日本睡眠学会第46回定期学術集会 その1

2021年9月23日24日の2日間、日本睡眠学会第46回定期学術集会
が現地及びWEB開催されました。私はWEB参加でしたが、その後にオンデマンド配信もされたので、
何度も聴講し最新の知見を学びましたのでご報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆WS2 心不全の睡眠呼吸障害 どう治療しているか

●LS6 特発性過眠症の診断と治療
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 神林崇先生

◆S13 CPAP困難例への正しい対応の仕方

◆S10 睡眠と社会変容

◆WS2 心不全の睡眠呼吸障害 どう治療しているか

●WS2-1 OSAを優位な心不全(HFrEF and HFpEF)

九州大学病院睡眠時無呼吸センター
安藤眞一先生

そもそも心不全に合併するOSAは治療すべきなのか?

・心不全に合併するSDBの頻度はOSA:CSA=1:2 の比率である。
OSAがおこると胸腔内圧は陽圧にも陰圧にも大きく振れて、陰圧は平均 -40mmHg(強い陰圧)がかかる。
胸腔内陰圧で両心室は拡張し、急激な静脈還流の増加で右室が張り心室中隔は大きく左室側へシフトして心拍出量は低下する。特に心不全の患者では顕著な影響をうける。
さらにSpO2低下し、胸腔内圧低下も手伝って交感神経活性が上昇し血圧上昇する。

SpO2が低下する都度、血圧は急上昇する。

・演者らはラットを用いて胸腔内圧と心房細動について検討した。
ラットを挿管して自発呼吸させ、チューブを閉塞してOSAと同様の状態をつくり、AF誘発のためのバースト刺激を行った。
その結果、OSA発生時は簡単に心房細動が誘発され、OSAを解除すると心房細動は発生しない。さらにOSA下で下大静脈を結紮しIVCから右室への静脈還流を阻止したところAFは誘発されなかった。つまりOSAが原因で発生する静脈還流のVOLUME負荷がAF発生の要因の一つとなっている。
・心不全患者はそもそも吸気努力が増加しているが、CPAPをかけるだけで呼吸仕事量は減少することが示されている。

・左室駆出率は1ヶ月のCPAP治療で有意に改善する。心筋酸素代謝も改善する。また心配運動負荷テストにてVdot O2が改善している。
低酸素時間が多いほど心不全の予後も不良である。
SERVE-HF(大規模臨床試験)では心不全にASVは予後が悪いと報告されたが、その詳細検討では、OSA優位群で心不全の入院を減少させる。CSA優位群は予後不良なので要注意である。
現在ADVEBT-HF試験(N=860、CHF+OSA/CSA、主要評価項目;全死因死亡、心血管疾患に起因する入院、心房細動・心房粗動の発現、ICDショック、副次評価項目;全死因死亡、左室リモデリング、BNP値、運動許容性)が進行中であり、結果が待たれる。

心不全のCPAP治療と注意点

・心不全患者のCPAP圧の設定について
正常人にCPAP10cmH2O の陽圧をかけると、有意に心拍出量は低下する。dryの症例に要注意。
一方で肺動脈楔入圧が高値(12mmHg以上)のうっ血した症例では、CPAP圧は12cmH2Oまでは心拍出量を増加させる。

・CSAとOSAが混在した症例
一晩の間に前半CSA 後半OSA、あるいはその逆というダイナミックに変化する症例がある。
これらはPSつきCPAPで十分治療可能である。
・日によってCSAとOSAが変化する症例
例)利尿剤を自己判断で中止した患者はCSAが増えていき、むくんできたので内服再開したらCSAは消失した。利尿剤治療によりSASはかなり改善する。

当初CSAだった患者が心不全治療により症状改善するとOSAに変化することもよくある。
CANPAP研究のサブ解析では、98例のCSA中18例がOSA優位(>50%)に変化した。無変化群と比較してLVEF、循環時間が有意に改善していた。→心機能の改善により、CSAがOSAに変化する。
とくにHFrEFの患者において、このような変化が認められる。

Q and A

Q. OSAとCSAの変化する症例ではどのように圧のタイトレーションしているか 
A. PS付きCPAPで対応している。

●WS2-2 CSA優位な心不全(HFrEF)

群馬大学循環器内科
高間典明先生

・演者らの報告では、睡眠呼吸障害を合併した心不全は予後が不良であることが判明した。
N=205 心不全の治療後の予後を見た研究では、眠気はないにも関わらずAHI=36±28と高値であった。
心不全患者はAHI=15以上の症例は70%以上である。AHI>=5とすると90%が該当する。
・最近では心不全をステージ別に分類するようになった。
ステージA、Bは未病の段階、C、Dは有症状であるが、2021年に心不全治療ガイドラインが改訂発表された。

2015年にNEJMでASVは有害であると発表されたことから以後陽圧換気療法は後退した。

・症例 59歳女性
入院後も増悪傾向の心不全、BNP数千。XPで心拡大、胸水あり。PCWP27mmHgと高値。
AHI=23。
この患者にASVを使用するとAHI=は低下し、BNPも低下し左室収縮能は改善した。
演者の結論として、注意して使用すればASVはHFrEFに有用である。

・ASV治療を行う上で大切なこと(演者の私見)
①循環器学会のステートメントを遵守すること
②急性期、慢性期どちらの治療なのかをはっきりさせること。
 急性期であれば、うっ血解除目的などでは積極的に使用
③できうる限り併存する睡眠呼吸障害を評価する
 心不全症例ならほとんどが低呼吸+CSA/OSA mixなのでASVは問題ないと考えられる。
④外来で継続するからには適切に使用し、継続的に評価を行う
 ASVの使用状況や心不全の改善状態を定期的に評価が必須。

Q and A

Q 例えば心不全がよくなった場合ASVは中止するのか
A 再評価後必要なら継続、よければ中止もある。
心不全が悪化するとASVは使えなくなる。遠隔で使用状況も評価している。

●WS2-3 CSA優位な心不全(HFpEF)

福島県立医科大学循環器内科学
義久精臣先生

心機能の保たれたHFpEF

CSR-CSA症例ではOSAと比較してSpO2低下の程度は強くない。
心不全 → 肺うっ血 → 延髄中枢神経系のLoop-Gainが亢進 → 無呼吸後に過換気が発生する=急ハンドル 、一方心不全 → 循環時間遅延 → PCO2上昇 → 過換気 → PCO2低下。

肺うっ血がつよく、低心拍出量ほどCSRの頻度が高いことが知られている。
症候性心不全ではHFpEF HFrEFに関わらず、OSAとCSAは合併している。
EF>36%、CSA<20%ではASVは悪くない。すなわち軽症心不全にはASVは有効な可能性が示された。
The CAT-HF試験ではHFpEFにOSA合併例においてASVを併用すると左心房の拡張が改善し、心房細動も減少した。
・演者らの報告では、HFpEFにおいてASVは左室拡張能や肺うっ血は改善した。血管機能改善効果も有意に認められた。
心不全患者における陽圧による心拍出量変化は ①肺うっ血の程度、②PEEP、③心機能 に左右される。
HFrEFよりもHFpEFのほうが低心拍出のリスクが少ないのかもしれない。

Q and A

Q HFrEFよりもHFpEFの方でASVのほうが効果が期待できるということでよいか。それとも先生が上手に使っているからか?
A ポイントは肺うっ血がどの程度あるか、左室拡張末期圧がどれくらいあるかと、できるだけASVの圧を低く設定して、低灌流をさけることが重要。
HFpEFとHFrEFどちらにも有効である。

●WS2-4 高齢心不全患者における睡眠呼吸障害

虎の門病院循環器センター内科睡眠呼吸器科
富田康弘先生

本年の高齢者は人口の29.8%である。高齢者が増えると心不全患者は増加し、心不全パンデミックと言われている。
CPAP患者数は2018年で3割以上が65歳以上の高齢者である。
若年者と高齢者でCPAP治療の目的は同じではない。

高齢者心不全患者の治療と緩和

・高齢者は合併疾患が多く、ガイドライン通りにCPAP治療が実施できないことが多い。
がん患者は最後の最後まで身体機能が保たれて終末にガクッと低下するが、心不全は寛解増悪を繰り返すので、どの時点で緩和に移行するかが判断がむずかしい。
心不全の医療モデルとしては、最後の最後まで心不全治療を継続することが緩和ケアの意味合いを持つ。
倦怠感、不眠のほか心不全患者も痛みを3割に伴う。
心不全緩和ケアトレーニングコースHEPTにおいて、全人的苦痛(身体的、精神的、社会的、スピリチュアル)に対処すべきである。
人生の3分の1は睡眠であり、どのようにこの睡眠を過ごすのか。
眠るために生きている人になってはいけない。どのように健康寿命を伸ばして豊かな人生をいきるか。
高齢者は睡眠効率の低下が知られている。浅い睡眠が増え、深い睡眠が減る。
果たして高齢者の無呼吸と若年者の無呼吸は同じか?

高齢者のSDBの治療意義について

ある報告では中等症以上の高齢者のSDBに対してCPAP使用した場合、若年者と同等に眠気に対する治療効果は認められた。
神経認知機能、血圧、には効果が認められたなかったという。

心不全に対するCPAP

日本で実施されたSAVIOR -Cでは症状と再入院の頻度を改善した。
高齢者は症状改善が重要であるので、CPAP治療も有用なのではないか。

Q and A

Q  心不全合併のSDBでは眠気の症状は少ない。
心不全に関する症状では、どのような症状が改善するか。
CPAPだけではCSR呼吸が発生してASVに変更すべき症例も存在する。

●LS6 特発性過眠症の診断と治療

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構
神林崇先生

過剰な眠気が数ヶ月以上にわたりほぼ毎日繰り返しておこるもので、ナルコレプシーおよびその近縁群と特発性過眠症の2つに分類した。
この分類は居眠りの特徴の違いにもとづいている。
ナルコレプシー及び近縁群・・・耐え難い眠気を呈し比較的短時間の睡眠発作のあとにスッキリ目覚めるもの
特発性過眠症・・・眠気の程度はナルコレプシーほどの耐え難さはないが、居眠りの持続が1〜数時間と長く、目覚めたときに爽快感がないもの
真性過眠症(essential hypersomnia) ・・・本多裕らの定義した疾患、日本の概念
 日中の眠気があり、30分以内の仮眠で解消して、目覚めはよく爽快感があり、カタプレキシーはなく、1日の総睡眠時間は延長していないもの

ナルコレプシー

・診断
①昼間の著しい眠気
②レム睡眠の関連症状: 情動脱力発作 睡眠麻痺 入眠時幻覚
③HLA-DR2 とDQB1-0602が90%の症例で陽性である。
④4-5回の反復入眠潜時検査MSLTにて入眠潜時が8分未満、15分以内にレム睡眠の出現が2回以上

過眠症の診断

反復睡眠潜時テストMSLT 入眠まで平均8分以下。15分以内にレム睡眠の出現が2回以上。
・オレキシンKOマウスにて、ナルコレプシーの表現型が発生したと報告された。
ナルコレプシーは中枢神経脊髄液中のオレキシン濃度が有意に低下している。すなわち、オレキシン神経系が脱落してオレキシンを産生できなくなっている。 しかし、脱落する理由については今だ不明である。

症候性ナルコレプシー

・視床下部が障害されているもの・・・脳腫瘍14% 脱髄性疾患、頭部外傷、脳梗塞、先天性疾患(Niemann-Pick病等)
髄液中のオレキシン濃度は200pg/mL以上が正常、110未満は低値。
症例)66歳女性 脳腫瘍によりナルコレプシー発症
症例)41歳男性 ベーチェット病 オレキシン値低値、ステロイドパルスで眠気が改善
症例)22歳女性 多発性硬化症 両側視床下部病変、夜間15時間睡眠。MSLT2.8分。ステロイドパルスにより症状は改善した。MSLT15分となった。
・多発性硬化症のサブタイプである視神経脊髄炎(MMO)では抗アクアポリン4(AQP4)抗体が原因で起こる。
視神経脊髄炎は国際診断基準においてナルコレプシーがコア症状の一つとして定義された。
・両側視床下部の梗塞では過眠症状が生じるが、オレキシンは正常範囲。別の機序の過眠症状の可能性がある。

中枢性過眠症のMSLTの診断基準

 MSLTで平均8分以下が基準。
 15分以内のEREM睡眠が2回以上出現。
 前夜のPSGで6時間以上の睡眠時間があることや無呼吸症が中等度以上でないことが前提。

特発性過眠症ICSD-3(2014)

 日中の眠気(MSLT8分以下)か、夜間と昼間の睡眠時間の総和が1日11時間以上。

ナルコレプシーの治療

過眠に対して

 モダフィニル ドーパミン再取り込み阻害
 メチルフェニデート ドーパミンの放出が主、脱力発作やレム関連症状に対して使用(NA再取り込み阻害)
 アナフラニール トフラニール、トレドミン、サインバルタ

夜間睡眠の改善

 BZ作動薬
 治験中 オレキシン作動薬

睡眠相後退症候群(delayed(advanced) sleep phase syndrome)DSPS患者

 (高校生が朝起きれない)
 低用量アリピプラゾールAPZ(3mg)→ 寝る時間と起きる時間が2時間程度早まった。
長い睡眠時間を伴う特発性過眠症症例(15歳女子高校生)
 12-14時間の睡眠時間にモダフィニルは頭痛で服用できず、APZ1mgを投与すると9時間睡眠程度に改善した。

睡眠不足症候群

 睡眠不足からイライラなどの症状がおきる。週末に寝溜めする傾向にあるのが特徴。
不規則な生活習慣によりナルコレプシー様の脳波所見を呈する症例もある。→入院1週間で改善
※ 過眠症疑いでも入院して睡眠時間をしっかり確保するとMSLTの入眠潜時は正常化する!

Q and A

Q MRI撮影条件 
A 一般に単純でよいが、微小Lacunar梗塞では強い眠気がくるものは殆どないので。
Q APZは何時に服用させるべきか
A 半減期60時間もあるので、なれたら何時でもよい。

◆S13 CPAP困難例への正しい対応の仕方

●S13-1 どのような患者に対してCPAPが有効か困難か?-内科医の立場から-

福岡大学呼吸器内科
吉村力先生

OSAの治療はプライマリ・ケアでも睡眠専門医療施設でも治療後半年のESSのスコアに差はない。
試験途中での脱落者はプライマリ・ケア群で21%、専門医で8%であった。
治療の成否に関して、II型呼吸不全を生じる基礎疾患の有無は重要である。

CPAP残遺眠気

・SAS患者に対してCPAPを施行し、AHI低下、良好なアドヒアランスが明らかにも関わらず、眠気が残存する場合がある。
残遺眠気は、CPAP使用平均3時間以上で13%、平均6時間以上の使用で9%である。
・残遺眠気の鑑別
 AHIやいびきが残存する場合 ・・・鼻閉、飲酒
 リークが多い場合 ・・・マスクフィッティング、鼻閉
 圧力があっていない場合 ・・・体重増加
 CPAP装着時間は適切か?4時間以上使用しているか?
   ・・・うたた寝後にCPAP装着、CPAPを中途覚醒後に中止、無意識に外すなど。
 睡眠時間は適切か ・・・7-8時間寝ている?適切な睡眠時間は人それぞれである。
 鼻の診察・治療・・・鼻中隔弯曲症、鼻粘膜腫脹、鼻腔通気度検査
 薬剤の副作用
 嗜好品
・CPAP4時間以上使用できる人は(スウェーデンの報告)
 未婚者、教育歴が長い、家の総収入が高い、自国出身で自国に親がいる などが要因としてあがった。
・遠隔医療はCPAPアドヒアランスを改善する
アドヒアランス良好は、通常遠隔医療に双方向可能な遠隔医療を追加することで達成できる。
・CPAP治療をすると顔にも変化が生じる
眼が見開き、口角があがり、鼻唇溝がはっきりする。
・システマティックレビューでは、睡眠呼吸障害と診断されていた人の認知障害リスクは26%も高かった(JAMA Neurol 2017)。
重症OSAにおいて、CPAP治療は認知機能低下を有意に防ぐことが示された。→ CPAPは認知症予防効果が高い。

●S13-2 CPAP困難患者に対するOral Appliances(OA)への切り替えについて

福岡大学病院摂食嚥下センター
梅本丈二先生

軽症から中等症患者は、OAを好む

CPAP療法に反応しない、適応でないものにOAを使用する。
重症患者はCPAPが適応である。
・一般的にCPAPに比較してOAの治療効果は不安定である。
重症例のなかにもOAが有効な症例が経験される。重症患者の20-30%程度。
OA症例のアドヒアランスは1年以内で55%、1年以上で10-15%以下と非常に低下する!
・CPAP困難患者に対するOAへの切り替えの治療成績に関する報告は殆どない。
福岡大学で採用しているOAは、上下顎一体型と上下顎分離型の2種類。
前者はAHI=21.4 → 11.2、後者は20.6→14.7。
前者は2年後に約半数が治療中断、後者は88%が継続していた。
※ 治療効果を優先するのであれば上下顎一体型OAを、鼻閉などによる口呼吸、顎関節症状などアドヒアランス不良が予想される場合は上下顎分離型OAを推奨している。
・CPAPのマスク装着に対する忍容性が不十分、あるいはCPAPに対して口呼吸や鼻汁により忍容性が不十分だった症例にOAは有効であった。

Q and A

Q OAは一般的に5mmくらい出すのが一般的と思うが、最大でどれくらいか。
A 最大前方移動量の7割くらいから始めて調整している。
 提示した症例はその結果として7-8mmとなった。
Q OAから再度CPAPに戻る基準はあるか
A OAでうまくいかないときに戻すが、とくに鼻閉がある場合は失敗例がある。
Q 明らかに歯科装具が使えない、あるいは無効な症例がありますか
A 残存歯が少ない症例、あるいは高度肥満ではうまくいかないことがおおい。

●S13-3 CPAP困難患者に対する耳鼻咽喉科的アプローチ 外科的治療を含めて

産業医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科
北村拓朗先生

外科手術の適応 : OAもCPAPも使えない症例に限る
睡眠外科には、鼻領域、口蓋領域、舌領域がある。
・口蓋領域
両口蓋扁桃摘出術 + 軟口蓋形成術 
最も多い術式のUPPPのAHI減少は33%である。
口蓋扁桃が大きいほど成功率は上昇する。
口蓋領域の術後に舌根が後退すると仰臥位AHIは改善しない!
・舌領域
舌根部切除術、舌根部relocation 、舌根部電気刺激(埋込型上気道刺激デバイス)
・鼻手術
複数の鼻手術手技を組み合せておこなう。
・鼻炎はレム期の無呼吸を増悪させる。
鼻領域の手術はトータルAHI、NREM期のAHIともに改善しないが、REM期のAHIを3割程度減少させる。
鼻手術はレム睡眠期の安定化が治療効果なのであろう。
・OSAのsubtype
体位依存性 → 保存的治療としてPositional therapy, OA。外科治療として、口蓋領域+舌領域手術 or 手術+OA。
レム依存性 → 上気道筋機能療法。外科療法として鼻内手術、舌下神経刺激。
・非解剖性特性と睡眠外科
咽頭開大筋の反応性は、亢進していないほうが良い
呼吸中枢の不安定性は、安定している方がよい。
覚醒閾値は、高いほうが良い?
・術後AHIの予測式
Liらの報告ではPhysiological scoreを用いた予測式を提案し、術後AHIとかなり相関している。

Q and A

Q 全身麻酔によりSAS悪化のリスクが高くなると思うが注意事項はなにか
A REM依存性SASの患者は、全身麻酔中は筋弛緩しずっとREM睡眠期と同等なので、麻酔科と連携すべき
Q 手術によりどの程度CPAP圧は低下しますか
A 平均して2cmH2O低下する。
Q 術後に一定数咽喉頭が広がらない症例があるが、具体的にどのような指標があるか
A セファログラムでいうとMP-Hが高い症例が該当する。

●S13-4 CPAP Titration時における検査技師の正しい対応

睡眠障害センター福岡浦添クリニック
小川清司先生

Titrationとは、調節すること、滴定 のことであり、CPAPにおいては圧を増減しながら調整すること
・CPAP Titrationの目的
無呼吸、低呼吸、desaturattion、を無くし、アドヒアランスを上げることである。
特にREM睡眠のときにOSAが生じないことが重要である。
・Titration良好例の場合
 マスクの選択、フィット感が良好、圧に対して順応性あり、常習的に側臥位、機器操作を苦にしていない、検査後のインプレッションが良好(よく眠れたとコメントあり)
・様々な技術介入を行ったが、困難だった例
低圧覚醒時は閉塞性呼吸イベントが頻発、加圧後混合性イベントが抑制できず、睡眠覚醒機構も不安定。
更に加圧するも、状況改善せず。そこで、一回換気量の減少とI/E比の不安定化の改善の目的でFLEX機能を追加しても不良、睡眠覚醒機構が安定したところでよくみえたが、突然苦しくなり中断、VPCが頻発した。心負荷がかかっていたと考えられる。

CPAP titraion困難例に対する正しい対応とは、
問診を入念に行い患者の背景を知る
など。

Q and A

Q このような患者に眠剤投与はどうか
A Titration後もうまく行かない場合は眠剤も使用する。
ルネスタ等はエビデンスがある。
Q Titration困難例の特徴があればおしえてほしい
A 年齢は70歳前後、肥満ではない。呼吸不全なく循環器疾患もない。
Q CPAPオフ時に睡眠が安定したのはCPAPのキャリーオーバー効果ですか
A それもある。睡眠覚醒調節機構が安定したのがもっとも重要な要因と思う
長期間CPAP治療している症例な
らキャリーオーバー効果もありうるが、本例は短期間なので違う。

◆S10 睡眠と社会変容

●S10-2 思春期から青年期の睡眠に関する社会変容

日本大学公衆衛生学分野助教
大塚雄一郎先生

日本人の睡眠は世界一短い。世界30カ国の平均睡眠時間は8時間23分だが、日本人は7時間22分である。

日本の思春期の睡眠問題

・不眠症の有病率は低下傾向だが、睡眠時間が足りないものがとても多い。
平日の睡眠時間の不足を休日で補う傾向がある。
メンタルヘルス不調との関連性がつよい。
インターネットや携帯電話による影響が示唆される。

海外での睡眠に対する社会政策

・中学校と高校は始業時間を午前8時半以降にする。
理由は思春期は22時半ごろからメラトニン分泌が開始され、午前9時に分泌が停止することにある。
アメリカではもともと学校の始業時間あ7時半だったので、遅らせることにより睡眠時間が45分増加した。睡眠時間の増加により、日中の眠気減少、うつ症状の改善、肥満の改善、カフェイン使用の減少、学習態度の改善、成績向上?、などの効果がみられた。
デメリットとしては、夜ふかしするものが増加し、通勤ラッシュと登校時間が重なる、部活動・課外活動時間が減少、などであった。

社会変容について演者の提案

 中学校は学校開始を8時半以降、高校は9時以降にする。
 通学時間は中学1時間以内、高校1時間半以内。
 朝の課外活動の禁止
 深夜時間帯のインターネット・スマホの禁止
 塾や習い事の時間制限
 保護者は、子供が規則正しい睡眠リズムを構築できるようにする。
 例)就寝時刻・起床時刻の設定、照明の設定、電子機器使用のルールづくり
 保健医療従事者は、生徒や保護者に十分な睡眠をとることの重要性や不十分な睡眠に影響するような要因を教育する。
 教育関係者・行政関係者は、生徒の健康や成績に良好な結果をもたらす睡眠習慣を確立できるようなカリキュラムを構築する。
 研究者は、教育機関や行政と連携して調査を行い、科学的なエビデンスを構築する。

Q and A

Q School starts laterについて、日本で実施するときにどのような点が改善が具体的に必要でしょうか。
A 日本ではもともと欧米よりも学校の開始時間が遅いので、むしろ早朝の部活動などを制限するのがよいと思われるし、ハードルも低い。
Q 保護者に介入した研究はあるか?
A 海外では保護者の教育に介入した例があるが、知識の獲得に有用でも睡眠時間の改善にはあまり効果なかったとの報告がある。

●S10-3 働き方改革と勤労者の睡眠

富士電機(株)大崎地区健康管理センター
加藤憲忠先生

有業者においても睡眠は年々少なくなっている。
出勤しているが体調が悪い労働者がおおく、特に睡眠不足や不眠が多い。
日本では長時間労働の労働者は医師の面接が義務化されている。
・なぜ眠れないのか
日本人は長時間その場にいることが評価される傾向にある。
健康増進の概念
 健康を資源として考える。個人が自らの力で改善できるように・・・
・Victim blaming (被害者攻撃)
実際にそれ以外選択しようがない状況に置かれている人たちが、好ましくない生活習慣を持っているのは”自分のせいだ”と責められること。たとえば帰宅間際に上司から明日までにやっておけ、みたいな指示がはいる
時計会社が余暇時間に行いたいことをアンケート調査したところ、第一位は「寝ること」であった。
・在宅勤務の利点と欠点
テレワークは通勤時間がないため睡眠時間が確保しやすい。
 通勤がなくなる
 歩行しない→運動不足
 昼夜逆転しやすい。
大都市圏の通勤時に20分は歩行していた・・・一方テレワークは運動不足になる。筋トレなどしている。
・適度な運動は睡眠を改善する。

快眠のための運動処方のポイント 4つ

 1.運動の種類・・・20−30分続けられる有酸素運動
 2.運動の強さ・・・無理なく続けられる程度で十分
 3.運動時間と実施時刻・・・1回20−60分程度、決まった時刻に行う
 4.運動実施頻度・・・週2−3日以上が目安

・レジスタンス運動と睡眠の質
 低から中等度よりも、高強度のほうが睡眠に対する効果が高い。
 頻度は週1,2日よりも3日がよい。

・睡眠不足対策
睡眠6時間未満の心の健康は不調をきたしやすい
労働時間が長くなっても睡眠時間が6時間以上ならうつ病発症率は高くならない。
しかし労働時間が長くて睡眠時間が6時間未満と少ないと、うつ発症率は約2倍となる。

睡眠確保の妨げとなっている要因

男女とも圧倒的に仕事である。男性の38%、女性の20%がそう答えている。
女性では家事が20%以上である。
通勤通学の所要時間は5から8%で、テレワークではこれが無くなる。
テレワークは通勤時間はなくなるが、21%の人が長時間労働になりやすいと答えている。
テレワークは必ずしも労働時間が短くなるとは限らない!
 退社した社員に電話することは少ないが、オンラインでずっとつながっていると気軽に連絡がとれるため、かえって夜仕事する羽目になる。
日本の男性労働者では、平日の残業時間が3時間以上で睡眠時間6時間未満と関連する。
海外の報告では11時間以上睡眠をとるとほとんどの疲労は取れるという。

社会的ジェットラグ

・在宅勤務中に睡眠相が後退する原因
1.日中の活動量低下 → 夜間の睡眠の必要性が低下 → 入眠困難
2.朝の離床困難・寝坊、出社困難・・・離床できない→朝の強い太陽光線をあびて体内時計のリセットが行われない。
3.社会的スケジュールの強制力低下・・・出社しなくて良いので。
社会的ジェットラグはうつを発症しやすい。

・社会的ジェットラグを防止するには
 平日の睡眠時間を延長する。
 週末の体内時計のずれを防止する。
 平日と同様の起床時間にする。
 消灯時間が遅い場合、平日と同様に起床し日中の仮眠で不足分を補う。
 夜間のブルーライトの暴露を避ける。
テレワーク者への生活指導
 日当たりのよい部屋での朝食摂取
 昼食後や夕方のウォーキング
 勤務間インターバルをとる
 夜遅くのICTの利用を避ける

Q and A

Q 今後優先的に取り組むべきことはなにか
A 会社は健康だけでなく業務のパフォーマンスがあがるために現実的対策を考えることが大事
Q 休日と平日の違いについて週休3日などもあるが、平日に業務が集中することはないか
A どうしても仕事の密度を上げる必要がでてくると思われる。
Q 睡眠時間が短くても質がよければよいのか
A 実際に睡眠時間が短いとうつや不眠症状が増えることが報告があるので、最低限の睡眠時間確保が必要である。

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