果、DNR指示の頻度や時期、CPRの意向に関する患者と医師の一致率、ICU利用・人工呼吸管理を受けた日数、疼痛、病院資源の利用、に全く有意差がなかった。
→ 事前指示書(AD)は全く意味を成さないことが判明した。
なぜADが有効でなかったのか。
この研究ではAD取得時に家族は関わっていなかった。換言すると、なぜそのような内容になったのかとか、なぜそう考えたのか、を家族がわからなかったからである。
例)ADに人工呼吸器装着は望まないと書かれていたとする。
その患者が重症肺炎になったときに、救急医から3割は治って社会復帰できる、と家族が説明を受けた場合、どうするであろうか。この研究では多くの家族が判断に迷ったという。
→ 患者と家族が一緒にADを作成しないと意味がない。患者-代理決定者-医療者が、患者の意思や大切なことをあらかじめ話し合うプロセスが必要であり、プロセスを共有することで患者がどう考えているかについて深く理解することができる。その結果複雑な状況に対応可能となる。患者の価値観を理解し共有することが大切である。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

ACPの定義

患者・家族・医療従事者の話し合いを通じて、患者の価値観を明らかにし、これからの治療・ケアの目標や選好を明確にするプロセスのこと。
ー身体的なことにとどまらず、心理的、社会的、スピリチュアルな側面を含む
ー治療やケアの選好は定期的に見直されるべきである
ー医療代理人の選定や医療・ケアの選好を文書化してもよい
ACPの話し合いの主体は患者本人である。
大切なことには優先順位がある。
 話し合いの内容は、患者の大切なことやこのように過ごしたいという希望を含む。例えば、
家族の負担になりたくない、寒がりなので室温は暑いくらいにしてほしい、肩は冷やさないようにしてほしい、寂しがり屋なので一人にしないでほしい、等。

ACPのメリット

−患者の自己コントロール感が高まる
−代理決定者−医師間のコミュニケーションが改善
−より患者の意向が尊重されたケアが実践され、患者と家族の満足度が向上し、遺族の不安や抑うつが減少する
−不安や抑うつを持つ患者の割合が減少する
−専門的緩和ケアの利用者が増える

ACPのデメリット

−心の準備ができていないと利益よりも害が多い・・・希望を失ってしまうことがある
−53%の患者が、研究への参加を拒否・・・準備ができていない、関心がない
−時間と手間がかかる・・・主治医以外の介入では十分な効果が得られないことも多い

ACPを始めるときに注意が必要なこと

国民全体への啓発と「人生の最終段階を自分のこととして考える時期」の大きく2つに分けてアプローチする。(地域住民への啓発と医療現場での実践を分ける)
健康な人が心肺蘇生や詳しい生命維持治療などの選択をすることは現実的ではない。

ACPをいつ実施するのか

まずsuprise questionを実施する。
この患者さんが1年以内に亡くなったら驚きますか?(自問自答してもらう)
もし驚かないのなら緩和ケアを開始したほうがよい。
緩和ケアを開始する = ACPを行う と考えても良い。

早くからみんなにACPすべきか?

早すぎると利益より害が多いことがある。
複数にわけ、適切な時期に適切な話題をする。
病状の進行や身体機能の低下があったとき、治療の変更時などはよいタイミングである。
まず準備状態を確かめる。
−準備ができていれば、病状理解の確認と今後の経過の話し合いから始まる。
−いきなり心肺蘇生や看取りについて話すのは控えたほうがよい。

誰がACPを開始するのか

主治医がもっともよい。 病状や今後の経過の話が必須であり、それが良いきっかけとなるため。
その後の詳細な話し合いは職種を選ばない。
(ACPの具体的な進め方を説明されたがここでは省略。)

患者の意向を共有する方法として、日本臨床倫理学会から日本版POLST (「生命を脅かす疾患」に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書)が発行され利用可能となっている。

教育講演4 副腎疾患の最前線

九州大学
小川 佳宏 先生

副腎腫瘍は2つに分類される。

副腎は皮質と髄質からそれぞれ特色のあるホルモンが産生されている。
 ホルモン産生腫瘍・・・ 皮質:原発性アルドステロン症、Cushing症候群、髄質:褐色細胞腫
 ホルモン非産生腫瘍
高血圧は副腎腫瘍の診断の契機として重要であるが、その頻度は原発性アルドステロン症が5〜7%、Cushing症候群が0.1〜0.5%、褐色細胞腫が0.1〜0.5%である。
副腎検索以外の目的で実施された画像検査で偶然見つかるものは副腎偶発腫と呼ばれるが、検査数の約4%の頻度がある。非機能性51%、コルチゾール産生腺腫10%、褐色細胞腫9%、アルドステロン産生腫瘍5%、転移腫瘍4%、と報告あり(Endocr J2020)。

副腎腫瘍の診断の進歩 〜原発性アルドステロン症(PA)を例にして〜

PAの病型

片側性 アルドステロン産生腺腫、分泌量重度で低K血症が半数以上に認められる。 治療は原則手術 or 薬物。
 両側性 特発性アルドステロン症 分泌量は軽〜中等量で、低カリウム血症の頻度は10−20%、治療は薬物療法。
両病型ともに確実な診断と治療が必要である。

PAの診断

従来は、以下の1,2,3の手順である。
1. PAスクリーニング検査 
  ARR = アルドステロン(pg/mL)/レニン(ng/mL/hr)比 >=200
2. 機能確認検査 生理食塩水負荷試験、カプトプリル負荷試験、フロセミド立位負荷試験
3. 副腎静脈サンプリング
しかし、検査の流れが複雑なことからプライマリ・ケアではスクリーニング施行率が低いことが問題となっている。
(※筆者追記 血漿アルドステロン正常値 30-120pg/mL、3-12ng/dL、血漿レニン活性正常値0.5-2.0ng/mL/hr)

そこで演者らは簡便なアルゴリズム構築を試みた。
・PAの典型例と考えられる症例の場合の診断(演者ら提案)
PAスクリーニング陽性、かつ血漿レニン活性PRA(ng/mL/hr)<1.0 の高血圧患者はPAの可能性が高い。(N=327 )
さらに、
 A. 血漿アルドステロン濃度PACが30 ng/dL以上の場合(N=61)
 B. あるいは、PAC20〜30 ng/dL + 低K血症 (N=26)
A,Bのどちらとも全員PAと確定した。
A,B症例については、機能確認試験は省略できると考えられる。
一方PAC<20 ng/dLの場合は、機能確認試験が必要である。
演者らは、PAC、K、Naの3項目の測定により高い精度で病型(片側性か両側性か)を診断予測できるとした。

副腎由来ホルモンの多面的作用について(骨代謝調節作用について演者らの検討)

PA症例において椎体骨折が増加する

演者らは副腎由来ホルモンが全体としてどのような影響があるのかを臨床的に検討した。
非機能性腫瘍、両側性PA 、片側性PAの順に椎体骨折率を比較したところ、順に12%、20%、46%であり、圧倒的に片側性PAで多かった。
 → アルドステロン過剰分泌は骨折を促進する。
褐色細胞腫(カテコラミン過剰分泌)は、非機能性腫瘍と比較し骨密度や骨質を低下させ、有意に椎体骨折率が増加した。(非機能性vs褐色細胞腫=16% vs 46%)
 → カテコラミン過剰分泌は骨折を促進する。
一方、副腎アンドロゲンは1単位あたり0.12g/cm2の骨密度を上昇させる。
 → 副腎アンドロゲンは骨密度を上昇させて骨保護的に作用する。

教育講演13 尿細管障害の診断と治療

寺田 典生 先生

最近50年間で維持透析患者数は年々増加し34万人を超えており、とくに65歳以上の患者が急増している。

尿細管障害の分類

急性腎障害(AKI)から慢性腎臓病(CKD)の移行における尿細管障害・・・高齢者におおい
薬剤性腎障害・・・高齢者におおい
尿細管機能異常

AKIの診断基準

・AKIは最近10年間で診断基準が変更された。
2012年に国際的統一診断基準が示され、以下の通り定義された。
 1. 48時間以内にクレアチニンが0.3mg/dLを超えて増加
 2. 7日以内に血漿クレアチニン値が基礎値から1.5倍以上上昇
 3. 尿量0.5ml/kg/h以下が6時間以上持続
Stage I クレアチニンが1.5-1.9倍上昇・・・尿量が0.5ml/kg/h未満が6時間以上持続
Stage II 2-2.9倍上昇・・・・尿量が0.5ml/kg/h未満が12時間以上持続
Stage III 3倍以上上昇、or sCre>4.0mg/dL・・・・尿量が0.5ml/kg/h未満が14時間以上持続

近年AKIは増加している

・最近の報告では、全入院患者の10%がAKIを発症、ICU入室患者に至っては30-40%が発症するとされている(Nature Rev Nephrol 2014)。
増加の原因は、高齢化、糖尿病、慢性腎臓病の増加、検査・治療の進歩(侵襲的検査、高度の外科手術、多種の化学療法)などが考えられる。
ICUでは多臓器不全の一分症として増加している。
・演者らの施設における検討でも、10万人の入院患者のうち11.3%の頻度であった。
しかも入院時すでにGFRによる病期分類のG4、G5の患者では、侵襲的検査や外科手術などにより3-4割がAKIを発症した。
特に高齢、CKD、心機能低下症例はリスク因子であった。
AKIの長期予後は不良であることが最近判明し、発症3ヶ月後を目安に患者の状態を確認し、それに応じて長期フォローアップを提案する。

AKIがどのようにCKDに移行するのか?

AKIの回復期に尿細管細胞は比較的再生能力が高いが、高度に障害されると尿細管細胞の細胞周期停止と線維化がおこり、毛細血管の障害が発生してCKDに移行するとされている。

尿細管細胞で強いDNAダメージがおこるとCyclin G1が発現し、これが細胞周期をG2/M期で停止させることが判明した(Canaud G et al. Sci Transl Med Nephrol 2020)。
AKIからCKDへの移行の機序をまとめると、尿細管細胞にDNA障害 → Notch、Wnt、TGFβなど様々な線維化の遺伝子が活性化される → 同時にp16が発現増加し、細胞周期停止 → 細胞老化へ形質転換 → 慢性炎症や線維化を引き起こす。
(※筆者追加 細胞老化senescence について https://www.cellsignal.jp/science-resources/overview-of-cellular-senescence

薬剤性腎障害(drug- induced kidney injury: DKI)

DKIの診断基準

DKIは60歳以上で高頻度である。高齢者はCKDがおおく、多剤を服用している割合が高いことが原因の一つと考えられる。
DKIの診断基準は以下の通りである。(薬剤性腎障害ガイドライン2016)
 1. 該当する薬剤の投与後に新たに発生した腎障害であること
 2. 該当薬剤中止により腎障害の消失、進行の停止を認めること
 上記1,2があって他の原因が否定できる場合に診断できる。

DKIを起こす薬剤

原因薬剤は主に4つ・・・NSAIDs 25.1%、抗腫瘍薬18%、抗菌薬17.5%、造影剤5.7%、
 その他33.7%
・DKIの分類
A. 発症機序による分類
 ⅰ. 中毒性腎障害 ・・・薬剤の投与量や血中濃度が高いことで生じるもの。造影剤やバンコマイシン等。
 ⅱ. アレルギー機序による急性間質性腎炎(過敏性腎障害)・・・少量でも起こりうる。NSAIDs、COX-2阻害薬等。
 ⅲ. 薬剤による電解質異常、腎血流量減少などを介した間接毒性・・・ビタミンD製剤、RAS阻害薬(レニン・アンギオテンシン・アルドステロン阻害薬)
 ⅳ. 薬剤による結晶形成、結石形成による尿路閉塞性腎障害
B. DKIの障害部位による分類
  ⅰ. 糸球体障害、ⅱ. 尿細管障害、ⅲ. 腎間質障害、ⅳ. 腎血管障害
C. 組織学的分類
 急性間質性腎疾患26%、慢性間質性腎疾患24%・・・合わせて50%。間質性腎疾患が多い!
 糸球体疾患29%、硬化性変化8%、その他10%、不明3%。
※ 薬剤性腎障害に腎生検は極めて有用だが全例に実施は困難であり、Gaシンチが有用である。

尿細管機能異常

分類

頻度は少ないが近年遺伝子解析が進んでいる。
以下のように分類される。
 近位尿細管障害・・・腎性尿糖症、Fanconi症候群、シスチン尿症
 遠位尿細管障害・・・Batter症候群、Gitelman症候群、Liddle症候群
 尿細管性アシドーシス・・・近位型、低K性遠位型、高K性遠位型

遠位尿細管障害

遠位尿細管におけるNaCl再吸収障害により、低K血症とアルカローシスをきたす。病因遺伝子により6型に分類され、遺伝子診断にて診断する。
Batter症候群 ・・・5型あるがいずれも胎児期〜乳児期に発症。ヘンレの太い上行脚(TAL)と遠位尿細管におけるCl輸送の異常によりそれぞれの病型が発症する。
Gitelman症候群・・・学童期以降発症。低K血症に加えて低Mg血症、尿中Ca低値が特徴(Batter症候群との違い)
Batter症候群 ↓↓

尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis; RTA)

尿細管の機能異常により正常AG性代謝性アシドーシス(pH↓、HCO3↓、Cl↑、AG=12±2mEq/L))をきたす疾患である。
I型、II型、IV型がある。
近位尿細管では重炭酸が再吸収されており、ここの異常は近位型(II型)RTAを発症する。
遠位尿細管では水素イオン分泌の排出障害で低K性遠位型(I型)RTAを発症する。
アルドステロンに対する反応性低下により高K性遠位型(IV型)RTAとなる。
実臨床では、二次性が多い。
近位型(II型)RTA・・・間質性腎炎、薬剤性腎障害
低K性遠位型(I型)RTA・・・シェーグレン症候群、多発性骨髄腫、他
高K性遠位型(IV型)RTA・・・RAS阻害薬、シクロスポリン等の薬剤
遺伝子異常も知られており、遺伝子診断もされている。
 II型RTA・・・ナトリウム/重炭酸共輸送体、炭酸脱水酵素II
 I型RTA・・・クロライド/重炭酸交換輸送体、H+ATPase
 IV型RTA・・・鉱質コルチコイド受容体、上皮型ナトリウムチャネル、WNK1、WNK4

コメントは停止中です。