日本睡眠学会第46回定期学術集会 その2

2021年9月23日24日の2日間、日本睡眠学会第46回定期学術集会
が現地及びWEB開催されました。私はWEB参加でしたが、その後にオンデマンド配信もされたので、
何度も聴講し最新の知見を学びましたのでご報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆WS5 睡眠時無呼吸症候群ガイドライン2020

◆WS5 睡眠時無呼吸症候群ガイドライン2020

●WS5-1 睡眠時無呼吸障害の疫学

順天堂大学公衆衛生学講座
和田裕雄先生

文献的にSASの有病率はAHI>=15を基準としている報告が多く、50歳代を含む中高年では比較的まとまったデータがある。
AHI=5以上のもを睡眠呼吸障害とよび、AHI>=15はSAS、さらにAHI>=5かつ昼間の過度の眠気や高血圧合併症例がSASと診断される。

本邦のAHIに基づく有病率を示すデータは皆無であり、3%ODIに基づく有病率を参考すると、3%ODI=5以上の有病率は40%以上と高いが、15以上とすると男性10-20%、女性5-10%である。

睡眠呼吸障害の疫学上の問題点

・ガイドラインの記載では

 1.高い有病率である。
 2.男性で多く加齢により増加する。
 3.飲酒により増加する。心不全との関連でCSAがある。
 4.脳卒中、心血管疾患のリスクとなる。
 5.交通事故、職場の事故のリスクとなる。

・スクリーニングから治療までの問題点として

 1.自覚的な眠気によるスクリーニングは困難である。
 2.診断しても治療継続困難例がある。
 3.様々なポピュレーションにおける問題である。
 4.Precision epidemiology(精密な疫学)への展開、の観点から議論が必要

様々なポピュレーションにおける問題である。

・小児では、
イビキのある小児は夜尿症が多い。イビキのない小児の1.2から1.5倍多い。
同様にイビキの頻度が多いほどSDQ>4以上の不安症状を呈する小児の割合が増加する(イビキのない小児は5%程度であるが、イビキが週に1-2日あると10%、3日以上あると12%)。
 ※SDQ(Strength and Difficulties Questionnaire:子どもの強さと困難さアンケート)は、簡便なスクリーニング式質問票で、幼児期から青年期にかけて、適応と精神的健康の状態を包括的に評価できる。
漏斗の有病率:呼吸停止の回数が増えるほど増える。
1週間のイビキの頻度が多いほど認知機能が低下し行動の問題がおおくなる。
・成人では、
演者らは重量級の柔道選手N=20の睡眠呼吸障害をESSとRDIで調査したところ、RDI5以上は13名であり、CPAP装着にて低下した。治療後に練習のパフォーマンス向上、集中力向上は100%に認められ、疲労感改善60%以上、日中の眠気改善80%以上の選手に認めた。
高齢者では、毎日イビキをかく群では喘鳴、高血圧、糖尿病の有病率が1.2倍から1.8倍増加する。

Q and A

Q 小児での肥満との関連データはあるのか
A 肥満と不安行動が増えるとの報告がある

●WS5-2 睡眠時無呼吸症候群と生活習慣病

神戸市立医療センター中央市民病院 呼吸器内科
立川良先生

・OSAと高血圧は相互に高頻度に合併する。
OSA(AHI>=15)の50%に高血圧を合併。早朝高血圧、夜間高血圧、治療抵抗性高血圧が特徴である。
高血圧患者の30%にAHI>=15のOSAを合併している。
治療抵抗性高血圧(3剤以上の降圧薬併用)の60%にAHI>=15のOSAを合併しており、その約半数はCPAPが必要である。
・OSAは高血圧発症の原因となるか?
大規模コホート研究の結果では高血圧発症リスクであるとするものとそうでないものとが半々であり、明確ではない。
・CPAPの高血圧への効果
CPAP装着により血圧は有意に低下する(収縮期血圧-2.2〜-7.1mmHg)。この程度でも心血管疾患発症を有意に減少させる。特に治療抵抗性高血圧患者では降圧効果が大きい(収縮期血圧-6.7〜-7.1mmHg、拡張期血圧-4.3〜5.9mmHg)。
血圧の低下が期待できる因子:①血圧コントロール不良、②重症OSA、③眠気が強い、④CPAPアドヒアランス良好。
治療前の血圧が夜間高血圧(=non-dipper タイプ)の症例ではCPAP治療開始後の血圧低下は有意であるが、正常型(Dipper+ 夜間心拍数低値)の症例では、むしろCPAP後血圧上昇していた。
 → 治療前の血圧変動のフェノタイプにより治療効果が異なる。

CPAPの降圧効果に関しては、単独での降圧は少ないが(Valsartan -9.1mmHg、CPAP-2,1mmHg)、降圧剤にさらにCPAPを追加すると降圧の上乗せ効果が認められる(AJRCCM 2016)。

肥満患者において減量はCPAPよりも降圧効果があるが、併用により降圧効果が増加する(NEJM2014)。
降圧効果:CPAP<減量<CPAP + 減量

・口腔内装置OAの降圧効果はRCTのメタ解析により収縮期血圧-2.1mmHg、拡張期血圧-1.9mmHgであることが示された。CPAP治療と有意差なし。(JAMA 2015)
・酸素療法は降圧効果は認めなかった。

OSAと糖尿病

2型糖尿病患者の30%に中等症以上のOSAを合併する。
OSA患者の15-30%に2型糖尿病を合併する。
大規模横断解析ではOSAとインスリン抵抗性の関連がしめされている。
非肥満の健常若年男性に限定した場合でも、OSAはインスリン感受性を30%低下させる。
インスリン抵抗性に対するOSAの影響は、肥満の程度によって左右される。
大規模コホート研究の結果からOSAは糖尿病発症を1.2から1.43倍増加させる。
しかしながら、CPAPでインスリン抵抗性が改善しないという報告がほとんどである。血糖コントロールについても同様に効果はないとされたが、2015年以後の報告では、厳密にCPAP装着管理を実施したらインスリン感受性や血糖コントロールが改善したとするものがあり、部分的な効果はあると考えられる。
・まとめ
少なくともCPAP単独で他の因子による影響を凌駕するほどの臨床的効果は期待できない。OSAの重症度、体重、生活習慣の変化、治療アドヒアランスによって結果に差がでることが要因であろう。

OSAと脂質異常

・実験的には間欠的低酸素は肝臓にて脂質産生が誘導されることが示されている。・・・→臨床的にどれくらいインパクトがあるのかが重要である。
低HDLと高TGはメタ解析でもわずかに関連があるが、OSAそのものなのか、内臓肥満との関連なのか判断は難しい。
・CPAPで脂質異常は改善するか
少なくとも短期的なスタディでは脂質改善効果は認めない。

Take home messages

・OSAは高血圧、糖尿病、脂質異常と関係が深く、これらの生活習慣病の原因となりうるが、CPAPによって改善が示されているのは高血圧のみである。
・これらの病態に対する影響は総じて肥満のほうが強く、肥満の合併がある患者では、OSAの治療に加えて減量が重要となる。

●WS5-3 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の車運転リスク

東京医科大学睡眠学講座
井上雄一先生

・1分に1回ずつ強制覚醒させると、眠気は完全徹夜と同等である。
間欠的に低酸素になると入眠潜時は短くなり、強制覚醒と低酸素の両者の同時刺激はさらに入眠潜時を短縮させる。すなわちOSAは眠気を助長させる。
・職業運転手での眠気の要因(ESS>10の症例での検討)
演者はESS10を超える眠気の患者について調査したところ(N=147)、最も多い眠気の原因は「交代性勤務睡眠障害」N=48、32.7%であった。2番目にOSAで20.4%、3番目は睡眠不足症候群8.2%、以下睡眠相後退症候群7.5%、不眠症6.8%、特発性過眠症4.8%、周期性四肢運動障害3.4%であった。
→ 職業運転手の事故については、OSA以外の要因も種々含まれている。
・事故を起こした症例およそ600例について演者らが検討した報告では、
過去5年間に事故を起こした症例のAHIは高いが、ESSは事故なしの症例(中央値12点)よりも事故1回のほうが高く(中央値15点)、事故2回起こしたものは事故なしと同じ(ESS中央値12点)だった。
事故の頻度は、眠気の感受性やリアルな眠気水準などが総合的に関与していると考えられる。
・運転中に中央線をまたぐことがあった回数と睡眠潜時の関係を示した報告では、
入眠潜時が34分以上あるとコントロール群と同じ程度だが、34分未満となると有意に回数が増え、入眠潜時が19分以下なら有意差をもって回数が増加する。

患者を判定する検査資料としては入眠潜時はかなり信頼性は高いようである。

・CPAPは何時間装着するのがよいのか
2007年の報告であるが、CPAPの装着時間が7時間あればとESSやMSLT(睡眠潜時反復テスト)が正常と同等まで回復する。
従来は4時間以上とされていたが、6-7時間の睡眠をとらないと自他覚的眠気は十分に改善しない。

・CPAP治療での運転パフォーマンスに対する影響の評価について
治療状況の検討(時間、使用頻度)の検討が現状では不十分である。
患者ごとに眠気への反応が異なる、治療効果を判定する時期が不明など、こういった事情から明確な回答はまだない。
・各国の運転ガイドライン(ATS,ERS,CTS)
高リスク運転者とは、中等度から重度の眠気(意図せず不適切な居眠りを日常生活中に生じる)のあるもの。
 MSLT/MWTによるジャッジではない。
あるいは、
 眠気、疲労、不注意による事故もしくはニアミスを最近生じている →早期(1ヶ月以内)にPSG検査をうけることを推奨している。

●WS5-4 SAS診療ガイドライン2020〜治療(CPAP・ASV)〜

順天堂大学循環器内科学
葛西隆敏先生

SASの治療・予後

・OSAの治療総論

Q どのような患者にCPAP治療を行うべきか
A CPAP治療はOSAに有効であり、OSAによる日中の眠気など症状が強い症例、および中〜重症例では第一選択である。(推奨の強さ1、エビデンスレベルA;1A)
Q どのようなOSA患者にOA療法(口腔内装置)が有効か
A CPAP治療の適応とならない軽〜中等症の症例、あるいはCPAPが使用できない症例で行うことを提案する。
Q どのようなOSA患者に酸素療法が有用か(2B)
A CPAP、OAが使用できない症例に酸素療法を行うことがある。(推奨なし-C)

・OSAの合併症と各種治療 ()内はエビデンスレベルを示す。

Q CPAP治療はOSA患者の高血圧を改善するか
A 血圧低下し、減量や降圧薬に上乗せ効果が期待できる。(A)
Q CPAP治療はOSA患者の血糖コントロールを改善するか
A 糖代謝の改善が得られることを示すエビデンスは不十分である。(C)
Q CPAP治療はOSA患者の患者の脂質異常を改善するか
A エビデンスは不十分 (C)
Q CPAP治療はOSA患者の内臓脂肪量を減少させるか
A 3ヶ月以内のCPAP治療でOSA患者の患者の内蔵脂肪の量は減少しない。(B)
Q CPAP治療はOSA患者のQOLを改善するか
A QOLは一定の側面において改善することが期待できる。(B)
Q CPAP治療は心血管障害関連パラメータを改善するか
A 改善する。(A)
Q CPAP治療はOSA患者の予後を改善するか
A 使用状況が保たれていれば予後を改善する可能性がある。心血管イベントを抑制する。(B)
Q OA療法はOSA患者の心血管疾患危険因子の改善をするか
A 一部の心血管危険因子を改善する。(C)
Q 酸素療法はOSA患者のQOLを改善するか、糖尿病を改善するか
A いずれも根拠は明確ではない。(D)
Q 酸素療法はOSA患者の高血圧を改善するか
A 有効か否か明らかではない。(C)

OSAの治療

内服治療;アルドステロン拮抗薬、SGLT2阻害薬、アトモキセチン+オキシブチニンなど
心不全合併OSAへのASV
舌下神経電気刺激療法;もうすぐ保険適応となる予定

・Cheyne – Stokes呼吸(CSB)の治療

Q どのようなCSB患者にCPAP治療を行うべきか
A 心不全(HF)関連疾患に合併したCSBでは、原疾患の治療適正化のあとでも残存する中等度以上の場合はCPAP治療を提案する。(2B)
Q どのようなCSB患者にASV治療を行うべきか
A HF治療適正化後も残存する中等度以上のCSBでLVEF>45%の症候性(NYHA>=III)において、CPAPに忍容性がない、あるいはCPAP下のAHI>=15の場合はASVを検討する(推奨なし、B)
LVEF=<45%の場合は、必要であればASVを検討する。
Q どのようなCSBに酸素療法は行うべきか
A CPAPやASVに忍容性がないCSBに酸素療法を提案する。(2B)
Q どのようなCSB患者にペースメーカー治療を行うべきか
A HFに合併したCSB患者で、HF治療としての適応がある場合、HF治療としての適応にもとづいてペースメーカ治療を行うことを推奨する。(1B)

・Remede®システム
Phrenic Nerve Stimulation

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