日本睡眠学会第46回定期学術集会 その3

2021年9月23日24日の2日間、日本睡眠学会第46回定期学術集会
が現地及びWEB開催されました。私はWEB参加でしたが、その後にオンデマンド配信もされたので、
何度も聴講し最新の知見を学びましたのでご報告します。

以下の記載は私の聴講メモですので、記載に間違いがあっても責任は負えませんのでご了承ください。

目次

こちらの記事は以下の内容が書かれています。

◆S19 心房細動と睡眠呼吸障害

●BP3-9 就床前の笑いが入眠困難傾向者の夜間睡眠に及ぼす影響
広島大学大学院人間社会科学研究科 林光緒先生・磯谷真由先生

●BP1-4 中年・高齢世代における睡眠休養感、客観的睡眠時間、床上時間と総死亡の関係
国立精神・神経医療研究センター 古池卓也先生

●BP-5 睡眠による休養感の欠如と高血圧発症との縦断的関連ー既存コホートデータ(HCHS/SOL)による検討ー
日本大学医学部精神医学系精神医学分野 斎藤かおり先生

◆S19 心房細動と睡眠呼吸障害

●S19-1 心房細動と睡眠呼吸障害 Overview

昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター
安達太郎先生

・WPW症候群等の発作性上室性頻拍は日中の時間に発生頻度が高いが、発作性心房細動は夜間に多いことが知られている。睡眠時無呼吸症候群が関連を疑って演者は睡眠呼吸障害の研究を開始した。
・OSAによる心血管障害の発症機序は、OSAにより低酸素血症や胸腔内圧上昇などを引き起こし、交感神経の活性化、血管内皮障害などを惹起して高血圧や不整脈などの心血管疾患を引き起こすとされる。
・睡眠呼吸障害は循環器疾患に多く合併するが、心房細動は50%に合併しているほか、心不全の76%、冠動脈疾患の31%、急性冠症候群の57%、大動脈解離の37%に合併している。
・心房細動は動悸などの症状を有することもあるが、半数以上は無症状であり、健康診断などで発見される例がおおい。最近ではアップルウォッチで発見されることもある。
動悸によるQOL低下、心機能低下、血栓塞栓症の原因となる。
明らかな基礎疾患を持たない患者にも発症し、今後日本の心房細動有病率は増加すると考えられている。現在約100万人、70歳以上の男性の約4%、女性は2%程度に認める。

心原性脳塞栓症が合併症として重要である。CHADS2スコアがリスク予測に用いられている。

CHADS2スコア: C:うっ血性心不全 1点、H:高血圧 1点、A:年齢>=75歳 1点、D:糖尿病 1点、S2:脳卒中の既往 or 一過性脳虚血発作 2点 ⇛ 1点以上で抗凝固薬投与
高齢になると凝固・線溶系が亢進し卒中を起こしやすくなる。
・OSAの脳卒中あるいは死亡リスクについて
50歳以上の1022名を対象に3年間観察したコホート研究では(NEJM 2005)、AHI=36を超える群では脳梗塞もしくは死亡リスクがAHI=3以下に比較して3.3倍増加する。
・心房細動の成立機序
期外収縮がトリガーとなり、自律神経の修飾が加わり、心房筋の細胞間隙が広がったり、電気的リモデリングが起こるようになって心房細動が維持されるようになっている。
心房細動を引き起こす期外収縮の90%以上が肺静脈内で発生していることが発見された(NEJM 1998)。
その結果カテーテルアブレーションが現在のファーストチョイスとなった。
 静脈内トリガーアブレーション、肺静脈隔離術、CFAE(complex fractionated electrogram)、自律神経節焼灼、3Dマッピングシステム、イリゲーションカテーテル(Hot balloon,cryoballoon)、
 その他左心耳閉鎖術も行われることがある。

Q and A

Q 実際にCPAP患者にAf患者は増えているか
A 最近は不整脈専門の医師から、カテーテルアブレーション等の治療に抵抗性な患者に対してSASを疑って紹介を受けることが多くなった印象である。

●S19-2 睡眠呼吸障害における心房細動の発症機序

日本医科大学循環器内科学
岩崎雄樹先生

・OSAと心房細動(AF)の発症リスク

OSAは罹病期間が長くなるほどAF発症率が高くなり、12年以上で約10%発症する。OSAイベント中あるいはその直後に発症リスクが高くなる。(J Am Coll Cardiol 2007, 及び2009)
・心房細動アブレーション時に食道内圧を測定すると、OSAS中は-50から+50mmHgと大きく変動するが、アブレーション後は0-10mmHgに減少し安定する。
血圧120mmHgの人がOSAで胸腔内圧が-60mmHgとなった場合、血圧が170mmHgの患者と同じくらいに心負荷がかかっている(静脈還流量増加、左心室経壁圧上昇、左室機能低下:心拍出量低下)。

演者らは閉塞性無呼吸ラットモデルを作成しAF発生機序について検討した

・閉塞性無呼吸を生じると左房経が有意に拡大し、閉塞時間が長いほど左房経の拡大が大きくなった。30秒の無呼吸で平均35%拡大した。肥満ラットでより顕著であった。
さらに左室拡張末期圧(LVEDP)が呼気終末で増大(5→30mmHg)した。
・心房にpacing刺激を与えても収縮が起きない期間を心房不応期というが、OSA中は心房不応期が短縮し上室性期外収縮が連発することが観察された。
正常ラットに心房細動誘発試験としてburst pacingを加えてもAFは起きないが、肥満ラットではAFが発生した。そこで筋弛緩薬Rocuroniumを投与して横隔膜の動きを止めると、AFは発生しなくなった。
→ OSAによる胸腔内圧変化がAfに関与しており、低酸素状態のみではAFは起きないと考えられる。

・前負荷軽減でOSA時の左房拡張を抑制しAFを予防できるか?
演者らは閉塞性無呼吸モデルラットの先の実験(N=24)においてAfが誘発されたラットは6匹であった。そのラットのIVCにバルーン留置し静脈還流をとめて、その5秒後に気道閉塞し、20秒後にburst pacingを加えたところ、5匹がAF発生を予防できた。rocuronium投与では4匹が予防でき、自律神経遮断薬投与で3匹が抑制できた。OSAによって生じる心房拡大も抑制できた。→ IVC閉塞はOSAで誘発されるAFを発生抑制できる。
さらに同様の実験を1ヶ月継続(慢性OSAの状態)したところ、左心房筋の線維化が有意に増加した。
OSAでは心筋細胞同士をつなぐ細胞間ギャップ結合であるコネキシン43の心房筋内の発現量と分布がOSAにより減少し、光学マッピングによる心房伝導速度の遅延が観察された。(J Am Coll Cardiol 2014)
→ 慢性OSAではより不整脈が発生しやすい状態であることがわかった。

・OSAの患者は毎晩繰り返される閉塞性無呼吸によりAFを生じやすくさせる心房筋の器質的変化を生じて、臨床的な閾値を超えた場合にAF発症すると考えられる。
不整脈薬物治療ガイドライン2020年度改訂版では、AFの発生部位は肺静脈にあるが、アブレーションにより肺静脈隔離に成功してもOSAによる心房筋の構造的リモデリングが難治化要因となると記載されている。

・まとめ

急性のOSA状態は急速に左心房を拡大させ不応期を短縮し、電気的に心房細動発症器質を形成する。
長期的に繰り返されるOSAにより、心房筋の構造的リモデリングが進行し、心房細動発症器質を形成する。

Q and A

Q 自律神経の関与はどれくらいあるのか
A 演者の実験では半分くらいが自律神経が関与している。特に副交感神経緊張は心筋不応期を短縮するので、血行動態で心筋がストレッチされても不整脈誘発は起こりにくいが、不応期が短縮すると発生しやすい。
Q 肥満はどのようなメカニズムで不整脈をおこしやすいか
A 体液量がおおいことが左房拡大を助長するし、脂肪蓄積による炎症も関与していると思われるが、演者らの実験だけではその理由ははっきり説明できない。

●S19-3 心房細動と睡眠呼吸障害

桜橋渡辺病院心臓血管センター
田中宣暁先生

・循環器疾患に睡眠呼吸障害SDBは合併率が高く、とくに心房細動AFは中等度以上のSDBに合併率が極めて高い(AF患者のおよそ60%)。
・心房細動発生リスクの中での可逆的要因はまず是正する必要がある
甲状腺機能亢進症、肥満、睡眠時無呼吸症候群、高血圧、糖尿病、高脂血症、アルコール多飲、喫煙
→ これらの要因を是正後にも残存するAFに対してカテーテルアブレーションの適応を考慮する。
・閉塞性睡眠時無呼吸を合併したAF患者の各治療に対する反応性は不良である
抗不整脈薬治療後のAF再発率 OSA合併あり : 合併なし = 70% : 39%
電気的除細動後のAF再発率 OSA合併あり : 合併なし = 82% : 53%
カテーテルアブレーション後AF再発率 OSA合併あり : 合併なし = 31% : 23%
・初回心房細動アブレーション前睡眠時無呼吸障害有病率 real world data
日本の不整脈スペシャリストの26施設、N=5010、平均年齢64.3歳、男性73%、CHADS2 1.15、の患者群(2011年11月から2014年3月の登録期間)においてSDB合併率は3.8%しかなかった。
当時はまだSASに対する認識が低かったことに加えて、AF合併のOSAS症状は通常の症状に乏しいことが原因であろう。たとえ重症患者であっても、ESS平均は11点に満たないことが報告されている(CHEST 2011)。

・演者らはAFアブレーション患者に簡易PSG検査によりSDBスクリーニング実施した。(Circ J 2021;85:252-260)
N=774、年齢65歳、男性73%、BMI=24.1、発作性AF57%、持続型33%、長期間持続性10%、EF64%、LAD40mmの患者群において、AHI=15以上30未満の中等症は32%、AHI>=30の重症は20.7%、も認められた一方で、AHI=5未満の正常者は11.4%しかいなかった。
AHI=15以上の危険因子を多変量解析にて検討したところ、男性、BMI>=25、非発作性心房細動、高血圧、LAD>=40のリスク因子であった。しかし、ESSの>=11 は全く危険因子ではなかった。
また、中等症以上のOSAは男性が57%、女性であっても43%と決して少なくない!
肥満者は有病率は高いが、肥満がなくても44.2%は中等症以上のOSAを合併していた!

少なくともAFアブレーション患者はSDBスクリーニングすべきである。

●S19-4 カテーテルアブレーション後の再発における睡眠呼吸障害

浜松医科大学内科学第三講座
成瀬代士久先生

SDBとアブレーション後のAF再発について

・OSAを合併した患者のアブレーション後AF再発は多いことが知られるが、重症度が高いほど再発率は高くなる。
アブレーション後6ヶ月でAHI<10(N=132)では約50%再発し、10以上30未満では約80%弱再発、30以上で85%以上再発する報告がある(Europace 2010)。
・Berlin Questionnaireを用いたメタ解析の報告では、SASの症状ベースではアブレーション後再発とは関連はなかったが、PSG検査で診断したSASとAF再発は有意に相関していた(Am J Cardiol 2011)。

SDBに対するCPAP治療とカテーテルアブレーション後のAF再発について

・AFに対する電気的除細動後にOSAの合併の有無で再発をみた報告では、無治療OSA群は80%以上再発したが、治療群ではコントロール群と同等に再発率は50%程度であった。
・CPAPはアブレーション後のAF再発を抑制する
演者らはCPAP治療がアブレーション後AF再発を抑制するかについてコホート研究を実施した。
N=153、AF患者にPSG検査実施しAHI>=5の患者群をCPAPあり・なし、AHI<5はコントロール群の3群に分けて検討した。その結果、AHI>=5のCPAPなし群はAF再発率が1年後に約50%、CPAPあり群は約15%でコントロール群と同程度であった。
さらに、AHI>=15の患者に絞って再解析すると、CPAPあり群(N=47)はコントロール群(N=60)と同程度の再発率だが、なし群(N=11)は80%以上の再発率であり、より顕著な差となった。
同様の報告はほかからも見られる。
メタ解析では、CPAP装着により42%のリスク低下が認めらると報告されている。
・なぜSDB患者にアブレーション後のAF再発が増えるのか
SDBがAFを惹起し続ける。
 低酸素血症、高炭酸ガス血症、交感神経活性等による左房の電気的・構造的リモデリングの進行
SDB患者において Non-PV fociが多いとの報告あり。
発作性AFに対してnon-PV foci ablationを実施したAHI>15の患者43名とAHI<5の患者43名を比較した検討では、肺静脈隔離後にnon-PV trigger によるAFの誘発がSAS群で有意に多かった(42% VS 12%、左房中隔に多い)。
この論文では、さらにnon-PV fociのアブレーションを追加実施すると、再発率SASなし群と同等の治療成績になったという。→ SAS患者のAF再発は解決する可能性がある。

SDBによるカテーテルアブレーション中の左房圧陰圧について

・アブレーションによる致死的合併症
18例の死亡事例を分析した報告では、心タンポナーデ10例、次に空気塞栓3例、その他5例である。
空気塞栓は、カテーテル交換時のシースの弁のところから空気を吸い込んでしまうものであり、睡眠時無呼吸症候群による胸腔内陰圧が原因であり、注意すべきである。
・演者の施設ではアブレーション中に左房圧を測定するが、SAS患者に全例ASVを装着しているにも関わらず、ミダゾラム、デクスメデトミジン、ペンタゾシンによる鎮静・鎮痛をすると約3割の患者は胸腔内圧が-30mmHgに低下するという。演者らの経験した空気塞栓4例も全員それであった。
最近Air Trayという水を張ってその中でカテーテル交換操作をする器具が開発されて空気塞栓の頻度は低下したとのこと(使用前空気塞栓発生率3.2% → 使用後に1%に低下)。

●S19-5 心房細動患者における睡眠呼吸障害治療 〜(中枢性無呼吸に対する)ASVの可能性〜

順天堂大学心血管睡眠呼吸医学講座
松本紘毅先生

演者らの施設のAF患者へのSASスクリーニングでは、Cheyne – Stokes呼吸(CSR)を無呼吸の約15%に認めた。
AF患者でCSR-CSAの重症化リスクは、持続性心房細動、かつ拡張障害が認められる症例、左房経が大きく心不全傾向であった。
・中枢性無呼吸(CSA)の発生機序
肺うっ血・左房圧の上昇 → 迷走神経活性化 → 過換気 → PCO2低下 → 中枢性無呼吸の発生 → 交感神経活性が上昇する → 心房細動・心不全の病態を悪化させる。
またCSA自身も上気道開大筋の維持に関与しており、上気道が不安定化する。
左室拡張障害の左房への影響が関与する。
左室充満圧(E/e’)上昇 → 左房拡大・電気的リモデリングを促進 → 脳卒中リスク上昇。
左室拡張障害はAF再発の独立したリスク因子(HR2.57)である。
HFpEFにおいて(N=244)、CSAは拡張障害の強い群で多く見られた。
HFpEFのASV介入試験(N=36、6ヶ月)では、ASV群は左室拡張能のほか、左房容積・BNP,CAVI(心臓足首血管指数(cardio-ankle vascular index )が有意に改善した(Eur J Heart Fail 2013)。

まとめ

1.患者ではOSAに加えCSAを認める。
2.CSA合併は拡張障害と関連している。
3.CPAPでAHIが十分に改善しない場合は、CSAの合併を疑う。

●BP3-9 就床前の笑いが入眠困難傾向者の夜間睡眠に及ぼす影響

広島大学大学院人間社会科学研究科
林光緒先生・磯谷真由先生

・不眠障害には代表的なモデルとして2つある。
 過覚醒モデル・・・慢性的な身体的・生理的過覚醒によるもの
 認知モデル・・・眠れるかどうかという”睡眠に対する心配”や、眠れなかったことに対する”明日への影響への懸念”が認知的過覚醒を生起するもの
・入眠困難は、生理的覚醒だけでなく、認知的覚醒が強く関与していると言われている(Lemyre et al. 2020)。
就床直前の思考や感情等の入眠時認知活動が入眠潜時の延長に関与している(Kalmbach et al. 2020)
・入眠困難に対するアプローチとして、認知的対処(認知的統制、思考妨害、逆説的志向)やリラクゼーション法(漸進的筋弛緩法)が挙げられるが、笑いはリラクゼーション法として十分な検討はなされてこなかった。
笑っている最中は交感神経系が高まるが、その後の回復期で交感神経系活動が低下し、リラックス効果が生じると報告されている(石原、2007)。

・そこで演者らは、就床前の笑いが入眠困難の改善に有用かを検討した。
入眠困難の傾向にある大学生N=11、入眠潜時15分~60分(35分±13.7分)、1名のみ入眠潜時15分、ほかは全員30分以上。
3夜連続PSGを実施し、2、3夜目を実験夜とした。実験夜は就床1時間前に30分間のビデオ視聴をしてもらった。(以下のどちらか一方)
 笑い映像「人志松本のすべらない話」(吉本興業)
 中性映像「NHKスペシャル地球大進化」(NHKエンタープライズ21)
消灯時には映像を思い浮かべながら寝るように指示した。都度質問紙による回答を得た。
笑い映像をみている学生はゲラゲラと笑っており演者らが興奮させすぎたかもしれないと思ったという。映像に対する集中度はどちらも有意差なく集中していた。
質問紙法による質問項目で「活気のある」「快適な」などの活動的快感情について視聴後の回答では有意に笑い映像のほうで感情が高まっていた。
状態不安については、笑い映像視聴直後に有意に低下していた。
入眠潜時は中性映像では平均30分程度でコントロールと差はなかったが、笑い映像は平均13分程度まで短縮し、その差は17.1分と有意に短縮した。

最初のNまでのN1潜時も笑い映像では15.3分と有意に短縮した。N2潜時は有意差はなかった。
夜間睡眠全体で睡眠段階を計測すると、笑い映像視聴後にREM睡眠が有意に増加した。
笑い映像が睡眠潜時を短縮した機序について
 生理的覚醒の低減:笑ったあとの回復期に交感神経系活動が低下し、リラックス効果が生じる(過覚醒モデル)。
 認知的覚醒の低減:映像を思い浮かべながら寝ることで、睡眠の心配や反芻に対する思考妨害、睡眠に関する注意バイアスの低減、眠ろうとする入眠努力が低減した。
REM睡眠の増加について
 REM睡眠が情動処理に関与することが報告されており(Walker et al. 2010)、笑い映像によってポジティブ情報が活性化し、REM睡眠の増加につながったと思われる。
結語;入眠困難者・傾向者に対して、就床前に笑いを換気することが、入眠困難の改善に有用である可能性が示唆された。

●BP1-4 中年・高齢世代における睡眠休養感、客観的睡眠時間、床上時間と総死亡の関係

国立精神・神経医療研究センター
古池卓也先生

健康増進をもたらす睡眠時間とは

・睡眠時間の過少・過大と総死亡リスク
2016年のShenらの報告では、主観的睡眠時間が約7時間睡眠が最も死亡率が低く、それよりも
 短時間睡眠: 睡眠不足→回復性過程の阻害→恒常的破綻を生じる → 総死亡は短いほど増加
 長時間睡眠: 機序不明 → 総死亡は長時間睡眠ほど増加
であったが、果たして主観的睡眠時間をもちいることが妥当なのか?疑問が残る。
・世代ごとに異なる睡眠の需要があり、需要と供給の不均衡が見られる。
中年世代は睡眠の需要>供給 ・・・いわゆる寝不足
高齢世代は需要<供給 ・・・高齢者は時間も機会も十分あるが、そもそも体はそんなに眠れない。必要以上に臥床してしまう。
 → このような体験(特徴)が、十分に睡眠できたか(睡眠充足度)という睡眠の認知「睡眠休養感」に影響すると思われる。

演者らは、睡眠時間の短縮、床上時間の延長、睡眠休養感の関係について検討した。

・Sleep Hear Health Study (SHHS)の参加者のうち40歳以上の米国地域住民を抽出し、中年群(40-64歳)3128名、高齢群(65歳以上)2676名に分けて、PSG検査翌朝の睡眠休養感を5段階評価で判定した(3点未満;休養感なし、3点以上;休養感あり)。床上時間(TIB)のうちの総睡眠時間(TST)の割合を短い(25%未満)、中間(25-74%)、長い(75%以上)に分類し、総死亡をコックス比例ハザードモデルにて検討した。
結果:中年では、睡眠休養感が少なく短時間睡眠のひとはリスク因子である。
すなわち、中間の睡眠時間で睡眠休養感のある群を基準とした場合、短い睡眠で睡眠休養感が少ないほどリスクが高く(総死亡増加、HR1.5)、睡眠が長く睡眠休養感があるほどリスクは低下(HR0.5)した。一方で床上時間(TIB)と総死亡は無関係であった。
高齢者は、床上時間(TIB)が長いのに睡眠休養感がないのがリスクであった。 総睡眠時間はリスクではなかった。
・睡眠休養感は睡眠時間と総死亡の関係を規定する。
・休養感のない短時間睡眠は危険因子であり、その機序は睡眠時間の短縮 → 自律神経系・免疫代謝系異常をきたす(Irwinら、Biol Psychiatry 2016 ; Kitamuraら、Sci Res 2016)
睡眠時間が短くても大丈夫な人とそうでない人の差は、「睡眠休養感の差」として分けられるのかもしれない。
・高齢者は休養感のない長時間臥床は危険因子であり、床上時間(TIB)の延長 → 眠気、うつ、炎症の誘導が起こる、とする報告がある。また過剰臥床の制限により → 睡眠持続性の改善、深睡眠の増加が報告されている。
演者らによると、睡眠休養感は睡眠による生理的回復の成否を反映する身体認知ではないか、とのべている。

●BP-5 睡眠による休養感の欠如と高血圧発症との縦断的関連ー既存コホートデータ(HCHS/SOL)による検討ー

日本大学医学部精神医学系精神医学分野
斎藤かおり先生

高血圧と不眠症

・高血圧
世界では3人に1人が高血圧に罹患しており、直近30年間で著しく増加している。
高血圧のリスク要因として、不眠、糖尿病、肥満、加齢、喫煙、飲酒量、運動不足などが挙げられる。
・不眠症
メタ解析で高血圧発症リスクが約1.2倍であった。特に中途覚醒(RR1.27 )、早朝覚醒(RR1.14 )がリスクである。(Li L et al., Sleep Med Rev, 2021)

休養感のない睡眠

・近年起床時にリフレッシュ感が得られない睡眠(NRS;Nonrestrative sleep)が様々な身体疾患と関連していることが報告されている。糖尿病、GERD、眼疾患、関節炎、湿疹。
また75歳以上の高齢者において、高血圧のリスク因子の可能性を指摘されている。3年後の高血圧発症リスクが1.9倍との報告がある。
そこで、演者らはNRSが高血圧発症のリスクか、最も強い影響をもつ予測因子はなにかを検討した。
高血圧発症を目的変数とし、不眠関連症状を説明変数として解析すると、NRSが唯一の高血圧発症リスク(RR=1.7)であり、不眠症状を含めた多変量解析でもNRSのみが高血圧発症の有意な予測因子であった。
考察: NRSを訴えるものは不眠症状のみを訴えるものよりも日中の機能障害が強いと報告がある(M.M.Ohayon., Intern Med. 2005)。
すなわち、NRSは不眠症状よりも心身の回復機能不全を直接的に反映する指標の可能性がある。
不眠症状よりもNRSに注目することでより有効な高血圧予防が行える可能性があると考えられた。

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