第7回アレルギー講習会 その2

2021年6月5日、6日の2日間、第7回アレルギー講習会を受講しました。
WEB開催であり、何度もくりかえし聴講し勉強いたしましたので報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

●成人喘息の基本知識から最新情報まで -基礎-
姫路聖マリア病院 金廣有彦先生

◆アレルゲンの全て

●アレルギー疾患研究に役立つ遺伝学の基礎知識(ベーシック)
筑波大学医学医療系遺伝医学 野口恵美子先生

成人喘息の基本知識から最新情報まで -基礎-

姫路聖マリア病院
金廣有彦先生

喘息で亡くなった患者の組織所見は、杯細胞過形成、気道平滑筋肥大・増生、上皮下の線維化などであり、これらをリモデリングと称する。

・アレルギー気道炎症のメカニズム

Type2炎症:

まず誘因としてアレルゲンが気道上皮に暴露→樹状細胞(Dendritic cell)が抗原を取り込んでnaive T細胞に抗原提示→Th2細胞に分化する →様々なサイトカインが産生される。
Th2細胞はIL-4、IL-5、IL-9、IL-13を産生するが、IL-4、IL-13はB細胞を活性化しIgEが産生される。IL-5は好酸球を活性化する。IL-9はマスト細胞を活性化する。
大気汚染物質、ウイルス、アレルゲンが気道上皮に暴露すると、上皮からTSLP、IL-33、IL-25が産生され、ILC2を活性化する。ILC2は多量のIL−5を産生し好酸球を活性化する。
またILC2はIL-4、IL-5、IL-13も産生する。
ILC2は上皮からのIL-33、TSLP、IL-25によりnaive ILC2から成熟し活性化する。naive ILC2はステロイドが有効だが、IL-33+TSLPにより成熟・活性化したILC2は”ステロイド抵抗性”となる。
最近は好塩基球も注目されている。好塩基球はIL-33のレセプターであるST2を発現しており、早期から活性化されてIL-4を大量に産生するのでTh2成熟やIgE産生、ILC2活性化などに関与すると考えられる。
Th2細胞を中心とした獲得免疫系(adaptive immune response)とILC2を中心とした自然免疫系(innate immune response)が複合的に関与してType2炎症を引き起こす。

非Type2炎症:

一方で、樹状細胞(DC)はIL-23を産生し、Th17細胞を活性化する → IL-17A、IL-17Fが産生されて気道局所に好中球が遊走・活性化する。またILC3はIL-17を産生するので、気道局所の好中球性炎症に関与している。上皮細胞からはIL-8、CXCL11が分泌されて好中球を活性化する。→ 好中球は種々のプロテアーゼ(好中球エラスターゼ、MMP-9)や、LTB4、IL8、ROS を産生放出し、好中球性気道炎症を惹起する。
さらにTh1細胞やNK/NKT細胞から放出されるTNF-α、INF-γの関与もあると考えられている。

Treg細胞はIL-10、TGF-βを産生し、これらType2、non-Type 2の炎症に対して抑制性にはたらくとされている。

・リモデリング

好酸球から特殊顆粒蛋白(MBP、ECP、EPO、EDN)や増殖因子のTGF-β、あるいはcys-LTs、LTB4、等が産生され気道上皮を障害する。
ILC2あるいはTh2細胞から分泌されるIL-4、IL-13 も上皮のリモデリングに関与している。
障害された上皮 → TGF-β、ペリオスチンを産生 → fibroblastからmyofibroblastに形質変化させ、myofibroblastはTGF-βやPDGF産生する → 気道上皮下の線維化、気道平滑筋肥大などのリモデリングが生じる。線維化や気道平滑筋肥大はTh2細胞やILC2から分泌されるIL-13も非常に重要である。

・ILC2(Innate lymphoid cell 2)

抗原受容体は発現していないが、多彩な受容体(R:receptor)を発現している。
TSLP、IL-25、IL-33の受容体(IL-33R=ST2)。
CRTH2R・・・プロスタグランジンD2(PGD2)受容体の一つである。
その他に、IL-4受容体、cysLT1受容体、FPR2(Formyl peptide receptor 2)、LipoxinA4受容体(リポキシンA4は炎症を収束・抑制する因子)がある。
重症喘息ではリポキシンA4の作用が減弱しており、ILC2が活性化しやすい状態となっている。

・好酸球

好酸球は骨髄においてIL-5の作用で分化増殖し血管内移行する。→ 血管内皮に発現するVCAM1に接着し組織へ遊走する。→CC-ケモカイン、GM-CSF、IL-5の刺激により好酸球が活性化、生存延長する → 組織においてeffector cell として働く。
VCAM1はIL-4/IL-13により発現亢進する。またIL-4/IL-13は気道上皮細胞からのCCケモカイン、GM-CSFの産生を亢進させる。
好酸球は様々なサイトカイン、組織障害蛋白、を分泌する。
その結果、気道平滑筋収縮、気道上皮障害・活性化、細胞外マトリスク産生・粘液分泌、線維芽細胞の活性化・増殖→筋線維芽細胞の分化→平滑筋細胞増殖・細胞外マトリクス産生、など、気道リモデリングの重要な要因である。
※用語(筆者追記)
サイトカイン;細胞から放出され、種々の細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子を総称してサイトカインと呼ぶ.
ケモカイン;特定の白血球に作用し,その物質の濃度勾配の方向に白血球を遊走させる活性(走化性)を持つサイトカインを総称し,ケモカインという

・喘息の重症度は粘液栓スコアと関連する。

粘液栓スコア高値の患者では喀痰中のEPO量が高値であり、低肺機能と関連する。
(※肺内の粘液栓は、マルチスライスCTにより気道内腔の不透明領域として検出。粘液栓スコアは粘液栓が1つ以上認められた肺区域の数で評価し、2人の放射線科医の評価の平均値で算出した。粘液栓が認められない場合のスコアは0、0.5から3.5は低値、4以上を高値とした。)
好酸球から産生されたEPOがHOSCN(ジア・チオ・シアン酸)合成を触媒することにより、無賃のジスルフィド結合およびポリマー化を促進させて粘液栓が形成される。
粘液栓スコア高値群では喀痰中IL-5、IL-13 の遺伝子発現量が高値だが、ステロイド全身投与後も発現量は高値のままであった。
 →粘液栓の多い重症喘息では全身投与ステロイドに抵抗性となっている。

・咳(mechanical stress)は気道リモデリングを促進する。

2011年NEJMの報告では、アレルゲン暴露によりBAL中の好酸球やECPは増加するが、メサコリンによる非特異的発作誘発後は増加しない。
しかし、どちらも暴露後は基底膜の肥厚・上皮下の線維化と杯細胞の過形成が認められた。
繰り返す気道収縮は気道上皮のTGF-β陽性細胞が増加することが判明しており(TGF-βは線維化を促進)、リモデリングを促進する。
咳の発生機序: 気道上皮細胞の障害を起こす何らかの刺激が入ると、C-fiber終末のカプサイシン受容体(TRPV1)が刺激されてSP、NKA、CGRPが放出される。→ 咳受容体Aδfiber終末が刺激され→咳中枢に伝達 → 神経終末でAchが大量に分泌される →咳嗽誘発。
LAMAが期待される。

◆アレルゲンの全て

アレルゲンの基礎 〜抗原から免疫学まで〜

順天堂大学 アトピー疾患研究センター
高井敏朗先生

Allergen source とアレルゲン分子

・アレルゲンという単語はallergen source、allergen molecule、allergen componentのいずれかを指している。

allergen source :ハウスダスト、ダニ、花粉、食物などのアレルゲン分子を含有するもの、あるいは生産する生物
allergen molecule、allergen component:抗原分子


・患者の血清中にはアレルゲン分子を特異的に認識するIgE抗体が存在する。

アレルゲン活性(allergenicity)という単語は、アレルギー患者においてアレルゲン特異的IgEを介したアレルギー反応を引き起こす活性のことを意味する。
ただし、in vitroでの血中IgEとの反応性やIgE依存的なマスト細胞・好塩基球活性化能を含めて使用されることも多い。

・アレルゲンを特徴づける要素

ほとんどは生物由来、その多くは粒子として存在する。
アレルゲンのほとんどはタンパク質である。
アレルゲン分子は固有の立体構造とタンパク質としての機能を有している。
アレルゲン分子の命名法はシステマティックに規定されている。
アレルゲン分子は獲得免疫系によって認識される。(IgE エピトープ、T細胞エピトープ)
ヒノキ科花粉由来のリン脂質に対する特異的IgEの報告がある。

アレルゲン分子の正式名称の付け方

IUIS/WHO Allergen Nomenclature Sub-Committeeが付与する。
例)Der f 2 の場合
Dermatophagoides farinae (コナヒョウヒダニの学名:属の3文字と種の1文字)2番めに発見(単離同定)されたもの
例2)Bet v 1
Betula verrucosa (シラカバの学名)1番目に単離同定されたもの
例3)Bet v 1.01, Bet V 1.02 ……, Bet V 1.31
相同性が60%以上あるが微妙に違うもの.isoallergensと呼ばれる
例4)Bet v 1.0101 ….
相同性が90%以上。Bet v 1.01のisoformsの1番目

・代表的な環境アレルゲン(室内および室外)

ダニ ・・・排泄物
ネコ、イヌ ・・・上皮・鱗屑
アスペルギルス、アルテルナリア ・・・胞子
スギ、シラカバ、ブタクサ、ホソムギ ・・・花粉

・IgEエピトープとT細胞エピトープ

獲得免疫によってアレルゲンの構造が認識される。
IgEに認識される部分をIgEエピトープと呼ぶ。
樹状細胞など抗原提示細胞からアレルゲンのペプチド断片がMHCクラスII上に提示され、CD4陽性ナイーブT細胞がその提示をT細胞受容体で受け取るとTh2細胞へ分化する。
この提示されるペプチド断片をT細胞エピトープと呼ぶ。
IgEエピトープはアレルゲンの立体構造を認識している。
T細胞エピトープはアレルゲンペプチド断片の配列を認識している。

アレルゲン感作と発症の機序

・自然免疫を起動する刺激

PAMPs :Pathogen -Associated Molecular Patterns :病原体関連分子パターン(病原微生物由来・外因性)
感染によって微生物から放出される分子・微生物
DAMPs:Damage -Associated Molecular Patterns :障害関連分子パターン(宿主由来・内因性)
損傷・壊死した組織・細胞から放出される分子・微粒子
別名alarmins, danger signals

・バリア破壊とアレルギー

物理的バリア:皮膚の角層およびタイトジャンクション(角化細胞間)、粘膜上皮ではタイトジャンクション(上皮細胞間)や粘液である。
抗菌ペプチド、サーファクタントタンパク質、内在性プロテアーゼインヒビターも、バリア因子として機能する。
例えば、
 フィラグリン:皮膚の角層の構成蛋白である
 皮膚LEKTI(SPINK5遺伝子):皮膚の内在性プロテアーゼであるカリクレインの活性を阻害する。
 シスタチンA:ダニ主要アレルゲンのプロテアーゼ活性を阻害する。
これらの破綻・異常はアレルゲンの侵入を促進し、アレルゲンや自己因子に対する自然免疫応答も促進する。
バリアを破壊するものとして、アレルゲン・微生物に由来するプロテアーゼがある。
 ダニ排泄物や花粉に含まれるプロテアーゼ活性は、タイトジャンクション分子を切断する。
 ダニ由来プロテアーゼは気道のαアンチトリプシンおよびサーファクタントタンパク質を切断する。
 ダニ・黄色ブドウ球菌・ゴキブリなどに由来するプロテアーゼが皮膚のバリア機能を減弱する。

・ヘルパーT(Th)細胞サブセット

naive T細胞(Th0)はサイトカインの刺激とマスター転写因子の発現誘導で種々のサブセットに分化する。
IL-4、TSLP、OX40LがTh0に作用すると → マスター転写因子GATA3の発現誘導 → Th2細胞に分化 → IL-4 + IL-5 + IL-13 を産生、アレルギー性喘息に関与する。
同様に、
IL-12 → 転写因子T-bet → Th1細胞 → INF-γ産生、重症治療抵抗性喘息に関与
IL-4、TGF-β → PU.1 →Th9細胞 → IL-9産生 →肥満細胞を刺激する、喘息に関与
IL-6、IL-21、IL-23、TGF-β → RORγt → Th17細胞 → IL-17産生、好中球性喘息に関与
IL-6、TNFα → AhR → Th22細胞 → IL-22産生
※2種類の性質を併せ持つものがある。
Th1/Th2 ・・・IL-4とINF-γを産生
Th1/Th17・・・INF-γとIL-17を産生
Th2/Th17・・・IL-4 + IL-17 
Th2/Th22・・・IL-13 + IL-22
その他: Treg・・・抑制性に働く、Tfh・・・IgE抗体産生に関与するIL-4を産生する

・自然リンパ球ILC

ILCの発生は完全には明らかになっていない。
ILC1 Th1サイトカイン産生 INFγ
ILC2 Th2サイトカイン産生 IL-4, IL-5、IL-13
ILC3 Th17/Th22サイトカイン産生 IL-17、IL-22

アレルゲンはなぜアレルゲンになるのか(20分から40分)・・・難しすぎるぅ
1.アレルゲンのアジュバント活性
2.プロテアーゼアレルゲンによるアレルギー性気道炎症
3.神経-免疫ネットワーク

アレルゲンの臨床 〜臨床での環境アレルゲン〜

国立病院機構名古屋医療センター小児科
二村昌樹先生

・環境整備に関するガイドラインの記載では、

喘息・小児気管支喘息・アトピー性皮膚炎・鼻アレルギーのいずれのガイドラインにも環境整備が強く推奨されると記載されている。
主な環境アレルゲンとして、ダニ(陽性率50%以上)、ペット:ネコのフケ、イヌのフケ(20−30%)、カビ:アスペルギルス、アルテルナリアなど、その他:ゴキブリ、スギ花粉(約40%)、等がある。

・ダニアレルゲンの感作・発症の指標

気管支喘息において、どれくらいのダニ抗原があれば感作、あるいは発症するかの報告がある。
掃除機で吸引回収した塵埃中のヤケヒョウダニアレルゲンDer p 1とコナヒョウダニDer f 1を合算した場合、
 2μg/g fine dust以上が感作閾値、
 10μg/g fine dustを超えると喘息を発症する
という。
喘息患者宅で収集したダニ抗原量は、殆どの家庭で布団は10μg/g dustを超えていた。
床では10を超えるものはほとんどなかったが、約半数は2μg/g dustを超えていた。
また布団の上げ下ろしをすると一気に抗原量は増加し、寝室では半数以上が10を超え、要注意である。

室内環境アレルゲンの国際比較では、日本が米国や欧州の10倍以上ダニ抗原量が多い。
一方イヌ・ネコは米国が多く、室内で放し飼いにしている家庭が多いからと考えられる。
環境中の粉塵のダニ抗原と鶏卵抗原を同時測定した研究では、ダニ抗原は検出しない家庭もあるなか、鶏卵抗原は全例で検出された。
食物アレルギーについては経皮感作が問題となっており、今後食物アレルギーにも環境調査が必要となってくるかもしれない。
ダニアレルゲンは季節変動があり、1月が最低値、7-9月が高値を示す。
ダニ抗原の感作率が上がるほど喘息の発症率が上がる。
喘息患者の特異的IgE陽性率は30歳までをピークとしてその後徐々に低下していく。ダニ、スギ、ネコ、ガなどである。一方、ゴキブリだけは20%前後でずっと横ばいである。

個別の対策(環境調整)について

・ダニ防止カバー(ダニ不透過カバー)

喘息患者にダニ防止カバーのあり・なしで1年間の救急受診を比較した研究では、あり群が1年間の累積で25%の患者に救急受診があったが、なし群は40%もあった(HR 0.55,p=0.006)。
1年で室内中のダニ抗原量も有意に減少した。(AJRCCM 2017)。
特に効果が高かった因子は、ダニのみ感作、非喫煙家庭、年齢3−10歳、重症群(Step 3以上)、低所得者層であった。
注目すべきは、受動喫煙があるとダニ防止カバーの効果がうすれることである。→受動喫煙は要注意。

・環境調整指導の効果

喘息患者で家庭の環境調整指導をした場合、ダニ抗原(Der p 1 + Der f 1)は有意に減少し、しない場合は減少しなかったが、
ダニ抗原が減少した群では特異的IgE陽性(アトピー型)と陰性(非アトピー型)に関わらず、両者ともに1年間の発作回数が有意に減少した。
→ 非アトピー型でも環境調整の効果あり!

・ダニ防止カバーの鼻炎への効果は一定していない。

抗原量は減少させるも、有意な症状改善は認めなかったとする報告がある(NEJM 2003)一方で、ベッドも掃除機をかけると鼻炎症状は改善した報告がある(Allergy Asthma Imminol Res 2019)。

・空気清浄機の鼻炎への効果は一定していない。

韓国からの報告では、HEPAフィルターにより室内のPM2.5toPM10は低下するが鼻炎の症状スコアは改善しなかった。
システマティックレビューでは、空気清浄機、ダニ駆除剤、ベッドカバー等々の報告があるが、結果はまちまちであり、ダニ対策は鼻炎症状改善の可能性がある、という程度にとどまる。
・アトピー性皮膚炎について、ダニ対策による湿疹改善効果はない。
システマティックレビューの結果から、残念ながら、ダニ対策は湿疹改善に効果なしと結論付けられている。

ペット:ネコとイヌ

・ネコ飼育状況と抗原量

ネコ抗原(Fel d 1)の抗原量を調べた報告では、ネコを飼っていない家庭の抗原量は低いが、現在飼育中だと非常に抗原量は多い(当たり前)。
興味深いのは、過去に飼っていた場合とマンションなど同じ建物内でネコを飼っているが自分は飼っていない場合でも、ネコの抗原量はコントロールに比して多かったことである(Clin Exp Allergy 1999)。

ネコの場合、飼わなくなってから時間が経っても、抗原量はなかなか減らないことが知られている(JACI 1989)。
少なくとも20週以上は抗原が陽性である。
また、低年齢ほどネコを飼育すると感作率が高いが、16歳ぐらいになると感作率は飼育してないものと差がなくなる。

・ネコ抗原に対する空気清浄機の効果はない

空気清浄機のネコ抗原に対する効果を、症状、薬剤量、気道過敏性、呼気NO値など評価した報告が多数あるが、いずれも無効。
・ネコ飼育中止により喘息症状は改善する
ネコ飼育中止1年後の気道過敏性をしらべた報告(N=10)では(Shirai Tら、Chest 2005)、気道過敏性は2.3倍改善し、吸入ステロイドは全員中止できた。

・ペットの抗原量と鼻炎(成人と小児で違いがある)

成人ではペットの抗原量に比例して鼻炎症状が多くなる。一方、小児ではその関連はなかった。
成人と小児ではペット抗原量に対する鼻炎症状に違いがある。
・ペットとアトピー性皮膚炎
ネコ飼育すると小児も成人も感作率は上昇する。
アトピー性皮膚炎の発症率は小児ではあまり変わらないが多く、成人の発症率は小児の約3倍以上である。

ダニ・ペット以外のアレルゲン対策

・室内カビと小児喘鳴について
カビは小児喘息の発症要因と考えられる報告がある(CEA 2013、ERJ Rev 2018)。
すなわち、乳児期に室内カビがなく、かつ現在(小児期)もカビなし、の家庭を基準にすると、喘鳴のオッズ比は乳児期のみカビありや現在のみカビありなど、とにかくカビに暴露された時期があれば、喘鳴のオッズ比は1.5から2と高くかつ差はなかった。
今後喘息になりたくなかったら、室内カビはないほうがよい。

小児の場合は、カビの多い家庭で小児鼻炎や湿疹の症状が有意に多い(オッズ比1.38−1.96)。

・成人の喘息、鼻炎とカビについて

20年間フォローアップしたコホート研究では(Wang J ら、ERJ 2019)、カビは有意に喘息発症を増加させた。
一方現在カビなしでは寛解する。
鼻炎に関しては室内カビは無関係であった。
・花粉防止の鼻フィルターの効果
両鼻口を鼻フィルターで塞いだ場合、使用2日後の鼻炎症状は有意に減少した(くしゃみ83%減、鼻汁53%減など)。(JACI 2015)

・花粉は喘息症状を増悪させる。

ある報告では(Allergy 2018)、花粉10粒/m3増加すると救急受診が1.88%増加したという。
花粉50粒/m3ならば救急受診は約10%増えることになる。
・ゴキブリ対策と喘息症状
特に欧米の貧困層ではゴキブリが喘息悪化の要因であることは広く知られている。小児においてゴキブリ対策(ホイホイみたいなもの)した群としない群で比較した報告では、対策しない群は症状日数(オッズ比OR1.82)、救急受診回数OR1.17 、1秒量の低下OR5.74と有意に高かった。
ゴキブリ対策で喘息症状は改善するといえる。

環境調整

2018年までの論文のreviewでは(LeasBFら、JACI 2018)、以下の対策をそれぞれ「単独」で実施した場合の効果について、ほぼ効果はなかったと報告した。すなはち、
 駆除剤、空気清浄、絨毯対策、HEPAフィルター、ダニカバー、カビ除去、害虫駆除、ペット対策。
一方で、これらの対策を複数混合で実施した場合は、有意に抗原量を減らし、症状改善した。
ただし、どの組み合わせがよいのかについては不明である。
受動喫煙の回避や薬物療法のアドヒアランスも合わせて注意していくのが環境調整の効果をうる上で重要である。

まとめ

・日本では、とにかくダニ対策が重要である。
・喘息や鼻炎への治療効果が見込める。
・対策する際は複数の対策の組み合わせで実施する。

アレルギー疾患研究に役立つ遺伝学の基礎知識(ベーシック)

筑波大学医学医療系遺伝医学
野口恵美子先生

Geneticsの定義

GeneticsとはHeredity(縦)とVariation(横)の科学である(Bateson, 1905)。
例えば、Heredityは親から子へ、Variationは日本人といってもいろいろいな人がいるということである。

・Variation(多様性、横)

人を含めた生物の世界ではより生存に有利なものは残り不利なものは消えるという選択が働く。
選択が働くのは表現型(フェノタイプ、Phenotype)であり、表現型の多様性はゲノム配列の違いを通じて伝達される。そのフェノタイプが生存に有利な場合は子孫に残しやすい。例えば感染症につよいとか、知能が発達して道具が使えるなどである。

・遺伝子変異

一方で、生存に不利な表現型は次世代には受け継がれず消失する。
→すべての不利な表現型がなくなってしまうように思われるかもしれないが、細胞は日々分裂しており増幅するときのDNA複製エラーが生じて自然と突然変異が発生する。
外界からの放射線や化学変異剤などの変異原によるDNA損傷などもあるが、多くの変異は自然に発生するものである。
私達はこれらを修復する機能を持つ。
この修復機能をすり抜けて残ってしまったものが実際に見いだされる変異であり、これが生殖細胞におこれば子孫に伝えられる可能性がある。→遺伝病の原因となりうる。
体細胞におこれば一代限り → がんなどの疾病を引き起こすかもしれない。

・突然変異の蓄積により人類は進化してきた。

ヒト族とチンパンジー、ホモサピエンスとホモエレクテュスなどに分かれる先祖は、偶然におきた生存に有利な突然変異によるものである。

・新生突然変異の数

精子や卵子の生殖細胞はオリジナルの細胞からコピーされるのであるが、その複製過程で発生する新生突然変異について調べた報告がある。
すなわち子供の遺伝子を調べ、両親のいずれにもない突然変異を調べることで、1世代、1ゲノム当たりの突然変異数が測定できる。
その結果、ゲノム当たり74 個の1塩基置換の新生突然変異、3つの新生挿入欠失変異が認められた。
また20563のタンパク質をコードした遺伝子のうち1世代当たり1遺伝子はアミノ酸に変化を起こす新生突然変異が起こっている。(Nature Reviews Genetics 13,565-, 2012)
つまり、誰でも1個くらいアミノ酸の変化を起こす新生突然変異を持っている。
それがあまり問題にならないのは、常染色体劣性遺伝であったり、表現型に影響を及ぼさないものであったりするなど、種々の要因がある。

・母親の年齢によるダウン症候群の出生頻度

精子は精母細胞から、卵子は卵母細胞からそれぞれ作られる。
ヒトの場合、卵子の前駆細胞である卵母細胞(数百万個)が発生早期に作られる。一次卵母細胞は胎児期に形成されて分裂を止め、その後思春期に性成熟を経て減数分裂をして成熟卵子となる。
母親の年齢が高齢になるほど減数分裂時の染色体の不分離の発生頻度が上昇する。
20歳ごろは1923回に1回で、ダウン症の出生頻度は0.001以下であるが、50歳では12回に1回程度となり、出生頻度は約0.1である。

・父親の年齢と新生突然変異の数

精子は生殖年齢に達してから作られ始め、その後連続的に作られる。一回の射精で数千万個の精子が放出されることから分裂回数が非常に多いことが理解できる。
新生突然変異の数は加齢に伴い増加する。(Nature 488: 471-, 2012)

女性の場合は生殖細胞の分裂回数は多くないので、加齢に伴う突然変異率の上昇は男性に比して緩やかである。

・アリルとジェノタイプ

一対の同一局在にある遺伝子を対立遺伝子(Allele、アリル)という。ある集団において大多数のヒトが持つ遺伝子型を野生型(wild type)といい、一方、DNA配列の違いによって野生型と異なるものを変異型(mutant type)という。
同質のアリルを一対有する状態をホモ接合体(homozygous ,AA,aa)といい、wild type 1つとmutant type 1つをもつ場合をヘテロ接合体(heterozygous,Aa)という。
例えばcgcttAccggaagc:Allele AとcgcttGccggaagc:Allele a、のようにA→Gに置き換わった場合を考える。
100人のヒトの”ある染色体のゲノム配列”をみて140のAと60のGが検出された場合、アリル頻度はAが70%、Gが30%と表現する。
ジェノタイプというときは、そのヒトが保有するアリルの組み合わせのことであり、100人のうちAA 49人、AG42人、GG 9人、と表現する。

・Single nucleotide polymorphism(SNP)

ある集団の中で一方のアリル頻度が1%以上のとき、遺伝子多型(polymorphism)という。
SNPは一塩基置換多型ともいい、一塩基置換とは、ある塩基(A,G,C,T)が別の塩基に変化したものである。
SNPは全ゲノム関連解析で最もよく使われる。
集団のアリル頻度に関わらず、ある塩基が別の塩基に置き換わったものについてはSNV(single nuculeotide variant)と呼ぶ。
例えばアレル頻度が0.2%のものがあれば、それはSNVと呼ぶ。

・ゲノム変異の種類

ゲノム変異がどのような効果を持つか、についてはその場所とどのような変異かによる。
ゲノム配列が変化しても全く何も起こらないものもあるし、特定の遺伝子の機能に大きく影響することもある。
アミノ酸をコードしている場所(コード領域)のSNPの場合、
 ミスセンス変異:アミノ酸が別のアミノ酸に変化するようなゲノム配列の変化のこと
 ナンセンス変異:ストップコドンに変わるような変異→ほとんどの変異は機能喪失変異である。
 サイレント変異:アミノ酸配列に変化を及ぼさない変異→一般的に機能に影響しないが、一部遺伝子発現量やスプライシングに影響を与えるものがある。
 フレームシフト変異:コード領域に挿入や欠失が起こること、3の倍数の塩基での挿入や欠失が起こらない限りアミノ酸の読み枠がずれていくので機能喪失変異となる。

・ゲノム医療と法律(個人情報保護法)

個人情報保護法で個人情報に該当するゲノム情報は以下のとおり
 全核ゲノムシークエンス解析
 全エクソームシーケンス解析
 全ゲノムSNPタイピングデータ
 互いに独立な40箇所以上のSNPから構成されるシーケンス解析
 9座位以上の4塩基STR解析
→ これらのデータを使用することによりある特定の個人にたどり着くことができる。

・次世代シークエンサー(NGS)

 NGSでは並列で大量のシークエンスデータを取得できる。
 新規のSNV, Indelも検出可能
 遺伝子発現やヒト以外のゲノム配列同定(細菌やウイルス)にも使用されている。
主にメンデル遺伝形式をとる疾患に利用されている。

・SNPアレイと全ゲノム関連解析(GWAS)

アレルギー疾患のcommon disease の研究にはSNPアレイと言われる遺伝子型決定用のアレイが用いられる。
例えば患者群により多いあるいは少ないSNPアレイを見つけ出すのが全ゲノム解析(GWAS)の手法である。

・発症予測モデル:Polygenic Risk Score(PRS)

GWASで検出された個々の遺伝子型が疾患の発症に与える影響は小さいが、複数のSNPsのデータを使用して個人のリスクを予測する手法であるPolygenic Risk Scoreを用いると、予測精度が改善していくことが報告されてる。心疾患、糖尿病、炎症性腸疾患など。大きなサンプルサイズを使用したGWASのデータが必要である。
予測に使うデータセットと予測を行いたいデータについては遺伝的背景を合わせたほうが予測精度があがることが知られており、日本人の予測を行うには日本人のGWASデータが必要となる。
例えば複数のSNPsのデータを統合することによりリスクの大きい患者群を検出できる。

・ゲノム情報をどのように医療に応用するか

メンデル遺伝病の稀な病因遺伝子は迅速に遺伝子型決定を行い診断と治療に役立てることができる。
しかしほとんどのアレルギー疾患はメンデル遺伝病には当てはまらない。
中等度の影響力を持つ頻度の低い変異、例えばフィラグリン機能喪失変異保有者は出生後早期に皮膚のバリア機能を保つ保湿剤の介入を行うなどが応用できる。
将来的にはPolygenic Risk Scoreを用いて、よりハイリスク群を発見し介入することが期待される。

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